第167話組合に顔を出します!

なぜこうなった。いや当然か。よく考えたらこうなるのは当たり前である。だってお城の出来事はたった数日前だぜ?

我ながら馬鹿だなぁという思いが沸いてくる。うん、なんかもう、うん。

俺馬鹿だわ。なんでこのタイミングで組合所に来ちゃったかな。


「タロウさん、すげえっす!あの亜竜をたった一人で退治するなんて!」

「タロウさん、どうか俺を仕事について行かせてもらえないっすか!」

「タロウ様、今夜私とどうですか?」

「タロウさん、こういうのダメだって解ってますけど、タロウさんの実力もしよければついて行って、この目で見せてもらえませんか?」

「タロウさん、俺訓練所で初めて見た時から、すげえ人だって思ってましたよ!」

「ねえねえタロウちゃん、お姉さんには興味ないの?」


うるせえええええええええ!

なんだもう!なんなんだもう!じゃまだあああああああ!

とは叫べない小心者の俺であった。だってこの人ら別に俺に害意が有るわけじゃないからなぁ。


「が、がらばうー」


情けなくも組合所に居たガラバウに助けを求める俺であった。


「知らん」


だが無情にも、奴は俺を見捨てるのであった。

くそう、薄情な奴め。そしてシガルもニコニコして奴の横に座っている。

シガルさん、助けてくれないのね?ていうか君らなんか仲いいよね。


「ガラバウは、ああいうの無かったの?」

「まさか。いくら王女様が認めたところで、全員が全員それに賛同する筈もねえだろ。俺はこんな態度だしな。元々が好かれてねえんだ。ねえよ」

「せめて公的機関での差別が無くなればいいね」

「まあな」


あのー、よろしければ俺もそちらの落ち着いた会話に参加させていただけませんか?


「タロウさん!」

「タロウ様!」

「タロウさん!」

「タロウちゃん」

「タロウさん!」


タロウがゲシュタルト崩壊しそうだ。俺が壊れる。

ああ、メンドクサイ。俺別に英雄願望みたいなのは無いから、面倒くさいんだよなぁ。


「と、とりあえず、みんな落ち着いて。ね?俺も少し、落ち着きたいし」


ぐいぐい来る連中に引き気味に言うと、意外にも素直に皆引いた。

心底意外である。こういう時ってそれでも来るものだと思ったけど。

皆が素直にのいてくれたので、シガルの所に行く。


「つ、疲れた」

「あはは、お疲れさま」

「シガル助けてよ」

「んー、タロウさんが評価されてるのを見るのが嬉しくて」


にへへと笑いながら言われては、それ以上何も言えぬ。くそう可愛いな。


「つーか、どいてほしけりゃどけっつえば良いんだよ。下手にやさしく対応するからそうなるんだ」


ガラバウが先ほどまでの俺の対応が悪いと言って来た。


「別に悪気が有ってやってる訳じゃないだろうし、そんなにきつくいう事無いだろ」

「ばーか。大体おめえの実力は真に理解できてなくても、俺よりつええのは知れ渡ってんだぞ。のいてくれっていえば退かないバカは殆どいねえよ」


馬鹿って言うな。今日は我ながら自覚してるだけに結構なダメージになるんだぞ!


「・・・そういうもんか?」

「普通お前の機嫌損ねるような馬鹿はしねえよ。お前が甘い顔してっから満更でもねえと思って群がってくんだよ」

「お前ガンガンしてくるけどな」

「なんで俺がてめえの顔色伺わなきゃいけねえんだよ。気持ちわりい」

「それは同感。俺もそんなお前気持ち悪いわ」


こいつがどこぞの王子のように「兄貴!」とか言って来たらぶん殴る自信がある。


「おい、やっぱガラバウの奴、タロウさんと仲間だってホントなのか」

「すげえ親し気だよな・・」

「やっぱ、ただあの場に居ただけじゃ無かったんだな」

「あの人に馬鹿とか言いやがったぞあいつ。死ぬのが怖くねえのか?」

「おい、やべえよ、今まであいつにどういう扱いしてたのか知られたら・・・」

「誰にでもわけ隔てないのねぇ、彼」

「隣の娘は彼の嫁だっけ」

「小さい子好きなのかね?」


うん、うるせえ。せめて聞こえないように言えよ。強化も使ってないのにしっかり聞こえてんだよ。

あと俺は別にロリコンじゃないし。好きになった相手が二人とも小さかっただけだし。


「しかし、お前もこれで多少は生きやすくなるんじゃねえの?変な亜人差別は減ってくだろ」


ガラバウは今まで人族では無いと言うだけで、不当な扱いを何度も受けている筈だ。


「多少は影響あるだろうな。けど人間そうそう簡単に変わるもんかよ。特に年いった連中はな」


年いった連中、か。そういうのは確かに有るかもしれない。

そこまで積み重ねてきた物が有る故に、そうそう自分を変えられない。

でもガラバウは、あの場に居た以上、亜竜退治の参加者だ。敬意を払いこそしても、侮蔑目のを向けるのは有っちゃいけないと思う。


俺はアッサリ倒したけど、あれは普通の人間には手に負えない代物だ。

樹海での訓練が有って、あそこの魔物を倒せるようになったからこそあんなにあっさり倒せた。まあ、技工剣全力開放してたせいも有るけど。


「でもま、流石にお前自身に表立って言う奴いないだろ」

「どうかな?これでも一応支部長の後ろ盾は有った上で、今までもあの様だぜ?」

「・・・根が深いな」

「人間ってのはそういうもんだ。まあ、そうじゃねえのも居るのは知ってるけどな」


そう言って組合の受付の一つを見る。親父さんの娘さんだ。

彼女はガラバウの視線に気が付くとにこやかに手を振る。


「あの子と仲いいよなお前」

「おせっかい焼きなんだよアイツ」

「満更でもないんじゃねえの?」

「親父さんに殺されるのは嫌だ」


あ、親父さんそういうタイプか。いや、どこの家庭でも父親ってそういう物なのかしら。

父親か。俺に子供が出来たら、どうなるんだろ。


「お前、何しに来たんだ」

「ん、なんとなく面白そうな仕事が無いかなって」

「面白いかどうかは知らんが、仕事はいくらでも有るぞ」

「でもなんか、この状況だと、面倒だなって」

「贅沢なやつ。・・・あれ、そういやあの竜はどうしたんだ?」


ガラバウがハクの不在に気が付く。


「ハクならミルカさんの所。なんか今日時間が空くから、一回だけ相手になるって約束したらしい」


俺がそういったのと同時で凄まじい咆哮が建物を揺らし、組合所はプチパニックになる。

あれー?今のハクの咆哮な気がするなー。


「あっれ、ハク人型でやるって言ってたはずなのに」

「くっそ迷惑だなお前ら!」

「俺のせいじゃねえよ!」


皆バタバタと外に出て、状況を確認しようとする。そのせいで出入り口が酷い事になっている。


「私達も、見に行ってみる?」


シガルが出れそうにない出入り口を指さし、聞いてくる。

だがあれをどうやって外に出ろと言うのか。


「暫く待ったら出れんだろ」

「出れるか?なんかすごい状態だぞあれ」

「出た人がその場で止まってる?」


シガルが正解っぽい感じだな。外に押し出そうとする人間が要るからかろうじて動いてるっぽい。

・・・しょうがないな。


「シガル、手を握って」

「え、うん」

「ガラバウは・・・ここでいいや」


シガルの手を掴んだことを確認すると、ガラバウの首を掴む。


「おいこら!何する気だ!」

「飛ぶ」


俺は二人を連れて組合の屋根に転移する。


「おわああああ!」


ガラバウが屋根に滑って落ちかけるが、なんとか堪える。

シガルは危なげなく普通に立ってるっていうのに。全く情けない。


「てめえ!転移するなら立った状態で転移させろ!なんで俺だけ横向きなんだよ!」

「なんとなく」

「ざけんな!危うく屋根から落ちるところだっただろうが!」

「あ、ハクだ。でもなんか大人しいね」


シガルがハクを見つけたようなので見てみると、成竜になってるものの、大人しくしている。

戦闘の為に成竜になったわけでは無い様だ。


「ほんとだ。なにしてんだろ」

「お前らなぁ!」


ガラバウは叫んで、ぶつぶつ言いつつもハクの方を見る。


「ああやって静かに佇んでると、綺麗だよね、ハクって」

「うん、綺麗だ」


眼下の人達も、綺麗だとか、あれが真竜かとか、かっこいいとか、やっぱり怖いとか、反応は様々だ。

組合所の入り口を見ると、大量の人が立ち止まっているせいで、入口から押し出してもあまり動かない状態になっている。

けが人出ないか、あれ。


そんな心配をしていると、ハクが見えなくなった。多分人型か、元の姿に戻ったんだろう。

皆しばらくはハクのいた方を眺めていたが、しばらくすると解散していった。


「お前、あれに勝ったんだよな」

「勝ったつーか、引き分けだな」

「そうなのか?」

「ハク的には俺の勝ちらしいが、俺にとっては引き分けだ」

「ふうん」


あまり興味無さそうに言うガラバウ。お前が聞いて来たんじゃねーか。


「さて、戻るか」

「うん」


俺はシガルと手をつなぐ。


「あ、おいこらて」


俺はすぐに転移して、組合所に戻る。


「タロウさん・・・」


シガルが少し責める目でこちらを見ている。


「大丈夫大丈夫。あいつなら平気平気」


元の位置に戻ると、組合所がかなりざわつき始める。


「おい、あの人転移魔術無詠唱でやってたぞ」

「え、なんで知ってんだよ」

「どこか行くとき見てたんだよ」

「すげえ、あんな難しい魔術無詠唱かよ・・・」

「それぐらいじゃねえと、大量の亜竜なんで相手に出来ないんだろうな・・・」


どうやら俺が屋根に行く際の転移を見てたやつが居たようで、それについてのようだ。

しまった、またやってしまった。


「てめえ!」


だぁんという大きな音がした後、ガラバウが怒鳴りながら組合に入ってくる。


「あ、ガラバウ、どこ行ってたの」

「てめえに置いてかれたんだよ!」

「あ、すまんすまん」

「棒読みで謝んな!わざとらしすぎんだよ!やっぱ殴る!ちょっとつら貸せ!」


ガラバウは俺の襟首を捻って持ち、俺を引きずって訓練所に行こうとすうる。


「分かった、分かったから」

「ちっ!」


ガラバウは舌打ちをしつつも放す。そしてずんずんと訓練所へ向かう。


「しょうがないか」


ちょっと揶揄い過ぎた。仕方ない。付き合うか。

ガラバウの後を追いかけ、訓練所へ向かう。


その日は結局ガラバウがばてるまで組手をして終わった。

俺は強化無し、あいつも最後まで獣化は無しだった。

仙術も使わなかったところを見ると、単に俺を殴りたい以外の意味が有ったんだろうな。

おそらく揶揄ったのを理由に、元々やるつもりだった訓練を付き合わせられた感がする。


訓練の間、最初こそギャラリーはいたが、俺達の組手がそこまで凄い物では無いのを見て、最後まで見てるやつは数える程度だった。

まあ、そりゃそうだわな。俺強化してなかったらそんなに強くないし。精々鍛えてない人よりはちょっと強い程度だ。


結局今日も訓練意外何もしていない。それはまあ、いいか。

ただシガルをまた付き合わせてしまった。

あの子はニコニコしながら見てたけど、偶には我儘を言ってほしいものだ。

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