第204話水の精霊です!

「我は理を探求するもの。この世の全ての原理を追求するもの。契約の下に我は求める。

我が求めしは水。母なる水。生きとし生ける全ての元。全ての生命の源。偉大なる水の大精霊。

我が名はアロネス、アロネス・ネーレス。契約に従い我が下に顕現せよ。来い、ケレファグレマネ」


アロネスさんが精霊石を握り、長い詠唱を唱える。この人がこんな長い詠唱してるの初めて見た。

精霊石が光輝き、石の力がどこかに持っていかれるような、不思議な力の流れが出来ている。

アロネスさんが誰かの名を呼んで手を開いた時には、その手の中に精霊石はもうなかった。


その代わり、いつの間にかその先に水の塊が出ていた。無色透明な、女性の形の水が、そこにあった。

その水は暫くすると、人の体とほぼ変わらない見た目になっていき、羽衣のような服をまとった綺麗な白髪の女性がそこに現れた。

ただ、見た目は人の形だが、どこか形がゆるゆるとしている気がする。なんとなく、水をあの形のして見せているような、そんな感じ。

その姿はとても神々しいというか、幻想的な雰囲気を纏っている。


「久しぶりねぇ、アロネスぅ。どうしたのぉ」


そして、その全てを台無しにするようにアロネスさんにしなだれかかり、甘ったるい感じでアロネスさんの体をまさぐりながら、耳元に語りかける。


「触るな、離れ、どこ触ってる!」

「あらぁ、いいじゃないのぉ。久々に会ったのよぉ?」


女性はアロネスさんの体中を触り、股間や尻もまさぐる。


「いいから離れろ!」


アロネスさんは女性を蹴飛ばす。蹴られた女性は堪えた風もなく、ケラケラ笑いながら離れる。


「照れちゃってぇ。いーっぱいしてあげるわよぉ?」

「だから俺はお前をそう言う対象で見てねえの」

「あらぁ、小さい頃はあーーーんなに可愛かったのにぃ?」

「ああもう、だからこいつ呼ぶの嫌なんだよ!」


アロネスさんが遊ばれてる。突っ込まれたり、叱られたりは見てるけど、いい様にされてるのを見るのは初めてかも。

この人は何なんだろう。多分人じゃないとは思うけど。さっきの詠唱では水の精霊とか言ってたな。


「アロネスさん、この人は?」

「ん、今の詠唱のままだよ。水の大精霊。意志なき力の塊である精霊と呼ばれる存在が、ひと所にかたまり、意志を、自我を持ち、他の精霊とは隔絶した力を持つ存在。

まあこれは俺たちが自分にとって解りやすいように解釈してるだけだがな」

「いいのよぉ、お互いがお互いの存在を認識して、認めあえれさえすれば、そこにその存在のあり方なんてどうでもいいのよぉ」

「だってよ」

「はぁ」


なんだろう、よくわからないけど、自然現象が意志を持った的な感じでいいのかな。


「あらぁ、あらあらあらぁ?」


女性は俺を見て、声を上げながら歩いてくる。


「な、なんでしょう」


思わず後ずさり、構えてしまう。


「・・・可愛いわねぇ。ちょっと味見しても良い?」

「は?」

「こらこらこら!ケレファ、そいつに手を出すな!」


女性が俺に近づこうとすると、間にイナイが割って入る。


「あらぁ、じゃあ、あなたが相手してくれる?私は女の子も好きよぉ?」

「ば、やめ」


イナイは、頬に手を添えてキスをしてこようとする女性にから飛びのき、俺の胸元に来る。

女性はその様子を心底楽しそうにケラケラ笑う。これからかわれてるだけかな。


その間クロトは鋭い目で女性を見ていた。


「・・・お父さんとお母さんを食べる気なら、許さない」


あれ、なんかぞわっとした。さっきまで怖くなくなってた黒が、また少し怖くなった気がする。

なんか勘違いしてそうで怖いので、ちょっと訂正しておこう。


「クロト、今の物理的に食べるって意味じゃないと思うよ、多分」

「・・・そうなの?じゃあ、どういう意味?」

「あー、えっと・・・また今度ね」

「・・・?」


クロトの追求は適当にごまかす。いや、だってねぇ。


「ふーん?なんか不思議な子がいるわねぇ」


ケレファと呼ばれた女性がクロトを見て、真面目な顔になる。真面目な顔するとものすごく美人だな。


「ケレファ、そいつについて、見た限りで構わねえから何か分かるか?」

「・・・そうねぇ、少なくとも、私たちより上位の存在だってことぐらいかしらぁ?」

「上位の存在?」

「力の塊。本来意志を持たずそこに只あるだけの存在。むしろ意思を持つことがあってはいけない現象そのもの。すべてを飲み込める何か。ま、そんなところかしらぁ?それ以上は私もよくわからないわぁ」

「意志を持ってはいけない現象?なんだそりゃ」

「私達はこの世界のあり方に準じて生まれる、自然現象みたいなものだけど、この子はそこから逸脱した感じかしらぁ?」

「あの、魔人連中とは違うのか?」

「そうねぇ、違うわねぇ。何が違うのかって言われても答えられないわよぉ?なんとなーくそう感じるだけだからねぇ」

「そう、か。お前たちと似た存在、ではあるんだよな?」

「そうでもあるし、違うとも言えるかしらぁ?根本的な部分が私たちとは違うような気がするわぁ」

「つまり詳しいことは何にもわからないってことでいいか?」

「そうねぇ」


アロネスさんの結論に、けらけらと笑いながら答えるケレファさん。

この人よく笑うなぁ。


「なんだよ、呼出して損した」

「あらぁ、ひどいわぁ、アロネスの呼び出しだから、一切抵抗せずに応えたのにぃ」

「だからしなだれかかるな!股間を触るな!」

「いいじゃない、ちょっとぐらいぃ」

「よくねーよ!」


何だろうこの人。精霊なのに、人間とそういうことするの好きなんだろうか。

ていうか、人間みたいな感覚を持てるのだろうか。不思議だ。


「・・・あの人の言う事、よく分からない」


クロトが首をかしげながら言う。あの人が言った、クロトに関することかな。

確かによくわからなかった。クロトが力の塊が意志を持ったものといったが、それなら精霊も同じなんじゃないのかと思ったんだが。

でもさっき、アロネスさんが自分達の分かりやすいように解釈したっていてったし、何かが違うのかもしれない。


「まあ、そのうちのんびり思い出そう」


クロトの頭を撫でながら言う。正直最初はクロトが怖かった。あの力がものすごく怖かった。お父さん呼びも慣れない。

けど、この子は俺を慕っているのはなんとなくわかる。その理由はわからないけど、俺の出来る範囲でこの子の面倒は見てあげようとは思ってる。

だから、この子が何者かより、この子がちゃんとやっていけるようにしてあげれば、それでいいんじゃないかなと思っているんだけど・・・考えが緩いかな。


「・・・うん」


嬉しそうに頷くクロト。素直な子だし、ちゃんと教えれば変なことはしないと思う。だからこの子は大丈夫だと思う。ミルカさんだってそう言ってたし。


「まあ、少なくとも、彼が魔人達とは違うということは確定したわけだね」


どこか、少し安心したような感じでブルベさんが言う。

そうか、そういう事になるか。


「良かったわね、兄さん」

「・・・セルにまで言われるとは思わなかったよ」

「わかりやすすぎるのよ」

「ははっ、そうだね」


ん、どういう意味だろう。やっぱりクロトのことだいぶ警戒してたのかな?

警戒しなくていいから安心とか、そういう事?


「とりあえず、今日はこれでお開きにしようか。クロト君には明日もっと大勢の前に出てもらうことになるが、いいかな?」

「・・・うん、お父さんが居るなら。ただあのおばちゃんは近くにいるのはやだ。怖い」

「あう・・・頭では納得したものの、やっぱりおばちゃん呼びは辛い」

「そ、そこに関しては考えておくよ」


リンさんが一人ダメージを負ってらっしゃる。俺もいつかああいう感じになるのだろうか。

ていうか、イナイはあんなこと言ったけど、見た目が少女だから、絶対おばちゃんって呼ばれたことないよね。

まあ、そこは突っ込むと怖そうなので黙っとこ。


とりあえず、この場はお開きとなり、俺たちはイナイを残して客室に戻ることになった。

客室までの道中、ハクとクロトが、お互いの存在を居ないものとしていたのがなんとも前途多難である。

なんでこんなに嫌悪するんだろ、この二人。

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