第184話一人でお仕事です!

「えーと、あったあった、これだこれだ」


丁寧に絵が描かれた本を片手に、見つけた草を根っこから引き抜く。

これ自体をペーストにして、傷口に寝塗れば簡易傷薬になる草だ。

魔術は使えない。だからと言って治療院に行くほどでもない。そんな怪我に使うような物、だそうだ。


「けど、これ、他の物と混ぜれば普通に効能の良い傷薬になるんだけどなぁ」


アロネスさんに教えてもらったレシピの一つに、これを材料にした傷薬が有る。

そちらの方がそのまま使うより良いのだが・・・まあ、そうすると値段が上がって安く購入できないのか。

それともこちらの国にはそういう知識が無いのか?どっちかな。今度薬屋でも探してみよう。


良く考えたらこの国の王都では、まだ観光らしい観光が出来ていない。

バタバタとしていて、ゆっくり街を見回れた回数は数えるほどしかない。

明日はのんびり街を見て回ろうかなぁ。


「シガル、これと同じ物――」


そこまで言って、今日は一人だったことを思い出す。

恥ずかしいな。誰にも見られていないが、誰に話してるんだ俺は。

今日あの三人は、結婚式用のドレスを見繕いに行くらしい。式自体は紹介状を出し始めたあたりであり、まだもう少し先だが、用意だけ先にしておくそうだ。

俺は最初付いて行くつもりだったのだが、後の楽しみと言われた。


「うーん、一人は慣れてたはずなのに、この世界に来てから一人の方が少なくなって、周りに誰かいるのが当たり前になってるな」


口に出して胸に灯るのは、温かい気持ち。

あの頃とは違う。今俺の回りには、俺が想い、俺を想ってくれる人が居る。

この世界に来たときは本当にどうなるかと思ったが、今ではそれで良かったと思える。

大事な物を手に入れた。大事な事を学んだ。大切な人を大切と思え、大切と思えて貰えてる。


「うはぁ、ポエマーだな俺」


我ながら自身の心の声は乙女チックな部分が有る気がする。

口に出していってしまう時も有るけど、あの二人なら笑って受け入れてくれる、と思う。


「さて、一つ見つけたってことは複数あるはずだし、とっとと探してしまいますかね」


俺は草むらにしゃがみこみ、低い姿勢で薬草と成る草を探す。

雑草もかなりあるので、ちゃんと探さないと間違えてしまう。


「あれ、なんだこれ」


地面に這いつくばる勢いで探していると、何か突起物を見つける。

ただの石ころではない感じだ。不思議に思い、周辺の土と草を払う。


「んん?なんか結構大きい物が埋まってる?」


気になったので、手でどかすのではなく、魔術で土をのけてみる。

すると土の中からまたさらに大きな何かが出てくる。でもまだまだ大部分は土で埋まっているようだ。


「なんだこれ、ちょっと探ってみるか」


俺は探知魔術を地形の確認に使い、魔力をこの物体に這わせて、土の中でどうなっているのか探ってみる。


「なんだこれ、えらく大きいな・・・・あれ、入口が有る?」


これ建物なのか?

なんで地面に埋まってるんだ。遺跡的な何かとかかな。

中に入ってみようかなと考えて、土の中にある事で気が付いた。酸素が足りなくなるかもしれないな。


「とりあえず入り口らしき位置までトンネルでも作ってみるか」


魔術で土をどかし、固めて入り口までの簡易トンネル的な物をせっせこ作っていく。

暫く下って行って、入口らしき所で止めてここまで作ったトンネルを固めて補強する。


「よっと」


良く解らない建物の中に入ると、まさしく遺跡て感じだった。石造りで積み上げられた、古墳的な感じ?

もしかして今の想像通り、昔の人の墓とかなのかな。もしそうなら俺のやってるの墓荒らしに成るのだろうか。


「いやまあ、何かわかんないし、まあいいよね」


森の中の地中に有ったんだ。誰も知らないだろこんなの。

大分放置されてないと、こんな所に埋まってないと思う。


「しかし、パッと見古そうな気がするんだけど・・・崩れそうな危うさは無いな」


壁を触り、そのしっかりとした存在感に、崩れる雰囲気は感じない。

積み上げられているであろう石にも何故かひびが入っているところは一つも無い。綺麗に壁として作られている所もひび一つない。

一体どんな石でできているんだろうか。アロネスさんなら分かるかな。


「奥への通路が有るな・・・酸素大丈夫かな?」


現状息苦しさは感じない。けど、酸素がもし薄すぎたら吸った瞬間終わりだ。

どうするかな。この先に興味はあるけど、ちょっと怖いな。

・・・あ、そうだ。


『小さなかがり火よ、先行せよ』


小さな火を魔術で出して、先行させる。

先の様子も見えるし、その炎の状態で先の酸素の状態も分かるし、大丈夫だよね?


「一応不調をちょっとでも感じたらすぐ外に転移しよう」


今は普段と違って一人だから、何か起こっても助けてもらえないしね。

小さな火を松明代わりに先行させつつ、ゆっくりを後方を付いて行く。

炎はゆらゆらと揺れているが、大きな変化は特にない。この遺跡、酸素の心配する必要は無いようになってとか?

まあ、魔術や魔法が有る世界だし、有りえなくはないか。


「あ、階段だ」


しばらく進んだ先に階段を見つける。火を下に先行させると、まだ先に部屋があるようだ。


「んー、下も大丈夫そうかな?」


火の揺らぎが相変わらずなのを確認し、階段を下りる。

すると少し開けた部屋になっていて、その先になにか長四角の物が有った。


「なんだ、あれ」


ぱっとみは棺桶っぽいけど・・・てことはやっぱこれ墓なのかな。

いかんな、墓荒らしじゃないか俺。いやでも、遺跡っぽいから文化財的な物になるんだろうか。


「うーん、流石にあれを開けるのは気が引けるな」


そう思いつつ周囲を見回すと、綺麗な花の彫刻なんかが壁に沢山並んでいる。

良く見ると、棺桶の様なものの下にも、いくつも可愛らしい花の彫刻があり、とても華やかだ。


「暗いともったいないな。明るい所で見たらもっと綺麗そうだ」


この豪華さから考えると、名のある人の墓なのかもしれない。

ならここはとりあえず王都に戻って組合に伝えるか、王女様に伝えたほうが良いかもしれないな。


「とりあえず、戻るか。遺跡とかなら素人が下手に手を出したらよくないだろうし」


そう結論を出し、階段を登ろうとした瞬間、背後から怖気を感じた。

凄まじい、力を、感じた。

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