第187話子供を連れて組合に行ってみます!

子供の手を引いて、門まで歩く。

そう言えばこの子、女の子だよね?

髪は短めで、顔立ちもどっちか分かんない感じだけど、ドレス着てるし。

今更この子の性別を気にしているのもおかしな話だ。まあ、状況が状況だったし、しょうがないと思おう。


門まで着くと、兵士がびしっと立ち、俺に礼をしてくる。


「タロウ様、お帰りなさいませ!」

「あ、はい」


あの城での一件から、騎士だけでなく、兵士も基本こんな感じで困る。なんていうか、恥ずかしい。


「・・・お父さん、偉い人?」

「オトウサンチガウ。別に偉くはないよ」


兵の反応に、子供が勘違いをする。

ふと兵の方を見ると、何かに驚いた表情でこちらを見ている。どしたんだろ?


「あ、あの、タロウ様、お子様がおられたのですね」

「は?」


あ、しまった。勘違いされることを言わせないようにしておくんだった。

否定して聞いてくれるかなぁ。


「あの、この子は出先で拾った子で、なんでかなつかれまして」

「は、はあ。そうなのですか?」

「ええ、その、それでこの子身分証とか無いんですけど、どうやったら入れます?」

「タロウ様のお子様なら何も問題なく!さ、どうぞ!」

「あの、だから俺の子供じゃないです」

「あ、そうでしたね、すみません」


だめだこれ。あかんやつや。

絶対信じてねぇ。


とりあえず、これ以上話しててもなんだかもっと話がこじれそうだったので、素直に門を通らせてもらう。

その間兵がこちらを見てひそひそ話していたが、気にしない。

とりあえず門を通り過ぎたら、子供にくぎを刺して置くことにしよう。





「あのね、俺は君のお父さんじゃないから。せめてタロウって呼んでくれないかな?」

「・・・お父さんはお父さんだよ?」

「あの、だから」

「・・・お父さん?」

「・・・分かった。もういい。でも人前ではちょっと黙っててね・・・」

「・・・解った?」

「そこは疑問符つけないでほしいなぁ・・・」


解ってくれたのか、くれてないのか。

まあ、とりあえずこの子を連れて組合に行こう。支部長さんならあの遺跡について何か知ってるかもしれない。


子供の手を引き組合へ向かうと、どうにも周囲から見られている気がするし、何かひそひそ言われている気がする。

気になって聴覚を強化して聞いてみる。


「あの子・・・もしかして・・・」

「やっぱりタロウ様、小さい子が好きなのかしら・・・」

「流石に幼すぎると思うけど・・・英雄ってやっぱりどこかおかしいのかしら」

「王女様もまだ幼いしなぁ・・・やっぱりそういう趣味なのか」


ちげえ!ひでえ!

なんつう噂が立ってんだ!

いやまあ、シガルとイナイが婚約者で、王女様があんな事言ってたし、勘違いされるのも仕方ないのか?

なんか悲しくなってきた。


「・・・お父さん?大丈夫?」


俺がへこんでいると、子供が顔を覗き心配してくれる。


「あ、うん、大丈夫・・・大丈夫・・」


全然大丈夫じゃないけど大丈夫。


んー、基本は優しい子なのかな?

ぽやっとして何考えてるのか解らないけど、頭の悪い子ではなさそうだし。

ちょっと緩そうで、トロそうだけど。


しかし名前が無いのは不便だな。

後で仮の名前でも本人に考えてもらうか?

いや勝手にそういう事するのはまずいか。

なんて色々考えてたら組合に到着。


「ここに入るよ」

「・・・ここがお家?」

「いや、ここも家ではないよ」

「・・・ふうん?」


子供は不思議そうに建物を見ている。道中も少し不思議そうだった。


「とりあえず、入るよ」

「・・・うん」


子供の手を引きながら組合に入ると組合内がざわつき、大凡街で言われたことと同じような事を、またひそひそと言われる。

もういいよ。なんか諦めたよもう。くそう。

とりあえずすたすたと受付に生き、いつもの子に話しかける。


「あの、すみません」

「あ、はい、お帰りなさい。早かったですね」

「え?」

「え?納入じゃないんですか?」

「あ」


しまった依頼のこと忘れてた。


「ちょっと問題があって、忘れてました」

「あ、いえ、すみません。こちらも早合点をしてしまいました」

「いえ、お気になさらず」


むしろ普通の事だと思う。ていうか完全に依頼忘れてた。やばいやばい。

まだ日数余裕があって良かった。

しかしレンさんは他の人と違って、子供の事を気にしないんだな。ちらりと見ただけで終わった。


「その、ちょっと支部長さんに話を通しておきたい問題が起きたんですけど、今居られます?」

「あ、はい。分かりました。少々お待ちください」


レンさんは、ぱたぱたと奥に生き、支部長さんを呼びにってくれる。

だが、支部長さんは来ずに、レンさんだけが戻ってきた。

忙しかったのかな?


「タロウ様、お手数ですが、支部長室までご足労願えますか?」

「あ、はい。分かりました」


どうやら、こちらに来てほしい様だ。でもまあそれが普通か。

支部長に来てもらうとか、普通逆だよな。良く考えなくても。


レンさんに促され支部長室へ行く。

その間もひそひそ話がやむ事は無かった。

とりあえず街の人はともかく、組合の連中には強化しなくても聞こえる声で話すのは止めろと言いたい。


支部長室のドアを開けると、いつもの若干胡散臭い笑みをした支部長がソファに座っていた。


「支部長、お連れしました」

「ん、ご苦労」

「では、私はこれで」


俺の案内を終えたレンさんは部屋を出て行く。


「タロウ君、どうぞ。そちらの子も」

「あ、はい、失礼します」


支部長さんに座るように促されて、対面のソファに座る。

子供も俺の横に座る。手でソファのクッションの加減を確かめている。

ちょっと可愛い。


「それで、今日は何の御用で?」

「あ、えっとですね、今日依頼で薬草を探していたら何か変な物を見つけたんですよ

「変な物、ですか?」

「はい。なんか遺跡っぽい建物が地下に埋まってて」

「・・遺跡・・・」


遺跡と聞いて、支部長さんの笑顔が消えた。


「あの、なにか御存じなんですか?」

「え、ええ、ちょっと最近遺跡に関して気になる事が有りまして・・・」


支部長さんは顎に手を置き、考えるそぶりを見せる。

少しの間逡巡している感じで、こちらを見ていたが、直ぐに口を開く。


「タロウ君、君は遺跡について、何も聞いていないんですか?」

「え、何もって、どういう事ですか?」

「なるほど、何も知らされていないのか・・・いや、彼は身分としては平民。当然か」


ぶつぶつと、俺の分からない所で勝手に結論を出す支部長さん。

あのー、置いてけぼりは困るんですけど。


「あのー?」

「あ、ああ、すみません。その遺跡がどうされました?」

「あ、はい、それで、気になって中に入ったら、なんか棺桶みたいなのが有って」

「ちょっと待ってください、それは階段を下りた先の開けた部屋の中とかですか?」

「え、ええ」


お、知ってるのかな?もしかしたらあの遺跡、つくりとしては有名なのか。


「まさ、か。こんなにタイミングよく・・・」


支部長さんはすごく真剣な表情で悩み始めた。

ぶつぶつと何か言ってるけど、俺としてはここからが本題なんだけどなー。


「あの、タロウ君、つかぬことをお聞きしますが」

「あ、はい」


凄く鋭い目でこちらを見て、支部長が聞いてくる。

なんだろう。


「その棺桶、閉じていましたか?」


・・・あ、もしかして、開けちゃダメなやつだったんじゃ?

どうしよう、俺が開けた訳じゃないけど、砕けてる。


「あの、今は、その棺桶の蓋、砕けてます」

「・・・!場所は、どこですか?」


俺の答えに目を大きく見開き、体に力が入る支部長さん。

あー、これ、俺怒られるのかなぁ。


「えっとですね・・・」


薬草を取りに行った位置を思い出し、だいたいの場所を伝える。

伝え終わると、支部長さんはいきなり立ち上がった。


「すみません、急用が出来てしまいました。今日の所はお引き取り願えますか?」

「え、あの」

「すみません、本当に急ぎなんです」

「あ、はい」

「碌にお持て成し出来ず、すみません」

「あ、いえ」


捲し立てられて、返事が雑になる。

バタバタと支部長さんは身支度を終え、俺と一緒に支部長室を出る。


「レン、私は城に行く。しばらく任せると皆に伝えておいてくれ」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ」


支部長さんは走って外に出て行く。

一体何だったんだろう・・・そしてこの子の事を聞く暇が無かった・・・。

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