第186話とりあえず王都に戻ります!

「・・・なんか眩しい?」

「そりゃあんな暗いとこから出ればね」


不思議な子供を連れて外に出ると、子供は俺の腕から飛び降りた。

寝てた割には元気だな。

明るい所で見ると、この子の肌は少し浅黒い。


「・・・ここ何処?」

「うーん?自分の名前とかは流石に覚えてるよね?」

「・・・おとーさんなのに僕の名前知らないの?」


黒髪をなびかせながら、こてんと首を傾げる。

だからおとーさんじゃ無いです。


「・・・僕何も知らないよ?」

「知らないって」


もしかして、自分の事も分からないのか。

さっきから俺をお父さんって呼んでるのは、この子なりの冗談か何かかと思ってたんだけどな。


「んー、とりあえず街に行ってみようか」

「・・・街?」

「うん、この建物の事とか、君の事とか、誰か知ってるかもしれないから」

「・・・分かった」


なんかこの子、返事までに毎回間が有るなぁ。

まあ、何か考えて発言してるだけかもしれない。

凄いぼやっとした表情で、考えてる気配を全く感じないけど。


「その前に、あれどうにかするかね」


少し前から、こっちに大型な何かが向かって来ている。

子供を背にし、向かって来る方に剣を構える。

構えたとほぼ同時に、大きな猪の様な魔物が草むらから突っ込んできた。


その瞬間、恐怖を感じた。


魔物にじゃない。俺が後ろに庇う形になった筈の子供から、凄まじい恐怖を感じた。

汗が噴き出て、体が少し震え、恐怖で血の気が引くような感覚になっていく。

さっき遺跡の中で感じたアラートがガンガン鳴り響いている。


そのせいで突っ込んでくる魔物への反応が遅れ、突進を食らいそうになるが寸前で躱す。


「あ、しまっ」


いきなりの意味の分からない感覚に、とっさに自分の身だけを守ってしまった。

魔物の突進の先には子供がいる。

まずい。早く軌道を変えさせないと。


「くんのおぉ!」


躱し様の変な体勢のまま、思い切り魔物の横腹を蹴る。

何とか通用する威力だったようで、魔物は横に吹き飛び、転がっていく。


「あぶなか―――」


魔物の行き先と子供の無事を確認しようとすると、が魔物を蹂躙した。

いや、魔物だけじゃない。魔物のいた地点の周辺の何もかもを抉り取るように、黒い何かが消し飛ばした。

黒が引くと、そこにはスプーンで抉られたような地面が有るだけだった。


「なっ!」


黒い何かは、子供の手から出ていた。この子が今のをやった。

先ほど感じた恐怖は、威圧感は、間違いなくこの子から感じた物だったんだ。


なんだ、この子供。


「・・・だめだった?」


また子供はこてんと首をかしげて、自分の行動の正否を聞いて来た。

その姿は普通の子供と変わらない。その周囲になにか黒い物が蠢いてさえいなければ。


「あの、それ、何?」

「・・・さあ?」


えー、そこは流石に分かっとこうよ。

君、あの魔物消し飛ばしたじゃん。どう考えても自分の意志でやったじゃん。


「今自分で攻撃したよね?」

「・・・うん」

「ならそれ何か解ってるんじゃないの?」

「・・・さあ?」


駄目だこの子話が通じない。

どうしよう、あの黒いのめっちゃ怖い。あれこっち向けられてたらひとたまりも無かったぞ。

恐怖で逃げだしたい気持ちを抑え込んで会話を続ける。


「と、とりあえず、それ収められる?」

「・・・うん」


聞くと素直に黒い物を収めてくれた。

それと同時に、さっきまで感じて恐怖が和らいだ。

あの黒自体が、何か威圧を放ってるように感じる。あれは危険だ。まともに受けたら無事じゃ済まない気がする。


「とりあえず、さっきのはむやみに出さないでね?」

「・・・わかった」


こくんと頷き、返事をしてくれた。

素直なんだけど、なんか不気味だ。いったい本当に何なんだこの子。


とりあえず不安を抱きつつも街に帰る為に転移しようと、手を繋ぐ。

なんとなく嬉しそうに手を握る子供を見ながら、王都に転移しようとする。


「・・・・あれ?」


転移出来ない。あれ、なんで?

さっきの腕輪みたいに、周囲に魔力が無いと言うわけでもない。

遺跡からはのんびり徒歩で上がってきたからか、周囲には薄いけどちゃんと魔力が有る。


「も、もう一回」


今度はしっかりと集中して魔力を操作し、転移魔術を構成しようとする。

が、魔術の構成そのものは成功しているはずなのに、魔術が発現しない。


「え、ちょ、なんで」


飛べない。こっから王都までそこそこ距離あるのに、転移出来ないとか困る。

諦めず何度かやってみるが、どうしても上手く行かない。


「・・・お父さん、どうしたの?」

「だからお父さんじゃないって。・・・しょうがない。走っていくか・・・」


俺は子供を抱え上げ、強化を思いきりかけ、走り出す。


「舌噛まないように気を付けて」

「・・・大丈夫」


全力で王都まで駆ける。少し遠いので、つくのは夕方に成りそうだ。

道中魔物がちらっと現れるたび、子供から少し黒が出て来てビクッとしながら、王都まで走り切る。

魔物はとりあえず、子供が対応する前に即斬らせてもらった。どっち道こっち確認すると即襲って来るので心は痛まない。








「意外と早くつけたな」


まだ日は傾いてない。まあ、早く着いた分は良かった。


「・・・ここがお父さんのお家?」

「いや、別にこれが俺の家ってわけじゃないけど」


あ、そういえばこの子の身分証ないけど、入れてくれっかな。

まあ、国境の街でも身分証が無ければお金で入れてくれるみたいだったし、行けるでしょ。

俺は子供を地面におろし、手を引いて門まで歩いて行く。


どうにかなると思うけど、どうにもならなかったらどうしよ。

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