第140話森での決戦ですか?

「全員配置につきました」

「作戦も伝え終わってますね?」

「はい。視認距離になったら魔術師の初撃で数を減らし、その後は光源確保、直接戦闘の組合員が最低でも二人一組となって半数が突撃、負傷した場合、速やかに後ろに控えている面子と交代」

「はい、問題ありませんね。では―――」


貴方も配置についてくださいと言おうとしたとき、報告をしてきた職員の顔がある方向を見て止まっていた。

驚きに染まった顔で一点を見つめる様に言葉が止まり、同じ方向を見る。


東の空に大きな竜巻が見える。なんだあれは。何が起こっている。

しばらく眺めていると竜巻は収まり、ばらばらと何かが落ちているように見えた。遠すぎてよく分からない。


「し、支部長、あれは一体」

「分かりません。ただの自然災害・・でしょうか」


まさかとは思う。東には少年が向かっている。あの竜巻をあの少年が出した?

単独戦闘で、詠唱する時間など・・・いや、彼は転移魔術を無詠唱で使えた。有りえなくはない。

だがそれでも、あんな規模の魔術をやるには複数人で戦わなければ無理だ。

いや、一人でも時間をかければ不可能ではない。だが彼は単独戦闘のはずだ。


困惑の心で空を見ていると、同じく気が付いた者達が皆一様に、おかしな光景を見た。

皆が動揺し騒ぎ出す。


「・・・・今のは、なんだ」


4つの竜巻が合わさり、その地点を大きな、可視化された純粋な力になった魔力がその竜巻を切った。

有りえない規模の、純粋な『魔力の力』による攻撃。


私は、私達は何を見たんだ。いったい今のは何なんだ。

あんな攻撃、どんな魔物も、どんな人間も耐えられない。有りえない。

今遠い空で起こった出来事が信じられず茫然としていたが、すぐに気を取り直す。


今は呆けている場合ではない。こちらはこちらで一大事なんだ。今は自分たちのやるべきことをやらねば。


「お前たち!呆けている場合では有りませんよ!」


なるだけ遠くまで響くように叫ぶ。

そこそこ広めに展開しているので端まで届くとは思えないが、とりあえず目の届く範囲の者達は森に意識を戻している。


もう地響きが聞こえる。すぐに見える距離になる。今はここを乗り切らなければ、東の空の真実など知る事も出来ない。

皆が息を呑むのが分かる。


「見えた!放て!!」


魔術師達がそれぞれ、火系以外の得意な物で魔物に魔術を放つ。

森で火事は勘弁してほしいので、事前に火は絶対使うなと言っている。


「よし、いくらかは削いだ!この後は作戦通りに!」


叫び、剣を抜き走る。魔物と組合員が完全に接敵し、ほぼ乱戦の様相となっていく。

だが人対人ではなく、人対魔物なおかげで変な混乱は起こらない。

魔物の攻撃に負傷するものが出ながらも、着々と数を減らしていく。


「無理はするな!負傷をしたら必ず後退しろ!死ぬような怪我をするまで耐えるな!」


魔物を切り倒しながら叫び、突き進む。

心が高揚する。久々の戦闘で気分が高まっていくのが分かる。

魔物の動きが遅い。何十匹でも切れる気がする。


口元に笑いを見せながら斬り進む。

両断。切り上げ。袈裟懸け。柄で打ち上げた後叩き潰す。剣を振った後に飛んできた魔物の眉間を的確に蹴り飛ばす。別方向からの魔物の頭を肘で撃ち落とし、剣を突き刺す。


「この程度なら、何とかなりそうですね」


周りを見つつ戦っているが、致命の攻撃を受けるようなものは今のところいない。

負傷者もきちんと後退しているようだし、隙間から抜け出た魔物も、後ろに下がった者達が数で囲み対応している。


いける。これならそう時間もかからずに終わらせられる。


「全員気合を入れなさい!この戦い、完全に勝ちが見えましたよ!!」


初撃を制し、夜中という不利を魔術師の力によって無くす。多数の人員による広範囲配置。交代人員有り。

こいつらの為に集めた人間ではなかったが、とにかく人を集めたのが上手くいった。

東の出来事を知ってから集めたので間に合ったが、この魔物が現れてからでは間に合わなかった。


その東には今不可解な出来事が起こっている。王女殿下が少し心配だ。

ただ、あれがあの少年の仕業なのだとしたら、彼の力は異常の一言だ。


化け物に鍛えられた化け物、という事だろうか。

あんなもの、化け物という以外に何と言えというのか。少なくとも人のなせる技とは思えない。


ここが済めばダンだけでも誘って・・・いや、やめておこう。

あれだけ父を心配する娘の気持ちを無視して行ける男ではないだろう。私一人で行くしかない。

それにこの戦闘が終わったからといって、ここが安全とは限らない。

任せられる人間が要る。彼ならば良いだろう。


私はこの時、上手くいきすぎて気が緩んだのかもしれない。だから気が付くのが遅れた。

空から飛来する、魔物の存在に。


「ぎゃああ!」

「うわああああああああ!」

「きゃあああああ!」


そこかしこで悲鳴と土埃が起こる。何が起こったのかと疑問を思ったその時悪寒が走る。

その場から急いで飛びのくと、なにかの足が地面を抉り取って、空に飛びあがる。


「バハバラカ!」


空を見上げると、複数のバハバラカが飛んでいた。まるで餌を見定めるように、私達の上空を何十匹も飛んでいる。


「そんな、馬鹿な!監視兵はなにを・・・・!」


口にしてから気が付く。うちの国の監視は兵の目で、今は夜中だ。

亜竜が群れとはいえ見える距離になるにはそこそこ近づかないと分からない。

その上連中は空を高速で移動できる。見えてからここに報告するより、魔物がたどり着く方が早い。

王都が無事な様子から察するに、こいつらも森の向こうから来たのだろう。


「くそ、ここにきてこれか!負傷者多数で戦える魔物ではないぞ!」


ゲレヤもまだ殲滅できたわけでは無い。まだまだ数は居る。その上であれも相手か。

唯一の救いは、魔物同士が連携を取ることも無ければ共闘もしない事。あの亜竜にとって、地を這う魔物も同じく餌だという事だ。


「10体ぐらいならどうにかなるが、流石にこの状況で40体ほどは厳しい」


数えるとだいたい40ほどだった。ダンと二人で死ぬまで戦って半数は減らせるだろう。

なんていう悲しい結論しか出てこない。


今も組合員は突如現れた亜竜に驚き、ゲレヤの対応も崩れ始めている。

まずい。非常にまずい。

このままでは大半が食われて終わる。食われずとも予備の餌になる。


今も亜竜の急降下に対応できず、死者は出ずとも完全な戦闘不能者が出始めている。

自身も向かって来るゲレヤに対応しながら、上空の亜竜の突撃も警戒するが。

だが、どちらかならばともかく、両方相手にして亜竜の降下に対応するのは厳しい。

なにか、何か手は無いか。

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