遺跡、世界の脅威。

第162話大事な大事なお仕事ですか?

「この辺かな?」


何もない森の中。いや、森の恵みが有りすぎて人が踏み入るには厳しい森の中をざくざくと前方に有る草を払わせながら歩く。


『んー、確かに何かおかしいな』


俺の前方を先行する者が違和感があると言い、動きを止めたので、俺も同じように止まる。


「わかんのか?」

『うーん・・・・・さあ?』

「適当だなぁ」

『だからお前なんかと契約したんだろ?』

「なんかっていうな。なんかって。何なら正式に契約しなおしてもいいんだぞ」

『やなこった。もしそんな事するなら俺は逃げるからな。俺は勝てない相手とやるのは嫌なの』


前方をふよふよ浮きながら移動する風精霊と口論をしつつ、また歩き出す。


『大体俺を呼んだ理由が草を切れって、馬鹿にしてるのはそっちも同じだろ』

「やなら出てこなきゃいーじゃねーか」

『お前の魔力に逆らえるわけないだろ』

「嘘つけ。逆らえるのに逆らうのが面倒だっただけだろ。出てきたなら働け」

『くそー、いつか仕返ししてやる』

「あっそ。じゃあこれはやらん」


悪態をつく精霊に甘菓子を見せつける。


『あー!ごめんって!しない!しないから!』

「おまえほんと安いなぁ・・・一応自我持つ大精霊だろうに・・」

『しらねーよ。大体俺は生まれて数百年しか生きてないんだから』

「人族なら死体も残ってねーな」


精霊とか、長寿命の種族の感覚はやっぱ人族には分からん。


「お、これはあたりか?」


ざくざくと前方を精霊に草木を払わせながら足元を確認していると、お目当てらしき物体を見つけた。


『これか?』

「ぽいな」


草に隠れて見えなかった三角錐の物体の上の土を払い、触る。


「・・・大当たりだ」

『当たりで良いのか?』

「当たってほしくは無かったが、とっとと見つけれたから良いかな」


頭をぼりぼりとかきながら精霊の問いに答え、腕輪をいじって、別の場所を探している同行者に連絡を取る。


「見つけた」

『分かった。すぐ行く』


その言葉の後すぐに、俺の横に同行者が転移してくる。


「これかい、アロネス」


ブルベが俺の足元にある物体を見て問う。


「ああ、たぶん。あの遺跡と同じもんだ」

「流石だね。これだけでは私にはよくわからないよ」

「ま、そうだろな」


ブルベには興味が無いだろうし、そんなもんだろ。

ああ、こう考えるとタロウとの会話は楽しかったな。

あいつはいろんな知識が有って、俺のいう事を結構理解していた。

いやむしろ、偶に俺が驚く様な知識も持っていた。


「さて、当たりだとして、とりあえず中に入るかい?」

「ま、それしかねーわな」

『じゃあ俺の仕事は終わりだな』

「おう、ほれ」


仕事を終えた風精霊に報酬の菓子を渡す。


『よしよし。じゃあここで待ってるから』

「帰れよ」

『やだよ。今帰ったらこれしか食べられないじゃん』


腹ペコ精霊め。いや、別に食わなくても平気な存在だから腹ペコというのは違うか。


「好きにしろよ」

『おう、当然』

「あはは、君はいつも自由だねぇ」

『そういうお前はしょっちゅう何かに追われてるな』

「そうだねぇ。たまにはゆっくりしたいね。リンと二人で昼寝もいいなぁ」


風精霊と穏やかに雑談をしながら欲望を口にするブルベ。ここにリンが居たら多分殴ってるな。


「したらいーじゃねーか。お前頑張りすぎなんだよ。もっとほかの人間に仕事ふれ」

「アロネスもやってくれるかい?」

「さて、とりあえず土をのけるぞ」

「・・・・うん」


やです。俺は自分がやる以上の仕事はしません。他の人に振ってください。


「さて・・」


俺は懐から精霊石を取り出し、上空にほおり投げる。


「来い、ヌベレッツ」


上空に投げた精霊石が光輝き、こことは違う何かと繋がり、精霊石の力を吸い取りつつ力の塊が顕現する。


『我が主の呼び出しに応え参上した』


光が収まり、でかい土精霊が俺の前に跪く。相変わらず跪いても俺達よりデカい。


「おう、それ――」

『だが、一つ』


さっそく指示を出そうとしたら言葉を止められた。


『主の呼び出しに従うに不満は一切ない。だが我をそのように簡易な呼び出し方で召喚するは止めて頂きたいと、何度も申し上げた筈』

「・・・あ、はい。ごめん」

『結構』


そう言って立ち上がり、ブルベを見る。


『ウムル王、息災か』

「ああ、君が私を気にかけてくれるなんて、意外だね」

『我はお前たちの事は皆認め、その身を案じている』

「そっか、ありがとう」

『礼には及ばぬ。生きとし生ける者は地と水の加護の元生きる。ならば大半の者は我が子も同然。子を慈しむは親として義務』

「はは、なら尚の事ありがとう」

『その上での礼ならば受け入れよう。相変わらずだな、ウムル王』


相変わらずお堅いなぁ。バーナウブエールなんか菓子につられてホイホイ出てくんのに。

こいつ菓子食わせるって言われたら俺の事普通に裏切るんじゃねえかな。そうなったら消し飛ばすけど。

他の大精霊はともかく、あいつだけには自力だけで絶対負けない自信があるからな。


「じゃあ、悪いけど、この遺跡にかぶってる土、どかしてくんねえか?出来れば入り口に入れるようにしてくれると助かる」

『承った。少し離れて頂こう』

「ん、お願いするよ、ヌベレッツ」

「頼んだ」


俺とブルベは指示に従い、そこそこの距離を離れる。

土精霊はそれを確認すると、大規模な魔術を行使し、地形そのものを変化させる。


「うーん、精霊の魔術は相変わらず魔力の流れが読めなくて面白いね」

「そうだな。セルは目で見えてるらしいけどな」

「あの子はもう、普通の魔術師とは物が違うからね。私達と比べてはいけないと思うよ」

「魔術戦ではついに勝てる気がしなくなったからな」


全力で何でもありなら勝負になるだろうが、単純な魔術の競い合いじゃあいつにはもう絶対勝てない。

あれはもはや魔法使いに近い何かだ。ただセルにはどうあがいても魔法使いに成れない理由がある。

あいつはどれだけ死に物狂いで努力しても、絶対に魔法使いには成れない。成る事が出来ない。

だからこそ、その素質を持つグルドと反目してんだろうけどな。いい加減大人になれよなあいつも。


『主よ、すんだぞ』


大分地形が変わり、俺達の前に土の階段が出来ていき、下から土精霊が歩いてくる。

見下ろすと、かなりデカい遺跡が大地に現れている。

この遺跡ほとんどが地中に埋まってんだよなぁ。そのせいで見つけにくくて困る。


「おう、ありがと」

『我の仕事はこれで終わりか』

「うーん、一応付いて来てくれっか?」

『是非も無い。主が望むならば』


本当に堅苦しい。だが心強い。


「んー、暗いしいつも通りあいつ使うか」


精霊石をまた上にほり投げる。


「パペラファカ、来い」


先ほどと同じように精霊石の力を吸収し、力の塊が顕現する。


『はーい、アロネース』


小さな光精霊が軽い声で挨拶する。だがその表情は不満そうだ。


「おう」

『あなたさぁ、呼び出すのはいいんだけど、もうちょっと丁寧に呼び出しなさいよねぇ』

「やだ」

『なんでヌベレッツには謝って私には謝らないのよう!』

「だってお前ずっとこっち見てただろ。わざわざ呼び出す手順踏んだだけ優しいと思え。引きずりだしてもよかったんだぞ」

『やあーだぁー!なんであたしにはいっつもやさしくないのよーう!』

「お前がうっとおしいからだ」

『じゃあなんで呼び出すのよう!』

「遺跡、暗い。お前、光る」

『松明代わりにしないでよう!』

「いつもの事じゃねーか」


わめく光精霊の頭を掴みずるずると引きずる。


『やぁーだぁー!もうちょっと優しく扱ってよーう!』

「うるせえなぁ」


俺はギャーギャーわめく光精霊をブルベに渡す。


「ごめんねパペラファカ。少しだけ力を貸してくれるかい?」

『もももももちろん!やるよ!フォーちゃんの為なら私はどこまでだってー!』


ブルベが光精霊の頭を撫でながら優しくお願いをすると、精霊は首が取れそうな勢いで首を縦に振る。


「ちょろい」

『なんか言った!?』

「ちょろい」

『もっかい言った!?』


だってちょろいだろ。

とりあえず俺達はわざわざ土精霊が階段にしてくれた道を降りて行く。


「さて、どんなのが出るかな」

「出ない方がいいけどな」

「この辺の被害は聞いて無い。十中八九何かは出ると思うよ」

「まあ、出たなら出たで、どうにかするだけだ」

「そうだね、そのために来たんだしね」


俺達は遺跡の入り口に立ち、光精霊に中が見えるように明るくしてもらい、奥に進む。


「罠とかはやっぱねーな」

「まあ、封印というよりも、墓地なんだろうし」

「そのまま埋まってりゃいいのに」

「掘り返した私達が言って良い事ではないね」

「そりゃそーだ」


お互いに苦笑しながら奥に進むと、下に降りる階段が現れる。


「やっぱり作りは同じだな」

「そうだね。どうする?」

「降りるに決まってんだろ」

「ま、それはそうだ」


階段の広さは、人が二人通れるぐらいの広さだが、念のため一列で降りる。

勿論先頭は光精霊だ。


『あれじゃなーい?』


階段を下りきった先に有る部屋に有る石の棺を光精霊が指さす。


「あれ、だな」

「だね。あけるよね?」

「いつも通り憂いは残したくねーだろ。この遺跡に監視を付けるより、俺達で片を付けちまった方が安心だ」

「うん、だね」


俺がブルベの問いに答えると、ブルベは腰の刀に手をかけ、居合いの体勢で構える。


「何時でも」

「あいよ。じゃあ頼む」


俺は土精霊の背中をポンと叩き、棺を開けるのを頼む。


『承った。我が攻撃はせぬが良いか?』

「一応相手の出方は見る」

『そうか』


土精霊は俺の言葉を了承し、棺のふたを軽々と開ける。

するとこの周辺の魔力を暴力的に棺の中の何かが引き寄せ、食らう。


「少し、目覚めが早い気がするが」


棺の主が呟き、体を起こす。まっぱかよ。ぶらぶらと嫌なもの見せるなよ。

つーかでけえな。


「貴公等が我を起こしたか。礼を言うぞ」

「そりゃどーも。ンであんた何者?」

「ふむ。どうやら我の偉大さを知らぬ下賤であったか。死ね」


棺の主は一瞬で俺の目の前まで近づいて―――。


「君がね」


すでにブルベの一刀のもとに上下に両断されていた体は、地と天井にぶつかり転がる。

ブルベの居合い。ただ一刀に全身全霊をかけた時のブルベの居合はリンの速度に匹敵する。

愛する女に追いつくために、たった一振りだけでも同じ領域に届くために磨いた一撃。

そんな一刀を全く警戒もせず突っ込んできた奴が躱せるわけが無い。


「がばっ・・そんな・・馬鹿な・・・。我は魔人・・フドゥナドル様の配下ぞ・・・」

「やっぱそうか。よりにもよって俺達が生きてる時代に復活しようとしたのが運のつきだ。てめえらは全員容赦しねえ」

「もうあんな事件は起こさせない。次元の狭間に何人が落ちたか。君達が人に仇名すものである以上、私達は容赦しない。

一人も例外なくいきなり殺しにかかってくる君達に優しさを向ける意味も無い」


ブルベがその言葉が先か切り裂くが先かという速さで、魔人の上半身を左右に両断する。


「・・うそ・・・だ・・・・」


魔人はそれで絶命し、肉塊と変わる。


「このまま燃やしたら、また復活するんだろうね」

「ほんと、こいつらの生態はめんどくせえ」

『内部構成が我らと似たようなものだからな。だが、記憶と力が継続されるよう、一定の力が収束するまで起き上がれぬが幸いか。

世に受肉し、我が意志で気ままに暴を振るうために生物の基準にある程度縛られ、一定期間の消滅を強いられるのも含めて』

「精霊と一緒だから完全消滅はさせられないって事なんだよなぁ。性質が悪い」

『同じにしないでよねぇ!私達は私達を害す者以外には寛容なのよう!』


土精霊が似たようなものというが、光精霊が俺の感想に文句を言う。


「こんな訳の分からない連中を束ねる魔王ってなんなんだろうね」

「知らん。でもギーナより怖くねえだろ。あいつに比べりゃ、こんなん雑魚だ。最初こそビビったけどな」


初めてこいつらに会った時は、訳の分からない力を使うわ、何度殺しても暫くすると復活するわ、どう対処していいのかわからなかった。

けど精霊と同じってんなら俺の領分だ。

ようはその力の塊を一定個所に集めて固定し、固めればいい。


「さって、とっておきだぜ」


俺は懐から魔導凝結晶を取り出し、掲げる

魔導結晶石を複数圧縮させ、結晶石をはるかに超える容量を持った透明な結晶。

ただこれは中身が空っぽだ。その中に魔人の力を封じる。


「さあ、吸い込んじまいな!」


俺の意志に呼応して結晶が光り、ここに死んだ魔人の『力』を吸い上げ、中に封じて行く。

全て吸い終わると、結晶が黒く変じる。


「いつも通りだな」

「これで安心だね」


これで9体。何人いるんだこいつら。せめて総数が分かれば良いんだが。


「何千年生きてる精霊共も何故かこいつらに関することは分からねえからなぁ」

『すまぬ』

「気にすんな、分かんねえもんはしゃーねえだろ」


とりあえず地道に遺跡の痕跡を探して、潰していくしかねえ。

連中が自力で起きてくる前に。


「こいつらなんで眠りについてんだろうな。別に起き上がれねえわけじゃねえだろうに」

「何か理由が有るんだろうね。けど私達には関係ない。民の平穏の為に、彼らは斬る」


ちゃきっと、刀に手をかけ力強く宣言するブルベ。

立派な王様になったねぇほんと。あの泣き虫がほんと立派になったもんだ。


「さて、帰るか」

「そうだね」

「そういえばなんで今日、ロウ付いて来てないんだ?」

「・・・黙って出てきたから」

「・・・お前段々リンに似てきたな」


おそらくたまには気軽に歩きたかったんだろう。

ロウは多分王城でお怒りだろう。俺はしーらね。


「さ、行こうかアロネス」


俺が知らない事を決め込もうとしていると、ブルベにがしっと腕を掴まれる。


「は、放せ!」

「つれない事を言うなよ、親友じゃないか!」


にっこりと笑いながら俺の腕をがっしりと組み、放さない。


「それは否定しないが、俺は今回悪くないから巻き添えはごめんだ!」

『あー!腕組むなら私とぉーーー!』

「うるせえ馬鹿精霊!」

『ふふ、相変わらずだな』

「お前も親父みてえな顔してねえで助けろ!」

「さ、帰ろうか」

「いやだぁーーーー!はなせぇーーーー!」


こいつ絶対さっき仕事の事無視した仕返しだろ!

俺の絶叫はむなしく、城に帰るまでブルベは俺の腕を放す事は無く、ブルベと一緒にロウに大目玉を食らうのだった。



俺は悪くねえ!

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