第157話ミルカさんとの再会です!
あんまりついて行きたくないけど、頭下げて真っすぐにお願いされたし、この子今回頑張ってるしなぁ。
うーん、どうすんべや。
「シガルは?」
「勿論ご一緒に」
シガルも一緒で良いのか。うーん、ならいいかな?
「分かりました、行きましょう」
「ありがとうございます。シガル様もよろしいですか?」
「はい。あなたが何をしたいのかは流石に分かっていますし、私にとっては誇らしい事ですから」
シガルさん、王女様が何したいのか分かっている模様。タロウ君、相変わらず流れが読めない模様。
ていうかさ、分かってるならこそっと教えてくれてもいいと思うんだ。
いや、うん、普通分かるでしょ?とかシガルに言われたら立ち直れない可能性も微レ存。
「では、皆さん参りましょうか」
王女様が先頭を歩き、騎士がそれに追従、後にギーナさん、ガラバウ、俺とシガルとハク。
うーん、何すんだろ。ていうかギーナさんは絶対分かってるよな、あの受け答え的に。
てくてくとついてくと、結構な階数の階段を上がって、とある部屋の扉を開く。
大分上まで来たな。
「あ、タロウ」
「へ?え!?」
その部屋に、久々に会う師匠が居た。ミルカさんがちゃんとした格好でソファに座っていた。
ピシッとした格好で座ってるけど、相変わらず眠そうな目だ。
「・・ミルカ・グラネス・・」
ボソッと、ガラバウが呟く。手に力が入っているのが分かる。
何とか心に整理はつけたと言っても、全てを納得は出来ないよな。ここで食って掛からないだけ頑張ってる。
「クエル!よくぞ、よくぞ無事で!」
「はい、生きて帰りました。生きて、帰れました。お父様」
国王もその部屋に居て、王女様の姿を確認すると、走って王女様に抱き着く。
王女様も少し気が緩んだのか、少し涙目になりながら王を抱き返す。
「タロウ様のおかげです。彼が居たからこそ、私は生きています」
「そうか・・・」
いやまあ、確かに勝手に先行したから俺がやったようなものではあるけど、なんかなぁ。
言い方が、王女様助けるために行ったみたいなのがすごい気になる。
王様はその言葉を聞いて、俺のほうを向く。
「タロウ殿。貴公への無礼の全て、謝罪しよう。よくぞ、よくぞ娘を守ってくれた。感謝してもしきれん」
無礼?なんかされたっけ?
まあ、いいか。ただ感謝の気持ちは分かるんだけど、あんた国王なんだから娘以外も心配しようぜ。
「お父様、後ろの方がウムルの?」
「あ、ああ、そうだ」
王様が後ろにいる二人に目を向ける。ミルカさんと、兵士のおじさん。
あれ、あの人見覚えがある。王都で良く門に居る兵士さんだ。
俺が兵士さんを思い出してると、二人が王様の前に出て、王女様の前で跪く。
「お初にお目にかかります。ウムル王国、拳闘士隊隊長、ミルカ・ドアズ・グラネスと申します」
「同じく兵士隊、一番隊隊長カグルエ・カッツァイアと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。ですがグラネス様、どうかお立ち下さい。
私は確かに王族であり、直系の王女ですが、身分は貴方の方が上。膝をつく必要は有りません」
え、なにそれ。王女様より上なのミルカさん。
あ、以前イナイが王族クラスとか言ってたっけ?
でもそれなら同レベルっていうか、王族クラスだから王族の方が上では?
「寛大なお言葉感謝いたします。ですが私はドアズの名を賜った身なれど、一闘士にすぎません。
殿下がその身を卑下することはありません」
「あなたの『ドアズ』はウムル王国歴代のドアズとは意味が違います。あなたがただの一闘士というならば、世界に居る兵はそのほとんどが価値の無い存在でしょう。
ですからどうかお願いです。私の為にも、兵の為にも立ち上がって下さい」
ほむ?歴代ドアズとは違う?どういう意味だろう。単純にミルカさんが今までのドアズの名前を貰った人より強すぎるって意味かな。
実際めっちゃ強いけど。
ミルカさんはすっと立ち上がり、俺をちらっと見る。
「タロウは、殿下に失礼を致しませんでしたか?
短期間なれど、タロウは我が弟子。もし何かあればその責はこの身にお願いいたします」
「それこそまさか。彼には感謝が山の様に有れど、無礼など。その彼の師というならば、尚の事グラネス様には本来私の方が跪くべきかと。
ですが、なんの力も無い身とはいえ、この身は直系の王族。王以外に跪くわけにはいかない事をお許しください」
この会話の間微動だにしない兵士さん。
しかしこの人隊長さんだったのか。そういえばなんかイナイとの会話の時も、立場がどうこう的な事をいってたような。
「そちらの貴方もお立ち下さい。あなた方は我が国の民を救ってくださった。
もしあなた方を無礼などという輩が我が国に居たならば、その者達はその命を要らないと言ったも同然です。
感謝を。ただひたすらに感謝を」
王女様は、二人に頭を下げる。頭は下げていいのか。
頭を下げるのと、跪くのは意味が違うんだな。
・・あれ?俺王女様に跪かれた覚えがあるんだが。
・・・うん、気にしない事にしよう。
しかし久々にスラスラしゃべるミルカさんを見た。この人普段とこういう時の差が半端ないな。
「グラネス様に話は通っておりますか?」
「先ほど。ですがよろしいのですか?」
「ええ、隠す意味は有りません。むしろここに至って隠す事は悪手です。相手がウムルならば尚の事」
「分かりました。あなたの信頼に応えましょう。ドアズの名と、この拳にかけて」
「感謝いたします。ではもう少しお待ちを」
王女は、王と騎士を連れて、部屋の向こうにある扉を開き、その向こうに行く。
うん、どっちが国王だあれ。
「タロウ、元気?」
ミルカさんはそれを見届けると俺に話しかけてきた。
「ん、そこそこ」
「そ」
これだ。さっきのスラスラしゃべってたの誰だよっていうレベルだ。
ミルカさんはそのままシガルの方を向く。
「シガルちゃん、だよね。初めまして」
「は、初めましてグラネス様!」
「あはは、ミルカでいいよ」
ミルカさんはシガルの頭を優しくなでる。眠たそうな目がさらに細められる。
「ミルカ様で、いいですか?」
「んー・・・イナイは、なんて呼んでるの?」
「イナイお姉ちゃんって呼んでます」
「じゃあそれで。あと喋り方も、イナイと同じようにで、いいよ」
「・・・ミルカお姉ちゃん?」
「ん」
ミルカさんはシガルにお姉ちゃんと呼ばれた後、またシガルを撫でる。
撫でながらふと、空を見る。
「妹たち元気かな。最近、会いにいってないな」
「え、ミルカさん妹いたの?」
「うん、居るよ。いっぱい」
「何人姉妹?」
「・・・・60人ぐらい?」
「多すぎ!」
何だその大家族。エンゲル係数が半端じゃなさそう。
「あれ、言ってなかったっけ。私、孤児だよ。リンねえと、一緒の孤児院」
「初耳なんすけど」
「そうだっけ」
ミルカさん、孤児だったのか。
ていうかリンさんも孤児だったのか。衝撃の事実をサラッと言われたぞ。
俺の困惑を無視して、今度はハクを見る。
「あなたが、あの時の白竜ですね。初めまして。一度王都に来たときに会えなかったのを残念に思っていました」
『ハクだ!よろしくなミルカ!』
「ええ、ハクさん。よろしくお願いします」
『・・・なんかしゃべり方違わないか?気のせいか?』
「ええっと・・・んー、その、身内とそうでない人との区別はしっかりとしておきたい性質なので」
『気を使う必要は無いぞ!』
「あはは・・善処します」
ハクは両腕を組んでふんぞり返る。君ホント偉そうね。
つーか、今の言い方だと、ミルカさんにとってシガルは身内なのか。
まあ、身内か。イナイの家族になると考えれば、ミルカさんにとっては近しい人間に成る。
「タロウ、そちらの方の紹介、してもらえる?」
ミルカさんはガラバウの方を向き、俺に言ってくる。
紹介、か。どうするかな。馬鹿正直に言うか?
ガラバウは何とも言えない表情でミルカさんをずっと見ている。
「こいつはガラバウ。獣化族で・・・」
その言葉を聞いた瞬間、ミルカさんの目が細まった。それも眠たい目じゃなく、きつい目つきで。
「・・・馬鹿です」
うん、何言ってんだ俺。これは流石に酷い。ガラバウも何言いやがんだこいつって顔してる。
だって、ミルカさんの目が鋭くなって動揺したんだよ!
「おい!どういう紹介だ!大体馬鹿はてめえだ!」
「いや、すまん、どう紹介するか悩んでたら正直な気持ちが出た」
「お前謝るか貶すかどっちかにしろよな!?」
「貶すなんてそんな。お前ちゃんと客観的に自分見た方がいいぞ?」
「おま、おまえ、ほんとお前な!」
ガラバウが俺にメンチきりながら文句を言う。だって俺もあんな事言うと思わなかったんだもの。しょうがないじゃない。
「あははははは!」
部屋に笑いが響く。見るとミルカさんが思いっきり笑っている。
俺もガラバウもきょとんとしているが、シガルはニコニコしてて、ギーナさんはまったくもうって感じの生暖かい目だ。
「はー、いや、うん。良かった。・・・ガラバウ君、初めまして」
「あ、ああ、初めまして」
良かった?何が良かったんだろう。
ガラバウはさっきの流れのせいで気が抜けたのか、普通に挨拶返してる。
「タロウと、仲良くしてあげてね」
「・・・いや、その」
「お断りします」
ガラバウが答えに詰まっていたので、つい答えてしまった。
「お前が答えんなよ!」
「あ、すまん、つい」
「ついじゃねーよ!ああもう!」
ガラバウは頭をがりがりかいて怒る。カルシウム足りてないんじゃない?
俺達を見て、いつものような眠たい目に戻ったミルカさんが口を開く。
「ごめんなさい。君にとっては、私は恨むべき相手でしょう。
恨んでくれていい。許さなくていい。けど、タロウには関係ない事だから。だからどうか私だけを恨んでほしい。
もし私を打倒したいならいつでもウムルに来て下さい。お相手いたします。やられてあげるわけにはいかないけど、何度でもお相手します」
「・・・は?」
ミルカさんはガラバウに向かって頭を下げ、何時でも相手になると、ガラバウに言った。
ガラバウは目が点になっている。
「お前、全部知ってんのか」
「全てではないです。ですが大凡は」
「・・・・そうか」
ガラバウはミルカさんの言葉を聞くとうつむき、すぐに顔を上げる。
「今の俺じゃお前の相手にならない。いつか相手になる程度になったら、挑みに行く」
「ええ、お待ちしております」
「・・・他の連中にもそうしてんのか?」
「はい。私は闘士ですから。彼らの気持ちにはこの拳で応えるまでです」
ミルカさんは拳を胸で握る。
「お人好しな事だ」
「私が手にかけた者達の為に、彼らの為に『ドアズ』に挑む相手には真摯にあるつもりです」
「ミルカ・グラネスではなく、ドアズか」
「はい」
ミルカさんの強い返事に、ガラバウは納得したのか、下がる。
壁に寄りかかって、何かを思案するように立つ。
「さて、私が最後かな?」
ギーナさんは気軽にミルカさんに近づく。そういえばこの二人、関係的に大丈夫なのか?
戦争で相対してるよね?
「ええ、お久しぶりですね」
「元気そうだね」
あ、よかった。割と大丈夫そう。よく考えたらギーナさん、ウムルに来てるんだし大丈夫か。
「ええ、生きて帰りましたから」
「ちゃんと手加減したからね」
「ええ、子供扱いでしたね」
「そんな事は無いよ。強かったよ、貴女は」
「今なら、その余裕を消してあげられるかもしれませんね」
「・・・やってみる?」
あれ、何このヤバい会話。ミルカさんの拳が握られている上に、ギーナさんも雰囲気が少し変わる。
え、ちょっとまって、ここじゃだめでしょ。いや、ここじゃなかったらいいのかって言われたそういう事でもないけど。
「ま、いつか機会があれば」
「ふふ、そうだね。機会があれば」
ミルカさんが拳を開き、ギーナさんはソファに座る。
ちょっと怖かったぞ。やめてよねそういうの。
そしてこの間、入口の傍で微動だにせず立つ兵士さんであった。
顔はずっとニコニコ笑顔だったけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます