第171話階級を上げる必要があるそうです!

受付の子に少し自己紹介をしてもらった。親父さんの娘でレンという名前らしい。

レンさんについて行き、組合までやってきた。

つーか、国境の街でも思ったけど大概夜中までやってるよな、組合って。

支部長って大変そう。


組合に入ると、夜中だけあって人はあまりいない。

皆俺を確認すると、俺の方をずっと見ている。数が少ないだけに余計に見られてるのが分かる。

おちつかねぇ・・・・。

居心地悪くしていると、奥から支部長が歩いて来るのが見える。


「やあ、やっと来てくれましたね」


いや、やっとって言われても。今日初めて待ってたの知ったんですけど。


「用が有ったなら帰って来た時に言っておいてくれればちゃんと来ましたよ?」

「いえいえ、普通は来ないとは思いませんよ?」


え、そうなの?

そう思ってレンさんの方を見ると、こくんと頷かれた。

シガルの方を向くとシガルはこてんと首を傾げる。まあ彼女はあまり組合に詳しくないから当たり前か。


「えっと、もし決まりとかが有ったなら、申し訳ありません」

「いえ、決まりなどは無いですが・・・まあ、あなたにとっては些細な事だったのでしょうね」


些細な事?些細というよりも、来なきゃいけない事自体知らなかったんだけどなぁ。

まあいいや、何の用事なんだろ。


「まず、タロウ君。そしてハクさん。今回の件の評価として、君達の階級を3級にします。シガルさんも6級になって貰います」

「は?3級?」


いや、一気に上がりすぎだろう。

別にちゃんとした評価で上がるのは構わないんだけど、いいの?


「一気に上がり過ぎじゃないですか?」

「・・・多分本気で言ってるんでしょうねぇ」


えー、だっていくら何でも一気に上がりすぎでしょう。


「私としては最低でも2級にしておきたかったのですが、本部が許可してくれませんでしたので、3級どまりです。

というわけで手続きをしますので、組合証を頂けますか?

本来なら君たちが来てから本部への手続きが有りますが、来なかったので本部に書類はもう回してあるんですよ。

あとは君たちに直接細かい手続きをしたら終わりです。と言ってもこっちでやる事しかないですが」

「はぁ」


2級て。もっと上げたかったのかこの人。

組合証を支部長さんに渡し、不可解な状況に頭をかく。


「いや、そうじゃなくて、なんでいきなりそんなに一気に階級を上げる話になってるんですか?」

「・・・はぁ、君は本当に感性が違いますね」


ため息つかれたよ。俺そんな変な事言った?

前回はともかく、今回は変な事言ってるつもりないんだけどな。


「君は6級5級の組合員では歯が立たないような大量の魔物を単独で討伐し、街を、国を救った。それに適した階級にするのは組合として当然でしょう。

ただ今回、君は組合員になってからの期間が短く、こちらの事件の内容も大凡しか届いてない。

君がそれだけの実力を持っていると信用してもらえず2級に出来なかったんですけどね」

「ああ、なるほど」


今回の事、そんなに大きな評価になるのか。まあ、亜竜は普通の人にはきつい魔物だからそうなるのかな?


「普通は組合員の方から成果に対する対価を求めてくるものですが・・・まあいいでしょう」


あ、もしかしてそれでやっと来たって言われたのかな?

本来なら俺はこれだけの偉業を成したんだーて言って来るのか。


「私も階級上がっていいんですか?今回何もしてませんよ?」


シガルが支部長に問う。


「あなたは転移が使え、ガラバウが認める技量でしょう。7級はもったいない」


シガルが自分も良いのかと聞き、当たり前だと支部長さんが答える。

あれ、そういえばガラバウこの間6級って言ってたよな。最初7級って聞いた覚えが有るんだけど。

あいつも今回の事で階級上がったとか?でも帰ってきてすぐお城行ったし、そんな暇あったのかな?


「ガラバウはあげる事実を伝え、こちらで手続きを勝手にやっておくようにしておきましたが、あなた方はそうはいきませんからね。

何時までも来てくれないので困りましたよ」


あ、なるほど、帰ってきた時点で話してたのかな?

でもそういう事なら、あいつが6級っていうのも低いと思うんだけどなー。

あいつ、獣化+仙術強化状態なら間違いなく亜竜より強い。長期戦は無理だと思うけど。


「ただ、今回あなたに渡せるのは階級を上げるという事のみ。

聞けばほぼすべての亜竜を消し飛ばしてしまったようで、素材になりそうな物も無かったそうですし、お金として渡せる物が無いんですよね。

今回は自分の住処を守ると言う目的でしたから、魔物の素材を売りさばく以外での報奨は、王女殿下が出してくれた分程度しかありませんし、あなたはその殿下から報酬は要らないと言いましたし」


あ、あれそういうのも含んでたのか。

まあ、いいか。いっちゃったもんはしゃーない。


「あの、支部長」

「ん、どうしました?」


隣で聞いていたレンさんがおずおずと支部長さんに話しかける。


「2級、なんですか?1級じゃなく?」

「ああ、そのことですか」


え、1級て、一番上じゃないか。なんでいきなりそうなるの。


「本来なら1級に相当する事柄でしょうが、そうすると彼はおそらく嫌がるという判断です。彼、あまり目立つの好きじゃないらしいですから」

「ああ、それですか」


1級になると目立つの?なんで?

別に手続きしたところでは目立っても、他の街行けば関係ないんじゃないの?

因みにもうこの国と街で目立つのは諦めてる。

あ、職員はざわつくのかな?一応理由は聞いておこう。


「あのー、なんで目立つんですか?」

「・・・1級は特別でして、2級組合員までは、組合員の情報は本部と、本人が活動した組合にのみ蓄積されています。あ、勿論剥奪されたりしている者は別ですよ?

ただ1級はすべての組合に情報が行きます。そうしないと問題が起こる可能性が有りますから」

「問題ですか?」


なんだろう。指名系の依頼を1級のやつにいっちゃうとか?


「1級認定された組合員は今回のあなたのように、街や国を救うような異常な事態に対処した者に送られる階級です。

なのでそういった事態に遭遇しなければ、どれだけ力量が有ろうといつまでも2級。

そして1級になるという事は、それだけの事を成す力量と、それによって手に入れた縁が有る。

今のあなたのように、王女殿下と、ウムルの大貴族との関係のようにね。

そうなると扱いを間違えると面倒になる事が有る。なので1級を持つものの情報はすべての組合が持つという決まりが有るんです」


なるほど、行く先々どころか、組合のある国に俺の事が知られてる状態にならないようにか。

それは助かる。そこまで目立ちたくない。


「因みに2級が下りなかったのは、1級の申請をしなかったからです。明らかに1級を申請できる事柄なのに、国の関係者が口も出さず、支部長だけが2級にあげたほうが良いと言い張っているような物ですから。

まあ、ただ申請をしたのが私だったので、とりあえず3級でという事にしてもらえました」

「支部長さんだったからですか?」

「ええ、これでも過去3級だったんですよ。それなりに腕に自信は有ったんですけどね・・・。

ま、そんなわけで3級です。最初は1級にしようとしたんですよ?王女殿下に止められたので、できませんでしたが」


王女様ありがとう!初めて心から貴女に感謝したよ王女様!今度礼を言いに行こう。


「それは勘弁して頂きたい・・・!」

「普通なら組合員にとっては喉から手が出るほど欲しい物なんですけどね・・・」


そうなのか。でもあんまり目立ち過ぎたくないのでいいです。

それにウムルではあんまり効果無さそうだし。組合よりも、国と専門の業者が頑張ってるみたいだからなぁ。


「そういうわけで、よろしいですか?」

「あ、はい」

『いいぞ!』

「はーい!」


支部長さんの最終確認に軽く応える。

それを何か言いたそうにしながら組合証をもって奥に行く支部長さん


「じゃあ、私はまだ少しやる事が有るので失礼します」


レンさんがぺこりと頭を下げて去っていくのを見送り、俺達は組合の端っこで座って待つことにした。


「3級かぁ、そういえばここに来てからまだ一度も仕事してないな」

「明日はお仕事の日にする?」

『何するの?』


シガルは疑問形だが、ハクは疑問の種類が違う。既にやる気じゃねーか。


「何しようかなぁ。この街のこと分かってないし、余ってるなら前の街の時みたいに街中の仕事やろうかな」

「じゃあ、明日受付の人に聞いて、残ってる依頼しよっか」

『明日はちゃんと起きないと!』


ハクが何かえらい気合入ってらっしゃる。けど最近ちゃんと起きてる気がするけど。


「そういえば、ハク、ミルカさんとやったのどうだった?」

『凄かったぞ!何も通用しなかった!』

「あ、やっぱそうか」

『うん!強いな!凄いな!イナイも凄かったけど、ミルカも凄いな!タロウの回りは凄いのが沢山だ!』

「イナイもあれで、とんでもないからなぁ・・・」


そういえばそこそこ日数経つのに、イナイから連絡が無い。何やってんだろ。

もうそろそろ連絡来ても良いと思うんだけどなぁ。ミルカさんも伝言は何も聞いてないって言うし。


「イナイどうしたのかなぁ」

「寂しい?」


思わずイナイの事を呟くと、シガルが聞いて来た。

寂しい?うん、確かにちょっと寂しい。けど連絡が無いのが心配。

イナイに限って滅多な事はそうそうないと思うけど、心配だ。


「ちょっとね」

「素直だ」


照れながら言う俺を、クスクス笑うシガル。


「後、少し心配」

「そうだね、連絡ないもんね」


シガルも連絡が無いのを気にしていたようだ。

少し真面目な顔で言う。


『イナイだから大丈夫!』

「・・・根拠のない発言を有難う。でも俺もそんな気はしてる」

「あはは、そうだね。イナイお姉ちゃんだもんね!」


ハクの自信満々な発言で少し気が抜けた。

でもまあ、イナイだ。きっと問題が起こったならちゃんと連絡をくれるだろう。大丈夫だよな。


その後、暫く雑談をしていると、支部長さんが組合証を持ってきてくれた。


「どうぞ、お持ちください」

「あ、どうも」

「ありがとうございます」

『うむ!』


いちいち胸張って偉そうよね、ハクさん。


「あと、個人的にタロウ君に一つ」

「はい、なんですか?」

「この街を、国を、民を救ってくださって、ありがとうございました。貴方への非礼をお詫びします」


支部長さんは俺の前で跪いて礼を言い、謝罪し始めた。職員と組合員がこっち見てざわつく。

いやいや、まってまって、礼はともかく、謝るのはむしろこっちでしょうに。


「い、いや、謝るのはこっちだと思うんですけど。失礼な事言いましたし。と、とにかく立って下さい」

「・・・そうですか。なるほど。お人好しが過ぎると、利用されますよ」

「あー・・・気を付けます。

でもこちらも貴方の立場を馬鹿にするような発言をしたと叱られました。理解が及んでおらず、申し訳ありませんでした」


支部長は立ち上がりつつ、俺の言葉をお人好しと評する。そしてその危険も口にする。

だが俺はお人好しで言ったつもりはない。大事な人に叱られて、学んだことだ。失礼な事を言ったのだと。


「では今回の事はお互いさまという事で」

「はい」


少し胡散臭い笑みで支部長さんが場を締めたので、それに同意する。


「では、夜分に申し訳ありませんでした。お気をつけてお帰り下さい」

「はい、ではまた」

「失礼します」

『じゃあね!』


支部長に別れの挨拶をして、宿に帰る。

もう夜も遅いしとっとと寝て、明日は朝から組合に行こう。

さて、何が有るかなー。

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