第160話国民の皆の反応を見るのです!

「どうやら皆、私の事は知ってるみたいだね」


うん、確かにこの反応は知ってるからこその反応なんだろう。

けど、どう考えても良い反応じゃない。

ざわざわと不穏な感じのざわつきだ。


「・・・本物?」

「・・なんで・・魔王が・・」

「亜人なんかが、なんで・・」

「おいおい、あの王女様、亜人に国を売ったのか?」

「・・まさか亜竜の被害にあわない代わりに、亜人に虐げられろってか?」


うーん、なんか、こう、亜人に対する偏見というか、ギーナさんに対する偏見がすごい。

話せば普通に気のいいお姉さんだよ?すげー強いけど。でこぴんが物凄く痛いけど。

ちらっとギーナさんの顔を見ると、不敵な笑顔で微動だにしない。

いや、ちらっとミルカさんの方に目だけ向けて、一層楽しそうな顔で眼下を見る。

流れがどう考えても悪い方向なのに、凄い笑顔なのはミルカさんに理由があるのかな?


「ウムル王国、拳闘士隊隊長、ミルカ・ドアズ・グラネス」


ミルカさんが名のると、ざわつきがさっきより大きくなった。かなり困惑の色が強い。


「ミルカ・グラネスっていったらウムルの大英雄で、大貴族じゃねえか・・・!」

「え、でも、あそこに居るのギーナなんでしょ?なんでウムルの英雄と」

「どうなってんだこれ。なんだよこの組み合わせ」

「ウムルと亜人の国って、敵国なんじゃないの?」

「・・なんで王女様、あそこに平然と立ってられるの?」


うーん、なるほど。そういう物なのか。

なんつうか、分からんな。二人を知ってる身としては、何ともわからん。

いや、さっき確かにちょっと怖かったけど、それでもこの二人は敵国同士というような雰囲気とは思えなかった。

恨みあっているというよりも、単純にミルカさんが負けた悔しさを思い出して、少しちょっかいをかけた感じだった。

ギーナさんはむしろ、やりたいならやってあげるよ的な雰囲気だったし。


「まさかお二人の名を知らぬ者は居ないでしょう。

北の国、リガラット共和国の盟主であり、亜人の奴隷解放の為に戦った ギーナ・ブレグレウズ様。

そして亜人戦争時、その亜人の進撃を食い止め、同等以上に戦った国であるウムル王国の英雄の一人、ミルカ・ドアズ・グラネス様

お二人の活躍無くして、王都が、この国が救われる事は無かったでしょう。

確かに先行して亜竜を倒した方は他におられます。ですがお二人が居なければ、どうにもならない現実が待ち受けていたでしょう」


お、いいぞいいぞ。もっと二人の活躍を宣伝するのだ。そして俺の影を薄くするのだ。

いやこう、なんていうかもう手遅れなのは分かってるんだけど、この人数の前に出て、今更恥ずかしくなってきたし、気圧されてしまう。

やはりどうしても俺はただの一般人だわ。心の部分がどうにもあんな風にはなれんわ。

じっと立ってたらミルカさんの部下とかそういう風に見えないかしら。いかん、それでも目立つわ。


「まずはミルカ様の事を。こちらはご存知の方も多いでしょう。隣におられる部下の兵士と共に、壊滅しかけていた組合員を助け、亜竜を傷一つなく撃退されました。

それが無ければ、組合員の方は多大な死者が出ていた事でしょう。いえ、下手をすれば完全に全滅し、亜竜は王都までたどり着いていたかもしれません」


その言葉におおっと声が上がる。その場にいた人も多いみたいで、その事実を近くの人に語っている人もいる。

しかしやっぱそうだったか。王都に居るんだし、王都側の何かに関わったんだろうとは思ってたけど。

・・・あれ?そういえばミルカさん何しに来たの?


「そしてギーナ様は、まだ数多くいた亜竜の大半を殲滅。この事態が終わった後、バハバラカが此処に来る憂いを断ち切ってくれました」


その言葉に歓声と困惑が半々といった感じだ。

どうにもギーナさんの行動が納得いかないらしい。

なかには汚らしい亜人が国に恩を売ったつもりかとか言ってるのも居た。

このやろう、あの地獄にぶん投げてやろうか。

あ、いかん、思い出すな。おちつけおちつけ。


「そしてギーナ様は私達に約束してくださいました。今後この国と友好をもって接すると。この国の危機には手を貸そうと。

この方も我が国の事をご存じにもかかわらずです。責めるでもなく、支配でもなく、友好をもって接してくださったのです。

のような方が居ると解っていても救ってくださったのです!」


あなた達の部分で少し目をきつく、声も強く言い放つ。

その言葉は、よっぽど馬鹿じゃなければ解る。つまりこの期に及んで亜人がどうこう抜かしてる連中だ。

今さっき、救ってくれたという事実を語ったにもかかわらず、悪態ついてる連中だ。


「私は彼女に心打たれました。彼女と国交を結ぶことを決めました。

我が国に必要なのは竜の加護ではありません。彼女のような国と、きちんとした国交を結び共に生きる事なのです。

何より、彼女の実力は皆の知る所でしょう。彼女が手を貸してくれるのです。それを無碍にする意味がどこにあるのでしょう!」


うーわ、盛るなぁ。ここでも思いきり盛るなぁ。

つーか、国交結ぼうって話をさきにしたのは王女様だろうに。


「そしてグラネス様。彼女がここに居るのは偶然に偶然が重なった結果です。

結果は良い方に転びました。ですが一歩間違えればこの国はウムルに攻め滅ぼされるような失態を犯しました。

我が国の貴族が、ウムルの大貴族である8英雄の一人、イナイ・ウルズエス・ステル様の殺害を企てたのです」


もはや何回目の驚きだってぐらい民衆は驚いている。疲れるだろうなー。

ていうか濃いなー。内容が濃いなー。もっとパパッと終わると思ってた。

校長の話並みに長い。熱中症に気を付けろよー。


「そんな我々に寛大にもあの方は我々に一度機会を下さいました。そのあまりにも愚かな行為を謝罪する機会を。

ですがこの国はそれを見過ごした。いや、謝罪などという頭が最初からなかったのです。

たとえウムルが攻めてこようと竜が守ってくれると、どこかで思っていたのでしょう」


王女様は眉を寄せ、沈痛な雰囲気を出す。演技派だなぁ。

もうここまでの盛りようで、がっつり演技なのは分かったよ。すばらしいよあんた。もう尊敬すら覚えるよ。


「その場で言われたのです。他の誰でもない竜に、今までこの国を守ってくださった竜自身に言われたのです。守らないと。お前たちは守るに値しないと。

我々王族、そして貴族が竜の加護を消し去ったのです。それがこの惨状です。

ですが、攻め滅ぼされてもおかしくない失態に対し、あの方は寛大でした。ウムルに従うならば、王家は残すと。国は残すと言ってくださいました。

ここにグラネス様がおられるのは、それを民衆に不安が無いようにと、わざわざ大貴族でもある彼女が民衆への説明の為に、来て下さったのです。

そして偶然この事態に居合わせた。ただ、何よりも素晴らしいのは彼女は彼女の判断でわが国民を救ってくださったのです。

属国の国民と軽んじず、自国民と同じように扱ってくださったのです」


そこで一度言葉を切り、胸を張りなおす。


「この国はウムルの属国と成り、亜人の国と手を結ぶことで救われました。私はその恩義を返したい。

属国としてただ従うのではなく、ウムル王国と関わる国として胸を張る国にしていきたい。

我が国を救ってくださった亜人の国に胸を張れる国にしていきたい。

その想いを国民の皆様に知って頂くためにも、事実の全てをここで語り、彼女たちにここに立っていただきました。

私は私の選択を間違っていたとは思ってません。私の王の資質を問う方もおられるでしょう。

ですが、この場に居た私だからこそ、死地に向かい生きた私だからこそ出来る事が有ると思っています。

あの地獄をこの目で見て帰って来た自分だからこそ、やれることがあると思っています。

・・・どうか、これらを全て踏まえたうえで厚かましいとは思いますが、これからの私に手を貸して頂けませんか?」


すがるような、不安なような顔をしながら、国民に助けを請う。

思わず助けたくなるような顔だ。サドならいじめたくなるような顔だ。

うん、後者の感想は要らなかった。


しばらくは静かだった。だけど波打つような歓声がゆっくりと大きくなっていった。

王女様を応援する言葉が、王都中から広がっているようだ。


「皆さま、ありがとうございます」


瞳に涙をためて礼を言う王女様。

素晴らしい演技派だ。女優になれるなこの子。


「皆さま。私を受け入れて下さった皆様にどうしても紹介したい方々が居ます。

まずは私を守って下さったガラバウ様。組合支部長の懐刀とも言われている方です」


ガラバウが、ものすっごい緊張した顔で立ってる。

しかしそうなのか、こいつ支部長のお気に入りなのか。


「自由労働組合6級、ガラバウ・・・」


そこでガラバウは首を振る。


「ちげえ、それじゃ意味がねえ」


ボソッと、音声の拡大に入らないような小声で呟く。


「獣化族、ガラバウ・ヴェド・エルガナッフ。王女殿下をお守りするために命を受け、命を懸けました」


緊張はまだそのままだが、しっかりと前も向いて名を言う。

お前そんなフルネームだったのか。


獣化族、そういった時は一瞬静かだった。

だが暫くして、良く王女様を守ったとか、良くあんなところに行ったとか、おおむねそういう好意的な反応が多かった。

あらやだガラバウ君スッテキー。


「そして我々を見限った竜の中で唯一手を貸してくださった真竜様。ハク様です!」


ハクはそれに応えて前に出る。


『ハクだ!』


両手を組み、仁王立ちで言い放つ。

だが伝わるのは。


「きゅるるー!」


なにこれ可愛い。民衆は困惑を隠せない。

だってこっからハクの声は届いてないだろうからなぁ。


『ふむ、しょうがないな』


ハクは魔力を迸らせる。すげー量。何するつもりだこの子。


『これぐらいでいいな。私の名はハクだ!』


ばっかデカい音量で、ハクの自己紹介がビリビリと街中に響く。

ハク自身が、ハク自身の力でハクの声を届けた。これなら通じるけど、うるせえよ。


「い、今の通り、ハク様は人に身にも変じられる凄まじい魔術の使い手です。そしてその真の姿は皆も見た事が有るでしょう。

王都に現れた白い竜を。そして森の亜竜を吹き飛ばした白い竜を。彼女こそがあの美しき白竜です」


王女様頑張るな。今の結構きつかっただろうに。

俺はなんかやな予感がしてシガルと俺には保護をかけてた。

ミルカさんとギーナさんと、兵士さんも全く何も問題なし。ガラバウだけ少し後ろで蹲っている。

頑張れガラバウ。王女様すらちゃんとしてるのに情けないぞ!


「そして、私が誰よりも紹介したい方が居ます」


あー、そういう風に来たかー。


「先ほど話した、竜を倒すために先行した方。私が英雄と想い、そして尊敬する方。タロウ様です」


他の人達を紹介した時より静かに、とても静かに紹介された。


「えと、田中太郎です」


とりあえず名前を名乗る。直後に歓声が上がる。

思わずビクッとした。


うーん、居ずらい。俺には似合わないな、やっぱ。

こんな大量の人の前で堂々と立つのは辛い。

そういう風に思っているとシガルに手を握られる。


「かっこいいよ」

「・・・あんがと」


多分、ここにちゃんと立ってるべき人だよって言ってくれたんだろうなぁ。


「私がこの身を捧げると決めた方です」


王女様このタイミングでやりやがったー!

あんたなんつータイミングでいいやがんだ!

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