第153話ギーナさんは少しの間同行するようです!

俺達がギーナさんと話している間、騎士と兵士で一生懸命死体の処理をしていたらしく、かなりげっそりした顔で休憩している兵士があちこちに居る。


「しばらくかかりそうだね」

「うん、数が、半端じゃなかったからね」


俺の呟きにシガルが答える。


「あれ選別するのは無理じゃない?」

「流石に形の残っていないものは無理でしょう。なので、原形を留めている者に限ります。身に着けている物が何か本人の証明になればと」


ギーナさんと王女様が処理について話をしている。ギーナさんは割とあっけらかんとしている。少し意外だ。


「ギーナさん、ああいうの平気なんですか?」

「いや、正直に言って気分悪いよ。ただ、もっと酷いのも沢山見てきたからね。気分は悪いけど、それで済む程度に色々見てきたって事さ」

「そうなんですか・・・」


あれよりひどいものか。想像したくないな。

俺はもうあれの時点で大分きついのに、あれ以上とか見たくない。


「それに申し訳ないけど、身内が引き裂かれたのを見るよりは、幾分かましに思えちゃうんだ。ごめんね」


身内が、か。確かに、俺も申し訳ないがそっちの方がきつい。シガルがもしああなっていたらと思うと、あいつらを絶滅させても物足りない。

思わずシガルを抱き寄せる。シガルは全く抵抗せず俺の腰に手を回す。


「仲いいね。よかったねシガルちゃん」

「え?」

「あの時、私達の様子見て突撃してきたでしょ」

「―――!」


シガルがびたっと固まってしまった。あの時って、ギーナさんと会った時の事かな?


「お姉さんを舐めちゃいけないよ?」


にやっと笑いながらシガルを見るギーナさん。シガルはそれを受けて口をパクパクさせている。何か言いたいけど言葉が出ないと言った様子だ。

様子を見てた?あの時のシガルは偶々俺を見つけたって感じだったけど・・・。

まあ、いいか。


「あ、あのね、た、タロウさん、えっと」


明後日の方を見て考えている俺の姿を何か勘違いしたのか、シガルが慌てて言い訳をしようとしている。


「良いよ別に。その時どうだったのかは分からないけど、シガルが今どういう子なのかは分かってるつもりだから。だから気にしなくていいよ」

「・・・タロウさん・・・うん!」


俺の言葉にシガルが元気よく、嬉しそうに頷く。

そうだ、別にかまわない。あの時のシガルがどうあれ、俺はシガルが全力で俺と一緒に居ようとしているを知っている。

俺を助けに来てくれたシガルを知っている。俺の情けない部分を見てもそれでいいと言ってくれる彼女を知っている。

だからそれでいい。


「おあついねー。それにタロウ君なかなかいい男だね」

「あげませんよ?」

「えー、ちょっとぐらい分けてくれてもいいと思うよ?」

「だめです」

「あはは、まあ二人とも元気そうでよかった」

「ふふ、元気いっぱいですよ」


ギーナさんとシガルは、あの時一度会っただけとは思えない位、仲良さげに会話している。

ふと王女様を見ると、少し悲しそうな顔でこちらを見ていたが、俺と目が合うときりっとした表情に戻る。

うーん、なんだろう、この王女様の思考は今一解らないな。


「さて、じゃあ私は国に帰るけど、良いかな?」

「いや、俺達に言われても困るんですけど」

「あ、そうだね、ごめん」


俺の指摘を受けてギーナさんは王女様の方を向く。


「無断で国に入って、さらに勝手に出て行くけど、いいかな?もし何か問題あるって言われるなら、なるべくちゃんと手続きするけど」

「いえ、構いま・・あ、すみません、少しお待ちいただけますか?」

「ん、なに?」


王女様は許可を出そうとして、何かをふと思い出したように、ギーナさんを止める。

少し思案した後、意を決したように口を開く。


「我が国の北は貴方の直接の領土なのですか?」

「うん、そうだよ」

「なればこれを切っ掛けに、我が国との国交を結ぶ気はございませんか?」

「・・・本気で言ってる?」

「ええ。父は反対するでしょうが、押し通します」

「ふーん。なるほどなるほど。分かった。良いよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん、恐怖を押し殺して、背筋伸ばしてお願いされちゃね。良いよっていう以外言えないでしょ」

「っ!」


王女様は顔を真っ赤にして狼狽える。怖いの堪えてるのか。確かにあのギーナさん見た後だと怖いか。


「一応言っておくけど、簡単な物じゃないと思うよ?」

「ええ、勿論。ですが今あなたがこの場に居る。それが何より意味のある事になる。そして国民はそのことを無視できない」

「ああ、なるほど。だから止めたのか。いーよ、もうちょっと付き合ってあげる」

「ありがとうございます」


ん?またなんか俺にはよくわからない会話が成された。お互いに納得してるみたいだし、いっか。

俺は別に関係なさそうだし。


「タロウ様も申し訳ありませんが、帰還は我々とともにお願いします」


王女様は俺の方を向いて深々と頭を下げる。どうしようかな。

このまま一緒に帰ると、なんか面倒に巻き込まれる気がするんだよな。


「ほーら、女の子がこんなに真っすぐに頭を下げてるんだから、ちゃんと返事する」


ギーナさんがそう言いつつ、俺の額にでこぴんをする。

全く避けられなかった。思わず後ろに下がるとか、そういう動作すらできなかった。

明らかにでこぴんでは有りえない音が響き、痛みに蹲り悶絶する。


「いっ・・がっ・・・あっ・・・」


痛い。めっちゃ痛い。どういう指してたらこんな威力になるんだ。

それに頭がグワングワンする。星が飛んでる。あ、綺麗だなー。


「あ、あれ?そんなに強くしたつもりなかったんだけど」

「た、タロウさん大丈夫!?」

「旦那様大丈夫ですか!?」


シガル達が何か叫んでるけど良く分からない、視界がぱちぱちしててなかなか戻らない。

でこぴん一つでこれか。シャレにならねえ。

涙目になりながらぱちぱちした視界のまま、ギーナさんの方を向く。ギーナさんは少し首を傾げていた。


「・・・ふむ。なるほど」


少し視界が回復してきた。両隣で心配して叫んでるのも認識できる。でもまだ少し頭が回ってる気がする。

とりあえず、何とか立ち上がる。


「ギ、ギーナさん、もうちょっと手加減お願いします」

「あ、ご、ごめんね?手加減したつもりだったんだ」


胸元で手をいじりながら上目遣いで謝ってくるギーナさん。これでまだ責めるとかできる奴いるんだろうか。いや出来ない。


「つ、次こういう事有ったら、気を付けてくださいね」

「う、うん、ごめんね」

「あー、痛かった。びっくりした。こんなの食らったの久々だ」

「そうなの?」

「最近頭にはまともに食らった覚えが無かったので、久々です」

「なるほど、君、体はそんなに頑丈じゃないんだね。そっかそっか」


うんうんと、何か一人で納得するギーナさん。何納得してるのか教えてください。

とりあえず、またでこぴん食らうのも怖いし、OKしとくか。


「ま、まあ、街の事も有りますし、いいですよ」

「あ、ありがとうございます。そ、その、本当に大丈夫ですか?」


王女様は礼を言いつつ、俺を見てオロオロしている。


「大丈夫ですよ。あとに響くほどじゃないです」

「そ、それならばよろしいのですが」


めっちゃ痛かったけどね。

まあ、それに一つ気になっている事が有る。そのためにもついて行こうか。


・・・アイツ、これからどうするつもりなんだろ

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