次元の裂け目に落ちた転移の先で

第146話絶体絶命ですか？

「ダン！」

「あいよぉ！！」

突撃してくる亜竜を私が思い切り剣で殴り軌道を無理やり変える。

軌道を変えられた亜竜は憎憎しげに叫び、体勢を少し崩して地面に砂埃を立てながら降り立つ。

立て直し、飛び出そうとした瞬間を狙い、ダンの剣が亜竜の首に走る。

寸前で気がつき、避けようとしたのだろうが間に合わずその剣によって胴体と分かれた。

「3匹めぇ！」

1匹目と2匹目はこちらを舐めて突っ込んできたのを私一人で切り殺し、警戒され反撃をしにくくなったのでダンと合流。

飛び掛ってくる亜竜を私がいなし、ダンが首を落とすという戦法を取り、もう3匹仕留める。

「流石にもう、迂闊に飛び掛ってはこんかな」

ダンも合流する前に3匹仕留めている。

８匹も仲間をやられて私たち二人に警戒を強めたのか、予想通りつただ突っ込んではこなくなり、風の魔術を発生させながら数匹ずつ固まり始める。

「ちいっ！ダン、くるぞ！」

「わあってんよ。おい、おめえら逃げろ！こっちにくんなよ！」

まだ戦える者達も周囲で他の魔物に対処しているが、もはや負傷していない者の方が少なく、当初の予定とは違い、負傷していても戦えるなら剣を取っている。

だが誰一人として亜竜の攻撃をまともにいなせる者はおらず、倒せる者もいなかった。亜竜の突撃の速度に体が付いていっていない。生き残る事だけで精一杯だ。

すでに死者も出てきている。幸いは私とダンの近くに数が多く飛んでいたので、半数近くは私たちを警戒し、仲間を殺された怒りを向けている。

亜竜は同じように突っ込んでくるとみせて、その周囲を他の亜竜が強風を先行させ、動きが鈍ったところに突っ込んでくる。

「ぐう！」

私はその強風をもろに受け、転がり、そこを狙われる。だが、これならまだいなせる。

「おらぁ！」

ダンはその竜が突っ込んでくるところを狙い打つように横合いから切りかかるろうとする。

「馬鹿、避けろ！」

ダンの行動を分かっていたと言わんばかりのタイミングでダンの背後から亜竜が飛び掛る。

私の叫びでダンは気がついたものの反応しきれず、脇腹を抉られ吹き飛ぶ。

「があっ！」

「ダン！ぐあ！」

ダンがやられた事に動揺し、自分に突っ込んできた亜竜をいなす事も出来ず、何とか剣で防ぎ直撃は食らわなかったものの、大きく吹き飛び後方の樹木に激突する。

「ぐ、この・・・ダン、大丈夫ですか！」

「せえぇ！てめぇはてめえの心配してろ！」

吹き飛ばされ距離が離れた事と、ダンも地面に転がっていて、ダンの様子が見えない。

まずい。私とダン以外対応できていないのに、ここで私たちがやられればもっと手がつけられなくなる。

それにさっきのダンの食らい方はまずい。あれはもう長時間戦えない傷だ。

夜が明けてきたおかげで暗闇での戦闘にならなくなっているが、もはやそんな場合ではない。

まずい。半数どころか4分の1も減らせてないというのに！

私は立ち上がってダンのそばまで走る。少しでも治癒魔術をかけて彼の傷をふさがねば。

だが亜竜達は私が何をしたいのかを理解しているようで、魔術で私の進行を阻害する。

「ぐっ、ダン！少しこらえてくださいよ！」

「せえ、構うな！お前はやる事があんだろ！」

ダンは立ち上がり、脇腹から血を飛ばしながら剣を振るっている。

見て、理解してしまった。あいつはもう決めたんだ。ここが自分の死に場所だと。

それがはっきりと分かるように、ほっておけば死ぬ自分を痛めつけようと突っ込んできた亜竜の攻撃を、避けずまともに食らいながら踏みとどまり、剣で首を突き刺しひねる。

「てめえら！俺をやりてえなら死ぬ覚悟で来いよ！一匹でも多く道連れにしてやらあ！」

「・・・すまん、ダン」

叫び、血まみれで戦うダンを見て私は私のやるべきことに集中する。

ダンのほうを振り向かず、蹂躙されている組合員達の方へ走り、私の存在に気が付く前に亜竜の首をはねる。

「貴様ら、私達の命が欲しければそれ相応の覚悟をしろ！」

ここが、死に場所だ。私とダンの死に場所だ。

ここが王都のそばでなければ、私たち二人だけなら、きっと逃げて生き延びた。

けど、出来ない。後退する事は出来ない。ダンは家族のために。娘のために。

私は今まで守ってきた者たちのために。生き残った組合員達と友の無念のために。

己が命を懸けてここは譲らない。守ると誓ったもののために、ここが命の捨て所だ。

心残りがあるとすればガラバウの成長を見届けられない事か。

そんな心残りをあざ笑うように、複数の亜竜が風を起こし、私を容赦なく吹き飛ばそうとする。

あらゆる角度から襲ってくる風に耐えられず、体勢を崩したところに亜竜は突っ込んでくる。

「なめるな、相打ち覚悟ならその程度！」

私はダンと同じように食らいつつ首を狙おうと、崩した体勢のまま剣を構える。

だが、亜竜の突撃は私まで届かず、途中で勢いよく横に吹き飛び、木々に叩きつけられた。

「遅い」

小さくそう呟いた人物は、後ろから迫る亜竜の突撃を肩を少しずらすだけでそらし、その胴体に拳を叩き込む。

その一撃に亜竜は吹き飛ぶ事も無く、ただその場に崩れ落ちる。

亜竜達は風の魔術をその人物に放ち、体勢を崩したところを狙い打とうとする。

「馬鹿の、一つ覚え」

その人物は体勢を崩したまま突撃してきた亜竜の足に手を添えると、亜竜はあらぬ方向へいき、木へ激突する。

その隙をその人物が逃がすはずも無く、背後からの一撃で亜竜は動かなくなる。

「これなら、樹海の亜竜のほうが、動きがいい。空を飛べる有利で、戦法がつまらない」

亜竜があまりに弱すぎてつまらないという発言にしか聞こえない言葉を発した人物は、空を飛ぶ亜竜を見据えて、口を開く。

「言葉が通じるとは、思わないけど、一応、いっとく。お前達の生態は、私達と、相容れない。人を襲った以上、逃げる事も、許さない」

魔物に対してそう言い放った後、空に向かって拳を打ち抜く。

すると亜竜の一匹の胸に大きな空洞が出来、血を噴出しながら落ちていく。

「我はミルカ・ドアズ・グラネス。我が国に属した国の危機と判断し、我が力を振るわん。お前達皆、覚悟を決めよ」

その言葉を発したとたん、彼女の存在を、すべての魔物が恐怖したのが分かった。

あれには勝てない。そして同時に、あれからは逃げられないと。あれは亜竜ごときが敵対していいようなものではない。本物の化け物だと。

これが、彼女の力か。これが、8英雄という化け物の力か。

ああ、あの愚王は本当にこれだけはいい仕事をしたものだ。