第185話棺から何かが出てきました!
鳥肌が立つほどの怖気に後ろを振り向く。
先ほどまで何も感じなかった棺桶。そこに魔力が吸い寄せられていく。
いや、違う、あそこにいる何かが周囲の魔力を食らってる。
なんだ、何が起こってる。
あの中には、何が居る。
解らない、状況が良く解らないが、一つだけ解っている事が有る。
あの中にいる何かは、俺より強い可能性が有ると言う点だ。
さっきから思いっきり体がアラートを発している。
逃げろと、ここから今すぐ逃げろと。
「でもこれ、逃げたら絶対他の人に迷惑かかんだろ」
俺じゃあの中にいる何かに勝てない可能性が有る。だからってこれを無かったことには出来ない。俺がここに足を踏み入れなかったらこれは起こらなかったのかもしれないから。
だから、あれの相手はしなきゃいけない。でも別に一人で相手する必要は無い。
腕輪の通信機能の使い方は昨日聞いておいた。イナイに状況を伝えて助けを呼ぼう。
惚れた女に助けを求める男って、すげー情けないな。
でも今はそんな事言ってる場合じゃない。あれはまずい。怖い。
全く手に負えない恐怖ってわけじゃないが、危険をわざわざ負う必要は無い。
「あ、あれ?」
通信機能が使えない。イナイに繋がらない。
そこで気が付いた。周囲の魔力が全く無い。
あの棺桶の中に全部食われたみたいだ。
「マジかよ」
魔力を伝って通信するのが腕輪の通信機能だ。周囲に魔力が無ければ通信は出来ない。
今まで魔力が周囲に全く無いなんて状況無かったから盲点過ぎる。
どうするかな、いったん外に出るか?でもその間にあそこにいるのが俺と同じように転移出来たら問題あるな。
目の前で逃げられたならともかく、目を放してる間にどこかに行ったのを追え無いかもしれない。
ならやるだけやって、引きつけつつ、通信できそうなところまで移動するか。
「うっし、覚悟決めるか」
勿論死ぬ覚悟じゃない。生きる覚悟だ。
上手く逃げ回ってやる。
「おっしゃ、来い!」
覚悟を決めると恐怖は和らいだ。怖くなくなったわけじゃないが、無駄に怖がって体動かない状態ではない筈だ。
念のため逆螺旋剣を取り出し、構えておく。
強化も魔術仙術両方準備して、万全の状態で構える。
俺の準備が終わると、それを待っていたかのように、棺桶にひびが入り始め、ふたが割れて内に崩れる。
その瞬間、先ほどまで感じていた棺桶から来る威圧感のようなものが消えた。
「あ、あれ?」
いきなりさっきまでガンガンなってたアラートが無くなり、恐怖も消える。
あれー?
「ん・・出れない・・・」
状況が分からず、眉を寄せていると、棺桶の中から声が聞こえてきた。子供の声だ。
男か女かは分からない感じの、中世的な声。でも子供の頃って大体そんなもんか。
「・・・重い・・・もういいや・・・寝よう・・・」
ええー、中に居るのが何なのか分からないけど、凄い気が抜けた。
俺の覚悟を返せ。
「すぅー・・・・すぅー・・・・」
暫く待つ必要もなく、寝息らしきものが聞こえてくる。
俺どうしたらいいのよ。あれに怖がってたのがすごい間抜けみたいじゃないか。
とりあえず棺桶に恐る恐る近づいて、中を見てみると、とても可愛らしい見た目の、黒いドレスを纏った黒髪の子供が寝ていた。見た目的には5~6歳ぐらいかな?
でもおそらくこの子、少なくとも普通の人族では無いんだろうな。
どうでも良さげに寝てるけど、この子の体にはさっきまで蓋であった物が砕け、上にかぶさっている。普通は潰れると思う。
見た目より軽いとかは無いと思うなぁ。
「・・・んー?だれー?」
俺が覗いてるのに気が付いたのか、子供が目を覚ます。
目を開くと、白目の部分は赤く、瞳は銀色だった。
「・・・おとーさん?」
「絶対違う!」
思わず反射的に返事してしまった。
俺はまだ子供なんて持ってねえよ!
ていうか、あの二人意外と体の関係は無いよ!
「・・・とりあえず、これ、どけて。助けて」
「・・・いや、その・・まあいいか」
とりあえず請われるがままに石をどかし、子供が出れるようにする。
結構重いな。強化状態でも重いって事は相当な重さだ。やっぱりこの子普通じゃない。
でもまあ、なんか敵意とかないっぽいし、大丈夫かな?
しかし、着てる服も頑丈だな。破れた様子が無い。
「はい、これで出れる?」
「・・・ありがとう、おとーさん?」
「だから違う!」
何故お父さんと言い張る、しかも疑問形で。
「・・・ここ何処?おとーさん」
とうとう言い切られた。
「だからお父さんじゃないです。ていうか君自分で寝てたんじゃないの?」
「・・・そうなの?」
「いや、聞かれても困るんだけど・・・」
この子一体なんなんだろう。あの中でずっと寝てたとか?
いや、それにしてはさっきの魔力を吸い寄せた事と、恐怖が理解できない。
あれは一体何だったんだろう。
なんか、良く解らな過ぎて全部素で返しちゃってるよ俺も。
「・・・おとーさん、お外行きたい」
「だからお父さんじゃないです。まあ、とりあえず外に行こうか」
「・・・ん」
その子は両手を広げで、抱っこをしてくれという格好でこっちを見る。
「いや、えっと」
「・・・だっこ」
まさしくその通りだったようだ。何だろうこの子、ハク並みに自由人だ。
「・・・だっこ」
「あ、はい」
有無を言わさない抱っこ要求に負け、抱え上げる。
「えへへー」
抱えると、首に抱き着き、頭に頬を押し付けてくる。
何なんだこの子。
俺は困惑しながら元来た道を戻り、外に出ようとする。ていうかこの子連れて帰ってどうしよう・・・。
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