第155話後片付けをします!

「くあ~・・・体痛いな・・後まだ眠い」


堅い寝床で体に少し痛みを感じるのをほぐして、背伸びをする。

周囲を見ると兵士たちは起きて作業するものと、寝ているもの半々といったところだろうか。


あの後結局死体の選別に時間が足りず、一晩過ごすことになった。

ただ死体が全部一回所に集められているのが幸いし、探索作業が無い分少しましだとのことだ。

確認できそうなものを何も身に着けていない者も居るし、そういったものは街の住民だろうという事でそのまま焼かれる事になるらしい。

他国の人間や、他の街から来ている人間らしき者達を選別しているそうだ。


「おわんのかね。量が半端じゃないぞ」


兵士全員で頑張ってて、大半がアレになってしまってるとはいえ、人数が人数だ。終わるのだろうか?

ちなみに俺はその作業の場には一度も行ってない。行きたくない。

なので作業の具合がどの程度なのかは知らない。


「おはようございます、タロウ様」

「あ、おはようございます」


王女様も起きていたようだ。挨拶を返し、顔を向ける。すると以前見た事が有るような、透けている服を着ていた。

下着が丸見えです。つーかその下着も若干透けてますけど。


「あのー、その恰好、恥ずかしくないですか?兵隊さんも居ますし」

「有象無象に見られようとも何とも。それに見られて恥ずかしい体をしているつもりは有りません」

「あ、そうですか」


うん、わかんね。やっぱこの王女さんの感覚とか考え方わかんね。

なんかなぁ、俺に対しての好意そのものは、なんとなく本気なのかなとは思うけど、どうにもこう、ね。


「タロウさん・・おあよう・・・・」

「おはようシガル」


シガルは若干寝ぼけた顔でテントから出てくる。いや、たぶんこれまだ半分寝てる。

シガル、パッと起きる時は起きるけど、ダメなときは結構こんな感じなんだよな。


「・・・えへへー・・・」


ぽやーっとした目でにやにやしながら俺に抱き着いてくる。うん、間違いなくまだ寝てますわこの子。

シガルの頭を撫でながら王女様の方を向くと、彼女は口をキュッと結んで見つめていた。

俺と目が合うと、はっとした顔になった後すました顔に戻る。


「では、私は着替えてきますね」

「あ、はい」


王女様はくるっと回って自分のテントに戻っていく。じゃあ最初から着替えてきたらいいと思うの私。


「なんだかなぁ・・・」


やっぱりどうにもあの子はよくわからん。


「ん~~・・・・」


俺の懐ではシガルが唸りながらぐりぐりと頭を押し付けている。これしばらく起きないなこの子。

ハクはなんか起きる気配が無いし、作業は終わる気配が無いし、何時街に戻れるのやら。


「すー・・・すー・・・」


シガルが動かなくなったと思ったら俺に抱き着いて寝ている。

この子眠いと俺より自由だ。可愛いけど。

俺はシガルを抱え、テントに戻る。見るとハクがすべての毛布を集めて下に敷いていた。

シガル寝かせられねーじゃねーか、おい。寝ながらそういう器用な事するなよ。


ハクの敷いている毛布を一つ無理矢理引き抜いて、下に敷いてシガルを寝かせる。

俺も少し寝ようかな・・・結局ほぼ徹夜だったようなものだから、かなり眠いんだよな。

テントの外では王女様の声が聞こえる。兵に指示を出しているようだ。

凛とした感じの声で良く通る。


「頑張ってるよな、あの子」


考えはよくわからないし、ちょっと困るけど、頑張ってるのは分かる。


「・・・でもとりあえず今は眠い」


シガルを抱きかかえるようにして俺も転がる。あっさりと意識を手放し、眠る。

シガルあったかいな・・・。







「タロウ君、起きて」

「ふえ?」


ゆさゆさと揺られて、目を開ける。若干ぼーっとした目で起こした人を見ると、ギーナさんだった。

傍らにシガルは居ない。


「作業終わったらしいから、あとは焼いて、王都に戻るよ」

「あ、はい」


ギーナさんに言われるまま起き上がり、外に出る。

太陽を見ると傾きかけていた。


「おはよう、タロウさん。良く寝てたね」

「おはよう。シガルだって朝寝ぼけてたじゃないか」

「・・・?何のこと?」


シガルが本気で何言ってるか分からないという顔だ。ああ、あれ覚えてないのか。

後で教えてみよう。どんな反応するかな。


「まあいいや。終わったんだ。凄いな、もっとかかると思ってた」

「何も持ってない人はどんどん避けて行ったらしいから。全部一か所にまとまってたから何とかなったんだろうね。それに兵たち全員でほぼ1日ずっとやってたわけだし」


寝ずに作業してた人もいるんだろうなぁ。お疲れ様です。


「焼くのはいいんだけど、焼いてそのまま休憩無しで帰るのは兵士がかわいそうではないだろうか」

「あ、一応いったん皆交代で睡眠取ってからって話だよ」

「ああ、そうなんだ。ギーナさん焼いたら行くよっていってたから」


てっきりすぐ行くのかと思った。


『タロウ、やるぞ』

「ん、ハク・・・あれ、その服どうしたの」


ハクは人型になっていた。誰も着替えなんて持ってくる余裕なかったと思うから、王女様以外服なんて持ってきてないと思うんだけど。


『街に有った無事なのを貰った』

「・・・それは・・その・・えっと・・・」


良いのだろうか、かってに貰ってしまうのはちょっとどうなのか


「王女様から一応許可貰ってるよ」

『うむ!』


ああ、ならいいか。いいのか?いや、まあ、ハクが気にしないならいいか。

なんかこう、亡くなった人の物を勝手に使ってる感じで、なんかな。考えすぎか。


「じゃあ、やろうか」

『ああ』


ハクと一緒に王女様とギーナさんの所に行く。ガラバウも居た。


「タロウ様、お待ちしておりました。お願いします」

「私も手伝うからねー」


ギーナさんも手伝ってくれるのか。こんなでかい街全体を覆うような大魔術はキッツいので、助かる。

兵と騎士が皆下がり、全員いる事を確認し終わって、俺達が前に出る。


「いきます」

『うむ!』

「はいはーい」


俺は街を覆う炎を発生させる。街をちゃんと覆う事は出来ている感じだが、威力が足りない気がする。

ハクが上から巨大な火球をいくつも落としていく。あのー、それ周りに被害でないようにちゃんと考えてる?

ちょっとずれたら森だからね?燃え移ったら怖いからね?若干不安。


「ン、仕上げは任されよう」


ギーナさんが魔術を放つ。豪とすさまじい勢いで馬鹿でかい火柱が上がり、青い火柱が街全てを包む。それが消えた後には俺の炎も、ハクの炎も消え去っていた。

街に有った建物も外壁も全て綺麗に。ただただ広大な更地が出来上がった。


「こんなもんかな」


ケロッとした顔でとんでもない事やったこの人!しゃれになんねえ!何だ今の威力!


「さーて、あとは兵隊さん達の休憩待ちだねー」


尻尾を揺らしながらてくてくと皆の方へ歩いて行く。兵たちがすさまじくざわついている。

そりゃそうだ。


俺はかつて街が有ったほうを見る。何もない完全な更地になっている。

威力もさることながら、範囲もしっかり固定して、あとが残らないように消し去っている。

凄まじい魔術だ。


「すげえな・・・」

『世界は広いな!』


ハクは少しわくわくした顔でギーナさんを見る。お前も怖がってただろうに、凄いな。

俺はあれを見て楽しく思えるお前を少し尊敬するよ。


さて、休憩して帰るとして、帰りは強行軍じゃないだろうから、まだ少しかかるんだろうな・・・。

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