第201話実は見られてました!
「・・・お父さん、かっこいい」
皆の質問にどう対応したものかと思っていると、真横からそんな声が聞こえた。
振り向くとクロトがちょこんと膝立ちで俺の横に居た。えらいキラキラした目で俺を見てる。若干肌が浅黒い。
何時からいたんだこの子。全く気がつかなかった。
「何時からいたの?」
「・・・お父さんが一回殴られた辺りから」
わーい、ほとんど最初のほうじゃねえか。全然気が付かなかったぞ。周り人達は唐突に出てきたクロトに驚いて固まっている。
あれ、クロトがここに居るという事は、イナイとシガルも居るんじゃ?この子一人歩かせるのは危な過ぎるし。
「いえ、その、えっと」
『私はダメなのか?』
「貴女は、その、ステル様のお客人と聞いておりますので、その、すみません」
『むう・・・』
・・・ハクがいつの間にかワグナさんの傍にいる。なんか交渉してるけど、内容は多分考えるまでもないだろう。
ワグナさんが申し訳なさそうに頭を下げている。何時からいたんだあいつも。
『タロウ、ずるい』
ぱたぱたと羽を動かしながらこっちに飛んでくるハク。狡いって言われても困る。俺はむしろ挑まれた側なのに。
「帰ってくるのが少し遅いと思ったら、何をやっているのですか」
ハクがこっちに来るのを眺めていると、真後ろで声がした。
驚いて振り向くと、イナイが立っていた。横にシガルも。
「え、ちょ、いつから!?」
「さっきクロトが言ったでしょう?あなたが最初の一撃を躱しそこなった時にですよ。姿はずっと隠していましたけどね」
「あはは、やっぱり驚いたね」
呆れた感じで言うイナイと、楽しそうに笑うシガル。
姿を隠してたって、魔術でかな。多分そうだろうな。全く気が付かなかった。
もしかして、ハクとクロトも?
いや、ハクはともかく、クロトは無理だろう。魔術効かなかったんだし。
「クロトはどうやったの?」
「・・・こうやった」
クロトは肌の黒さを増しながら黒を床に出し、その中にとぷんと沈む。するとそのまま黒が小さくなっていき、小さい石ころのようなものが残った。
黒を出した瞬間は怖かったが、クロトがその中に沈むと、その存在感が薄まった感じがしたきがする。
見ているとそのままゆっくりと動き、俺を挟んで反対側まで動くと、さっきの逆回しのように出てくる。
この子、何でもありだな本当に。それで周り見えてんのかな?
「それで周り見えるの?」
「・・・うん、みえる」
そうか見えるのか。なんかこの子隠密とかできそう。ひっそりと近づいて、いきなり出て来て、すばっと。
うん、怖い。普通にやられそうで怖い。
「彼女が伝えてくれたので、様子を見に来たんですよ」
イナイが手をかざす方向を見ると、ワグナさんと話してた魔術師らしき女性がいる。
イナイの行動に気が付くと、優雅に頭を下げる。あの人もなんか偉い人っぽいなぁ。
「別にこういった事をやるなとは言いませんが、一言報告はして下さいね。この後に用も有るのですから」
「あ、はい、ごめんなさい」
「よろしい」
そうね、皆で一回集まるって言ってたもんね。
でもすぐ終わると思ってたんだ。気が付いたら結構時間がたっちゃってたみたいだけど。
「はっ、ス、ステル様」
「あ、そ、そうだ、え、えっと」
「す、すみませんステル様」
イナイの出現に狼狽えていたみんなは、正気に戻っていったものから膝をつき、それを見た人達もはっとなって膝をつく。
「皆さん、お立ち下さい。私はただ彼の手合わせの見に来ただけです。お気になさらず」
そう言われて、いいの?的な感じで横と見合わす人多数。
イナイはそれを余り気にせず、こちらを向く。
「貴方の本気を見るのは、ハクとの一戦以来ですね」
「久々にタロウさんの本気の動き見たけど、やっぱりすごいね。ううん、前よりすごい」
「・・・お父さん格好いい」
凄い、かなぁ?
彼の動きについて行くのが精いっぱいだったし、こちらの攻撃は結局当たってない。
最後の一撃に関しても、攻撃のタネは分からないまま、なんとなく逃げただけだ。
「まだまだだと思うけどなぁ」
せめて、素の肉体でもう少し出来るようになりたい。
「・・・お父さん、みてて」
クロトはそう言うと、ぽてぽてとみんなから離れた位置に立つと、構えを取った。
俺と同じ半身、俺と似たような足の、腕の、体重移動の構え方。
待って、凄い嫌な予感がする。なんか凄いもの見せられる予感がする。
「・・・ふっ」
クロトは軽く息を吐くと、さっきまでワグナさんとやっていた俺の動きを再現する。
それは見たものをなんとなく再現しているのではなく、きちんと武術を学んだ人間が再現していると思える技のキレだった
「うえー・・・見ただけでここまでやるのかこの子」
いや、もしかしたら覚えてないだけで、もともと出来たのかもしれない。記憶ないし。
そもそもこの子、見た目子供だけど、見た目通りの年齢とは限らないしな。あんな所にいたぐらいだし。
周りからも感嘆の声が上がっている。
ある程度通すと、クロトはゆったりと止まり、ポテポテとこちらに歩いていくる。
「・・・お父さんの真似した。どうだった?上手に出来た?」
やっぱり真似だったんですね。そうですね、そう思ってました。
「すごいね。クロトはもともとそういう事出来たの?」
「・・・お父さんの動きをよく見て、同じように動いただけだよ?」
マジでそのまま真似ただけだった模様。まじかぁ、動きのキレが凄まじかったんだけどなぁ。
自信なくす。ものすごく自信無くす。
「・・・どうだった?」
へこむ俺を見て、ちょっと不安そうに首をかしげながら聞くクロト。
「すごいよ。真似であの動きはちょっとできないと思う。動きのキレがもともと学んでいたのかと思うぐらいだった」
「・・・やった。えへへ」
にこっと笑いながら喜ぶクロト。この笑顔だけ見てると、あんな芸当ができるようには全く見えないのになぁ。
ちなみにこの間クロトのお父さん発言により、俺が子持ちだったのかとか、もしかしてコブ付きなのかとか、いろいろ言われてます。
お願い、聞こえないように言ってくれるかな。
「クロト」
イナイが真面目な顔でクロトを呼ぶ。
「・・・なあに、お母さん」
ニッコリと嬉しそうな顔のままクロトはイナイに振り向く。
その瞬間ものすごく周囲がざわついた。間違いなく今のお母さん発言が原因だろう。
だがイナイはそれを気にすることなく言葉を続ける。
「本当に何かを学んでいた記憶はないのですか?」
「・・・うん、お父さんの動き見ただけだよ?」
「そうですか・・・」
イナイは目だけを床に動かし、思案するような雰囲気を出す。
そのせいで、誰もイナイにも俺にもさっきのクロトの発言を問うことができず、皆変な動きをしている。
「うう、見ただけであの動きって、あたし鍛錬が足りないのかなぁ」
『そんなことはない。シガルは頑張ってるぞ』
「うう、ありがと、ハク」
さっきのクロトを見て、シガルがへこんでいる。いや、あれは比べちゃダメだと思います。
クロトのあの黒もそうだし、この子は色々と規格外だと思う。
「まあ、ここで悩んでもいて仕方ありません。そろそろ皆集まる頃です。皆、行きますよ。では、みなさん失礼しますね」
「あ、うん」
「・・・うん」
「はーい」
『わかった』
イナイの言葉に皆応え、イナイに先導してもらって付いていく。ほかの方はびしっと立ってそれを見送る。
流石に客室はちょっと集まれなさそうだと思うし、ホールの方に行くのだろうか。
皆、か。揃って会えるのは結婚式以来かな?
あれもそこまでだいぶ前の話でもないし、もっと会える機会少ないと思ってたけど、なんだかんだ顔を合わせられてるな。
皆きっと、変わり無いんだろうな。ミルカさんがそうだし。
なんて思いながらついて行くと、やはりホールの方に向かい、一度来た時に扉だけ案内された、準備室があるらしい通路ところに入る。
「あ、イナイ。遅かったね」
「わりい、ちょとあってな」
通路の中に入るとミルカさんが出迎えてくれた。どうやら今の発言から察するに、俺達が一番最後のようだ。
俺のせいだよね、これ。
「みんなもう集まってるか?」
「うん、イナイが最後。呼びに行こうとしてた」
「そっか、すまん」
「別に、いいよ」
俺のせいなんです、すみません。心の中で謝る。ミルカさんはちらっとクロトを見ると、すたすたと通路の奥に歩いていった。
イナイもそれに付いて行くので、俺たちも後ろをぞろぞろと付いていく。
さて、クロトはみんなの聞きたいこと答えるかな?
なんか全部分からないって言いそうな予感。
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