第173話何かが飛んできました!

「ふっ!」


早朝の訓練で、型を通し、体の動かし方を確認する。

隣でシガルも同じようにやっている。ハクもなぜかそれを見ながらやっている。

ハクさん、見様見真似で覚えたにしては堂に入っておられる。つーか、綺麗だ。

うん、なんていうか、この世界天才しかいないのではなかろうかと思えてくる。


「はあぁぁぁぁぁ」


最後に息吹で呼吸を整える。


「ふぅ。ま、こんなもんか」


無駄な動き、無駄な力、それらを無いように意識しながら体を動かすと、普通に型を流すより疲れる気がする。

力を入れすぎても駄目だし、入れるべきところで入れられてないのも駄目。

ミルカさんはこれを無意識に出来るレベルに到達している。

・・・遠いなぁ。


「ね、ねえ、タロウさん。あ、あれ何かな」


俺がミルカさんの動きを頭に描いていると、シガルが袖を引いてくる。


「ん、なに?」


シガルを見ると、空を見て、指をさしている。

なんだろう、何か飛んでるのかな?そう思い空を見ると、巨大な物が王都に迫ってきていた。

いや、巨大すぎるな。とんでもないデカさだ。

けど・・・。


「まさか・・・あれ作ってたとかじゃないよね・・・・」


俺はこの国に迫る飛行船らしき物を見て呟く。

その船体には何かの紋章のような物が描かれている。


「あれ、ウムルの紋章がついてる・・まさかウムルの乗り物か何かなの?」


シガルが飛行船を見て、呟く。

多分そうじゃないかなぁ。


「イナイ、あれに乗ってるんじゃないかな」


つーか、あんなもんこの世界で作るの彼女しか思いつかねえ。

しかし、速度が速いな。航行動力がプロペラとかじゃないみたいだし。

ファンタジーで良く見るプロペラ飛行船見たかった。


後方にジェット機の噴射機みたいなの付いてるから、動力はあれだろうなぁ。

なんか翼もついてるし。全体的にフォルムがごてっとしてる。

ま、そんなものどうでもよくなるぐらい巨大だ。とにかく巨大だ。その辺の街なら街全部が影になるぐらい巨大だ。

あれどこの降りるつもりだ。いや、もしかすると降りるつもりは無いのか?


なんて思いながら眺めていると、おそらく出入り口であろう扉が開き、そこから数人が飛び降りるのが見えた。


「え、ちょ」


いきなり飛び降りたので驚いたが、飛び降りた人達は途中でパラシュートを開いて、スピードを落として降りていく。


「パラシュートなんかあったのか・・・」

「ぱらしゅーと?」

「ああ、空から飛び降りて、無事地上に辿り着くための道具だよ」

「へぇ!初めて見た!」

『別にあんなもの無くてもあれぐらいの高さなら私は平気だけどな!大きさはあれの方が大きいが、速さは負けないぞ!』


ハクさん、何を対抗しているのですか。

あ、そういえば空飛ぶ物の事言ってた時、勝負だどうこう言ってたな。

この子ほんといくつだ。100歳なのに子供っぽすぎるぞ。まあ、それがハクの良い所でもあるか。


「あ、どっか行くみたいだ」

「ほんとだ。あんな巨大な物、この辺に降りれるところないもんね」


飛行船はそのままどこかへ離れていく。あれを下ろすところでも探すのだろうか。

いやしかしデカい。飛行船実物を直で見た事は無いが、あれぐらいの威圧感が有る物なんだろうか。

飛行機を見るより威圧感が有る。たぶん上の気球状の物の大きさが半端じゃないせいだろうな。

硬式飛行船かなぁ。この世界には飛行機が無いし、運搬も考えればそちらのほうが良いだろう。

物も人数も載せられる。まあ、中を見てないので実際はどっちか分からないが。


「あれさぁ、王都大騒ぎなんじゃない?」

「たぶん・・」

『ちょっと乗ってみたいな・・・いや、私飛べるもん』


ハクさん、人の話聞いてる?ていうか、乗りたかったのか。

まあ、飛べる飛べないは関係なく、見た事無い物を面白そうとか思うのは変な事じゃないと思うけどな。


「さて、戻ろうか」

「うん、なんか、素直に戻れない気がするけど」

「あ、やっぱり?俺もなんだかそんな気がする」

「だってあんな物作れるの、一人しか思いつかないもん」

「俺も同じなんだけど・・・・作るの速すぎない?って思うんだよなぁ」


いくら何でもイナイと別れてからの日数が少なすぎる。いや、この世界には魔術が有るから結構無理が効く。

だから有りえなくはないと思うけど・・・。

とりあえず街に戻ってからだな。


「ハク、いこうか」

『乗りに行くのか!?』

「・・・やっぱり乗りたいのか」

『い、いや!?』

「いや、そこは素直に頷けばいいじゃない。なんで今回に限って素直じゃないのさ」


普段素直すぎるぐらい素直だろうに。


『・・・だって私飛べるもん。負けないもん』


何やら飛ぶという存在に対して、譲れない対抗心が有る模様。

唇を尖らしながら言うハク。珍しい表情だ。


「いやまあ、乗ってみたいならいいんじゃない?イナイに頼んでみれば」

『・・・・乗りたい・・』

「あはは、ハク、あたしも乗ってみたいから、一緒にお願いしてみよう?

国の乗り物みたいだから駄目かもしれないけど、お願いだけはしてみよう」

『・・・うん!』


やっぱハクさん、俺よりシガルのいう事の方が素直に聞くよね。

もはや最近、俺じゃなくて、シガルに付いて来てるよね。


まいっか。とりあえず王都に戻ろう。

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