第191話国王様の葛藤ですか?

「ん、分かった。皆を集めとく」


イーナから報告を受け、その事案に対応してきた人間達を集める事を答える。


「ああ、私もすぐにこっちに向かう。ここでいいんだろ?あいつらもつれてくっから」


この場合の私とは、彼女の本体であるイナイ姉さんの事だ。

そして、件の子と、タロウ君たちも一緒に。


「・・・うん、飛行具の中の方が、下手に他の誰かに乱入されることも無い。万が一にも、対処しやすい」

「解った。あと、気にするな。今回が例外なだけだよ。今までは、どうしようもなかった」


一瞬言葉に詰まったのを見抜かれ、慰めの言葉をかけられる。

適わないな。本当によく見ている。


「じゃあ、あたしは整備の続きやってるから」

「うん、お願い。後でね」

「ああ」


イーナが部屋から出て行く。

彼女の素性を知らぬものが先ほどの会話を聞けば、私に不敬を働いたと言い出すだろうな。

だが、この部屋には防音の技工具が置かれているので、先ほどのイーナの言動を咎める者は居ない。


「はぁ・・・」


彼女が出て行ったことを確認すると、ため息が出た。


話の通じる者が、いた。

遺跡から出てきた者の中に、話の通じる存在が、出てきた。


「・・・考えないように、してたんだけど、な」


あの遺跡から出てきた者達は、今までは例外なくこちらを襲って来た。

その力の脅威を知っているからこそ、一切の加減も容赦もしてこなかった。

過去の自分であればあるほど、加減などする余裕は無かった。


けど、どこかで、頭の片隅のどこかで、頑張れば話が通じた者も居たのではないかと、思った事が無いわけでは無い。

甘い考えだと、分かっている。

今までは一度も例外なく、問答はほぼ意味がなく、こちらを攻撃してくる者ばかりだった。

だから今まで、その考えを頭を振る事で追い出せていた。


「・・・私のやってきたことに、間違いは無かったのか?」


いつも、思う。

戦うと決めたあの日から、ずっと研鑽し続けてきた。

奴らを前にして何もできなかった自分が悔しくて、愛した女性に守られた自分が悔しくて、この技を磨いた。

その技で、奴らを屠るに至った。


だが、彼らとて、彼らの主義主張が有った。

そこに相容れない物が有る以上、戦いになるのは避けられない。

だがいつも、この手で命を奪うとき、いつも思う。


もしかしたら、彼らとも手を繋ぐ事が出来たのではないかと。


馬鹿な話だと、一笑に付される悩みだとは理解している。

人に仇なす行為、言動をしてきた者達が今までの相手であり、である以上取る手段は決まっている。

自分たちが殺され、滅びる事を享受する気など、さらさら無い。


ギーナの国の者たちと戦った時もそうだ。

戦うしか無い以上、剣を振るう事を躊躇ってはいけなかった。


それでもやはり、いつも思う。

救えた命がもっとあったのではないかと。

手を取れた相手がもっといたのではないかと。


「陛下」


私の傍に控えていたロウが、こちらを気遣う声音で呼ぶ。

その短い言葉にはいくつもの意味が入っているのが、長年の付き合いで分かる。


解ってる。しょうがない事だと。

今回の事がただ例外なのだと、解ってはいる。


「すまない、言ってもしょうがない事を言ってしまったね。ありがとう、ロウ」

「いえ、申し訳ありません」


余計な事を言ったと、謝罪するロウ。

だが、私はいつも彼に救われてきた。幼い事からずっと。


私はずっと誰かに救われて生きている。

ロウに、リンに、イナイ姉さんに、アロネスに、セルやグルド、アルネだってそうだ。


ミルカは特に、皆の支えになっていた。

彼女という妹分の存在が、どれだけ彼らや私を鼓舞したか分からない。

彼女はそれが嫌で、イナイに教えを乞うたようではあるが。


国が安定し始めてからはもっと沢山の人に支えられている。

そう、沢山の人の命を、私は預かっている。

ならばそれを守る行為を、躊躇うわけにはいかない。


決断を見送る行為はしてはいけない。その場での最良を選択していくしかない。

後悔を糧にすることは有っても、その後悔に囚われるわけにはいかない。


「さて、じゃあ、全員は無理だろうけど、主要の面子には声をかけておこう」


自分を切り替えるように、明るく声を出す。


「はっ。直ぐに」


だから、今やるべきことをやるんだ。

件の子供が会話が出来る相手なら、そこから新しい情報が手に入るかもしれない。

今は自身の後悔よりも、そちらが優先だ。


ロウは私の言葉に応えると、直ぐに部屋を出て行く。

この飛行具には、城の重要連絡の通信機に繋がる通信器具が置いてある。

そこから国に連絡を取り、転移魔術が使える者がここに集める予定だ。

おそらくセルがやる事になるとは思うが。


「さて、どんな子かな。話に聞く限りは大人しい子みたいだけど」


イナイ姉さんとタロウ君に懐いたようだし、監視は彼らにお願いしよう。

彼らのいう事なら素直に聞くなら、その方が良い。


だが万が一、万が一その子が牙をむいたなら。


「その時は―――」


迷わない。

絶対に、迷わない。

私は、王だ。国王だ。

迷うわけにはいかない。

たとえ相手が子供であっても。


「――この手で、斬る」


愛刀を握り、覚悟を決める。

戦場に立つ覚悟を。

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