第166話シガルに護身道具を渡します!

うっすらと意識が覚醒していき、視界に光が入ってくる。朝か。

ベッドから体を起こし、肩を回す。

うへぇ・・体だるい。流石に昨日は疲れたわ。ミルカさん元気すぎる。

結局夜中まで付き合わされたぞ。


「ん・・おはよう、タロウさん」

「あ、ごめん、起こした?」

「んーん、大丈夫」


すり寄ってくるシガルの頭を撫でて、伸びをする。


「昨日は休めた?」

「私は休めたけど、タロウさんくたくたでしょ?今日はゆっくり休む?」

「そうだなぁ・・・流石に休めたいな」

「ん、それじゃあ今日はゆっくりしてよう」


あ、そうだ、シガルに聞こうと思ってた事聞こうかな。


「シガル、なんでこの間の王城で一件、でた方がいいって言ったの?」


シガルは俺の言葉を聞くと、指を顎に当てて「んー」と思案顔になる。


「タロウさん、自覚してないんだろうけど、周りにしたら良くわからない行動してる事有るから、国が認める人間としての立場がはっきりとあれば、やり易くなるかなって」

「・・・俺そんなにおかしな行動してる?」

「偶に」


そうか、してるのか。どこだろう、わかんない。

まあいいか、気を付けてもやりそうな気がするし。


「あと、タロウさんが過ごしやすいようにかな。この国、タロウさんにとっては腹立たしい事いくつかあったし」

「ふむ、でも俺があの場に居た程度でどうにかなるもんかね?」

「少なくとも、タロウさんの前では出来なくなるよ」


治療院の事とかかな?あれは流石に腹が立ったっけ。

そういえば治療院の事をミルカさんに言っておいた方がいいかもしれない。人族じゃないからってあんないい加減な事をして良い筈がない。


「それにしてもミルカお姉ちゃん、王都に来るのものすごく早かったよね」

「ああ、なんかイナイがミルカさんの腕輪いじって、ここに来れるようにしたって言ってたよ」

「あー、それでなんだ」


ミルカさんはそこまで魔術に寄った人じゃないからか、行った事のない所に転移は出来ないらしい。

一応自力で転移魔術そのものは使えるが、あんまり得意ではないみたいだ。


「ねえ、シガル、今回シガル危ない時とかあったんじゃない?なんか物凄く弱ってたし」

「あ、うん。ごめんなさい」

「え、なんで謝るの」

「私の魔術の腕が未熟だったから、転移魔術失敗して、その反動でああなったの。付いて行けなくてごめんなさい」

「ああ、それであんなに弱ってたのか・・」


あの状態ではおそらく強化魔術の精度はあまり期待できないだろう。

でも謝られる事は無い。むしろ追いかけさせてしまったこっちがごめんだ。


「魔物に襲われたりしなかった?」

「・・・・した。ガラバウに助けてもらわなかったら、ちょっと危なかった」


マジか。くそう、しゃくだけど今度改めてあいつに礼いっとこ。すごいしゃくだけど。

となると、シガルが弱ってる状態でも使える武器とかあったほうがいいかも。

・・あ、そうだ。樹海に置いて来たあれ持ってこよう。


「シガル、これちょっと持ってて」

「え、うん」


腕輪を外し、シガルに預ける


「どうしたの?」

「ちょっと遠くまで行って来る。それ目印に戻ってくるから、持ってて」

「ん、分かった」


シガルが頷いたのを確認して、俺は樹海へ転移するため、あの家を強くイメージして転移する。

割と簡単に転移でき、家の目の前に立つ。


「やれば出来るもんだな」


まあ、馴染みが有る所で、イメージが強く行使出来たからだと思うけど。


「ただいまー」


誰も居ない家に帰還の言葉を言いつつ入る。あれ、なんか綺麗。

結構な日数空けてたとは思えないぐらい、きれい。まあ、1、2月程度では変わらないものか?

まあいいや、とりあえず俺は使っていいと言われていた俺用の物置を漁り、そこにある箱を取り出す。


「さて、戻れるかな?」


家を出て俺の持つ腕輪とシガル、そしてあの宿の部屋を強く頭に描き、転移魔術を行使する。

腕輪のおかげなのか、シガルのおかげなのか分からないが、今回も簡単に飛べた。


「ただいま」

「お帰り。どこいってたの?」

「樹海の家にちょっと」

「・・・タロウさん、国境門通った?」

「・・・あ」


やっべえ、忘れてた。


「あとでミルカさんに謝ってくる・・」

「うん、そうしたほうが良いと思う」


やっちまったよ。イナイに悪いなぁ。

とりあえずやっちまったことは仕方ないので箱を開けてシガルに見せる。


「これ取りにいってたの?」

「うん」

「これなあに?」


首をコテンと傾げながら聞くシガル。可愛い。


「俺がこの世界に無い武器を作ろうとした過程で出来た、目的とは違う物だよ」


そう、本来作ろうとしていたものとは別物。

では作ろうとしていたものとは何か?それは銃だ。遠距離攻撃武器だ。

とりあえず作ってみたくて試行錯誤したものの、どうにも使い物に成る物が出来なかった。

なんか、まっすぐ飛ばない。銃身の作りが難しい。近距離ならいいんだが、距離が離れるとどうにもずれてくる。それでは意味が無い。

そして作る過程で、弾丸を飛ばすための筈だった魔術そのものを放つ弾を作った。


「本来はこの中で爆発した威力で弾を飛ばす仕組みなんだけど、これはそうじゃないんだ」


この中には精霊石の小さいバージョンみたいなのが入ってる。アロネスさんに聞いて作ったわけでは無いので、オリジナルかもしれない。

いや、既にあるのかも知れないけど。

ただこれ、一度込めたら制御しなくてもその通りに発動するので楽だ。なんだかんだ精霊石は魔術を行使する時と同じように制御しなきゃいけない。威力が大きいから適当に開放すると、自分にも被害が来るからだ。


「この中にこの弾を込めて、引き金を引いて撃鉄で叩くと、弾に込められた魔術が放たれる仕組みになってる」


後ろの雷管になる部分に、衝撃で魔術が発動するように仕込んである。

発動時、銃身や弾倉を壊さないように一定方向に飛んでいくイメージで込めてあるおかげか、弾を飛ばすために作った弾丸より、スムーズに作れた。

銃の出来が中途半端なせいで火薬で弾を飛ばすより、純粋に魔術を放った方が威力が有る上に銃が壊れない。


因みに普通の弾丸は最初は魔術で作っていたが、途中からちゃんと薬品で作っている。

イナイとアロネスさんから学んだ知識で、この世界に有る薬品の知識も多少学び、それらから弾丸を作りだせた。

けど銃身はどうにも職人技術なのか、素人の手作りでは上手く飛ぶ物が出来ない。くそう。


でもライフル状にしたものを一度作ってみたら、少しだけましな軌道に成ったので、その方向性で頑張ってみている。

まあ、超遠距離になると全く当たらないけど。


とりあえず目指せスライドオートマチックだが、いつになるやら。


「これ、弾は使い捨てなの?」

「そうなるね。けどその代り先に作っておけばその場で詠唱無しですぐ使える。

それに精霊石なんかを媒体で魔術をやる場合、なんだかんだ魔力制御が要るけど、これは要らないから。

あ、弾倉の回転は魔力水晶が撃鉄を上げると同時に反応して回すようになってるんだ」


ぶっちゃけ撃鉄を上げると回る仕組みがよくわかってなかったので、そこは手を抜いた。

あんまり魔力要らないし、良いかなって。


「ねえ、タロウさん。これ、タロウさんが作ったんだよね?」

「うん」

「タロウさん、これだけで一財産手に入るの解ってる?」

「あ、そう?でもこれ未完成品だよ?一応使えるけど」

「やっぱりタロウさん、ちょっとずれてるなぁ」


銃を手に取り、弾倉を外したりつけたり、弾を確認しながらシガルが言う。

だってこれ、本来はもっと、制作にも魔力が要らないものを作りたかったんだもの。出来てないんだもの。


「まあ、もしもの為に、これ持っててよ」

「え、私が?」

「うん、魔術が使えないときの為にね」


シガルは銃モドキをまじまじと見て、顔がにやけ始める。


「えへへ、ありがと。大事にするね!」

「いや、必要な時は使ってね。弾も補充するし」


弾の材料は割と簡単に手に入る物で作っているので、すぐ作れる。

これも普通の弾丸作るより先に作れちゃった理由だよなぁ。薬品使うほうがお金かかる。

シガルはニコニコしながら銃を抱きしめて、物凄く嬉しそうだ。ちゃんと使ってくれないと困るなぁ。


一応一度どんなものか試しに使うように言って、外で使わせたら威力がおかしいと言われてしまった。

まあ、その辺の木を倒す程度の威力が有るので、対人で使う物では無い。

だからお遊びで作った物扱いだった。でも魔物なら容赦しなくても良いし、そのための所持なら良いだろうと思い、やはりシガルには持ってもらっておくことにした。

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