第156話王女様の帰還です!

休憩を何度かはさみ、兵にやさしい行軍速度で街に戻っている。

その為既に移動だけで2日経っておりませう。

途中から転移でパッと行ったから、こんなにかかるとは思ってなかったよ。

いやでも、あの街かなりデカかったし、そんな街から王都と考えれば近いのかもしれない。

その近さだからこそ、魔物の襲来にすぐ対応するべくあの真夜中にバタバタしていたんだろうな。


そういえば、俺、探知魔術全力使用時の効果範囲なら、邪魔さえされなきゃ初めて行くところも転移できるっぽいんだよな。

あの時全く冷静じゃなかったけど、行った事も無い支部長の家に飛べたし。

魔物の所に突っ込むのは少し不安だから、やっぱり目視したいけど。


ただ行軍も後少し。もう王都も見えてきている。


俺とシガルとギーナさんは王女が乗っている馬操車と呼ばれるものにずっと乗っていた。

なんか、指揮官が乗る用の馬車らしい。

普通の馬車より、若干車輪なんかが斜めについていて、素材はほぼ金属。サイズは少し小さいが、頑丈な馬車だ。なんか上に登れるようにもなってるみたい。

若干無茶な軌道で走らせることも可能らしい。ただそのため引くことのできる生き物は限られてくるそうだ。

今引いている馬はこれの為に育てられた種類だってさ。ばんえい競馬の馬みたいなガタイしてる。でも相変わらず牙が有る。

でもこいつは草食の種類らしい。その牙は何のためについている。


一度王女様が思いっきり走らせる所を見せてもらった。なんて言うか、昔の戦車って感じだ。馬の速度で、割かし頑丈で、縦横無尽に走り回る。

高低差もよっぽどでない限り無視できるし、わざと車体を跳ねさせたりもしていた。

髪をなびかせながら走らせる彼女を、ちょっとカッコいいと思ったのは内緒だ。


「ねえ、タロウさん。なんか門の前、凄い人が居るね」

「だね、兵隊さんみたいだけど、王女様のお迎えとかじゃないかな」

「おそらくそうだと思います。もう少しで戻ると、伝達の為に兵を数名先行させていましたので」


どうやら伝達兵さんが仕事をしていた模様。

良く考えたら当たり前か。そういう兵居ないと問題だよな。


しばらく走り、門に近づいてくると、兵が割れて道が出来る。

ただ、先頭にいた人はそのまま動かず立っている。あれ、支部長さんじゃ?

王女が近づいて、支部長さんの前でゆっくりと止まる。


「お帰りなさいませ。皆、あなたの帰還を心持にしておりました。陛下」


支部長が王女様を女王と呼び、跪く。

え、何時の間に女王様になったん?


「・・・アマラナ様、まさか」


王女様を見ると、少し眉を寄せて支部長さんを見ている。


「私が何かをせずともそうなるでしょう。この有事に何もしなかった国王と、自ら戦場に向かった王女。民衆はどちらを選ぶでしょう」

「それを聞いて安心しました。あなたにとっては恨みの有る相手でしょうが、私にとっては掛け替えのない父ですので」

「ええ、存じております。故に余計な事は致しません」

「感謝します。私の留守を守ってくれたことも含めて」


んーと、王様が何も手を打たなかったのを、王女様が動いたから、王様は要らない子扱いにされるって事かしら。

まあ実際そうだよな。何で王女様がわざわざ前線出てんだって話だし。


しかし支部長さん、結構身分の高い人なのかな?王女様がわざわざ様付けで呼んでるし。

それに何やらもともと知り合いっぽい。王様に恨みがあるって所が少し気になるけど。


「陛下、後ろにおられる方が」

「ええ、ギーナ様です」

「一緒におられるという事は、そういう事でしょうか」

「ええ」

「陛下、あなたは私が思っていたより大きい方のようだ」


アマラナさんはどこか嬉しそうに王女様を見つめる。いや、女王様なのか?


「陛下の帰還の報告を受け、陛下の口から顛末を聞こうと、民も待っております。

さ、早く王城へ。宣言の間へお願いいたします」

「アマラナ様。いずれそうなるとしても、私を陛下と呼ばれるのはおやめ下さい。私はまだ、ただ王族の一人にすぎません」

「これは申し訳ございません。殿下、どうかお許しを」


支部長さんは組合所に居た時のようなのんびりした動作ではなく、優雅な感じに頭を下げる。

でも格好は普通の街人である。なんか違和感。

王女様は少し困った顔でため息をつくと、こちらを向く。


「では、行きましょうか」

「あ、はい」


王女は馬をゆっくりと歩かせて門をくぐり、城の方へ向かって行く。道中住民からの歓声が沸く。

多くは帰還の祝福。だがちらほらといろんな称賛が聞こえる。

亜竜の群れを倒し、生きて帰還した英雄王女。国の危機に自ら立ち、貴族を動かした次期女王陛下。

流石この街の組合支部長が頭を垂れる王族。可愛い。美人。等。


なんかそんな感じの事がいろんなとこから聞こえる。

組合長が王様に頭下げるのは普通なのではなかろうか。あの人が何か特別なのかしら。


そして若干困るのは視線が王女に刺さるという事は、傍にいる俺達にも刺さるという事だ。

皆、俺達の存在を疑問に思い、色々言い合っている。

特にギーナさんへの視線が不快だ。あからさまな嫌悪を見せるやつが居る。


「ギーナ様、申し訳ありません。もう少し、お願いします」


王女様は笑顔で民衆に手を振りながら、ギーナさんに言う。


「良いよ、なれてる。それにこれからでしょ」

「ありがとうございます。貴方とタロウ様がここにいる。それだけで、彼らも納得せざるを得ないでしょう」

「まあ、なんかあったら言ってよ。頑張るからさ。なにせ初めて人族の国との正式な国交を開くことになるかもしれないんだし」

「期待しています」


その間王女様は笑顔のままで、ギーナさんも笑顔で立っていた。

俺はどうにもこの馬車から離れたくてしょうがない気分なのは言うまでもないだろう。

すっげー目立ってるのが分かるだけに、逃げたい。ガラバウと同じ馬車に乗ってりゃよかった。

シガルを見ると、シガルも少し居心地が悪そうだった。


民衆の間を抜け、城門を超え、馬操車から降りる。

兵たちは皆、並び、道の塀のようになっている。どこまで続いてるのかしら。


「行きましょう。ハク様もお願いいたします」

『ん?わかった』


ハクは、自分を怯えなかった馬が引く馬車から降りてきて、王女に返事をする。


「・・・ガラバウも、お願いできますか?」

「え?あの、俺もですか?」

「ええ、お嫌ですか?」

「い、いえ、そんな事は!」


王女様がガラバウに声をかけ、それにガラバウは戸惑う。

だが王女が首を少し傾げながら上目づかいになると、慌てて肯定する。


「ほう、お前ああいうのが好きなのか」

「うっせえ!俺は今支部長の代わりでいるようなもんなんだよ!断れるわけねえだろ!」


初耳。単純に支部長の指示で仕事してるだけだと思ってた。


「まあでも、あの子はちょっと大変だぞ」

「おい!俺の話聞いてない事にして進めるな!」


俺がガラバウで遊んでいるとギーナさんの右手がでこぴんの形でこっちを向いていた。


「またな、ガラバウ。気を付けてな」


俺はしゅたっと手を上げ、シガルを連れて離れようとする。


「お前変わり身速すぎるだろ・・・」


ガラバウも気が付いていたらしく、ため息を付く。

きっとギーナさんに逆らえないというため息だ。けして危険を避けた俺に対するものではないだろう。


「タロウ様、お待ちください」


とりあえずこの場から離れようとすると、王女様から声がかかる。


「はい、なんですか?」

「タロウ様もご同行お願いします」


王女様は深々と頭を下げて俺に頼む。

うーん、やな予感しかしない

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