第192話移動手段を悩みます!
ポヘタ王都から少し離れた平原。そこにかなり強大な魔力が迸る。
だがそれは魔術としての意味をなさず、霧散する。
「うわ、マジだ、転移出来ねぇ」
「ね、出来ないでしょ?」
イナイは子供の手を取って飛行船に転移しようとしたが、転移出来ず驚いている。
俺は何故か転移が使えなくなった事を話し、試しにやってみたら普通に出来てしまった。
なので原因はこの子じゃないかという事で、イナイが試してみたら、イナイでも無理だったようだ。
「・・・?」
子供は俺達が何をやっているのか分からないという感じで首を傾げている。
そうね、君にはそうよね。
子供の肌はまた白くなっている。
あの浅黒い肌はあの黒い何かによるもののようだった。
黒を引くと、直ぐに白い肌に戻った。
「イナイお姉ちゃんでも無理なの?」
「おう、思いっきり全力でやってみてんだが、無理だな」
イナイにもこの子を転移させるのは無理みたいだ。
イナイの全力で無理なら、そりゃ俺には無理だよね。
「んー、どうやって向こうまで行くかな。ちょっと遠いが、どうすっかな」
ブルベさんは今飛行船に居るらしく、そこまで行こうとすると、少し遠い。
もう国境近くまで移動してるようなので、歩いて行くには少し辛い距離だ。
「あ、そうだ」
俺達が移動に悩んでいると、シガルが声を上げた。何か思いついたのかな?
「ねえ、ハク、乗せて飛んでくれない?」
ああ、なるほど、ハクに乗せてもらうのか。
でも振り落とされないかな?ちょっと怖いけど、そこは信用するしかないか。
『・・・シガルはいいが・・・あれもか?』
ハクが心底嫌そうに子供を見る。
「・・・僕、あいつの傍によるの、嫌」
『私もお前なんかの傍は嫌だよ』
うーん仲が悪い。
この二人どうにも相性が悪いみたいだな。
「じゃあ、しょうがないか。俺が抱えて走っていくよ。イナイ達は先に行ってて」
「それしか、ねえかなぁ」
結構距離あるし、俺の足では数日かかると思うけど、しょうがないな。
「・・・お父さん、僕、邪魔?」
「あ、いや、邪魔ってわけじゃなくて、君をどうやって連れて行こうか悩んでるだけで」
「・・・ん、わかった」
子供は俺の返事に力強く頷くと、少し離れる。
「お、おい、どうした?」
イナイが少し焦って子供に声をかける。
「・・・飛べたら、お父さんにもお母さんにも迷惑かからないんだよね?」
少し離れた後、こちらを向いて首を傾げながら言う。
「飛べたらっていうか、早く移動出来ればって事になるが・・・」
「・・・ん、頑張る」
イナイの返事に得心行ったとばかりに頷き、子供は黒い物を出す。
俺は思わず、それに対する恐怖心で身構えてしまう。
見ると、イナイも少し警戒している。
「・・・これで、解決」
子供は段々と肌が浅黒くなっていき、その場で軽く飛び上がると、足元に黒が塊で出来、そこに乗る。
「・・・えい」
掛け声というには力のない声と共に、黒が上空に勢いよく主人を打ち上げる。
子供は、目視では豆粒のようになるほどの高度に至ると、黒を横に大きく広げ羽ばたきながら旋回し始めた。
「・・・マジか。あれ、魔術使ってないよな」
イナイが子供の行動に驚きの呟きをする。
「少なくとも俺には魔力使ってるようには見えないかな?」
「あたしも、みえない、かな」
どうやらシガルも見えないようだ。
なら確定だ。あれは魔術じゃない。あの黒で飛んでる。
『くっ、私は負けないぞ!』
何時の間にか竜に戻っていたハクがいきなり咆哮をあげ、成竜に成る。
シガルがクスクス笑いながらハクの服を拾う。
ハクさん、何対抗心燃やしてんすか。
あ、そういえば飛行船の時も飛べるどうこうで張り合ってたな。
『行くぞ、乗れ!』
ハクは手(前足?)を差し出して、俺達に乗るように促す。
「ハクは単純だなぁ」
「あはは、可愛いと思うけどね」
「ま、なんにせよ早く着きそうだな」
ハクの手に乗ると、ハクは翼を羽ばたかせ、魔力をを迸らせる。
『ついてこれるならついて来い!』
ハクはそう言うと上空に飛び上がり、凄まじい速度で空を飛ぶ。
いや、振り切ったらだめだからね?
普通なら風圧で吹き飛ばされそうな速度だが、ハクが上手く保護してくれているようでそんな気配はない。
『くっ!』
ハクが悔しそうに唸り、横を見る。
そこにはハクと同じ速度で飛ぶ子供がいた。
「・・・■■■。■■■■■、■■■■■■■■■■■■■?」
『ぐう、舐めるな!』
子供の声ははっきり聞こえないが、ハクを挑発した様な気がする。
その証拠にハクはさらに速度を上げる。同時に俺達への保護が弱くなり、風が強くなる。
「あ、これまずいね、シガルこっちおいで」
「はーい」
念のためシガルを抱きしめて、保護魔術をかけておく。
「イナイも来る?」
別にイナイは問題ないと思うけど、なんとなく呼ぶ。
仲間外れは寂しいもんね。
「・・・ん」
イナイは少し照れながらシガルの横まで来て、俺の手を握る。
なにこれ可愛い。
「な、なんだよ」
「いや、可愛いなって思って」
「・・・ふん」
イナイは照れくさそうにそっぽをむく。だが手は先ほどよりしっかり握られていて、尚の事可愛いと思う。
シガルはそのイナイをニコニコ見ながら俺の逆の手を握る。
『まだついて来るか!なら!』
俺達のそんな様子はガン無視でハクがさらに速度を上げる。
おーい、シガル乗ってんの忘れてないかー?
『タロウ!シガルを任せたぞ!』
あ、忘れてなかった。でもこういうって事はこいつ保護止める気だな。
俺は念のため強化もかけて、振り落とされないよう腰を落として二人を抱きしめ、踏ん張る。
『いくぞぉ!』
今までも明らかにすさまじかった速度がさらに上がる。
あれ、この速度、前に突撃受けた時にこれぐらいの速度だったような。
おい、振り落とされるとかそういう問題じゃねえぞこれは。
いきなりこの速度になったわけじゃないおかげで堪えてられるが、しゃれにならん。
『くそ、まだついて来るのか!』
ハクは憎々しげに言う。風をこらえながら横を見ると、ハクの横を涼しげな顔で飛んでいる子供がいる。
この子はこの子でとんでもねえな・・・。
「く、きっついな。けどこの感じならすぐ着くな」
「うう、ハク、速すぎるよ・・」
「シガル、ちゃんと捕まっててね」
完全に子供と張り合うハクに振り落とされないように、3人で堪える。
すぐ着きそうだけど、もうちょっとゆっくりでいいなぁ・・・。
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