第180話孤児院にまた行きます!
「えーと、と、とりあえず良い時間だし、お昼にする?」
「・・・おう」
空気を変えようと、昼ご飯を提案する。
イナイも俺の意図を読み取ってくれたようで、素直に応える。
「どっかに食べに行く?それとも何か作る?」
シガルもそれに乗ってくれて、提案してくれる。
『狩りに行こう』
ハクが珍しく行動提案を出した。こういう時結論が出るの待ってる事多いのに、珍しいな。
「今から?」
『今から』
今から狩りにか。まあ、別にいいか。そんなに大物捕まえる気でもないし。
『狩って、孤児院に持って行って、皆で食べるんだ。今日はまだ持って行ってないし、ちょうどいい』
「ああ、そういう」
なるほどね、狩って来るって言ってたもんな。
ていうか、今の感じだと、本当に毎日持って行ってるのか?
「さっき話してた孤児院か。じゃあそこそこ量を作る事になるな」
「だね。久々に一緒に作るね」
「いーや、折角だ、あたしがやる」
楽しそうに笑いながら言うイナイ。まあそれなら任せるか。
「シガル、買い出しに行くぞ!」
「はーい!」
『じゃあ、タロウはこっちだ!』
「はいはい」
というわけで、買い出し組と狩り組に分かれる事になった。
まあ、さっくりと狩って、捌いて、孤児院まで持って行ったので、シガル達の方が後から来る事になったけど。
狩りの苦労?ハクがその辺の野生動物相手に苦戦するわけが無い。すぱっと首やって終わりですよ。
孤児院で俺が処理したお肉を渡し、お昼も作る旨を伝えたら、皆に快く歓迎された。
院長先生だけは少し申し訳なさそうにしていたけど、そんなに気にしなくていいのに。
「悪いね、ほんとに毎日来るとは思わなかったよ。こんなにしてくれても何も返せないよ?」
『構わない。別に何か欲しくてしてる訳じゃない』
「ありがとねー、ハクちゃん」
サーラはなんだかんだ言いながら、返せない事を気にしているが、ウネラはおっとりと受け入れている。
まあ、別にここに居る間だけの話だし、ずっとってわけじゃないから、貰える間は貰っておけばいい。
「はくお姉ちゃん、あそぼー!」
「またお空飛んでー」
「とぶのー」
『ああ、いいぞ!』
ハクは子供たちに誘われて、子供たちと遊びに行く。
狩りは済んだので、自分の仕事は終了したようである。後は食うのみって考えてそう。
「タロウー、構ってやろうか?」
「たろう、暇なの?」
「ねえ、たろう、お仕事ないの?」
「昼からこんな所で遊んでて大丈夫なの?」
なんで俺にはこんな言葉なんだお前ら。
しかも、ハクはお姉ちゃんで、俺は相変わらず呼び捨てである。なぜだ。
因みにシガルも小さい子には、シガルお姉ちゃんと呼ばれている。
イナイも、イナイお姉ちゃんで受け入れられた。
解せん。
「「「「いただきまーす!」」」」
全員で手を合わせて、大きく声が重なる。別にこの国にこういう作法があるわけじゃないが、俺がやってると皆真似したので、せっかくなのでやらせてみた。
頂きますって言葉そのものは、シガルやイナイも使うけど、俺のように手を合わせはしない。
けど、今日は孤児院に居る全員が手を合わせて頂きますと言ってご飯を食べだす。
なんかちょっと楽しい。
イナイが食材をたくさん買って来たので、サラダもスープも炒め物も揚げ物も有る。それも結構な量。
孤児院に子供が沢山いるとはいえ、食べきれるかしら。
「ドンドン食べて下さいね。おかわりはいっぱい作ってますから」
イナイが給食のおばちゃゲフンゲフン、お姉さんのように皆の世話を焼く。
「タロウ、今何か変な事考えなかったか?」
イナイ鋭い。いや、俺がまた何か顔に出てただけであろうか。
「イイエナニモ」
「ふーん・・・」
イナイは怪訝そうにしながらとりあえず納得した。
さて、久しぶりにイナイのご飯だ。俺も食べるぞー!
「おいし―!」
「イナイお姉ちゃん凄い!」
「いや、これは美味いわ」
「おいしいねー」
「あらあら、すごいわねぇ」
「うまいー!」
子供達も院長さんも、イナイの振るった料理の味に満足しているようだ。
特に男の子たちががつがつとかき込んでいる。ちゃんと味わって食おーぜ。
ワイワイと楽しく騒ぎながら食べる。行儀が悪いと言われるかもしれないが、楽しく食べた方が美味しいと思うんだ。
イナイは院長となにか難しい話をしてるっぽいけど。
ハクは何か、子供達からあーんってされてる。普通逆じゃね?
シガルは小さい子たちの面倒を見ながら食べている。サーラとウネラも同じくだ。
俺は何故か、自分で食べるために取ったものを取られたりしながら食べている。
楽しいな。イナイがいる事も有るが、こういう空気はとても好きだ。
「また来てね、イナイお姉ちゃん」
「シガルお姉ちゃんまたねー!」
「ハクお姉ちゃんまた遊んでね」
「タロウも別に来ていいからなー」
食事が終わった後、院の事を少し手伝って、子供たちと大概遊んで、別れを告げる。
皆それぞればらばらに違う相手に言っているが、やはり俺は最後までおまけのようだ。
悔しくなんてないもん。
「では院長、任せておいてください」
「イナイ様、ありがとうございます」
「いえ、私は私の務め成すだけです。むしろ為政者の側に居るものとしては、申し訳ない」
「ふふ、あなたのせいでは無いでしょうに・・・・本当にありがとう」
うん、イナイここに連れて来て正解だったかも。
孤児院の状況は、そこまで悪いわけでは無いが、国からの補助が少し出て今よりはやり易くなるだろう。
ハクの提案に良いなと思ったのは、この辺の事も有った。
俺が王女様にどうこう言うよりも、この辺の事を良く解っているイナイにやってもらったほうが良いと思ったんだ。
俺達は孤児院を離れ、宿への帰路を歩く。
『子供たちは楽しいな!』
「ハクは子供になつかれるよね」
「そうだな。何か波長が合うんだろうな」
前の街でも子供達にはすごくなつかれていた。
俺は向こうでもこんな感じだった気もするがきっと気のせいだ。
「そういえば、ハク、お姉ちゃんにあの事お願いしないの?」
『あ、そうだった』
シガルがハクに言う。願い?
ああ、そうだ、飛行船乗せてほしいって話をしようて言ってたっけ。
「どうした?ハク」
『えっとね・・・あの空飛んでたの・・・乗って・・・みたいなって』
ハクは何か言いずらそうにしながら言う。ハクのこういう価値観の違いが良く解らない。
いいじゃない、乗りたいんだから素直に聞くぐらい。
でも、王女様もブルベさんも国家機密って言ってたし、無理かもしれないけど。
「ああ、いいぞ。今から行くか?」
『いく!』
「わあ、良かったね、ハク」
かっる。良いのかそれで。
「イナイ、いいの?一応国の機密なんじゃないの?」
「別に乗せるぐらいいだろ。それにお前らに見せたって、何がバレるわけじゃねえし」
うん、確かにそうかも。特にハクに見せても、どうやって作るのかなんで解らないだろうし。
「じゃあ、荷物宿に置いたら、行くか」
『はやく!早く帰るよ!』
「あはは、ハク、焦らなくても大丈夫だよ」
イナイの言葉に、シガルの手を引きながら駆け足で帰るハク。
どうやらよっぽど楽しみだったみたいだ。
「そういえばあんな巨大な物、近くに下せるところあったの?」
「いや、無い。降りれそうなぐらい下降はしてるが、浮かせっぱなしだ」
なるほど、ずっと浮いてる状態なのか。アンカーか何かで地面近くに固定してるのかな?
「そこで、さっきのあたしそっくりなやつの事も説明してやるよ。そこにいるしな」
「あ、忘れてた」
「おい」
いや、言いたい事と、言わなきゃいけない事と、聞くことが多すぎて。
まあ、俺が忘れてても、シガルが聞きそうだけどね。
「ふふ、帰ってきた気がするな、本当に。気が抜けるわ」
「えーと、どういたしまして?」
「くくく、ばーか」
馬鹿って言われてしまった。でもイナイが楽しそうだからいいや。
俺達は和やかに、宿に帰りつき、ハクに急かされて飛行船見学に向かうのだった。
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