第206話ハクとクロトの睨み合いです!
「タロウさん」
「なに、シガル」
「これ、どうするの?」
「どうしようか」
今俺たちの目の前では、ハクとクロトが睨み合いをしている。
部屋に入って暫くしたら、お互い目を合わせて、今度は目を離さなくなり、そのまま黙って睨み合っている。
「大丈夫かな・・・?」
「大丈夫じゃないかもしれない・・・」
二人の睨み合いには、すごい緊張感がある。今にも殺し合いでも始めそうな、そんな雰囲気。
クロトは黒を完全に引いていて白いけど、ハクが完全臨戦態勢なんだよなぁ。
『おい、お前』
「・・・■■■、■■■■■■■」
ハクのどすの効いた感じの唸り声の呼びかけに、クロトは明らかに敵意満々の声で答える。
どう考えても大丈夫じゃないな、これ。
『・・・そうかそうか、歩み寄ってやろうかと思ったが、そういう態度を取るか』
「・・・■■■■?■■■■■■■■■?」
歩み寄りって言いながら、めっちゃ喧嘩腰だったじゃんかハクさん。
相変わらずクロトはハクと話すときだけは何言ってんのかわからんな。
あ、そうだ、翻訳使えばいいんじゃん。ちゃんと使うのはよく考えたら初めてかも。うまく使えればいいけど。
集中して、翻訳魔術を発動させて、クロトの言葉を聞いてみる。
『いつまでもシガル困らせるのも本意じゃないからな。シガルのためにもせめて常に敵意を向けるのはやめてやろうかと思ったが、やっぱりやめた。消し飛ばしてやる』
『・・・別にいいけど、お前が死ぬだけだよ』
『上等だ。消滅してから後悔なんてできないと教えてやる』
「すとおおおおおおおおおっぷ!!」
二人の言い合いに割って入り、喧嘩を止める。完全に殺し合いの話になってたぞ今。
怖い。この二人怖い。
「殺し合い、ダメ、絶対」
『大丈夫だ。全力でやったら消滅してしまうだけだ』
『・・・大丈夫だよ、お父さん。このトカゲをこの世界からなくしてあげるだけだよ』
「全然大丈夫じゃねえよ!」
駄目だこいつら、なんでこんな仲悪いんだ。
そもそも切っ掛けはハクが最初に喧嘩腰だったせいじゃなかったっけ?
「なんでそんなにお互いを嫌ってるのさ」
『こいつは、私を雑魚扱いした。それで理由は十分だ』
『・・・たかが残滓ごときが、僕をどうにか出来ると思っているのが腹立たしい』
「タロウさん、クロト君、なんて?」
何を言ってるのか把握してないシガルに、クロトの言葉を伝えつつ、クロトにさらに質問を重ねる。
「クロト、その残滓ってなんなの?」
「・・・僕が嫌いなものだと思う」
「だと思う?」
「・・・良くはわからない。けどすごく嫌い」
よくわからないけど嫌い。生理的に無理とか、そういう感じ?
でもそうなると、ハクと仲良くは難しいのかなぁ。いや、仲良くとまではいかなくても、殺し合いは勘弁して欲しい。
「あれ、そういえばクロト、翻訳の魔術は通用するんだね」
「・・・多分、僕には効いてないよ。お父さんが聞こえる言葉を理解出来てるだけ」
「え、あれ、そうなの?」
「・・・だって、何も感じないから」
「感じない?」
「・・・魔術を感じる時は、もっと、こう・・・・こう・・・・こう?」
自分で言い出して首をかしげるクロト。何かを思い出しかけて、何を思い出したのか忘れるような、そんな感じだ。
しかし、感じないか。つまり、クロトは記憶のどこかで魔術が自分に通用したのを覚えているということかな。
てことはなんだ、遥か過去にはイナイより更にすごい魔術の使い手がいたと、そういう事か。
そういえば、セルエスさんの魔術は通用するのかな?
いや、今はそれより、この二人を止めねば。
「ハクはとりあえず、舐められたのが腹たったって事でいい?」
『・・・・・・うん』
なんか凄い溜めがあったな。それ以外にも何かあるみたいだ。そういえばハクは、クロトを見た瞬間警戒してたな。
ハクもクロトと同じで、お互いに、見た目以上の何かを感じてるのかもしれない。となると、仲良くなるのはやっぱり難しいのかな・・・・。
ただ、せめて、こうも簡単に殺し合いの会話をするのは止めるようにさせないと。
「二人とも、お互いに何か嫌な部分があるのはなんとなく分かった。けど、お願いだから事あるごとに殺し合うようなのは止めてくれないかな。
ハクは大事な友人だし。クロトは面倒を見るって決めたし。そういうのは困る」
「うん、ハク、あたしもお願い」
『・・・こいつが喧嘩売ってこないなら考える』
ハクが一応譲る姿勢を見せてきた。よしよし。多分俺の言葉よりシガルの言葉の方が効いてる気がするけど気にしてはいけない。
とりあえずハクが譲ったなら話は早い。クロトは多分言うこと聞いてくれるだろうし。
「クロトもお願い出来るかな?」
「・・・そいつ嫌いだけど、嫌いだけど、お父さんが言うなら、我慢する」
嫌いって二回言った。
「うん、お願い。俺だけじゃなく、シガルとイナイにとっても友人だからね」
「・・・お母さん達にも・・・わかった」
ふう、良かった。なんとか丸く収まりそうだ。
「・・・殺さない程度なら良いよな」
「・・・殺さない程度に気をつける」
溜めの部分から殺さない程度の所、完全にはもったぞこいつら。実は仲いいんじゃないのか。
「だーかーらー」
俺は二人の返事に頭を押さえながら唸る。話通じてない。
「事有るごとに喧嘩しないで欲しいっていってんの」
『コイツが喧嘩売ってくるんだ』
「・・・コイツが売ってきてる」
「ああもう、話が進まない」
お互いがお互いに、お互いが悪いと言い張り続け、話が進まない。
ハクってこんなに意固地だっけ?もうちょっと思考自体は柔軟だったと思うんだが。
「・・・うん、わかった。よし、じゃあもういい」
俺はもうこいつらを止めるのは諦めた。こいつらあれだ、俺とガラバウみたいな感じだ。
別に俺もあいつもお互いを心底嫌ってるわけじゃないので、このふたりとは違うけど、似たようなもんだ。
「お前たちがお互いにそういう態度なのはもう諦める。だから、その代わり二つ約束してくれ」
『約束?』
「・・・なあに、お父さん」
ふたりがちゃんとこっちを向いたのを確認してから口を開く。
「喧嘩するのは良い。俺だってそういう相手いるし、そこは文句言えない。けど場所と状況は考えて欲しいのと、絶対に相手を殺さない事
それが守れないなら俺はどっちにも怒る」
『・・・・・・・わかった。それで良い』
「・・・お父さんに怒られたくないから、守る」
俺の提案に渋々頷くハクと、微妙に本心がわかりにくい表情で頷くクロト。
ふたりの、納得はしてないけど一応守る、という態度に少しため息を吐く。
「頼むからほんとに守ってくれよ。気が付いたらお前たちの大喧嘩で街が壊れてるとか、結果お前たちや、誰かが死んでるとか、絶対ダメだからな」
ハクは本気でやれば街なんか簡単に崩壊するし、クロトのあの黒なら、どんなものでも粉砕可能だろう。
怖いので本気で気をつけて欲しい。
『つまりそれを守りさえすれば、こいつを叩きのめして良いって事か』
『・・・出来ると思うならやればいい。出来ると思うならな。そのときは現実を教えてやる』
『上等だ。やっぱり一回叩きのめさないと、理解できないみたいだな』
『・・・トカゲ風情に何ができるのか、その身に叩き込んでやる』
うん、もうだめだ。こんだけ言ってこれだもん。もう好きにしろよ。
「大怪我はさせてくれるなよ、お互いに。後、やるときは俺も傍で見てるからな」
「あ、あたしもそばにいるからね!」
俺の言葉にシガルが続く。それを聞いて明らかにハクがやりにくそうな顔をした。効果絶大である。
シガルのそばで大規模な魔術や、攻撃方法は取れないだろう。
そしてそれはどうやらクロトも似たようなものだったようで、困った顔をしていた。
『しょうがない。だが、上下関係ははっきりさせておく。お前タロウの動きを真似ていたな』
『・・・それがどうした』
『人の形で相手してやる。人の在り方と決まりで勝負だ。それならタロウも何も言わないだろ』
ちらっと俺を見るハク。まあ、人同士の殴り合いレベルで抑えてくれるなら、良いかな。
俺はその視線にこくんと頷く。
クロともそれを見て、何か得したように頷いた。
『・・・いいよ。相手してやる』
『やっぱり腹が立つな。常に上から言いってきて』
『・・・それはお前の方だ』
『お前だ』
また睨み合う二人。言動を聞いてると完全に子供の喧嘩である。
子供の喧嘩なら、とりあえず一回やらせたほうが解決するかもしれないな。うん、そう思おう。
けして、何かを言い含めるのが面倒になったわけではない。けして。
『外に行くぞ。ここじゃイナイの作ったこれを壊す』
『・・・お前に従うのは気に食わないけど、お母さんの物を壊したくないのは僕もだ。同意してやる』
『ふん!』
『・・・ふん』
子供たちはお外で仲良く喧嘩することが決まったようです。引率に俺とシガルがついていきます。
子供たちが大怪我しないように見守らないとね!
はぁ、ほんと頼むから大怪我させるようなことはしないでくれよ?
「もう一回言っとくけど、くれぐれも相手が死んじゃうような攻撃はしないように。いいね?」
『解ってる』
「・・・大丈夫。お父さんとの約束は、まもる」
ホントかなぁ。すごい心配なんだが。
しかしクロト、ハクと話すときの言葉だと、口調ちょっとキツめなんだな。もしかしてそっちが地の喋りなのかな?
「ごめんね、シガル。危なくないように守るから」
「うん、大丈夫。なんだかんだ、ハクは約束するって口にしたことは、ちゃんと守ると思うから」
「そっか、そうだな」
確かに、明確に答えたことは守ってきた子だ。そこは心配しなくてもいいのかな?
となるとクロトだが・・・どうかな。
ただお互い熱くなったらどうなるかはわからないので、やはり仲裁に入るタイミングは大事だろう。
・・・このふたりの間に入るのかぁ。怖いなぁ。でもやんなきゃ。
やる気満々で客室を出て、通路を歩くふたりについていきながら、俺は一人重い気分になるのだった。
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