第177話イナイにとっての王女様の印象です!

「ねえ、イナイ、さっきのどういう事?」


王女様とイナイの会話が良く解らなかったので、イナイに聞いてみる。


「ん、そうだな・・・」


イナイは腰に手を当て、空を見ながら、考える素振りをする。


「タロウ、上位の貴族に下位の貴族が無礼を働いた場合、どうなるか解るか?」


どうなるって、上の人間にやったわけだから、貴族が貴族としてあった時代なら・・。


「犯罪者になるか、死罪、とかかなぁ。良く解らないけど」

「まあ、そうなるだろうな。けどその立場が逆だったら?」

「逆?」

「ああ、もし下位の貴族に上位の貴族がやった場合はどうなる?」


それは、上のやる事だし。


「泣き寝入りかなぁ?」

「ま、大体そうだ。上位の貴族が国に見逃してもらえないほどの犯罪を犯したとかで無ければ、大体そうなる」


あ、やっぱり犯罪の場合は別なのね。流石にそれはそうか。


「そこで、あたしと王女殿下、どっちの身分が上だと思う?」


えーと、イナイはウムルの大貴族。王女様は王女様で、でもこの国はウムルの属国になるんだっけ。

イナイは前に身分は王族並みって言ってたし、イナイの方が上?

いやでも、王族並みって言ってたし、王女様は本当に王族だものね。


「王女様、かな?」

「正解だ。そして王女殿下は自分の失態を既に誰にも謝罪しなくたって良い筈だった。なのに頭を下げた」


ああ、その辺の話も通ってるんだ。てことはさっきのはイナイに筋を通したって事かな?

でもそれだけじゃさっきの受け答えには少し違和感があるけどな。


「そこでだ、タロウには分からねえかもしれねえが、相手に跪くってのは、明確に相手が自身より上であるという行為だ。

だからあたしたちは王族に跪く。ブルベに跪く。

それを踏まえたうえで、身分が上の者が下の者に跪くという事がどういう意味か解るか?」


うん?

えーと、身分が下の人間が跪くのは当然で、上の人はしなくて良いと。

んで、そのしなくて良い人が跪く理由?

・・・・・えっと、なんだろ。わからん。


「謝罪の意味が、身分が上の者の謝罪じゃなく、下の者が上に対する謝罪になる?」


俺が悩んでいると、シガルが答えた。そう、なるのか?


「正解だ。つまり、上の人間の身内を襲った事を目の前で謝罪した事になる。てこたぁ・・・・」

「首を落とされても文句は言えないって事?」


うえ、それまた激しいな。あ、でもそうか、俺もさっきそう言ったじゃないか。

犯罪者か、死罪になるだろうなって。


「ウムルは国柄そういう所が緩いけど、他国では上の貴族のやる事に逆らえない国なんてざらだ。この国だってその体制の国だ。

その国で王女が自分より下の身分の他国の貴族に頭を下げた。首を差し出した。けじめをつける為に。一人の男を想う許可を取る為だけに」


そう言って俺を見る。


「あたしとしちゃ、お前が何も問題なかったみたいだし、お前も許したみたいだしな。

あそこまで見せてくれたんだ。それ以上は良いよ。もちろんお前の身に何かあったなら黙っちゃいなかったがな」

「そっか、そういう事か」


なんとなくだけど、理解できた。

覚悟か。イナイは多分、彼女の本気の覚悟を見てとったんだろう。

話の流れからして、王女様はきっとブルベさんかミルカさんに、既にあの一件の話をしているんんじゃないかな。

でなきゃイナイに話が通ってたのはおかしいし。


「あの年で、いやあの年だからこそかもしれねえが、あれだけの覚悟を、ただ想いを通す為だけに、王族である誇りも押して跪いたんだ。

いい女じゃんか。王族としては咎められるんだろうけどな。あたしは嫌いじゃないぜ」


そう言って、どうすんだ?って顔でこちらを見る。


「うーん、とはいえ、申し訳ないけど、王女様にはそういう感情が無いんだよなぁ」

「アンだけ想われてるってのに、お前にしちゃそっけないな」

「色々有ったから。彼女の気持ちの本気はある程度理解はしてるけど、どうにも心に響かない」

「なるほどね。まあしょうがないんじゃないか?人の気持ちってのは理屈じゃねえしな」


優しく微笑みながら俺の胸をポンと叩く。

そうだね、理屈じゃないな。俺は二人がそばに居てくれることが暖かい。心地いい。

居てくれる事そのものが嬉しい。


「そういや、あたしが居ない間、どこに居たんだ?」

「支部長さんに勧められた宿に泊まってるよ。料理がおいしいんだ」

『うん、親父の料理は絶品だぞ!』


ハクも親父さんの料理はかなり気に入っている。


「そっか、じゃあ、あたしもそこに行くかな」

「三人で寝れるね!」

「あはは、そうだな」


シガルが嬉しそうだ。やっぱりイナイの存在って大きいなぁ。

改めて、イナイが帰ってきたと実感する。


「そういえば、さっきのイナイの部下の人、凄い似てたね」


物凄いそっくりだった。イナイをちょっと大人っぽくしたらあなるなという感じだ。

これ言葉にしたら怒られるだろうな。


「あん?ありゃあたしだ」

「は?」

「え?」


え、何言ってんの?


「まあ、後で見せてやるよ。とりあえず行こうぜ」


混乱する俺達を置いて、イナイは部屋を出ようとするので、俺達もあわててついて行く。

あの女性がイナイ?どういう事かさっぱりわからん。

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