第190話シガルとハクも、子供に会います!

「とりあえずブルベに連絡とった。シガルとハクが戻ってきたら少し事情を話に行くぞ」


イナイは戻ってくると、まず俺達にそう言った。


「それは、この子と俺も?」

「あたりめえだろ」

「ですよねー」


まあ、当事者だものね。行かなきゃだめよね。


「・・・お出かけ?」


うん、そうね、お出かけだね。そんな和やかな話じゃない気が物凄くするけど。

凄く楽しそうなんだけど、俺はなんて返せばいいの。


「まあ、お出かけだ。いい子にするんだぞ?」


イナイは子供の頭を撫でながら言う。


「・・・分かった、良い子にする」


頭をイナイに預けながら、子供は応える。

素直なんだけど、一抹の不安が有るなぁ。


「ん、じゃあ、二人が戻ってくるまでどうすっかな」

「そういえばシガル達はどこ行ったの?ていうか、衣装選び終わったの?」

「サイズ測って、どういうの作るかは決めた。その後ハクが動き足りないつって、シガルとどっかに行った。まあ、ハクと一緒なら大丈夫だろう」


そっか、ハクが動きたがったから、ついて行ったのか。

あの二人本当に仲いいなぁ。


「・・・ねえ、お父さん」

「あー、うん、何?」


もういいやって言ったものの、お父さん呼びには慣れないな。


「・・・シガルとハクって、誰?」

「えっと、シガルは俺のもう一人の婚約者で、ハクは、俺達の・・・友達、かな?」

「・・・お母さんがもう一人いるの?」

「ああ、君にとってはそうなるのか・・・」


シガルにも説明しないとなぁ。

この子のお母さんの判断基準は分かったけど、俺のお父さんの判断基準が分からない。

なんでお父さんなんだろう。


「あたしはもうこの年だし諦めもつくが、シガルはお母さんとは呼ばれたくないだろうな」

「あー、そうだねぇ」

「・・・そうなの?」

「まあ、本人に聞いてみな。嫌って言われたら・・・お姉ちゃんって呼びな」

「・・・うーん・・・分かった」


なんか、凄い渋々って感じだ。

お母さんにこだわりが有るのだろうか。


ん、あれ、これ帰ってきたかな?

宿の近くにえらくデカい魔力が近づいてくる。たぶんハクだと思う。


「帰ってきたな」


イナイも気が付いたみたいだ。ハクは分かり易くていいなー。

暫く待っていると二人が部屋の前まで来て、ドアが開く。


「イナイお姉ちゃんただいまー」

『帰った!』


バーンとハクがドアを開く。

一応手加減して開けてるんだと思うけど、壊しそうで怖い。


「あれ、その子――」


シガルが俺の膝に乗る子供に気が付き近づこうとする。

だがハクがそれを止めた。


「ハク?」


ハクの行動にシガルは疑問の声を上げる。

ハクは目を見開いて子供をみている。驚くと言うよりも、思いっきり警戒をしている感じだ。


『シガル、こいつに近づくな』


物凄く低い唸り声でシガルに伝えるハク。

ハクはこの子に何を感じたんだろう。物凄く警戒してるな。

いやでも、その気持ちは分かる。この子の力を感じられるならわかる気がする。


『お前、なんだ。答えろ。答えようによってはこの場で殺す』

「お、おいハク、いきなりどうしたんだよ」

「ハ、ハク?警戒するのは分かるけど、いきなり過ぎない?」


ハクが殺すと、明確に殺害の意志の言葉を放つ。

何か危なさを感じたのは分かるけど、ハクにしてはあんまり唐突過ぎる。

いつもなら、意思疎通が出来る相手なら、会話はしてみるのに。


「・・・■■■■?■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■?■■■■■■■■■」


唐突に、本当に唐突に、先ほどまでのゆったりした喋り方ではなく、とても滑らかに聞いたことのない言葉を子供が口にする。

子供を見ると、いつの間にか肌が浅黒くなっている。

いや、最初に会った時より、もっと黒い。

何より目つきが、俺達に向けるような物では無く、鋭い目でハクを見ている。


何を言ったのかわからない。けど、その言葉を聞いたハクは明らかに激昂した。


『お前、一体何を言っている。いや、そんな事はどうでも良い。私を雑魚だと?良い度胸だ。ここで滅ぼしてくれる』


ハクは炎をちらつかせ、歯を見せながら獰猛な顔で言い放つ。


「まてまて、どっちも落ち着け!」


とっさにイナイが間に入る。


「そ、そうだよハク、どうしたの!?」


シガルは状況に付いて行けていないだろうに、ハクを止めに入る。

いや、つかめていないからこそ、止めたのだろう。


「ほ、ほら、君も落ち着いて!」


俺は今にもハクに飛びかかりそうに、前かがみになろうとした子供を抱える。

すると子供はきょとんとした顔で、俺を見上げる?


「・・・どうしたの?」

「・・・え?」


子供は今、自分が何をしたのかわからないという様子だった。

何も変な事はやっていないと。

一体何言ったんだ。


「これはまた、さらに面倒になりそうだな・・・」


イナイはそんな子供を見て、頭をかいて俯いた。


『命拾いしたな。シガル達に免じて、この場は抑えてやる』

「・・・■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■」


ハクは思い切り子供を睨み、子供もハクを睨む。


「・・・お父さん、僕、あいつ嫌い」

『私だって嫌いだ!タロウ、せめてそいつ後で殴らせろ!』


ハクがこんなに分かり易く怒っているのも珍しいな。

何がそんなに気に食わなかったんだろうか。


あ、雑魚って言われたのがそこまで腹が立ったのかな?

ハクは強さに誇り的な物持ってるっぽいし。


「とりあえず、二人とも座って。説明するから」

「ん、わかった。ほら、ハク、すわろ?」

『・・・・・・・・・・分かった』


とりあえず二人を座らせようとすると、シガルがハクを座らせようとする。

ハクは物凄い納得いかなそうに分かったと言い、座る。


「とりあえず、お前はハクの先祖が何なのか知ってるのか?」

「・・・わかんない。けど、さっきはそう思った」

「なるほどな。明確な記憶はないけど、奥底に何か残ってるのか」


イナイは皆が座ると子供に疑問を投げかけた。


「あ、あれ?イナイさっきの言葉解るの?」

「いや、わかんねーよ」

「え、じゃあなんで今の質問・・・」


どう考えても今のは、さっきの会話が分かった上での質問だと思う。


「魔術。とっさに翻訳使ったんだよ」

「あ」


焦って存在を忘れていた。そうだよ、ハクと意志疎通できてんだから、それ使えば良かったんだよ。

俺本当にとっさの行動が出来ないなぁ。


「うーん、これは本当に面倒くせえなぁ。今は大人しいが・・・いきなり何するか分からねえとなると目が離せねぇ」

「・・・ごめんなさい」


子供は叱られてると思ったのか、しょぼんとして謝る。

そのことにイナイは驚きを見せた。


「あー、んー、どうしたもんかなぁ」


謝っている子供を見つつ、イナイは唸る。

多分、この子が危険なのは解ってるけど、あまりに俺達には大人しく素直なので、判断に迷ってる感じだろう。


でも俺はそれよりさっき何言ってたのかの方が気になる。


「ねえ、イナイ。さっきこの子なんて言ってたの?」

「あ?ああ、人に滅ぼされた存在の残滓ごときが図に乗るなって言ってたな。どういう意味かは分からんが」

「滅ぼされた存在の残滓?」


なんだろ、確かに訳が分からない。

というか、さっきの反応から察するに、ハクも分かってないと見た。


「はあ、ブルベ達とは頼むから大人しく会話してくれよ?」

「・・・うん、ごめんなさい、がんばる」


子供は変わらず落ち込み気味だ。


「・・・でも、あいつ嫌い」

『ああ、私も嫌いだ!』


そこまで落ち込み切ってる訳でもない模様。

うーん、どうしたもんかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る