第195話遺跡と子供について教えてもらいます!

「さて、どこから話そうか」


イナイは言いつつ部屋にある椅子に座る。イーナさんは既に仕事に戻った。

しかし器用だよな。イーナさんどうやって動かしてんだイナイは。


さて、どこから、か。

まず気になるのは、イナイがこの子の事の何を知っているという点かな。


「そうだなぁ、まずはこの子が何者なのか知ってるの?そんな感じだったけど」

「知ってると言えば知ってるが、何も知らないと言えば何も知らないに等しい」


んー、何のなぞかけ?

俺にそういう難しい事は対応できないぞ!

うん、偉そうに思う事ではないな。


「どういう事?」


シガルが俺より先に素直に疑問を投げる。

そうよね、別に普通に聞けばいいよね。うん。


「まず、こいつと同じように眠ってた連中や、出てきた連中と相対した事が有る。だが連中について知ってる事は殆どない」


同じように寝ていた連中?

ていう事は、この子と同じように、あの遺跡に寝てた人が居たって事かな。


「それは、もしかして、この子がいた遺跡と関係がある感じかな」

「そうだ。こいつと同じように遺跡から出てきた。いや、棺から出てきた。出てくる際に周囲の魔力を馬鹿みてーに食うのも一緒だ。流石に全くないってのは初めて聞いたがな」


なるほど、棺から出てきた人物が他にもいるのか。

でもなんていうか、イナイのあの反応からして、友好的ではないんだろうな。

俺も正直、この子の事ちょっと怖いし。あの黒怖い。凄い怖い。


「タロウ、お前は誰かから、次元の裂け目を作り出す魔物の話を聞いた事が有るか?」


次元の裂け目を作り出す魔物?

えーと・・どっかで聞いたような気が・・・。

ああ、そうだ。ここに来たばかりのころ、ミルカさんが言ってた。

昔次元の裂け目を作り出す魔物がいたって。


「ミルカさんから、少し」

「そうか。まあ、お前が来た経緯を考えれば、誰かからは聞いてるだろうな」


イナイは頷くと、言葉を続ける。


「そいつは、こいつと似た遺跡の棺から出て来て、その場にいた人間を殺そうとした。だが、たまたまその場にいたロウがすぐに切って捨てて、事は終わった」


起きていきなり人を襲うか。なるほど、そういう事が有ったのなら警戒するのも分かる。

しかし、現場にウッブルネさんが居合わせるとか、そいつも災難だな。ウッブルネさんは何でいたんだろ。


・・あれ、なんかおかしくない?


「え、そこで終わったなら、さっきの話なんなの?」

「あわてんな、そこも説明するから」

「あ、はい」


答えを焦って諫められてしまった。


「その時事件はそこで終わりだと思ってた。その遺跡があった国も、あたしたちも。けど終わりじゃなかった。

そいつは数日後、また現れた。ロウにやられる前と同じ姿で、その国を蹂躙していった。

殺し、壊し、そしてどうやって作りだしてんのか、次元の裂け目を意図的に作り出して、人間を、建物を、土地そのものを飲み込んでいった。

気づいた時には、もう手遅れだったよ。国一つがまるまる滅びかけていた。いや、もう滅んだも同然の状態だった。

・・・たった1日でな」

「1日!?」


たった一日で国が亡ぶとかどんな化け物だよ。

この世界魔術あるし、イナイみたいな人達がいる世界だろ?

そんな世界で1日で国滅ぼすとか、シャレになんねえぞ。


「驚くのは分かるが、その国はそこまで武力のある国じゃなかったし、そいつの力を見たなら、理解できるだろ?」


イナイは顎で子供をさす。


「こいつは異常だが、他の連中も劣るとはいえ、そこいらの人間なんか紙を破くみたいに造作もなかった」


そう、か。

確かにこの子のような存在であれば、簡単かもしれない。

正直なところ、俺はこの子に勝てる気がしない。本気でこの子が怖い。

この子が襲ってこなくて、今では心底ほっとしている。


「それにあの国での亜竜だって、国が小さければ似たような事になってる。案外あっさり滅ぶときは滅んじまうもんだ」

「・・・そうだね」


亜竜。あいつらの力は確かに普通の人にはきつい。

俺はリンさん達を知ってるし、あの人達に鍛えてもらったおかげで戦えるけど、普通は無理なんだろう。

俺も、あの魔力切れの状態で出会ってたら危険だった。


「さて、話を戻すぞ。

あたしたちはその時まだその国に居たんだが、2度目の戦闘ではそいつが裂け目を開きまくって、攻撃できないようにしてきてな。

流石のロウも近づけば裂け目に落とされるから、逃げの一手になっちまった。

その際、ブルベが危なかったんだが・・・まあ、それは置いておこう。

細かい事は省くが、何とか隙をついてそいつを撃破した。その際アロネスの出してた精霊がそいつがどういう物かに気が付いてな。

どうやらそいつは普通の生物としての括りとは違う存在らしい」


生物とは違う?

ていうか、精霊?

樹海に居た頃にアロネスさんに教えてもらった精霊って、物に宿る意思なき力の塊みたいな話を聞いたんだけど、喋れるのがいるの?

聞けば聞くほど、次から次から疑問が出てくる。


「そこで、対処方法として、これにその力の塊を封じ込めることにした」


そう言ってイナイは、手元に魔導凝結晶を取り出す。


「いずれ消滅させる手段が見つかればいいが、今んとこ見つかってねえ」


あれは見た事有るだけで、まだ作った事が無いやつだ。

正確に言えば、作ろうとしたが失敗しそうで危なかったので止めた。

なんか途中で魔力が暴発しそうだったので怖かった。


「これの中身をわざと空っぽの状態にして、連中の力を封じ込める。その時はアロネスが自分より強い精霊を従えた時に使った手だったらしい。

状態を維持して空にすんのが面倒らしいが、予備も作ってあるから3ケタ超えていきなり現れねえ限り対処可能だ」


アロネスさんすげー。

あの人も割と何でもありだな。

ていうかそれ、アロネスさん居なかったらかなりヤバかったのでは。


「ただこの事件は、公式には、そういった事が出来る突然変異の魔物がやったという事になっている」

「え、そうなの?ちゃんと事実を伝えないと危ないんじゃないの?」

「何処にいるかもわからない。何処にあるかもわからない遺跡。そこから出てくる、亜竜も屠れる存在。

そんなものを伝えて国民を無駄に不安がらせるべきじゃねえよ。彼らに対処なんてできないし、どこに逃げろってんだ。

今ならともかく、当時は辺境の小国だぜ?」


辺境の小国?

てことはこれもしかして。


「これ戦争よりもっと前の話?」

「あ、すまん。言い忘れたな。そうだ、あたしもまだ若い頃だったな。ブルベが半泣きだったのが懐かしい」


当時の光景を思い出したのか、くっくっくと笑うイナイ。

あの人が半泣きか。想像つかないな。

温和な頼りになるお兄さんって感じだし、王様やってる時もかっこいい。


「まあ、ブルベは自らが危険な目にあったのも有って、遺跡探しは最優先だ。もちろん国の上層部しか知らない話だけどな。

今は、下の人間にはアロネスの実益を兼ねた趣味って事で、話が通ってる。実質動いてる連中はそういう事が好きな連中だ。ま、アロネスとご同業だな。

とはいえ、見つけ次第アロネスへ報告するようになってる。勝手な事されて、大惨事はごめんだからな。破れば国家錬金術師はクビだ」


国家錬金術師。まーた新しい単語が出てきたぞー。

国家技工士といい、国仕えの役職いくつあるのかね。


「そして戦後、ウムル国となった地で遺跡がいくつか見つかった。

そして棺から同じような連中が出て来て、そいつらも同じようにこれに封じられた。問答無用で攻撃してくる連中ばかりだったからな。

今でも国内全部きちんと把握できてるわけじゃないから、遺跡探しは続けられている」

「問答無用?この子みたいに会話できなかったの?」

「出来たっちゃあできたのかも知れねえが、何言おうとこっちを攻撃してきたからな。応戦するしかねえだろ」

「あれ、その感じだと、イナイもその場にいたの?」

「ああ、何回かな」


なるほど、あの遺跡からはとんでもない物が出て来て、それと今まで何回も戦った事が有る、と。

そりゃ事情話せばこの子にあんな目を向けるわ。


「連中に何かを聞いてもまともな返答は殆どなかった。分かってることは少ない。

数少ない分かっていることは、連中は自らを魔人とよび、作り話だと思ってた神話のフドゥナドルの配下だってことだ」


フドゥナドルって、魔王?

この世界、本物の魔王が実在したのか。ていうか魔人ってあからさますぎない?


「まあ、全部連中のつぶやきからの事で、どこまで本当かはわからん。だからこそ、会話できるそいつに聞きたい事が有るようなんだが・・・」


そこで俺達の目線は子供に集まる。

子供はそれを受けて首を傾げる。


「つれてきたものの、身に成る話が聞けるとは思えないんだよなぁ・・・」

「あー、うん、そうね。その気持ちは解る」


ここまでの話でも、この子は一切のアクションを起こさなかったし。

むしろ眠たそうにしてる。


「・・・うーん?フドゥ、ナ、ドル・・・・んー?」


だが子供は、フドゥナドルという言葉で、何かを悩み始めた。


「ん、その名前に覚えがあるのか?」

「・・・あるような・・・ないような・・・・」

「何でもいい、何かないか?」

「・・・フドゥナドル・ヴァルハウル?」

「なんだ、それは。ヴァルハウルってなんだ」


子供は何かを懸命に思い出すように、名前のような言葉を紡ぐ。

イナイは、少しでも情報が欲しいと、子供に問い詰める。


「・・・んー・・・わかんない。なんか、出てきた」

「そ、そうか・・・ヴァルハウル、か。名前っぽいが、まさか神話の魔王の名前?

ホントは意味なんてなくて、後付けで魔王って意味になった?いや、魔王って存在が、フドゥナドルであり、それが代名詞になったか」


なんか、イナイさんがぶつぶつ考察し始めた。邪魔しないほうが良いかね。

しかし神話の魔王、ね。

まさか本当に魔王なんて存在自体がいるとはなぁ。


「まあ、それは後回しにするか。しかし、なんだ、ここまでで思ったが、やっぱりお前の名前無いの不便だな」

「・・・なまえ?」

「おう、まったく覚えてないのか?」

「・・・分かんない」

「そうか、じゃあこっちでつけても構わねえか?」

「・・・うん!」


イナイの名前を付けるという発言に、心底嬉しそうに頷く子供。

名前、ほしかったのかな。


「じゃあ、タロウ。決めてやれ」

「は?」


え、なに、イナイが決めるんじゃないの?


「お父さんだろ。ちゃんと考えてやれ」

「ええー。いや、ええー」


お父さんって、この子が勝手に読んでるだけじゃないですかー


「・・・お父さん、名前・・・」


俺の袖をくいくいと引きながらキラキラした目で見上げてくる子供。

くそう、可愛いなこの子。男の子とは思えん。


「う、名前、その、えっと、うう・・・」


ネーミングセンス皆無の俺に名前とか。

えと、このこ、黒いのを使うし、えっと。

でも普段は白いけど、いやえっと。


黒人クロト?」


ひでえ!我ながらひでえ!

だって思いつかなかったんだもん!


「クロトか、いいんじゃないか?じゃあ今日からお前の名はクロトだ」

「・・・うん!」


物凄く嬉しそうに頷き、俺に抱き着く子供。

なんか、こう、申し訳ない気分になる。

でも、喜んでるし、いいか。ハクに名前つけた時はもっと気楽だったなぁ。

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