第194話船内にはいろんな人が乗ってました!
イーナさんに案内されるがままに客室側の階段を上がる。
すると、兵士さん数人と、おそらくウムルの人なのであろう数人が並んでいた。
なんかいくらか作業服の人が多い気がする。
「整列!」
奥に居る人の号令で、元々整列していた人たちが、びしっと構え、通路のの片側に並ぶ。
イナイは一度立ち止まり皆を見渡すと、奥に居る人物を見てふうとため息を付く。
そしてすたすたとその人物に近づいていく。
「すでに来ていたのですね」
「はっ」
奥に居た男性はイナイが近づくと、その場で跪く。
服装は作業服っぽいんだけど、偉い人なのかな。
「私には、このような事は必要ありませんよ。いえ、私達には必要ありません。いつも言っているでしょう?」
「はっ、存じております。ですがこれが我らの心にあれば」
奥に居る人物は、イナイがこういうのは要らないと言っても、動じ無い。
「全く、貴方は変わりませんね」
「貴女に救われた身であれば、この心は変わるはずも無くあり続けます。さ、我らの事はお気になさらずどうぞ」
イナイは苦笑いでその男性を通り過ぎる。
イーナさんはその後について行く形で歩いて行く。
シガルとハクもそれについて行き、俺もついて行こうとする。
だが、そこで男性は立ち上がり、俺を止める。
ついでに俺の横にいた子供も止まることになる。
「君がタロウか」
男性の目は俺を確かめるように見てきている。
俺が止められたのを、イナイは特に予想外な感じでもなくため息を付いている。
シガルは俺とイナイの顔をキョロキョロ見ている。「大丈夫なの?」と小声が聞こえた。
イナイは「大丈夫だよ、あいつなら」と言っているが、何が起こるのだろう。
「え、あの、はい」
とりあえず男性に応える。
男性は俺の上から下まで見ると、目をじっと見てきた。
なんだろう、何の用なんだろう。
「ステル様が見初めた人物だ。とやかく言うべきではないとは思うが、あの方に見合う人間で頂きたい」
「・・・はあ」
つまりあれか、今の俺はイナイの横に居るには相応しくないんだよって言われてるのか。
うん、そっか。
ちょっとだけ腹が立っちゃったぞ☆
なんで初めて会った人間に、そんな事言われねばいかんのだ。
イナイは確かにお偉いさんかもしれないが、彼女が俺を見てくれて、俺も彼女に応えたんだ。
いやまあ、ぶっちゃけ自分でも彼女に釣り合うとは思えないけど、それを他の誰かにとやかく言われる筋合いはない。
「俺が彼女に相応しいかどうかは彼女が決める事です。貴方に言われる筋合いはないです。
俺は彼女を愛している。彼女がそれを必要無いと言わない限りは、彼女の傍にあるつもりです」
俺は男性から目をそらさずに言い返す。
男性はその答えを聞くとニッと笑い、俺を奥へ促す。
「失礼した、タロウ殿。歓迎する。我らが英雄の伴侶の心、見させてもらった」
「・・・は?」
「いや、失礼。君がステル様の隣に立つに相応しい実力を持つ者だという事は知っていた。
バルフからも君の事は一応聞いてはいたが、やはり自分の目で見極めたかった。ステル様は我らの英雄だ。
あの方の隣に立つ実力のみならず、本当にあの方を想い、幸せにする気の有る人物であってほしいという、かってな我儘だがね」
えっと、つまり、この人は俺がイナイの横に立つに相応しくないと言ったのでは無く、彼女の隣に立つに相応しい覚悟があるか見たかったと。
彼女を本気で想っているのかを見たかったと。そういう事か。
つーか、この人騎士隊長さんと知り合いか。
「私はフェン。国家技工士筆頭補佐だ。
と言っても実質ステル様から降ろされた道具を複製したり、渡された街の改装企画案を部下たちと共にやったりと、他の技工士よりは少し身分が上という程度だが」
筆頭補佐。というか国家技工士って初めて聞いた気がする。
やっぱり国仕えと、そうでない人の区別があったのね。
まあ当然か。なんか許可証的な物とかあるのかしら。
あ、そういえばウムルは身分証に色々書かれてるし、そこに入るのかな?
「長々とすまなかった。聞けば君はステル様から直々に技工の技術も学んでいると聞く。君さえよければ歓迎するぞ」
「は、はあ」
俺は先ほどの態度からガラッと変わって、とてもフレンドリーな彼に面食らって、微妙な返事になる。
なんていうか、イナイはいろんな人に好かれてるなぁ。
「では、どうぞ、タロウ殿」
フェンさんは俺に軽く頭を下げ、もう一度奥へと促す。
俺はなんとなく、若干揶揄われたような気分でそれに応える。
結局自分という人間を見定められただけだよな、これ。なんかちょっと悔しい。
「お疲れ」
イナイが傍に行くと声をかけてくれる。
「なんか、なんていうか、イナイ大変だね」
うん、おれがどうこうより、イナイがああいう事ばかりなのを大変だなと思う。
あの人はまだサラッとした感じだったけど、中にはもっと面倒な人も居るんじゃないかな。
「まあ、流石になれたよ。最初の数年は苦手だったけどな。ホントアイツらもよく飽きないな」
慣れか。まあ何年もやられればなれるか。
俺もいつか、ポヘタでの扱いにも慣れるのかな?
いや、無理だなぁ。なんかこう、むず痒いというか、居心地が悪い。
やっぱり俺は一般人枠がいいな。
そう思いながら歩いていると、また通路の向こう側から、誰かが出てくる。
一人は魔術師っぽい雰囲気の女性で、一人は明らかに拳士という感じの締まった体の男性だった。
二人はイナイを視界に入れると、びしっと立ち、礼をする。
「お久しぶりです、ステル様」
「ステル様、お初にお目にかかります。お会いできて光栄です」
魔術師っぽい人はイナイと会った事が有るみたいだが、拳士っぽいの人は初めて会うようだ。
なんか、拳士の人すっごいガッチガチになっている。
「お久しぶりです。元気そうですね。そちらのあなたもそんなに硬くならないで下さい」
イナイは優しく微笑みながら二人に応える。
魔術師の人は隣を見て、方眉を上げてやれやれって感じの雰囲気だ。
「それに初めてではありませんよ。ミルカとの訓練を見に行った時、貴方の事は見かけています」
「はっ、そ、その、私などの事を覚えて頂けたとは思ってもおらず、その」
「いえ、すみません、責めるつもりではないんです。落ち着いて下さい」
「はっ、申し訳ありません!」
ひと声かけられるたびに力の入る拳士さん。
ものすっごい緊張してはります。イナイはどうにか緊張をほぐそうと柔らかく発言しているがどうにもならなそうだ。
「ふふ、ステル様すみません。彼は貴女の役に立ちたくて、拳士になったようなものですから」
「お、おい!」
「そうですか、ありがとうございます。ですが私の為を思うなら、王と、民の為にその力を尽力されるようお願いしますね」
「は、はいぃ!」
ニコリとイナイに微笑まれた事で、さらに彼は体に力が入る。
うん、これ、ただただイナイの大ファンだわ。たぶんそうだわ。多分何やっても無理だわこれ。
「では、ステル様、失礼いたします」
「し、失礼します」
二人はまた礼をすると、通路を歩いて行った。
あの二人も役職付きの人なのかな?
「なんか、いろんな人が来てるね」
「まあ、事が事だからな。ってか、そういえばまだ細かい説明してなかったな」
「うん、されてない」
しようとしたらハクと一触即発になりかけたせいで、その話流れちゃってる。
「客室に着いたらしよう。腰落ち着けた方がいいだろ?」
「だね」
イナイに同意して客室まで歩く。その道中にも数人にイナイは敬礼的な物をされていた。
なんていうか、今日はイナイがお偉いさんなんだって、今更再確認する日だなぁ。
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