第188話支部長さんがどこかに行ったので、イナイに相談します!

うーん、どうしよう。

支部長さんに相談するつもりだったのになぁ・・。


しょうがない、イナイに相談するか。

もう帰ってるかな?

とりあえず宿に戻って、まだ帰ってないようだったら腕輪で連絡をとろう。


また子供の手を引いて、てくてくと宿まで歩く。

宿に辿り着いたころには、もう夕方になっていた。

食堂が開き始める時間で、宿側には人は居なかった。


俺はそのまま、子供を連れて部屋に入る。


「おう、おかえ・・・なんだその子」


部屋にはイナイだけが居た。

シガルとハクはどこに行ったんだろう。

イナイは子供の方を見て方眉を上げている。


「・・・?」


子供はイナイをじっと見て、首を傾げている。


「ただいま、イナイ。この子の事でちょっと相談があるんだ」

「相談?なんかあったのか?」

「このこ、自分の事が分からないらしくてさ、どうしたらいいかなって」

「解らない?どういうこった?」


イナイにここに至るまでの経緯をざっくりと説明する。

するとイナイは段々と表情が険しくなって、睨みつけると言う言葉が正しい目で子供をの方見る。

あれ、なんで?


「・・・お前、本当に自分が何なのか分かんねえのか?」

「・・・うん」


だが子供はその眼光にひるむことも無く、普通に応える。

イナイはそれを見て、右手を頭に当てながら、子供をじっと見る。


「・・・嘘ついてる風には、見えねえが、見えねえからこそ、訳が分からねぇ」

「・・・?」


イナイの言葉にこてんと首を傾げる子供。

イナイは、遺跡について何か知ってるっぽいな。この子に関しても何か知ってるのかな?


「イナイ、何か知ってるの?」

「ああ、知ってる・・・ちょっと訳アリだ」


イナイは子供を思いっきり警戒しているのが分かる。

椅子に座っているが、体勢がいつでも戦える状態になっているのが分かる。


「・・・お父さん、この人誰?」

「は?お父さん?」


あ、この子が俺の事なんて呼ぶのかは端折ったから、イナイが目を見開いて驚く。


「おい、お父さんってなんだよ、どういう事だ」

「いや、なんでか知らないけど、この子ずっと俺をそう呼ぶんだよ」

「ああ~?」


イナイは何言ってんだ?って感じで声を上げるが、俺だってわからない。

なんでお父さんって呼ぶんだろうか。


「・・・ねえ、誰?」


子供は俺の袖を引いて、イナイが誰なのかを聞く。


「えっと、俺の婚約者、かな。まだ奥さんじゃない、ってとこかな」

「お、おう」


俺の婚約者発言に、イナイがなぜか照れる。

貴女何時も俺の事そう言ってるじゃない。


「・・・うん」


何かを納得したかのように、子供はこくんと頷くと、とてとてと歩き、イナイの傍まで行く。

イナイはそれを警戒したのか、椅子から立ち上がる。


「な、なんだ」

「・・・」


警戒するイナイに、無警戒に子供は近づいて行く。

そしてイナイの腰にギュッと抱き付いて、イナイを上目づかいで見上げる。


「な、なんだよ・・・」

「・・・お母さん?」

「はあ!?」

「え」


何その結論。

もう、この子、本当によくわからん。


「お、お母さんってなんだよ!」

「・・・お母さんだから、お母さん?」

「答えになってねえよ!」

「・・・お父さんだから、お母さん」


俺の事を指さしてお父さんと呼び、だからイナイをお母さんと呼ぶ。

ああ、そういう事か。

俺が父親で、その婚約者か嫁さんなら、お母さんってか。

何その単純な結論。


「・・・お母さん?」


首を傾げながらじっと上目遣いでイナイを見上げる子供。

その姿はとても愛らしい。あざとい。


「ぐっ」


あ、イナイ負けそう。なんだかんだ可愛い物が好きなんだよなこの人。

魔力水晶を猫の形にする時も、めっちゃくちゃ気合入ってるし。


「・・・はぁ、もういいよ。好きに呼べよ」


あ、負けた。


「・・・うん、お母さん」


子供はその返事を嬉しそうに聞き、イナイの胸に顔をこすりつけるように抱き着く。


「・・・なんか警戒すんの馬鹿らしくなってきた」


イナイは脱力したように呟き、警戒を解く。

子供は変わらずイナイに抱き着いている。


「しかし、あいつらにどう説明するかな・・・」

「あいつら?」

「ブルベ達にだよ」

「え、なんで?何か問題あるの?」

「あるんだよ・・・まあ、そこも説明してやるか。が、その前にだ」


イナイは子供を引きはがし、その首筋に顔を持って行く。


「お前、ちょっと臭い。洗うぞ」

「・・・臭い?」


子供はスンスンと自分の匂いを確かめる。


「・・・お母さんが言うなら、洗う」

「・・・そうか」


お母さんと呼ばれる事に微妙な顔をしつつ、ため息を付きながら子供の頭に手を置く。

それを見て、子供は嬉しそうにイナイを見上げる。

ちょっと微笑ましい。


「なんか、腹立つな」


俺の目線に気が付き、じろりと睨まれる。

俺はそれにすいっと目線をそらし、明後日の方を見る。


「ったく、とりあえずお湯取ってくっから、まってろ」

「・・・うん、お母さん」

「・・・いってくる」


また微妙な顔をしながらイナイは部屋を出て行く。

子供はとてとてと俺の傍に歩いて来て、俺の膝の上にちょこんと座る。

うん、なんつうか、この子自由だなぁ。

もう、なんかもういいや。イナイが来るまで好きにさせとこう。

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