第181話飛行船に入ります!

「でかい・・・」

「お、大きいね」

『・・・私の方が大きくなれるもん。たぶん』


ハクさん、ちょっと弱気ですよ。無理に張り合わなくていいのよ。

でもまあ、老竜もかなりデカかったので、出来ない事は無いのかもしれない。

けど見る限り、老竜よりもはるかにでかい。何百人乗せるつもりだって言いたくなるデカさだ。


今俺達は飛行船の入り口の真下に居る。乗り込み口周辺の部分は小さく見えたけど、上側がデカすぎたせいで小さく見えただけのようだ、その部分だけでもデカい。

ていうか暗い。夕方だから日差しが傾いていて日が多少さしてる感が有るけど、でかすぎてすさまじい影が出来てる。


「今、梯子を下ろすから、まってろ」


イナイがそう言って上を眺めている。何か合図でも送ったんだろうか?

ていうか、これ梯子で登るのか。ちょっときつくね?

いや、俺は平気だし、シガルも行けるだろう、ハクは当然だ。

けど普通の人の上り下りにこの高さはきついだろう。正確な高さは分からないが、ちょっとしたビル登るぐらい高いぞ。


「わりいな。本当ならもっと低い位置から乗せてやりたいんだが、こっちの高度に問題は無いが、他国の森林を破壊して回るわけにもいかねえからな」


梯子に関して考えていると、イナイがそう言って来る。

そうか、本来なら普通に下降するのか。今は下降できないからこの高度なんだな。


「転移しても良いが・・・他の連中もいるしな。それにどうせならちゃんと乗ってほしい」

「そっか、分かった」

「あたしもこのぐらい大丈夫だよ!」

『そもそも私は飛べるぞ?』


そうだった、ハクさん自力で飛べるのだった。


「じゃあハクはシガルが落ちないように見ておいて」

『わかった!』

「むう、落ちないもん」

「あはは、まあ万が一を考えとくのは悪い事じゃねえさ。ハク頼むぜ」

『頼まれた!』


ハクはすごく嬉しそうに引き受けたが、シガルは少し拗ね顔だ。

暫くすると梯子がだらーっと降りてくる。大概長いなこれも。

上を見ると、出入り口から人が覗いている。あの人が下してくれたのかな?


「こんなでかい物下せる広場なんてそうそうないと思って、長い縄梯子作っておいたんだ」

「ていうか、こんなでかい物を隠して置いておける所が有る事に驚きだよ」

「いや、まあ、それは、うん。うちの国、やったら広いだろ?誰も住んでない、周りに何もない土地っていくつかあってさ、使っていいって許可は取ってたんだぞ?

新しい物作るときとか、広くて何もない実験とかできる所欲しかったし。場所の許可はちゃんと取ってたんだ。

ただそこ、これ置いとけるぐらい広くてさ。その、ちょっと張り切ったら、その、な?」


手をもじもじさせながら言うイナイ。あんまりこういう所見ないから可愛い。


「まあ、俺は別に責める意味は無いから、気にしなくていいよ」

「あ、ああ」

「お姉ちゃんの楽しい一面を見れたしね!」

「う、シガル、さっきの仕返しか」

「ふ-んだ」


シガルは唇を尖らせながらイナイに言う。ああ、なんかこの二人がじゃれてるの見るの久々で和むなぁ。

最初のほうはシガルも結構緊張していたが、今やこんな言い合いが出来るぐらいの仲になった。

本気で言い合ってる訳じゃない。その証拠にもう二人とも笑顔だ。

うん、いいな、やっぱ良いなこの空気。心地いい。


「タロウ、どうした?いくぞ?」

「あ、ごめん。今行く」


目をつぶって今の心地よさに浸っていたら、置いて行かれそうになっていた。

慌てて返事をして自分も梯子を登る。

かなり長い事登って、飛行船に乗り込む。風はあまりなかったからそこまで大きく揺れはしなかったが、やはり固定してない縄梯子では普通は登るのキツイと思う。


「イナイ、少人数ならもっと簡単に乗れる何かが有ったほうが良いんじゃないかな?」

「あー、やっぱそうか。まあ後で考えておく」


と、返事が返ってきた。だがおかしい。

俺は隣にいるイナイに言った筈なのに、逆方向から声が聞こえてきた。

その方向を向くと、城であったイナイそっくりな女性が立っている。


「ようこそウムル王国所有の飛行具内部へ。歓迎するぜ」


イナイそっくりのその女性は両手を広げて言う。イナイそっくりな声で、イナイと似た喋り方で。


『やっぱりそうか。イナイ、使いこなせるようになったんだ』

「おうよ、元々の予定とは違うが、便利で使ってんぜ」

『ここまで使いこなせるとは、流石だ。私はこんなに自由には動かせない。少なくとも動きながら動かすなんて器用な事出来ない』

「その辺は慣れだ。複数作業の同時進行に慣れてりゃ、意外といける。それにあたしも細かい作業は無理だよ」


ハクとイナイが、何か解り合っている。俺の目の前にいる女性は歯を見せにやりと笑う。まるでイナイのように。


「もしかして、これ、竜の」

「おうよ。物にしてやったぜ!」

「やっぱり、お姉ちゃんはすごいな。あたしは此処まで完璧な物は、出来ない」

「完璧じゃねえなぁ。さっきも言ったけど、細かい作業はまだ出来ねえし」


シガルも何かが分かったようだ。竜?

・・・あ、もしかして老竜の使ってた分身体の魔術!

え、じゃあ、もしかして。


「これ、イナイの作った魔力体なの?」

「「おう。どうだ、なかなかいい出来だろ?」」


目の前の女性と、イナイの声が重なる。


「すっげ・・・」


実は俺もあれ真似しようとした。だが魔力体を制御しきれず、長時間維持なんて出来なかった。

そもそも、こんなに魔力を漏らさず綺麗にまとめ上げる事自体が無理だった。

魔力で作ったなんて思えない、しっかりとした実体の有る体。

しかも、ブルベさんのあの言い方だと、イナイは俺達と関わりながら、ずっとこの体を維持していたという事じゃないのか。


「とんでもないなぁ」


セルエスさんは魔術師としては規格がおかしいと思ってた。けどイナイも大概だ。


「お前のそういう顔を見れたのは、ちょっと達成感有るな」

「あはは、イナイはすごいね、本当・・・」

「凄すぎるよ・・・」


俺が正直な、それしかない感想を述べると、シガルも同じように言う。

うん、凄すぎるね。


『この魔力体、多分戦闘可能だぞ』

「お、ハクのお墨付きがもらえたか」


イナイはハクの言葉に嬉しそうに笑う。だが当のハクはイナイの分身体を見て、少し悔しそうだ。

ていうかなんて?この体で戦闘も可能って?

つまりイナイクラスの人間二人になるって事?何それ怖い。


『元々イナイには勝てないが、もっと勝てなくなってしまった』

「はは、ハクはまだまだ長生きするんだ。あたしなんか直ぐさ」

『竜の威厳もなにも有った物では無いな。イナイは竜を軽く超えていく』

「いやいや、手本が無かったらあたしは使えてねーさ。ハクにも感謝してる」

『むう。私も使えるようになってやる!』


ハクはふんと力拳を作り大きく宣言する。するとぱたぱたと誰かが数人走ってきた。

格好からすると兵士さんだ。皆槍も持ってる。


「ス、ステル様、どうされたのですか?何か問題が?」

「いえ、彼らをこの船に招待したのです。お騒がせしてすみません」

「い、いえ、ですがよろしいのですか?」


ちらっと俺達を見て言う兵士さん。ホラー、やっぱ問題あるんじゃないかー。


「彼らは問題ありません。身内です。陛下も彼らの事は存じています」

「そ、そうなのですか、差し出がましい事を申し上げました」


兵士さん達は跪き、イナイに頭を下げる。

なんか申し訳ないな。この人達はちゃんと仕事をしに来ただけで、むしろ悪いのはこっちだと思うんだけど。


「いえ、貴方達は職務を全うしただけです。頭を下げる必要はありません。これからも頼りにしています」

「ステル様・・・!はっ!」


兵士さん達は感極まった感じで返事をし、持ち場に戻っていく。

うん、なんていうか、イナイの信望のされ方半端ないな。


「では、ここからは私の事はイーナとお呼びください」


イナイの分身体がイーナと丁寧に名のる。


「イーナ?」

「一応あたしじゃ無いって事で通してるからな。あたしの直の部下で、あたしに劣るが高位の技工士だって事にしてるんだ」

「ああ、そうなんだ。分かった、気を付ける。イーナさんだね」


まあでも、彼女をイナイだと言っても、イナイを知る人からすれば何言ってんだこいつってなると思う。

しかしイーナか。ギーナさんと混ざりそう。

あと名前がとても単純である。思いつかなかったんだろうな、きっと。

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