第141話東の魔物を殲滅します!

位置確認してから数時間は走った。けど、あそこまで走って行くにはまだ少し時間が掛かる。時間はなるべく掛けたくないな。

俺は身体保護をかけて、上空を視認し、転移する。

俺の体は一瞬で周囲の山より高い上空に移動し、そのまま落下する。

落下しながらさっき確認した地点を視認し、森の上空に転移してそのまま落ちる。


木々の枝を折りながら地面に着地し、周囲を確認。

ハイエナのような魔物と、その魔物のいくつかの死体と、陸と上空に居る飛竜という言葉が似合いそうな翼のやたら大きな竜っぽい魔物がいる。

この竜が、たぶんそうだ。こいつが一番魔力が大きいし、東に沢山いるのはこいつらと魔力の質が似ている。


一番近くに居た連中の所に転移したが、どうやら魔物同士で争っていた模様。

いや、争っていたというより、必死に抵抗していたが正しい。ハイエナの死体は数多くあるが、飛竜の死体は一体も無い。


陸に居た連中は突如上空から落ちてきた乱入者に驚き、動きが止まる。

上空を旋回する飛竜はこちらを注視しているのが分かる。


ハイエナと飛竜は何を思ったのか俺をお互い共通の敵と認識したらしく、どちらも俺に向かって威嚇する。

数は両方合わせて60ほど。

数匹の魔物は、既に俺に飛びかかって来ようとしている。


『暴風よ、吹き荒れろ。すべてを飲み込み、全てを粉砕しろ』


俺は自身の周囲に結界を張り、旋回している飛竜も飲み込める大きな竜巻を魔術で作る。

単純に竜巻ではダメージが与えられる気がしなかったので、威力の違う、逆方向の竜巻で竜巻を覆う。

風に吹き飛び、突風に挟まれた魔物は、悲鳴の鳴き声を上げながら拉げて、壊れていく。


ハイエナはそれだけで全て終わらせた。

だが飛竜は何とか風をいなしたらしく、生きている。だが翼は折れ、飛べるようには見えない。

それでも折れた翼を動かし、魔術で風を起こし俺に突撃してくる奴がいた。


俺はそれを剣で真正面から両断。他の飛竜も生きている。なら斬らないと。

俺は視認できる位置にいる飛竜をの傍に転移して斬る。その行為を10回繰り返す。只々作業のように。

飛竜たちは満足に躱す事も出来ず、皆簡単に斬れた。

まず11匹。


次はこちらに高速で飛んできている群れに目を向ける。

まだ少し遠いが、この距離ならいける。

さっきはいきなり竜巻を放ったせいで、周囲の森も滅茶苦茶にしてしまった。

唯一の救いはあれらが争っていたせいか、周囲に生き物があいつら以外殆ど居なかった事ぐらいか。


『暴風よ、四方より出でて、全てを飲み込み一つに交われ』


森の上空に4つの竜巻を発生させ、飛竜以外の被害が出ないように魔術を放つ。

飛竜は突然現れた竜巻になすすべなく呑まれて行き、竜巻は一つに交わる。


俺はそれを確認する前に剣を収め、技工剣を取り出す。

そして、その名を呼ぶ。技工剣を起動させるために。


「―――ステル・ベドルゥク」


真名を呼ばれた剣は、その喜びに震えるように音を鳴らし、刃面の逆方向に回転しながら魔力を周囲からかき集める。

逆螺旋剣で攻撃を放つ時と同じぐらい魔力が集まると、中央の杭が開き、四方にスライドする。


杭に埋め込まれた4つの魔力水晶と、杭の根元に有る魔力水晶が強く輝き、暴力的なまでに魔力を俺から奪わんと唸りを上げながら魔力の剣を形成する。

俺はそれを魔術制御で抑え、世界から引き出した魔力を剣に注ぎ込んでいく。


すると剣は腹がいっぱいになったと満足げに水晶の光を一層輝かせ、我を振るえと唸る。

俺はそれを確認し、竜巻を見る。その中にいる魔物を。


「切り裂け」


短く、でも確かな意志を込めて、剣の力を解放して切り上げる。

切り上げた軌道に放たれた『膨大な魔力による純粋な力の斬撃』は上空にまだ我有と暴威を振るっていた竜巻ごと、そこに居た魔物を全て消し飛ばした。


相変わらず、馬鹿げた威力だ。どんな努力もぶち壊せそうな攻撃だ。

初めて起動させたときは一度振るだけで倒れた。だが今ならまだ振るえる。これが有ればたいていの魔物は問題ない。

数なんて、話にならない。それこそセルエスさん並みの魔術師か、リンさん並みの理不尽でもなければこの攻撃は防げない。


今のが90ほど。あと東に80ほど。それを殲滅すれば、まずは終わりだ。もう、近くには居ない。少なくとも、俺の探知で届く範囲には居ない。

すぐに、終わらせる。こいつらがこっちに来るとは限らない。何処か他の所に行く前に、終わらせる。

俺はまた上空に転移し、飛竜たちがたむろしている街らしき残骸の所を視認し、その入り口らしき所に転移する。


転移して、見てしまった。強化した視力でも、遠くてよくわからなかった惨劇を、しっかりと見てしまった。

惨劇だ。それ以外の言葉でどう表せというのか。大人も子供も老人も赤ん坊も男も女もみんなみんな死んだのだと、この街のいたるところにあるであろう血痕と、食い散らかしたであろう肉と骨がすべてを物語っている。

入口から見えるだけで、それだけで、理解できる。こには死が充満していると。

街中だけではなく、周囲にも血の匂いが充満し、ちぎれ飛んだのであろう腕や足なども散乱していた。


「ふざ・・けんな・・・」


生きていたんだ。当たり前に生きていたんだ。皆、たった数日前まで生きていたんだ。

それが、こいつらがここに来たことで、全てが終わった。

数えきれない量の人間が、こいつらに殺された。きっと、餌として。今後の餌として。


いきなり大量の餌を手に入れた喜びに震えるように、ギャーギャーと鳴き声を上げながら肉をむさぼる竜は俺に気が付くのが遅れた。

気が付いた瞬間には、真名で起動されている技工剣の横なぎの一振りに触れ、跡形もなく消し飛ぶ。


それを皮切りに周囲の飛竜が俺に攻撃を仕掛けてくる。

馬鹿の一つ覚えのような上空からの急降下に対し、技工剣を突き出す。技工剣が触れた部分の周囲は吹き飛び、首と翼だけが残る。

横合いから噛みついて来ようとするその牙に剣を添える。頭だけではなく、首から少し下まで吹き飛ぶ。

その死体ごと切り裂かんと足の爪を振るう飛竜に、足先から切り裂くように剣を振りあげると、剣からわずかに離れた魔力の光に触れた部分も全て吹き飛び、左右の翼だけが残る。


飛竜たちが大きく騒ぎ始める。きっと仲間を呼んでいるのだろう。敵が来たと。排除すべきものが来たと。

ああ、呼んでくれ。全部呼んで来い。全部吹き飛ばしてやる。


俺は見える範囲に居る竜の傍に踏み込み、技工剣を振るう。

太刀筋も何もない、ただ剣をぶつけるだけの無様な剣。それだけで竜は剣が触れた部分が跡形もなく消し飛んでいく。

力を込めて振るうと範囲が広がり、横なぎに斬ると飛竜一体のほぼすべてが吹き飛ぶ。

馬鹿げた剣だ。酷い剣だ。お前たちの全てを無視する剣だ。今まで鍛えた技も、体も、心も、何も使わない無様な剣で、お前たちを殺してる。

剣を制御するために魔術は使っているが、ただそれだけだ。


分かってるさ、お前達にとってただ縄張りを広げただけか、餌を取りに来ただけだって事ぐらい。

これは生存競争だ。お前たちは勝ち、この街の住民は負けた。

この街の人達とは関係が無い俺が、お前達を恨むのはお門違いだ。

何よりこれは俺がまいた種だ。お前達がここに来るきっかけを作ったのは俺だ。悪いのは俺だ。


だからこれはただの八つ当たりだ。情けないぐらい自分勝手な八つ当たりだ。

この死体の山の中で、血の中で、死の中で、自分のせいで死んだ人達に対する贖罪を求めようなんていう、ただの我儘で傲慢な行為だ。

もう取り返しなんてつかない事に許しを求めてるんだ。お前らを倒すことで。お前らを殺す事で。

こんな無様な剣で。


なんて、醜い。







半数ほど減らしたあたりで飛竜たちの様子がおかしくなり、上空に皆飛び立ち、東に向かって移動しだす。

逃げる気か。

それはダメだ、逃がさない。逃がせない。逃がすわけにはいかない。

ここまでやったんだ。お前たちも、俺も。なら、俺はお前達を追いかける。お前達が逃げる者も襲ったように、逃げるお前達を逃がさない。


「開け」


小さく呟くと、剣は真価を発揮できる喜びに打ち震えるように回転しながら大きな唸りを上げ、螺旋の刃は花開く。

強く輝く魔力の光を抱えて、逃げた連中前方斜め下に転移する。


「切り裂き、全てを吹き飛ばせ!」


技工剣は回転しながら大きな魔力の花を咲かせ、魔力の花は前方にあるすべてを飲み込む。

飲み込まれた飛竜達は切断ではなく、消滅。

回転して迫ってくる、自分の体よりはるかに大きな魔力の花に飲み込まれ、そこに居たすべての飛竜は消滅した。


後にはとても大きな花が、滅んだ街に添えられるように、街と同じかそれ以上の大きさで咲く魔力の花がしばらく残っただけだった。

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