第149話久しぶりの立派なしっぽの方と再会です!

「ギーナさん!?」


現れた人があまりにも予想外で、驚いて叫んでしまった。

いや、叫ぶよな普通。


「はい、ギーナさんですよ。久しぶりだね。少し大きく・・・なってないね」

「うぐっ」


精神に防御不可の大ダメージを食らった。

じゃなくて。


「せ、成長期過ぎてるもので」

「え、嘘!君13、4歳ぐらいじゃないの!?」


ギーナさんは心底驚いている。

うん、なんとなく分かってたけど、俺子供に見られてるよね。まあ、しょうがないけど。

悲しくなんかない。ないよ?


「ま、まあ、それは置いておいて、ギーナさんはなぜここに?」

「んー、調査、かな?」


調査とな。なんだろう、ギーナさんはどこかの国の調査員なんだろうか。なんの調査か知らんけど。


「この辺ずーっと竜が幅利かせてたのに、最近急にそれが無くなったからさ。

調べに行こうって話になって、会議で誰が良いかとか、何日やるかとか、どこまで行くかとかぜーんぜん決まらなくてね。

それだけなら良かったんだけど、ここで凄い魔力を感じたのよ。

何か異常が有るならここに近い国にとっては危険だから、私が調べに来たんだ。待ってたらまだ決まらなそうだったからね」


竜の力が消えた。そういうの分かる人にはわかるものなのか。少なくともこの国の人達は分かってなかったし、俺も分からない。

彼女たちの一族が感じられる力なのかな?

つーか、それ完全に独断行動っすよね。大丈夫なの?


「ギーナさん、お久しぶりです。あなた一人ですか?」


シガルが彼女に聞く。シガルもどうやら彼女を覚えている模様。


「あ、君も久しぶり。君はちょっと大きくなってるね。前の時みたいにお姉ちゃんでもいいよ?」


再度俺に精神ダメージを与えるのは止めて下さい。


「危険なら私が行ったほうが早いし。でも全部終わった後っぽいね」


危険なら自分が行った方がいい。ものすごく説得力がある。俺この人に勝てる気が全くしない。

ギーナさんは周りを見回して、俺達の方を見る。いや、たぶん俺達の後ろの兵たちを見てる。


「もしよかったら話を聞かせてくれるかな?私も国の皆を安心させたいし」

「えーと、いいのかな?」


話していいものか悩み、思わず王女様の方を見る。

すると、ガラバウがなぜか直立不動で固まっている。

王女様は困惑の表情で、俺と目が合った。


「そうですね・・・もしよければ、先にこの方を紹介して頂けますか?」

「あ、はい、彼女はギーナ・ブレグレウズ。麟尾族の方です。俺の・・・」


何だろうと思い、今度はギーナさんを見る。


「友達だよ」


と、軽く言ってくれた。本当は友達と言っていいのか分からないが、今度会えたらお茶しようと言って、笑ってOK貰ったんだ。

そこそこいい印象で別れたはずだから、そう言ってもらえるのはちょっと嬉しい。


「・・・偽名、ではないのですよね?」

「うん、本名」


偽名?ああ、そっか。ギーナさん、魔王って呼ばれてる人と同じ名前だっけか。

あの時は無いだろって思ったけど、今はなんかしっくりくる。何故か。単純にこの人の異常な強さを感じ取ったからだ。

あの時は分からなかったし、今はもうあの怖さは感じない。けど、あれは明らかに格が違う存在の怖さだった。リンさんと、同じ怖さだった。


「北の国の王、ギーナ・ブレグレウズ様で間違いありませんか?」

「それは違うかな。私はあくまで代表であって、王じゃない。北の地全てを私が統治してるわけじゃないよ」

「ですが、基本は貴方の意向に従うのですよね?」

「まあ、一応ね。といっても大雑把な決まり事だけだよ。

それ以外はその土地の部族に任せてる。私が思いっきり口出しするのは、私が住んでる国だけだよ。

最近うちの国に混ざりたいって国が増えて少しだけ広くなってるけど」


北の国の王。この人が。

いや、代表って言ってるけど、つまりこの人が、人族以外の人達の纏め役。むこうの国の英雄。


そして何よりもリンさんを負かした人。フドゥナドルその人。


ただやっぱりちょっと信じられない。

あのリンさんを負かす人って聞いて、もっととんでもない好戦的な人を想像してたからかな。

最初に会った時も、気のいい優しいお姉さんって感じだったし。


「まあ、私は王なんてガラじゃないから、もうちょっと気軽な感じだよ」

「そうですか」


王女は目をつぶり、一度深呼吸をする。なんとなく、少し震えている気がする。

目を開けると、背筋を伸ばし、右手を左肩に置き、深く礼をする。


「私はポヘタ王国第一王女、クエルエスカネイヴァド・ポヘタ・グラウジャダバラナと申します。ギーナ様、以後お見知りおきを」

「これはご丁寧にありがとう。私はリガラット共和国、及び部族連邦代表ギーナ・ブレグレウズ。フドゥナドルの方がこっちでは通りがいいのかな?」


王女の礼にギーナさんも応えて、王女を真っすぐに見つめ、右手でスカートの反対側を掴んで右に引き、礼をする。

その所作はとても綺麗で、魔王なんて呼ばれている人とは思えなかった。

でも本人が言った。魔王と。フドゥナドルと。この人が話に聞いたような虐殺をした人にはどうしても思えない。


「いえ、ギーナ様と、お呼び致します」

「へぇ・・・あなたは私を亜人と蔑まないんだ」

「私は貴女を蔑むような立場にありません。貴女が名を轟かせるギーナ・ブレグレウズその人ならば、私達の命など簡単に刈り取れるでしょう」

「物騒だなぁ・・・しないよそんな事」

「そうですか。だとしても私は『亜人』を馬鹿にして楽しむ趣味は有りませんので」


王女の発言に、ギーナさんは目を細める。嬉しそうな感じじゃない。何か探るような雰囲気だ。

口元は少し笑っているが、目は全く笑ってない。


「それは、あなたの意志かな?」

「はい・・・いいえ、本来は私の意志ではありません。ですが私はそうすべきだと今は思っております。そして今後もそう有るつもりです」

「そう、まあ、いっか」


王女の答えにギーナさんは少し怪訝な顔をし、俺の方を見て、とりあえず納得する。

なんで俺の方見たんだろう。


「とりあえず、事情を教えてもらえるかな?」

「はい、勿論。ですが一つ条件が有ります」

「なに?」

「情報をお渡しする代わりに、我が国への進軍はしないとお約束頂ければ」


王女が真剣な顔で条件を口にすると、ギーナさんは思いっきり笑い出す。

一笑いしたら、少し息を吐き、返事を口にする。


「ああ、そう、なるほど。そうだよね、ごめんごめん。

うん、わかった。しないよ。あなた達が私達に敵対しない限りは絶対にそんな事はしない。させない。

私の命に、そして仲間の命にかけて誓うよ」


自分と仲間の命。その言葉にどれだけの重みがあるのか分からない。

けど、ギーナさんにとって絶対に約束を守るという言葉と同等の重みがある誓いなのだろう。


「分かりました。ありがとうございます」

「いいえ、ごめんなさい。あなたにとっては重要なところだもの。気を利かせなかったこちらも悪い」

「いえ、私達は貴方にお願いできる立場ではないし、本来条件を出せる立場でもありません。お怒りになられなかっただけでも、ありがたく思います」

「そんなに怖がられると困るんだけどな。でもまあ、わかったよ。そういう事にしておきます」


今までの王女の発言からすると、ギーナさんは自分たちが逆らえる相手じゃないし、条件を出せる相手でもない。

それらを受け入れてくれた時点で礼をするに値するってとこかな?

まあ、普通に考えたらそうなのかな。相手はあのリンさんを倒せるひとだし。


でも俺はこの人に警戒は無意味じゃないかなって思う。この人多分、何か手違いであんな話になってる気がする。

こんな気さくで、気のいい人なんだもん。


「さて、どこから話しましょうか・・・」


王女様が少し思案し、口を開く。

ギーナさんはその話を静かに聞き始めた。

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