第208話止めに入るのが、気が重いです!

「・・・ねえ、シガル」

「なに、タロウさん」

「これ、止めに入らなきゃ、ダメかな」

「気持ちはわかるけど、いざという時は止めなきゃ」

「はい・・・」


なんだこの怪獣大戦争みたいな戦い。お前らさっき人の身とルールでって言ってなかったっけ?

なにその腕を振るうだけで土が抉れて、土ぼこりが舞って、それに対して全部飲み込んで叩き潰す黒が走るとか。

明らかに人間じゃ無理な戦闘してるだろ。お前ら人間をなんだと思ってんだ。


つーか速い。ハクの速度がシャレになってねえ。あいつあんな速かったっけ?

あの速度だと4重強化でも速度負けしてる気がするんですけど。

しかも、動きがすごい綺麗だ。初めて戦った時の、竜の姿の時の大雑把な動きじゃなくて、効率のいい動きをしてる。

別に誰かに武術を習った訳じゃなくて、見て身に着けた物なんだろうな。

あいつ、よく考えたらミルカさんともやってんだよな・・・。


元々の地力があると、こうまで劇的に強くなるものなのか。ガラバウといい、ハクといい、凄まじい。

俺は自力がそもそも低いからなぁ。どうやったら生身で騎士隊長さんみたいな動き出来るんだよ。

けどそれよりも、なによりも、目を見張ってしまう物が有る。


クロトが滅茶苦茶強い。


最初こそハクが優位に進めていたし、途中もハクの動きのキレに付いて行けてなかった。

けど、段々と慣れてきたのか、ハクの動きを捉える場面が増えてきてる。


『があっ!』


ハクが速度で攪乱しつつ、両腕で砂埃を撒きながら接近し、背後からの一撃を入れんとするが、背後から迫る腕を掴み地面に叩きつけ、その上から黒をさらに叩きつけるクロト。

地面がへこみ、普通の人間なら確実に死ぬであろう衝撃だが、その後に黒がはじけ、中からハクが出て来て突撃してくる。

クロトはそれをガードしつつ、拳を入れようとするが、ハクが巧みにかわし、打撃を入れる。

それを顔を顰めつつ食らうものの、また腕を掴み、無理やり引き寄せてハクの胴を思いっきり殴りつける。

ハクはその衝撃で大きく後ろに吹き飛び、跳ねながら転がっていくが、途中で自力ではねて体勢を立て直す。


『・・・そろそろ力の差を理解したと思うけど』

『知るか!まだ私はやれる!』

『・・・腹が立つけど、お前の事は認めてやる。けどお前じゃ僕には勝てない』

『やってみなきゃわかる物か!』


ハクは相変わらず全速力で移動して、その速度をほぼ落とさず、フェイントを混ぜながらクロトまで近寄る。

クロトもそれをただ見ているわけでは無く、あの黒をハクにぶつけるが、ハクが腕を思いきり振るうと、それらが霧散する。

結果、ハクはクロトに肉薄する。だが、クロトはそのハクの攻撃をあえて食らい、ハクを捕まえ、反撃する。


だんだんとその繰り返しになっている。その上初撃の時と違って、クロトにダメージが見て取れない。

だがハクは、着々と蓄積しているのが、表情や動きからも分かる。このままだと、ハクに勝ち目は無いな。


そう思っていると、ハクがまた吹き飛ばされる。

ただハクも、そのパターンに慣れたのか、食らう寸前に身を捻っていくらか威力を殺している。

といっても、ノーダメージには程遠いだろうけど。


『・・・しつこいな』

『なら私を打倒して見せろ!』

『・・・そのつもりだよ。既に現時点でお前を打倒出来てる』

『何を言っている!私はまだ立っている!』

『・・・なら、そろそろ別の手を考えて見せろ。やってみせろ。お前のそれは時間制限付きだろう』


クロトの言葉に悔しそうな顔をするハク。どうやらあの形にずっとなっていることはできないようだ。

いや、そっちではないのかもしれない。ハクはおそらく強化魔術をかけている。その制御はけして悪くない。

けど、何時までもやってられるような物では無いのだろう。ハクの魔力はけして低くない。けど、それでも足りない。

つまり今ハクが自身にかけている強化は普通の強化ではないのかもしれない。だから魔力の消費が多いのかも。


あと、クロトはあっちの言葉でしゃべってる時、雰囲気が別人だなぁ。

もしかしたら、記憶をなくす前の元の性格は、あんな感じだったのかもしれない。

普段のクロトはもっと、ゆったりと言うか、ぽやっとしてるというか、緩い感じだ。

今のクロトには、その緩さが無い。


『・・・お前は馬鹿じゃない。既に先が見えているはずだ』

『ふん、そうやって上から見ていろ!』


ハクはまた全力でクロトに突っ込む。今度は小細工なしの、ただただ真正面から、真っ直ぐに突っ込んでいく。

対し、クロトは黒を人と同じぐらいの大きさにして、ハクに叩きつけようとする。

ハクはそれを全力で殴って、先ほどまでと同じように打ち砕こうとして、打ち砕けず黒に吹き飛ばされた。


『がっ、なんでっ!?』

『・・・いつまでも同じような対処で続けられると思うな』

『くそっ!』


クロトはハクを倒そうと、縦横無尽に黒を走らせ、ハクに打撃を浴びせる。

ハクは半分ほどはうち払えているが、いくつかは掻き消せず、まともにもらって、何度もよろけている。

そろそろ止める必要があるか?

いや、ハクはまだあの体を維持できている。という事は、維持する余裕があるという事だろう。あれが解けた時が、止め時かな。


『がああああああ!』


ハクは魔力を大量に迸らせて、体を変化させだす。竜のような腕と足が、太くなっていく。

まさか、成竜になるつもりじゃ。


『・・・元の性能に近い形を取るつもりか。悪くないけど、それでは足りない』

『さっきも言っただろう、やってみなければ分からない!』


ハクの足と腕が、ハクの胴体より太くなったところで変化は止まり、その足でハクは駆けだす。

速い。さっきも尋常じゃないぐらい速かったけど、さらに早くなった。

クロトはそれに対応しきれず、直撃ではないものの、幾度か攻撃を受けてしまう。


『ぐっ』

『どうだ、やってみなければわからないだろう!』

『・・・お前、やっぱり』


クロトは黒をハクにぶつけようとするが、ハクはそれらを砂埃を上げながら躱し、時には粉砕していく。


『・・・これすらか、相変わらず忌々しい』

『何をぶつぶつと!』


ハクは、クロトの攻撃をかいくぐり、クロトに打撃を打ち入れていく。

クロトは真っ黒になっているので表情は読めない。ただ、声から苛立ちは有る物の、焦りは感じない。

想定範囲内だ、という感じだ。


『捕らえたぞ!』


ハクは叫び、黒を払いながらクロトに突撃していき、クロトに拳を突き入れんとする。今までで一番早い。

が、それが当たる直前でハクの動きがビタリと止まる。それと同時に、凄まじい打撃音が響く


『がっ・・・あ・・・』

『・・・お前の負けだ』


ハクが崩れ落ち、元の姿に戻っていく。子竜の状態に戻ったハクは、そのまま地に伏して動かない。

クロトは、ハクの立っていた方向に黒い手を伸ばし、その先に黒い塊が有った。

多分カウンターが入ったんだ。それも衝撃が一切逃げないカウンターが。

ハクが後ろに吹き飛ばなかったのが良い証拠だ。


「ハク!」


シガルがハクの元に駆けていく。俺もそれを追いかけて、ハクの様子を見る。

うん、やっぱり気絶してるだけっぽい。呼吸が少し怪しいが、命に係わるって程では無いだろう。

とりあえず、治癒魔術をかけておこう。


「・・・ちゃんと加減したよ」

「ん、そうだね、偉いぞ」


とてとてと俺の横に座り込み、報告してくるクロトの頭を撫でる。

多分二人とも、ちゃんと加減はしていたんだ。

勿論本気で殴り合いはしていたと思うけど、殺すような技は使わなかった。

ハクはその気なら、あの熱射砲のような魔術を使ったはずだ。

クロトは、俺が最初に見た時のような、全てを飲み込むような攻撃は一度もしてない。

一応二人とも、約束は守ってくれていた。


とはいえ熱射砲は、単にハクが殴る事に拘って忘れていただけかもしれないけど。

俺には撃ってきたしなぁ・・・。

まあ、場所が場所だから、二次被害を考えてくれてたのかもしれないけど、どうかな。


とりあえずハクの治療を終わらせ、ハクの呼吸が落ち着いたものになったのを確認すると、ハクを持ち上げる。

やっぱ重いなこいつ。見た目と重さが合ってない。


「・・・お父さん、僕が持とうか?」

「いいよ、とりあえず船に戻ろう。俺達は転移で行くから、クロトは飛んできてくれる?」

「・・・ん、分かった」

「ごめんな、一緒に行けなくて」


クロトの頭を撫でながら謝る。今回に限った事じゃなく、今後もこうやってクロト自身に移動してもらう事は多々あるだろうな。


「シガル、捕まって」

「うん」


シガルは俺の腕に抱き着く。

いや、うん、まあいいんだけどさ。腕ちょっと掴むだけで良いのよ?

内心の微妙な動揺を船に飛ぶ集中でごまかして、転移する。


さて、これ、ハクが目を覚ました後どうなるかなぁ。

こいつ負けることは別に慣れてるだろうけど、今回は負けたくなさそうだったし。

暴れ出さないと良いけど。

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