第174話またお城に招かれます!
王都の門へ3人でゆっくり戻ると、門の前の兵士さんの一人がこちらに駆けてきて、俺達の少し手前で止まり、跪く。
「失礼いたします。タロウ様。至急王城まで来て頂きたいと連絡が来ています。」
ああ、うん。予想はしてたよ。さて、まあ行くしかないよな。
「はい、わかりました。今から向かえばいいですか?」
「はっ、こちらで足を用意しております。どうぞ」
兵士はそう言って立ち上がり、俺達を門の方へ促す。
門を超えると馬車が用意されていた。
「あ、でも馬車じゃハクが・・・」
『ん?あいつなら大丈夫だぞ?』
ハクを馬が怖がるのを心配したら、ハクはすたすたと馬に近づいて行く。
『また、よろしくな』
そう言ってハクは馬の顔を撫でる。
馬は嬉しそうに鳴き、ハクに顔を寄せる。
「あ、この子もしかして、ハクが馬車に乗ったときの子?」
『そうだ。何度か会いに行ったし、ここに帰って来る時もこいつに引いてもらったから、顔は覚えた』
ああ、あの時も同じ子だったのか。
生き残れてよかったな、どっちにとっても。
「よろしくねー」
シガルもハクと一緒に馬を撫でる。馬も嬉しそうにしている。
「よろしく」
俺も同じようになでようとすると、手を食われる。本気で噛まれてはいないが、痛い。
「ちょ、痛い痛い痛い」
お前ら牙鋭いんだよ!本気で噛んでなくてもいてーよ!
『あはははは!』
「た、タロウさん、大丈夫!?」
馬は俺の手をペッと吐き出し、ふんと鼻を鳴らして、ハクにすり寄る。
『よしよし、でもタロウは私より強いから、あんまり機嫌を損ねないほうが良いぞ?』
「そういう問題かなぁ?」
「いってぇ・・・・うわ、数か所普通に牙の痕ついてる」
わーい、右腕がパッと見悲惨。そこまで傷深くないけど、血まみれだ。
以前頭をかまれた時といい、なんで俺馬にはこういう扱いを受けるんだ。嫌われる匂いか何か発してんの?
「た、タロウ様、申し訳ありません!こ、この馬は後日処分いたしますので!!」
その様子を見ていた兵士さんが焦ってそう叫ぶ。いや、それは困る。そんなことされたらハクが怒る。
「いや、大丈夫ですよ」
そう言って腕を魔術で治す。
「ほら、この通り。それにこいつはハクのお気に入りです。真竜のお気に入りを処分はまずいと思いますよ?」
『そうだ!怒るぞ!』
ハクが予想通りの反応を見せたので、兵士が真っ青になり、跪く。
こらこら、この人は職務に忠実だっただけだから、怒ってやりなさんな。
「も、申し訳ありません。ど、どうか御容赦を」
『もしこいつを処分するぐらいなら、引き取る』
ハクさん何言ってんの。
「それは、えーと。馬の世話ってどうすんの?」
『・・・?食事与えてればいいだろ?』
「うん、えっと・・・こいつを寝泊まりさせるところとか、今後の移動の時とか・・・」
イナイ戻ってきて、別の街への移動はどうするの?
あ、こいつにやらせる気なのかもしかして。そういえば、ハクはこの街には護衛のついでに来たから、ジープの存在を知らなかったな。
『難しい事は任せる!』
「わーい、無責任」
とりあえず俺に出来るのは、王女様にこの子がハクのお気に入りだから、ちゃんと世話してやってねってお願いするぐらいだ。
まあ、でもそれで問題ないだろ。俺、馬の世話なんて出来ないと思うし。
「とりあえず、そろそろ乗ろうか」
「うん!」
『分かった!』
俺達は馬車に乗り込み、御者さんにお願いしますと声をかけ、王城まで走らせてもらう。
道中、凄いこっち見られている気がする。おそらく豪華な馬車のせいだろう。たぶん貴族とかが乗るやつなんじゃないかな?
ぽやっとそんな事を考えていると、馬車がいきなり止まる。それも横に滑りながら。
「おわっ」
「きゃっ」
『ふむ?』
俺はシガルを抱きかかえて、踏ん張る。
ハクは余裕の表情で座ったまま揺られている。
「なんだろ、事故?」
「かも」
外もざわついているようなので、気になって外を見ると子供が倒れていた。
おい、まさか轢いたのか?
「くそっ!」
「あ、タロウさん」
慌てて馬車を降りて、子供に駆け寄る。シガルもそれに追従してくる。
すると子供はあいててと言いながら立ち上がった。良かった。たいした怪我はしてなさそうだ。
「大丈夫?」
「え、あ、はい、す、すみません!」
立ち上がった子供に無事を聞くと、子供は怯えたように謝り始める。
何が有ったのかを見ていなかったから確かめようがないが、謝ってる辺り飛び出したとかなのかな?
「ちょっと擦り剥いてますね」
こけたときにでも怪我をしたのだろう所を、治癒魔術で治していく。
「たいした怪我が無くてよかった」
「え、あの」
子供は訳が分からなそうにこちらを見ている。
この間遊んだ孤児院の子たちよりは大きいな。
「いつつ・・貴様、誰の前に飛び出したのか解っているのか!」
御者の兵士さんが子供に向かって叫ぶと、子供は震えだす。
「子供がした事に、そこまで怒る事は無いでしょう。それに別にこちらが優先というわけでもないんですから。
もしこの子を轢いていたら、糾弾されるべきは貴方の方ですよ」
兵士の方を見ずに、子供の服に付いた砂を払いながら、言う。
兵士の反応は見えない。後ろに目は付いて無いからね!
『ちゃんと避けてやったんだな。えらいぞ』
ハクは馬を撫でながら言っているようだ。なるほど、そいつが頑張ったのか。
あれ、もしかしてハクさん、そいつの言葉わかんの?後で聞いてみよ。
「何が有ったのか見てないけど、危ないから今度は気を付けてね?」
シガルは自分と同じぐらいのその子に言って、頭を撫でる。
大丈夫そうなことを確認し、ごめんねと一言言ってから馬車に乗りなおそうとすると、子供が話しかけてくる。
「あ、あの、いいんですか?」
「え、何が?」
「だ、だって、あなたの進行を邪魔したのに、その」
「・・・?」
なんだろう、むしろこっちとしては君に大きな怪我が無くてほっとしているのだが。
「良く解らないですけど、ごめんなさい。怖がらせたみたいで」
「え、いえ、そんな!」
子供は俺の言葉に、なお驚いてしまう。
ああ、もしかして、こういう時子供の方が責められていたのかな。
なんとなく、今までの兵や騎士を思い出すと、そんな気がする。
「気にしないで下さいね。でも危ないから今後は気を付けて」
じゃ、と手を振って馬車に戻り、御者にもう少し速度を落としていくように言い含めて、座る。
「なんだかなぁ」
「多分、ああいう時、今までならあの子、何か罰を受けるんだろうね、きっと」
俺の呟きに、シガルが応える。
兵のあの言い方からすると、そうなんだろうな。
「ウムルでは、どうなの?」
「基本的に馬車が速度を出していい街道では、飛び出した方が悪いし、出しちゃいけない所では馬車の方が悪い」
あ、ちゃんと分けられてるんだ。
「相手が貴族の人だから罪が重くなる、事故を起こしたのが貴族だから軽くなる、っていうのはウムルには殆ど無いかな。
過去貴族の人が事故を起こした時も、賠償金とかしっかり払ってたみたいだし。勿論狙ってあたりに行った人間は別だけど」
この世界にもあたり屋が居るのか。たぶんウムルが平和だからこそだろうな。
「イナイお姉ちゃんみたいにあまりに上の人の場合、イナイお姉ちゃんが謝っても、むこうが謝罪を受けない事が有るけどね。
私どもなんぞに頭をおさげにならないで下さいって」
うっは、すげえ。
頭を下げないでくれって被害者から言われんのかよ。
「すごいなぁ」
「ね」
『?』
ハクさんは何やら話が良く解らなかった模様です。
『とりあえずイナイがすごいんだな?』
「クスクス、そうだね」
一応間違っていない発言を、シガルが肯定する。
その後は平和に雑談をしながら城に付いた。さて、何が有るかねー。
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