第145話ハクが帰ってきました!

こっちに来る連中になんて説明しようと思っていたら、豪っとすごい音をさせながら頭上を通過する物が有った。

それはかなり向こうまで行ってからUターンしてきて、俺達の傍に降り立った。


「な、な、うあ・・・・」


ガラバウがその存在に驚き、狼狽えている。というかビビっている。

いやまあ、普通は怖いか。俺は最初に老竜のあれ見ちゃったのと、リンさん知ってるからなぁ。


「ハク、お帰り」


目の前に降り立ち、俺達を見下ろす巨大な白竜に声をかける。こうやって見ると、ハクの成竜の姿はかっこいいな。白くて綺麗だし。


『ただいま!シガルは無事みたいだな!』

「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

『どういたしまして!』


ハクはシガルに話しかけつつ、元の姿に戻り、シガルの傍による。

あれ、なんか怪我してね?


「ハク、なんか体のあちこち怪我してないか?」

『これは私の誓いの証拠だ!』

「・・・さっぱり意味が分からん」

『私はシガルが好きだという事だ!』

「もっと分からなくなった」


ハクが何言ってるのかさっぱりわからん。翻訳さん仕事してないのかしら。


『急いで帰ってきたが、心配し過ぎだったか。タロウが居れば大丈夫だったな。全く、私をシガルの元へ行かせないようにしようとするなど・・・』


ん?もしかしてハクが帰ってくるの遅かったのは、老竜に引き留められていた?

シガルの為に制止を振り切ってきたのか。やっぱこの二人仲いいな。

でもハクの考えは間違っている。俺の馬鹿な行動でシガルは危険な目にあっている。


「ハク、ごめん。俺は今回、下手を打った。シガルを危険な目に、あわせた」


ハクは俺なら大丈夫だという信頼があったのかどうかは分からない。けど俺と一緒なら心配しなくてもよかったと、そう思っていたんだ。

俺はその期待には応えられていない。


『・・・ふむ。でもシガルに怪我は無いんだよな?』

「うん、大丈夫。彼が助けてくれたから」


シガルはハクの言葉に答え、ガラバウにハクの視線を促す。


『そうか!私の友を救った事、礼を言うぞ!』

「は、はあ、どうも」


ハクの勢いにどう対応していいのか分からず、あいまいな返事をするガラバウ。

成竜から子竜になって、小さい羽根ぱたぱたさせながら尊大な感じでしゃべってるせいも有る気がする。


『何か礼をしよう。物品の類は今は持ってないが、望む物が有れば出来る限り頑張るぞ』

「いや、別にいいんだけど・・・。あ、そうだ」

『なんだ、なにかあるのか?』


ハクは早く言えと言わんばかりにガラバウの顔に鼻が当たりそうなぐらい顔を近づける。

ガラバウは、それに驚き、後ずさる。

竜とわんこがじゃれてるように見える。


「いや、王都の方も魔物が襲ってきてるから、あんたなら助けに行けるんじゃないかなって。さっきの速度ならすぐだろ?」

『ん?王都?通ってきたけど、ハイエナがあとちょっと残ってただけで、どうにかなりそうだったぞ?

なんかやたら強いのが地上で暴れていたし、私の進行方向に飛んでたのは吹き飛ばしたから大丈夫じゃないか?

あ、ちゃんと人間は巻き添えにしてないからな』


ハイエナってーと、あれか。あれ王都に向かってるのが居たのか。あれホントはなんて言う名前なんだろ。たぶん俺がハイエナのでかいやつっていう認識の翻訳だろうからなぁ。

しかし、王都にも魔物が来てたのか。やっぱ俺の判断は完全にミスだな。今度からシガルを絶対守れる人がいない限り一緒にいよう。


「なら今回の事は完全に終了で、後片付けだけって事かな・・」

『それ以外にないのか?』

「今は特にねえな」

『そうか、思いついたら言うといいぞ!』

「あ、ああ」


ハクが変にテンションが高い気がする。どうしたんだろう。テンションが微妙に高いのはいつもの事だが、今日は殊更高い気がする。


『あ、そうだタロウ』

「ん、なに?」

『私帰るところなくなった!』

「は?」

『老以外の竜全部ぶっとばしてここに来たから帰るとこなくなった!』

「え、ちょ、マジで何があった」

『それに関して後悔はない。だからタロウが死んだあとも楽しいように、ちゃんと子供と孫作るんだぞ!シガルとイナイの子供なら強そうだしな!』

「話がぶっ飛び過ぎてる。その前に孫は俺にはどうしようもないし、先の話過ぎる」

『あ、それもそうか』


あっはっはと笑うハク。しかし帰るところなくなったって、大丈夫なのか。

もしかしてそれを気にして無理やりあんな風に振る舞ってるのか?


「ハク、大丈夫?」


そんなハクをシガルが心配そうに気遣う。


『ん、大丈夫だ。満足だ』


今のハクは竜なので表情がいまいち分かり難いが、にかっと笑った気がした。

まあ、ハクがそういうなら大丈夫か。もし困ってるならその時は手を貸そう。


「うん、よかった。シガルが無事で良かった」

「・・・うん、ありがとう、ハク」


ハクの言葉に申し訳なさより嬉しさの方が勝ったらしく、笑顔で改めて礼を言うシガル。

ハクは目を細めながらシガルを撫でる。子竜状態なのに器用だな。


「お、どうやら来たみたいだぞ」


ガラバウが軽く土煙を上げるなにかを見つけ、俺達に伝える。

おそらく騎士と兵たちが来たのだろう。強化を使ってないので、はっきりとは見えないが、馬と、何か犬みたいな物に引かせた荷車なんかが見える。

わんこだ。わんこがいる。


「お仲間が荷物引いてるけど、手伝わなくていいのか?」

「お前、本当にいい加減にしろよ?」


どうやら少し揶揄い過ぎた模様。さっきと違い、割とまじめに怒ったっぽい。

雰囲気が少し違う。


「すまん」

「・・・なんだ、いやに素直に謝ったな」

「本気で怒るような事を言ったみたいだからな」


流石に本気で怒るようなことを言ってしまうのは良くない。誰にだって言ってはいけない事ってのが有る。

こいつにとって、今のはそれのようだ。


「・・・お前、そういうのは分かるのかよ」

「でもお前を揶揄うのは止めない」

「性格悪いなお前!」


ガラバウは文句を言いながら獣化を解く。


「あれ、元に戻んのか?」

「ああ、あのままじゃ何言われっか分かんねえし、めんどくせえ」

「・・ああ、そうだな」


俺はこいつが人族じゃないから揶揄ってる訳じゃないけど、傍から見たら似たように見えるのだろうか。

ちょっと気を付けよう。こいつにああいう事を言うのは周りに人が居ないときだけにしよう。うん。


こちらの存在に気が付いたのか、そこそこの速度で向かってきていた集団が、少しずつ速度を落としているように見える。

俺達の傍まで来ると、完全に停止し、ほぼ先頭にある乗り物に乗っている人物が騎士に手を取ってもらい、降りてくる。


未だに名前すら覚えていない王女様が、こちらに歩いて来た。

ちょっと、驚いた。まさか彼女がこんな事をするとは思ってなかった。少し認識を改める必要があるかもしれない。

けどこの国の騎士達じゃきっと蹂躙されて終わる。精々時間稼ぎが少しできるかどうかだ。それが分かってて来たんだろうか。


「タロウ様、数日振りですね。お元気そうで何よりです。もしよければ現状の説明をして頂けますか?」


俺に頭を下げた後、ニコリと柔らかい笑みを見せながら王女は言った。

この人数の兵の前で王族が頭を下げるって、大丈夫なの?


・・ま、それは俺が考えても仕方ないか。説明か。しなきゃいけないんだよな。

俺はあの惨状にどうしても気持ちが悪くなりながら、王女に顛末を説明をした。シガルが手を握ってくれてなかったら、また吐いていたかもしれない。

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