第189話子供が洗われます!

暫くぼけーっとして待っていると、イナイが桶にお湯を入れて持ってきた。

この子なら寝転がれる程度の大きさで、浅めの桶だ。


そういえば部屋で水とか使っていいのかしらん。

イナイが持ってきてるんだし、良いのか。


「よっと」


イナイは桶を床に置き、床に布を敷く。

布の上に座り、タオルをお湯につけて絞る。


「ほれ、こっち来い」

「・・・うん」


イナイが手招きをして子供を呼ぶと、こくんと素直に頷いてイナイの傍へ歩いて行く。


「お前は向こう向いてろ」


ぎろりと睨まれ、くるりと回れ右する俺。

あれー?なんで俺が居づらくなってるのかな―?


まあ、子供とはいえ女の子だし、当たり前か。しょうがないしょうがない。


「さて、それ、服か?それともお前の力か?」

「・・・ん、自分で作った?」

「そこは言い切れよ・・・」


作った?自分の力で?

あの黒い服普通じゃないとは思ってたけど、あの子の力で作ったのか。

・・・え、ちょいまち、じゃあ俺あの黒いのに自ら触れてたの?


あ、やばい、ぞわっと来た。怖え。腕削れなくてよかった・・・。


「・・・気が付いたら、こうなってたから、良く解らない」

「ああ、無意識か。なるほどな。消せるか?」

「・・・わかんない。やってみる」


んっと短い声を出したのが聞こえる。

掛け声をかけて服を消してるのだろうか。


「お、消えた・・・」


イナイは途中で言葉を途切らせる。


「・・・お母さん?」


子供の疑問の声が聞こえる。どうしたんだろう、大丈夫かな?


「タロウ、こっち向いていいぞ」

「え?」


いや、え、なんで?

流れからして、その子多分今裸でしょ?


「そっち向いて大丈夫なの?」

「大丈夫だからこっち向け」


んー、まあ、そういうなら大丈夫か。イナイの言葉を信じ、振り向く。

すると予想通り、子供は裸だった。

さっきまで少し浅黒かった肌が、白い、血が通ってないかのような真っ白な肌になっていた。


だが、それよりも、何よりも、イナイが振り向いていいといった理由がそこに有った。


「君、男の子だったのか」


男の子の象徴が、子供には付いていた。


「・・・そうなの?」

「えー・・・」


自身の性別も分かってないってどういうことなの。

そういった知識すらなく、あそこで寝てたとか?

その割にお父さん、お母さんって言葉は知ってんだな。


「あんな服着てたし、こんな見た目だから女だと思ったんだが」

「俺も女の子だと思ってた」


あの服ごわごわしてて、抱えた時も分かんなかったし。


「まあ、そういう事だ。気にしなくていいぞ」

「ん、とはいえ、別に見たいわけじゃないけど」


子供の、さらに男の子の裸を見たがる性癖は持ってないです。


「さて、と」


イナイは子供を抱え、桶に入れる。

子供は無抵抗だ。完全にイナイにすべてを預けている。


「まずは頭からだな」


イナイはいつの間にか取り出していた石鹸を泡立てて、子供の髪を洗い出す。

あの石鹸、樹海の家でも使ってた。

髪があまりごわごわにならないので、髪を洗うにも良い。

とはいえ、女性はその後の手入れもしないと駄目そうだが。


髪を洗う専用の物も有るはずだが、持ってきてないのかな?


「顔だけ見てると、やっぱり女の子だな」


そんな呟きを漏らしながら、わしゃわしゃと優しく子供の頭を洗うイナイ。

その手つきはかなり手馴れているように見える。

ぽやっとした気分で俺はそれを見つめていた。和むな。


「・・・気持ちいい」


子供はイナイにされるがままだ。

とても大人しい。


「さて、流すぞ」

「・・・うん」


子供はイナイの言葉に頷き、じっと構える。

イナイは少し微笑みながら頭を流していく。

流し終えると、頭を軽く拭き、顔を拭く。


「・・・これで終わり?」


子供は何か残念そうな表情でイナイに言う。

多分頭洗ってもらったのが気持ちよかったんだろうな。


散髪とかで頭洗ってもらうの、気持ちいもんね。

俺の髪もイナイに切って貰っているので、その気持ちよさは分かる。


「まだだ、体がまだだろ」

「・・・うん」


子供はどこか嬉しそうに頷く。

なんか、凄まじい懐きの速さだなぁ。

イナイはまた石鹸をわしゃわしゃと泡立てる。


「多分大丈夫だと思うが、痛かったら言えよ」

「・・・うん」


イナイは耳の裏から始まり、洗い抜けが無いように、ゆっくりと足先まで洗う。

子供は偶にくすぐったそうに声を上げていたが、気持ちよさそうだ。


俺もしてほしいとか言ったらまずいかな?

うん、なんか、こう、白い目で見られそうなので、止めておこうかな。


洗い終わったら体をお湯で流して、タオルで全身を拭いてあげている。

拭き終わると布の上に移動させ、足も拭いて行く。


「よし、大分綺麗になったろ」

「・・・おわり?」

「おう、終わりだ」

「・・・これでお母さん、僕の事嫌じゃない?」

「・・・んー、まあ、うん」

「・・・良かった」


満面の笑みでイナイを見る子供に、イナイはやっぱり微妙な顔だ。

あくまでお母さん呼びを貫く模様。


「さて、服は、普通の服着るか?それともさっきみたいに自分で出した方が落ち着くのか?」

「・・・お父さんと、お母さんが着てるなら、そっちが良い」

「そっか」


ふうと、何かを諦めたようなため息を付きつつも、イナイの表情は優しい。


「えっと、ちょっと待ってろ」


イナイは何時かクローゼット出したときのように、小さめの棚を出す。

そこから俺が今着てる服によく似た、というよりもほぼ同じで、サイズの小さい服を取り出す。


「これ着てろ。着方は分かるか?」

「・・・?」

「まあ、そんな気はした。教えてやるから、覚えろよ」

「・・・うん」


イナイは子供に着方を教えながら服を着せていく。

その様子を見ていると、本当に親子のようだと思った。

いや、多分イナイを知らない人から見たら姉弟に見えるか。


なんか、いいな。


「・・・おそろい」


子供は服を着ると、俺の方を見てそう呟いた。

おそろいか。うん、なんかこう、うん。なんか恥ずかしいな。

まあ俺のが着てる服って、割とどこでも見かける感じの、簡単なデザインなんだけど。


「さて、ブルベ達に連絡とらねぇとなぁ・・・とりあえずこれ片付けてくるか・・・」

「・・・手伝う?」

「いいよ、待ってろ。なんか惨事の予感しかしねえ」


同じく。なんかこの子が手伝うと凄い事に成りそう。

あの地面抉られたのを見ただけに、そう思う。


「・・・分かった。待ってる」


子供が返事をしたのを確認してから、イナイは桶を抱えて部屋を出て行く。

俺はその間、床に敷いた布を内巻きに包んで、とりあえず隅に置いておく。


椅子に座り直すと、また膝に乗られた。

石鹸の香りがする。


「・・・お母さん、好き」

「・・・そっか」


頭を撫でながら、またぽやっとイナイを待つ。

もし子供が出来たら、こんな風になるのかな。

いや、赤ん坊って大変って聞くし、まずはそこだよな。


なんて妄想をしつつ、イナイの帰りを二人でボケっと待っていた。

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