第152話ギーナさんへの説明です!
今俺達は街を一度出て、門の入り口辺りで簡易テントを張って、腰を落ち着けている。
なんかの作戦会議とかにつかってそうなあれだ。三国志とかで出てきそう。
「ふむふむ、なるほどね。タロウ君と・・・・えーと・・クエルエス・・エス・・・えーと」
「クエルで結構です」
ギーナさんが王女様の名前を思い出せずに指を上に向けてぐるぐるしていると、王女様が略称の名前を名乗る。
「はーい、あんがと。クエルちゃんね」
「クエルちゃ・・・え、ええ」
多分そんなに気軽に呼ばれた事が無いんだろうなぁ。ギーナさんの軽さに王女様は戸惑っている。
しかし、改めてこう話していると、ギーナさんの雰囲気は、どこかリンさんに似ている気がする。
どこがと言われると困る。あくまでなんとなくだ。
「二人の話を合わせると、要はこの国を守ってた竜が仕事しなくなって、そのせいであの街の住民があんな風になって、その魔物を退治するために兵を出したら、タロウ君が全部片付けちゃったと。合ってる?」
「はい、その通りです。タロウ様の活躍により、本来ならばもっと大被害に繋がった事が、街一つで抑えられました。下手をすれば国が滅んでいたでしょう」
んー、やっぱり王女様もそういう判断なんだよな。ガラバウもお前馬鹿じゃねーのって言って来るし。
ギーナさんもその口だろうか。
「とりあえず竜が守らなくなったからって、私は攻めには入らないよ。そこが一番気がかりでしょ?
もし馬鹿な事言いだす奴いたらどうにかするから、安心して」
「ありがとうございます」
王女様はギーナさんに深々と頭を下げる。ギーナさんはそれを見て、困ったような顔で頬をかいている。
「私としては人族の王女が『亜人』に礼儀正しく、頭を下げる光景は不思議な物なんだけど」
「あなたがかのギーナ様であれば当然かと。それにあなたはタロウ様のご友人。礼を尽くさない道理はありません」
ギーナさんの疑問に、俺の方をちらっと見て答える王女様。なんか俺を思いっきり持ち上げようとしてないかね?
そういうのいらないんだけどな。英雄とかも、あんまり言われたくない。
シガルのおかげで少し心は軽くなったし、世間的には俺は悪くないんだって事も理解はした。けど、やっぱり辛いものは辛い。
「タロウ君」
俺が少し俯いてい居ると、ギーナさんから声がかかった。
「は、はい、なんですか?」
返事をすると、ギーナさんは立ち上がりこちらまでやってくる。王女はそれを見て、一瞬目を大きく見開いたが、すぐに何事も無かったような表情に戻り、目で追いかける。
「頑張ったね。いい子だ。君はやれることを頑張ったんだ。君が出来る精一杯をやったんだよ」
ギーナさんはそう言って、俺の頭を撫でた。
「うっ」
思わず、また少し泣きそうになった。シガルは俺を許してくれた。馬鹿な俺を許してくれた。
この人は認めてくれた。俺の行動を、贖罪を、精一杯やったと。
負わなくて良い責だというのではなく、その責を君が出来る精一杯で返したんだと。
「ありがとう、ございます」
涙声を頑張って隠しながら、返事をしたが、たぶんバレてるだろうな。
「しかしあれを竜が山に抑えてたとはね。道理でこっちに来る途中で大量に遭遇したわけだ」
「大量、ですか?」
「ギーナさんの国の方にも行ってたんですか?」
王女が、あまりに気軽に遭遇したというギーナさんに怪訝な顔を向け、シガルが疑問を投げる。
「いや、こっちの国の山を突っ切るときにね。かかってきたから全部のしちゃった。まずかった?」
「いえ、感謝いたします。あれは数が多いと非常に危険です」
「そうだね。餌になりそうな大きさを目にすると襲ってくる。今どれだけ餌が残ってるかとか関係なく、大量に餌を貯める。
自分を殺せる力量を持った存在を認識してもなかなか逃げない。自分達が一瞬で全滅させられる力量を持つ存在を認識して初めて逃げの手を打つ。
亜竜だとしても、性質が悪いし頭も悪い。遭遇した場合、生かす意味は無い」
彼女はのしたと表現したが、遭遇した魔物をすべて掃討したのだろう。
まあ、リンさん倒せる人だ。あの程度羽虫を潰すのと大差ないだろう。
「どの程度おりました?」
「んー、たぶん300ぐらい?向かってこなきゃやる気は無かったんだけどね」
「さんびゃ・・・」
ギーナさんが言った数に、王女が目を見開き驚く。
『ふむ、老が言っていた数より少ないな』
「ん、ハクどういう事?」
ハクが何か不思議な事を言った。数が少ない?
『老が言ってたんだ。千ほどの魔物が向かうって』
「それじゃあ、まだあれがどこかに居るって事か」
「まあ、まだ生き残りはいるだろうね。流石にあいつらも群れ全部知らない所に行くよーな真似はしないだろうし」
あの魔物は存在自体が俺にとっては許容できない。あれを作り出す魔物と人間は共存は出来ないだろう。
いや、人間も魔物を狩って生きてるみたいだし、お互いさまと言えばお互い様なのは分かってるけどさ。
「いえ、おそらくほとんど残っていないでしょう。山にある程度生き残って居るのでしょうが、そこまで大量には居ないかと」
「何か知ってるの?」
「王都の方にも魔物が300ほど襲ってきましたので。数はだいたいあっているかと。あれを竜が人の脅威とみていたなら、ですが」
王都もって、それじゃ早く戻らないと。
「大丈夫なの?」
「はい、あちらは確実に。亜竜であれば1日持たず壊滅でしょうが、ゲレヤの群れでしたから」
「なるほどね。縄張りの外に逃げようとしたんだろうね」
「おそらくは」
ゲレヤってどんな魔物だろ。王女様が確実にって言ってるぐらいだし、急いで戻らなくて大丈夫なのかな?
「ところで」
話が一段落すると、ギーナさんがガラバウの方を見る。
するとずっと直立不動だったガラバウがさらに体に力を込めて固まった。
「君、どうしたの?」
「い、いえ、ギーナ様に失礼があっては、親父達に顔向け出来ませんので!」
ふむ、そういえばギーナさんは向こうの人間にとっちゃ英雄だったもんね。
こいつの親父さんあの戦争に出てたって言ってたし、こうなるものか。
「・・・?きみ、お父さんの名前は?」
「ゼ、ゼレフと言います!」
ギーナさんはその名前を聞いて、悲しそうな顔になる。
「・・・ゼレフか。もしかして君はガラバウって名前かな」
「は、はい!」
「・・・そう、か。君の父には申し訳ない事をした。彼はその命をもって、皆が撤退戦をするように仕向けた。君には辛い思いをさせたね」
「・・・・は?」
誰も居ない方向を見つめ、何かを思い出すように言葉を紡ぐギーナさん。
ガラバウは名を知られていたことを喜んだが、その次の言葉に困惑を隠せない。
「一体、どういう、事でしょうか」
おそらく、精一杯考えて、それしか出てこなかったんだろう。
「君の父は、死にに行く前に、私に挨拶に来たんだ。
我々が止まるには、撤退をするには、圧倒的な敗北を見せなければいけない。
私達はやりすぎた。ならばそのやりすぎた者達の命をもって完全な敗北を喫すれば、人族も多少溜飲は下がる。私達が敗北すれば皆も逃げる必要性を理解し、少しでも生き延びられるだろうって」
ガラバウの親父さんは、死ぬために戦いに行ったって事か?国の為に死にに行ったのか。
俺にはそういうの納得出来ない。ガラバウだって、出来てないだろ。でなけりゃミルカさんを恨む意味が無い。
ガラバウは言われていることの意味が分からないと言いたげな表情で聞いている。
「止めたんだけどね。別に君たちが死ぬ必要は無いじゃないかって。でもダメだった。
それじゃ人族だって納得しないし、あなたに負けても止まらない。人を殺し過ぎた我々を引き渡す代わりに和平をとなるだろうと。ならば我々は戦場で死にたい。戦いの中で終わりたい。ウムルの人間達はそれに足る。本物の英傑に打ち取られ、国の礎になろうって」
「そ、そんな」
「彼だけじゃなくて、当時前線で戦ってた人達の族長は皆そう言ってウムルとの戦いに出た。私は止められなかった」
ギーナさんは椅子に座り、両手を組んで、ギチッっと音がしそうなぐらい力が籠っている。
ガラバウは今の言葉を信じられない、いや、信じたくないという感じだ。
「お、俺は親父がウムルの人間に、ミルカ・グラネスに殺された仇を打とうと、そのためにあの連中の制止を振り切って国を出たのに、そんな」
「・・・君の気持ちはわかるよ。けど、止めておいた方がいい。君じゃミルカ・グラネスには遠く及ばないし、それは君の父の想いを無駄にする」
「・・ふざけないで下さい!じゃあ、俺は今まで、なんの、ために・・!」
「ごめんなさい。私は彼らの一族には、それしか言えない。私が不甲斐無いせいで、あなたの父は亡くなったようなものだから」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるギーナさん。ガラバウはもうどうしていいのか分からないといった様相だ。
こぶしを握り締め、今にも泣きそうな顔をしてる。
「・・・少し、頭を冷やしてきます」
「ええ、護衛、ありがとうございました」
「・・・すみません」
ガラバウはテントの外に出て行く。王女様はそれを許可し、礼を言う。
「やっぱり、ああいう子がいたか」
ギーナさんは出て行くガラバウの背中を見ながらぽつりと呟く。
その顔は申し訳なさと、悲しさでいっぱいな表情だった。
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