第178話宿の部屋を変更します!

親父さんの宿までイナイを案内して、宿の入り口前に立つ。

ここまでは徒歩で来た。馬車は使わなかった。ただでさえ目立ってんのに、さらに目立ちたくない。


あ、しまった、王女様に礼を言うの忘れてた。

・・・しょうがない、今度一人で行ってこよ。


「ここか?」

「うん、ここに泊まってるんだ」

「食堂は夕方以降だけなんだけど、偶に朝ごはん作ってくれる時も有るよ」

『今日は何食べようか』


ハクさん、早い早い。まだお昼。あ、いや、お昼どこで食べるかを考えてんのかな。

とりあえず、イナイを連れて宿に入る。すると親父さんが出迎えてくれた。


「おう、小僧達か・・・ん?そのお嬢ちゃんは?」

「初めまして。私はイナイ・ウルズエス・ステルと申します。

婚約者であるタロウがここに泊まっていると聞き、私もここに泊めていただくために訪ねました」


イナイを見て誰かを尋ねた親父さんに、本人が丁寧にあいさつをする。


「イナイ・・・って、えっと、あのイナイ・ステル?ほんとに?」

「ええ、本人です。少なくとも、ウルズエスの名を偽物が語った事が本国に知れたら重罪になります。

身分証です、どうぞ。」


イナイは身分証を親父さんに渡し、親父さんはそれを見ると一層不可解な表情になる。


「いや、なんつうか、その、ええー・・・」


親父さんはえらく混乱している。多分だけど、イナイが小さいからだと思うんだ俺。

さっきの反応的に、親父さん、イナイの名前は知ってるっぽいけど、見た目の情報は持ってなかったんだろう。

イナイの見た目的に、親父さんの中で一致しないんだろうな。

どう見ても少女だからな、この人。


「信じていただけませんか?」

「いや、まあ、これが有る以上信じるしかないんだろうけど・・・」


親父さんは身分証を返しながら、頭をかく。


「あ、しまった。えーと、貴族様なんすよね。すんません」


あら、親父さん、そういうの気にしない人だと思ってた。


「いえ、お気になさらず。今の私はただの客です。他の方と同じようにして頂いて結構ですよ」

「そうかい?なら助かる」


うん、切り替え早くないかな。やっぱ親父さんは親父さんだな。


「んで、4人であの部屋に泊まんのか?」

「ええ、そのつもりです。何か問題が有るのですか?」

「いや、別にこっちは構やしねえけど、狭いだろ。一応もうちょっと広い部屋あんぞ。ベッドは2つで、その分値段も少し上げさせてもらうけどよ」

「そうですか・・・」


イナイは俺の方を向き、口の動きだけでどうする?と聞いて来た。

んー、どうしようかなぁ。流石にあのシングルベッドサイズに3人は狭いかもしれない。

ハクは椅子で寝てたぐらいだし。うん、移るか。


「そっちに移っていいですか?」

「いいに決まってんだろ。だから勧めてんだよ」

「あ、そうですよね」


そりゃそうだ。ダメだったら言わんわな。


「額はどれぐらいになります?」

「前の部屋の1,3倍ってとこだな」

「あれ、安い」


元から安い値段で泊まってるのに、広い部屋に移ってもまだ安くていいのかね。


「お前一応長期滞在だろ。その分の値引きも込みだ。それに広さも、少し広くなる程度だしな」


それでも結構太っ腹ではなかろうか。

まあ、好意は有りがたく受け取っておこう。


「じゃあ、お願いします」

「おう、じゃあ鍵取ってくっから、待ってろ」


親父さんはカウンターの奥の部屋に行き、鍵を取りに行く。


「なかなかいい感じのおっさんだな」

「でしょ」

「迷惑もかけちゃったのに、相変わらず気にしてくれてるし、良い人だよね」

『食事も美味いしな!』


ハクさん、ぶれないなホント。お前戦う事と食事で頭いっぱい過ぎないか。

少しすると親父さんがカギを持ってきてくれて、部屋まで案内される。


「ここだ。どうだ?」

「え、あの、親父さん、倍ぐらい広くないですか?」

「そうか?」

「いや、親父さんが良いならいいけど・・・」


部屋を見た感じ、ベッドが二つになったので床の広さはお察しではあるが、それでも倍ぐらいの広さなぶん、かなり広くなった感じがする。

元の部屋自体が広くないというのも理由ではあるが、それでも格安で泊まっていたので特に文句は無いだろう。


「じゃあ、荷物移してきますね」

「おう、終わったら鍵返しに来てくれ。俺が居なかったらボロでもベレドでもいいからな」

「はい、分かりました」

「んじゃな」


親父さんは部屋を出て行くと、ハクがそそくさとベッドの一つに陣取り、竜の姿に戻る。


『うん、悪くない』


中央に陣取るハクさん。うん、これ、そっち一人で使う気満々ですね。


「じゃあ、あたしたちはこっちだな」


イナイがもう片方のベッドをポンポンと叩き、シガルを顔を見合わせる。


「そうだね。けどこの宿だと、寝るだけしかできないけどね」


シガルが良く解らない事を言いだす。


「あー・・まあ、壁薄そうだもんな」

「タロウさん、結構声でるからね」

「そうだな」


昼間っから何の話をしてるんですかね。イナイさん顔赤いですよ。

俺も途中で意味わかって顔熱いわ。

ていうか俺声でてるのね。無意識ですよ。知りたくなかった。


「と、とりあえず荷物取りに行こうか、シガル」

「そうだね、クスクス」

「おう、いってら」

『いってらー』


いたたまれなくなってしまったので、シガルを連れて荷物を取りに行く。

そんなに物は無いが、多少の荷物は置いてある。

急ぐ必要は無いが、速足で部屋に向かい、荷物を取りに行ってしまった。


その間シガルはずっとクスクスと楽しそうに笑っていた。くそう。

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