第182話飛行船内部の案内です!
「・・・すげぇ」
ちょっと飛行船舐めてた。なにこれ凄い。
まず最初に案内されたのは、ゴンドラ部分の所から階段を上がった先に有る通路から中に入った、だだっぴろい多目的ホールだった。
正直、は?なにこれ?って感じだった。
飛行船に乗った事が今まで一度も無いから、中の構造がこれで行けるのかどうか知らないが、どう考えても広すぎる。
本来の飛行船なら、こんなホールを作るのは無理だ。
たとえ硬式飛行船だとしても、流石に広すぎると思うんだけどな。
いや、この飛行船のサイズを考えればこの広さのホールを作る事は出来るかもしれないが、これにさらに人を入れて飛ばす?
しかし、どう考えてもドーム球場位のサイズあんぞ。
このホールだけで万単位入れても普通に余裕が有る。多分詰めるだけ詰めれば10万単位で入るんじゃないかこれ。
「宴会をここでやろうと思ってな。急いで整えたんだぜ?」
「いや、整えたとか、そういう問題じゃなくて、そっちよりもどう考えても広すぎるでしょこれ」
「お姉ちゃん、ほんとにこれ一人で作ったの・・・?」
『ブルベの家もこの船と同じぐらい大きくか無かったか?』
いや、王様の家と比べても困るから。つーか、城と比べるぐらいデカいっていうのがおかしいから。
そういえばウムルのお城も大概デカかったな。ゆっくり城内歩くだけで日が傾くぐらい大きい。
「この多目的大広間の奥に、行事の準備のための部屋も設けています」
イーナさんがそう言って手をかざす。イナイさん、楽しそうっすね。素晴らしい自作自演。
「大広間を出た通路の反対側は大型の台所になっています」
「え、台所あんの?」
「ええ、家にあるべき物の殆どは有りますよ。もちろん数もそれなりに揃えています」
え、ちょっと待って、もしかしてそれは、普通にここで暮らせてしまうのでは。
「とはいえ、下水が通ってるってわけじゃねえから、その辺の処分は後でしなきゃなんねえけどな」
「空飛んでるもんね」
イナイの言葉にシガルが至極当然に頷く。
そりゃそうだ。空から廃棄物落とすとかはちょっと出来ないだろうし、やっちゃだめだろう。
「その部分も結構取ってる感じ?」
「そうだな、その辺も色々と考えてこの大きさの飛行具になったな。最初の構想ではもっと小型だったんだが、追加追加で考えてたらデカくなっちまった。
んで追加の案が出にくくなった辺りで・・・我慢できなかった」
我慢の所でついっと視線をずらすイナイ。何故かイーナさんも明後日を向いている。
「まあ、組み立てて、外側張ってはそんなに時間かからなかったんだが、内装をやるのに少し時間がかかったな。まあ、材料は有ったからさほど問題なかったが」
「いやぁ、普通に組み上げるだけで何日かかるか分からないと俺は思います」
「うん、ちょっと、これ組み上げる場面が想像できないよお姉ちゃん」
「そ、そうか?」
イナイもやっぱり、自分の得意分野に関しては判断基準がおかしい。
どうしたらそうなると言いたい。つーか、本当にどうやってこんなもん組み上げたんだ。
「と、とりあえず、次行くか」
「では、こちらへどうぞ」
イナイが次というと、イーナさんが先導する。
その自作自演笑いそうになるので困る。
通路に出て、階段を下り、ゴンドラ部分の後方に向かい、また階段を上がる。
ゴンドラ自体もでかいよなぁ。
俺の知ってる普通の飛行船なら、そもそも後方に歩くなんてことはしないで良い。
後方に歩くという行為が有る時点で、俺が知る飛行船とは物が違うな。
登り切るとさっきと似たような通路に出るが、今度は外側に沿って通路が有り、窓から外が見えるようになっていた。
通路側にはいくつもの扉が内側に並んでいる。
「うわ、凄い」
「ほんとに浮いてるんだなっておもうねぇ・・・」
『この高さならそんなに高くないと思うけどな』
窓から見える景色に少し感動して声を出す。
シガルの面白い感想に、ハクも良く解らない返しをする。
でも確かに、ハクが飛んでくときはもっと高かったな。
「ここは、客室へ続く通路となっております」
イーナさんは俺達に説明しつつ、幾つも有る扉の一つを開ける。
このずらっと並ぶ扉は客室のだったか。
「どうぞ、客室もご覧ください」
綺麗な一礼で俺達を促す。さっきからイーナさんの行動に笑いそうになりつつも、この魔術行使のレベル差にへこんでいる俺が居るのだった。
聞いて無かったらこれが魔力体とか、全然分かんねぇ。老竜のでも若干見えた魔力構成が、全く見えない。
全部内に留めてある。
さっきからずっと、どこかでボロが出ないかなーなんて思ってみてるけど、一向に出る気配が無い。
「残念だったな?」
イナイがニヤッとしながらこっちを見る。
「・・・バレてた?」
「当然」
「タロウさん、さっきからイーナさん良く見てるもん。バレるよ」
どうやら見過ぎだった模様。シガルにまでバレてたのはちょっと恥ずかしい。
『おおー、ふかふかだー!』
俺達がそんな話をしている間、ハクがベッドにダイブしていた。
うん、この子ほんと自由だ。
「寝心地はいいか?」
『うん!』
「そっか、そっか。まだ数が足りないが、式までには間に合うだろ」
「あ、全室にはないんだ」
「流石にな」
寝具の類を全室用意は無理だったか。いやでも、あのホール用意しただけでも相当だと思うなぁ。
客室にはベッドとテーブルとソファしかないが、そこそこの広さで、過ごしやすそうだ。
俺の知ってる飛行船の寝所は寝る場所しかないようなものだったから、やっぱり広すぎるな。
「一応4人部屋までは用意してる。ただ部屋数は千無いな。流石に客室はそんなに多くなくていいかと思ってな」
「千近くあるのが驚きだよ?普通に多いと思うよ?」
「イナイお姉ちゃんの基準が分からない」
「あ、あれ?こっちも駄目か?」
イナイの発言に、ただ困惑する発言しか出来ない。
いや、飛行船にこんなに客室あるとか、誰が考えるのよ。
有ったとしてももっと小さい二段ベッドが大量にある程度だよ。
「因みに、あちらの通路から、先ほどの台所に繋がる通路が有ります」
「こっちからも行けるの?」
「ええ、ですがこちらは人2人が通れる程度にしています」
「客室対応用の通路か」
客室で食べたいって人もいるだろうし、良いかも。
「さて、お次は操舵室だ。貨物室も有るが・・・そっちはただ物が置けるようにしてるだけだから、いいだろ」
イナイに言われるがままに、ゴンドラの前方まで歩き、操舵室前までたどり着く。
そこには兵士さんが数人おり、イナイの姿を確認すると同時に跪いた。
「みなさん、私どもの事はお気になさらず」
「はっ!」
兵士さんはイナイの言葉に素直に従い、仕事に戻る。こういう事よくあるのかな?
「どうですか、タロウ。あなたの目から見て」
へ、俺の目から見て?
えっと、何がだろうか。
えーと・・・。
「凄い、としか言いようがないかな」
こんな大掛かりな物を見るのは初めてだし、操舵室なんか見るのも初めてだ。
何か色々ついているようだが、何が何に繋がっているのかはよく分からない。
「そうですか」
俺の言葉をどうとったのか、満足そうに前を向いてにやつくイナイ。
なんか申し訳ないな。多分もっと気の効いた言葉を期待されていたのではと思うんだけどな。
「気嚢の置き場も見に行ってみますか?」
「あ、見たいみたい」
「気嚢?」
気嚢という言葉にシガルが首を傾げる。
「これが浮くための物を入れてる袋みたいなものだよ」
「へえー」
『袋で飛ぶのか?』
「いや、中に入ってる気体で飛ぶんだ」
そういえば二人には、そもそも飛行船がなぜ飛ぶのかを説明してなかった。
「まあ行けばわかるさ」
イナイはそう言って、操舵室を出て少し前に有る階段を上る。
「ここは、まあ、貨物室だ。だだっ広いだけだが、いざという時の避難にも使えるかと思ってる。向こうの部屋や通路も合わせてな」
「確かに、避難にはいいかも」
広いって事は、それだけ人が入れるって事だし。
「んで、こっちの梯子の上が気嚢の置き場になってる」
梯子を上ると、向こう側がちゃんと視認できないぐらい広い空間に出る。ただ等間隔に、船体の補強であろう骨組みが有るので、ただ空間が広がっていると言う感じでは無い。
武骨な骨組みのみで構成されているようだ。
「あれが気嚢だよ」
イナイは上を指さして、現時点でも船体を浮かすために膨らんでいる気嚢を指さす。
巨大な船体を浮かすため、幾つもの気嚢が上部についている。
船体の手前から後ろまで、上部はほぼすべて気嚢を配置しているようだ。それ位じゃ無けりゃこんなでかい物浮かないか。
中に入れてる気体はもしかしたら樹海で既に教えてもらってるかもしれないが、違うものかもしれない。これはまあ、後で個人的に聞いてみるか。
兵士さん達が上部の足場でいろいろ調べているが、点検か何かだろうか。
「あれに入ってる空気が、船体を浮かすんだ」
「不思議・・・」
『空気で浮くのか?』
「空気っていうか、まあ、今ここにある空気より軽い空気、で通じるかな?」
『んー、わかんない』
「だよな」
「まあ、あん中に入ってる物がこれを浮かしてると思えばいいさ」
しかし凄いな。本物の飛行船もこんなに広く、こんな大量の気嚢を付けているのだろうか。
この光景は、あまりに大きすぎて、ただただ圧倒される。
「ま、こんな感じだ。どうだった?」
「いや、どうもなにも、ずっと驚きっぱなしだったよ」
「うん、こんなの一生のうち見れるかどうかだと思う」
『ベッドふかふかだった!』
ハクさん、飛ぶからこれに乗りたいって言ってたのに、感想それですか。
いや、いいけどさ。
「はは、驚いてくれたなら何よりだ」
イナイは嬉しそうに言った。
驚いたら、か。
どちらかというと、驚いてはしゃいでるのを見て満足、という風に見えるけどな。
俺はしばらくこの光景を眺めて、イナイの凄さを噛みしめていた。
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