第215話騎士隊長さんとの再会です!
皆が何か小難しい話をし始めたので、俺達は端っこでぽやっとしていた。
ハクは窓の傍で日向ぼっこ状態で、その上にシガルが乗っかってます。わんこにかぶさる子みたいな感じだ。なんかシガルは、鱗が結構気持ちいいらしい。
俺はホールにソファも有ったので、そこに座ったら、膝の上にクロトがちょこんと乗ってしまった。
なので、しばらくその状態でボーとしております。
うーん、驚いて起きたせいか、眠い。
「久しぶりだね」
自分に声をかけられた気がして、声のした方を向く。
すると騎士隊長さんが立っていた。
「あれ、お話はもう終わったんですか?」
俺はクロトに横に動いてもらう。少し残念そうな顔をするが、素直にのいて、横に座る。
「私達はね。後は王や政務に関わる方々の話かな」
なるほど、実働組のお話は終わったという事か。
「とはいえ、私は本当は、何時かあの場に居なければいけない立場、というのが気が重いですね」
騎士隊長さんはウッブルネさんを見て言った。
ほむ、騎士さんも偉くなると、そういうの関わるのね。
いや、騎士で領土を治めてるお話とか、騎士王とかの話もあるし、変な事ではないか。
「あれから、また強くなったそうですね」
「そう・・ですかね?」
「ふふ、相変わらず君は自分を評価しないな」
「いや、まあ、多少は強くはなったカナー、とは思いますけど」
俺はそう言いつつ、ちらっとリンさん達の方を見る。
その視線の意味を理解したのか、騎士隊長さんは苦笑する。
「あの方たちと比べられると、辛いな」
「まあ、普通はそうなんでしょうけど」
俺の場合、約束があるからなぁ。
あの人達に追いつくと、イナイを守れるようになるという約束が。
「まだ、全然弱いですよ、俺は」
「・・・君は自分の実力をあまり理解していない節があると思ったが、未だにそうなんですね」
「え?」
「少し、自覚させてあげましょう」
騎士隊長さんはそう言って、剣を抜く動作に入る。
「え、いや、なにを――――」
――――――――殺される。
「あ、あれ」
誰かが外壁に激突する音と、その人物が転がる音。騎士隊長さんが血を吐きながら転がる姿が見える。
それに驚きの、困惑の、声が響く。
あれ、今、俺、何を。
手には間違いなく、何かを殴った感触がある。完全に、完璧な手ごたえで何かを捉えた感触が残っている。
「バルフ!」
「隊長!」
「バルフさん!」
ウッブルネさんや、騎士の人達、兵士の人たちがバルフさんの元へ駆けていく。
バルフさんは、むせながら血を吐いているが、意識はあるようだ。
「た、タロウさんどうしたの?」
シガルが俺に声をかけてくる。どうやら何が起こったのか見てなかったようだ。
ハクは日向ぼっこ状態で変わらず寝ている。
「・・・どうした、タロウ、何があった」
気が付くとイナイが傍にいた。その表情は、素直に疑問だけが浮いている。
「いや、あの、えっと」
俺自身もよく把握できてなくて、言葉が出ない。
いや、やったことは分かっている。意識が飛んでいた訳じゃない。何をしたのかは自覚している。
ただ、その際の行動が完全に無意識な反射だった。意図してやろうとした事じゃない。
だから自分でも困惑してて、どういえばいいのか分からない。
それにイナイは怒ってないんだろうか。いきなり国の騎士さんを殴り飛ばして、飛行船の壁も壊してしまった。
自分の状況より、そっちの方が心配な事はどうかとは思うけど。
「落ち着け、タロウ。あたしはお前が意味もなく人を殴るやつじゃないって解ってる。だから少し落ち着け」
イナイは俺の心情を呼んだ言葉をかけてくれる。
後、よっぽど慌てた感じなんだろうな、俺。
いや、慌ててるよな。正直自分で自分の行動に驚きしかない。
「た、隊長さん、大丈夫かな」
何から言っていいのかわからず、目に入る、苦しそうにうめいている人物の事を先に気にしてしまう。
「大丈夫だ。大丈夫だから、落ち着け。セルもいるから大丈夫だ」
イナイは、俺を取りあえずソファに座らせ、目を合わせて頭を撫でる。
子供扱いですね、解ります。
でも少し落ち着いた。
「ごめん、イナイ、ちょっと驚いて」
「そうみたいだな」
「イナイ、俺の事怒らないの?何やってるんだって」
「はぁ、さっきも言っただろう。お前が何の意味もなくこんな事するような奴じゃねえって、解ってるよ」
解っている。その言葉が、とても嬉しかった。
明らかに状況だけを見れば、咎められるべきは俺なのに、俺を信じてると言ってくれている。
少し落ち着いたら、バルフさんの事が余計に気になった。治してあげないと。
そう思って立ち上がろうとすると、ミルカさんが彼の傍まで歩いて、彼に何かを言いながら手を添える。
「ん、ミルカがやるのか、珍し・・・ああ、なるほど」
イナイは俺の視線を追って、その光景を見ていた。
イナイは以前、仙術を使いこなせないが、使うだけならできると言っていた。
だから、あれが見えているのかもしれない。
「あいつ、あれに関してはホント器用だな」
その光景を眺めて、イナイは呟く。
ミルカさんは彼の治療をしているが、魔術を使っていない。
今彼は、体をめぐる気功が酷い状態になっている。ミルカさんはそれを安定させている。
彼は時折痛そうに、苦しそうにうめくが、呼吸が少しずつ正常に戻っていっている。
凄い。俺は治療の魔術をかけに行くつもりだったけど、あんな事もできるのか。
以前生物に気功を流したときは酷いことになったので、怖くてできなかったけど、出来ない事ではないんだな。
「さて、今度はこっちの話だ」
イナイがその光景から視線を切り、俺に向けてくる。
なので俺も一旦見るのを止め、イナイに向き直る。
「何があった?」
「いや、その、俺も少しわかってなくて」
少し落ち着いたものの、思考はいまだ混乱している。
「解ってない?」
「一応自分が何やったかの自覚はあるけど、反射的に動いちゃったっていうか」
「無意識の防衛行動か、なるほどな」
「お、怒らないの?」
「なんでだよバカタレ。お前の言葉を疑う気なんてねえし、今の言葉から察するに、仕掛けたのアイツだろ」
「・・・・ありがとう」
何だろう、すごく嬉しい。さっきの言葉も嬉しかったけど、物凄くうれしい。
「まあ、しばらくしたらあいつに真意を聞くか。あいつの性格から考えて、無意味じゃねえと思うしな」
「えと、うん」
無意味じゃ、ない、か。
彼はあの時、自覚させると言った。
そして、俺に殺気を向けた。間違いなく、本物の殺気を。
殺されると、思った。
―――――『本気』を出さなければ殺されると、体が感じた。
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