第193話1日かからず飛行船に到着です!

「まてまて、止まれ!おまえら止まれー!」


イナイが大声で、ハクと子供に止まるように叫ぶ。

この高速移動の中それがちゃんと聞こえたのか、子供はびたぁっと止まり、その場で浮くように高度を維持し始める。

ハクもそれを見て減速し、きちんと俺達を保護しながら止まる。


『どうした、イナイ。これからだったのに』


止めたイナイに、不満そうに言うハク。


「目的地通り過ぎてんだよ!」

『あれ、もうそんな所まで飛んでたのか』


どうやら飛行船を通り過ぎたが、ハクがむきになっていたせいで通り過ぎたのも気が付か無かったようだ。

俺もシガルを落とさないように堪えるほうに意識が行ってて、通り過ぎたの気が付かなかったけど。


「くっそ、直ぐ止めたのにすげー距離はなれてんぞ。お前ら早すぎんだろ」

『えっへん!』


イナイの言葉にハクがとても嬉しそうに胸を張る。

別に褒めたわけでは無いと思うなぁ。

竜形態だからふんぞり返った姿に一種の神々しさを感じるが、ハクなので気のせいだろう。


「・・・おかあさん、ごめんなさい。気が付かなかった」


ゆったりとこっちに近づいてくる子供。

けど、俺はその周囲にある黒がどうしても怖くて、身構える。


「ま、まあいいよ。戻るぞ。また通り過ぎられたら困るから、張り合うなよ」

『・・・分かった』

「・・・ん」


イナイの言葉に少しだけ不満そうな感じで返事をするハクと、素直に頷く子供。


「ちょ、ちょっと怖かった」

「うん、流石に後半は怖かった」


速度を落とした飛行に安堵の声を漏らすシガルに同意する俺だった。

いやー、壁も何もなく、あの速度は怖いわ。







飛行船まで戻り、ハクに入口にそのまま入れてもらう。

今回も飛行船は浮いたままだ。


「いらっしゃいませ、イナイ様方」


中に入ると、イーナさんが出迎えてくれた。

いや、後ろに他の兵士さんも何人かいるな。

びしっと立っている。


「ありがとう、イーナ。陛下は?」

「自室に居られます。到着をご報告いたしましょうか?」

「いえ、きっと気が付いているでしょう。自身で参ります」

「はっ」


どうしてもこの独り芝居、事情知ってると笑いそうになる。

俺だけかな?

そんな事を考えていると、ハクと子供が入ってくる。


「ハク、お疲れ様です。この中ではそのままの姿でも結構ですよ」

『ん、いいのか?』

「ええ、この中は我が国の兵士や、技工士しかおりませんので」

『分かった!』


ハクは答えると、ふよふよと浮くようにシガルの傍に行く。


「・・・僕は?」


子供はイナイの袖を引っ張って言う。褒めてほしいのかな?

黒はもう消して、普通の状態に戻っているようだ。良かった。


「ええ、貴方も頑張りましたね。お疲れ様です」


イナイが子供の頭を優しくなでると、子供はとても嬉しそうにその手に頭を預ける。

ここだけを見ればかわいい子なんだけどな。


「その子が、件の子ですね」


兵士さんの後ろから、おじいさんが歩いて来た。

笑い皺がいい感じの穏やかな人だ。結構なおじいさんに見えるが、背筋は伸び、肩幅もあるせいでとても力強く見える。


「ヘルゾ卿、お久しぶりです。ご健勝そうで」

「ははは、もうがたがたですよ。膝が最近痛くてねぇ」


そういうわりに、足取りはしっかりしている。

佇まいがとても格好いい。


「初めまして、お話はかねがね。一度会ってみたいと思っていました」


ヘルゾと呼ばれたおじいさんは、俺の前まで歩いて来て、そういった。

俺の事を聞いているって事は、この人もイナイ達と古い付き合いなのかな?


「あ、初めまして」


とりあえず挨拶を返す。


「・・・はじめまして」


すると子供が俺の真似をして、おじいさんに挨拶をする。

頭を上げた後、これでいい?っていう感じで見てくる。


「これは、驚きましたね。なるほど、話してみる価値はある」


おじいさんは子供の行動に驚きの表情を見せ、顎に手を当てながら難しい顔をする。

話してみる価値、か。

色々と事情があるようだが、そういやまだ、遺跡に関しての事情をちゃんと聞いてない。


「まあ、まだ全員集まったわけではありませんので、しばらくお寛ぎください。イーナ、案内は頼む」

「はっ」


おじいさんの言葉に応え、イーナさんは俺達を客室へと促す。


「では、また後で」

「はい、また後で」


おじいさんとイナイはにこやかに別れの挨拶をし、離れる。

おじいさんはこの間案内されたホールの方へ。

俺達は客室へ。


「あの人も、結構偉い人?」

「ん?ああ、そうだな。元王様だ」

「へ、元?」

「今はうちの国の財務任せてっけどな。あの人金の回し方うまいんだよなぁ」


ん、元王様が王国の財務担当?

何それ良く解らない。ていうかあの人本人はそれで良いのかしら。


「なんかウムルって、不思議な国だねぇ」

「まあ、今のウムルは多数の国が混ざって一つになったようなもんだから、そんなもんだ」


そういえば戦争の結果大きくなった国だから、いろんな人が居るのか。

でもなんていうか、その割に統制というか、秩序がしっかりと保たれているんだよな、あの国って。

まあ、俺がよくいった所は王都なので、そこ以外は良く解ってないのかもしれないけど。


いつかちゃんと、ウムル国内も歩いたほうが良いんだろうな。

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