第138話支部長は事態の収束の為に奔走するのですか?

「ダン、私は少しここを離れます。申し訳ありませんが、私の名前で人を集めていただけますか?」

「分かった。事情は?」

「あなたの目に適う腕利きで、頭も落ち着いた人物ならば。後はとりあえず私が人を集めていると」

「あいよ」


ダンは軽く応え、すぐに組合を出ていく。

こうやって話したのは久々だが、やはり彼は心地いい。

一時は自分が男色の気が有るのかと疑ってしまったぐらい、彼の傍にいると心が落ち着く。


「さて、私は私の出来る事をやらねば」


組合の職員に軽く事情と、この場を離れる事を伝え、久々に魔術強化を使って走る。


「こんな事するのは久々ですね。急いで走るなんて本当に何年ぶりでしょうか」


不謹慎だが若い頃を思い出すようで、少し楽しい。


「さて、あの愚王は起きてますかね?」


流石にこの時間にぐうたら寝てるとは思いたくはないが、あの男の事だ。

無くはないと思ってしまうのが、とても悲しい。






しばらく走り、王城にたどり着く。今回は正門から入ったほうがいいな。事が事だ。

精々事の重大さに苦しんでもらおう。私が正門から入っていくことは兵と騎士にも伝わるだろうし、私が走ってきたこと自体が一大事だと知らせているようなものだ。


「夜分すまない。アマラナ・ヴェル・ヴァダラハマだ。開けてくれ」

「はっ!」


兵は化け物に遭遇したような表情で返事をし、門を開ける。


「ご苦労」

「ほっ、恐縮です!」


本当に怖がっているあたり、困ったものだ。私がこの調子になって何年たったのか知っているだろうに。

いい加減昔のような事はしないと信じてほしいものだ。まあ、この辺は自業自得か。


すれ違う兵と騎士たちに軽く挨拶をしつつ、王室に向かう。

ずんずんと王室に向かって早歩きで歩いていく私を見て、皆一様に驚愕の表情を見せる。

いかん、少し楽しくなってきた。


王室の前までたどり着くと、騎士が立っていた。あいつの名前は何だったかな?

昔素手でのした覚えがあるぐらいしか記憶にないが、今じゃ割と上の方の立場だったか。


「王に話がある」

「こ、これはアマラナ殿下」

「私を殿下と呼ぶな。私は王家の血筋を捨てている」

「はっ、も、申し訳ございません」


しまった、殿下と言われて少し気分が立ってしまった。落ち着け。ここでこの男に言っても仕方がない。


「通せ」

「し、しかし王からは王女以外通すなと」

「緊急事態だ。国が滅んで構わんなら帰るぞ」

「く、国がですか」


引きこもり要求に至極真面目に返し、まだ戸惑う騎士を押しのけ王室のドアを開ける。


「なんだ、なにか・・・貴様、何しに来た」

「ずいぶんとご挨拶ですね叔父上」

「笑いに来たのか?」

「まさか。母上ならば大笑いされたでしょう。ここに連れてきてあげられないのが残念です」


老けたな。老人という言葉がとても似合う。つい最近見かけたときにはまだ活力ある顔をしていたのに、今や疲れた老人そのものの顔だ。

流石にウムルという国に敵対行動をとり、そのうえで竜に見捨てられればこの愚王も堪えたか。


「姉ならば、この事態をどうしたかの」

「少なくともその身をもってウムルに敵対する愚行をするようなことは、流石にしないでしょうね」


謁見の場での出来事は、私の息がかかった者から事細かに報告を受けている。

余りの酷さに頭を抱えた。こんな男のせいで母が死んだと思うと、もはや笑いが出てくる。


「あなたを馬鹿にしたいのは山々ですが、今はそんな場合ではありません」

「一体何の用だ・・・」

「東にあった街が壊滅したようです。住民の生死は不明ですが、おそらくほぼ全滅でしょう」

「なっ、何が起こったらそうなる!」

「貴方が竜に見放されたからですよ。その街を100を超える亜竜が、バハバラカが群れで襲ったようです。何の準備も無く大量の亜竜に襲われ、どうにかなるとは思えません。そしてこのタイミングで街が襲われた原因は、考えればすぐに分かります」


以前から何度も言ったはずだ。大昔から竜がこの国の外敵を排除していたとしても、意思疎通できていない存在を当てにしていれば、いつかこういう日が来ると。

そして意思疎通をした結果がこれだ。竜に見放された末路がこれだ。


「く・・・竜か!あの男か!あの男さえ現れなければ!」

「タロウ。タナカ・タロウですか?」

「ああそうだ!あの男さえこの国に来なければ!」

「来なければ、今は襲われなかったかもしれませんね。ですが私達が生きている間に見放されないとは限らない。

そうなった時、我々を助けてくれる国も無く、魔物を退治する準備も無く、騎士も兵も練度が低い。

こんな状態でどうするつもりですか?」


逆に今はウムルに助けを求められる。ウムルの英雄に鍛えられた少年がここにいる。

たったそれだけでも希望がある。この男はそれさえ分かってない。


「ぐっ!」

「昔、何度も言いましたよね。これがその結果なだけです。竜のせいではない。ウムルのせいではない。ましてやあの少年のせいでもない。この状況は貴方が作り出したんですよ、国王陛下」


愚王に現実を突きつける。お前が悪いのだと。お前の愚行の結果が全てなのだと。

その結果が貴族を、騎士を、兵を、この程度の物にしてしまったのだと。


身分の差に、騎士が横暴に振る舞う事に民は簡単には逆らえない。

だが、組合員のほとんどは、この国の兵に勝てる。騎士にも勝てる人間はざらにいる。

この国の兵は。この国の騎士はその程度だ。自身の後ろ盾と身分が無ければ、その程度の存在だ。

この状況になっては、ただの壁にしかならない程度の存在だ。


「人のせいにして引きこもるのは結構ですが、兵は動かしてください。壁程度にはなるでしょう」

「なっ、お前」

「今まで民を人として扱っていなかった騎士にやるべき時が来たのです。存分に働いてもらいます」

「そ、そんな事、許可できると思っているのか!」

「別にしなくていいですよ?ただ、ここに至ってまで何もしなかった騎士と国王に、民はどういう反応を見せるでしょうね?もはや竜の加護も無くなった国王陛下に、そしてそのご息女に」

「―――!」


民が不当な扱いを受けても黙っていられたのは竜の加護が有ったからだ。この国は外敵から身を守ってもらえるという飴が有ったからだ。

国王が竜の加護を受け継ぐものだと、そんな事が信じてこられたからだ。

今回の出来事でそれが幻想だったという事を知ることになる。そして現実として、竜がこの国を守らない事が遠くないうちに国内外に伝わる。


それを考えればウムルに属した事だけは、この王にしては良い事をした。

今この国に手を出すのは、ウムルに仕掛けるのと同意だ。


「分かりました。その役目、私がやります」

「おや、王女殿下」

「クエル!?」


誰か来てるとは思ったが、王女殿下だったか。

おや?つい最近までこの男と似たような雰囲気を持っていた記憶が有るが、なかなかどうして、良い空気を纏っている。

この愚王、娘には恵まれたようだ。


「お久しぶりです、アマグラヴァスダラナ様」

「その名はもう捨ててます。私はアマラナです」

「分かりました。申し訳ありません」


昔捨てた名を呼ばれ、少し驚く。私の名をこの子が知っているとは思わなった。

そして素直に謝罪されたことにも。


「あなたが、王の代わりに号令をかけるのですか?」

「はい、私が矢面に立ち、騎士の、兵の、その恨みも引き受けましょう。私自身も前線に出ます」

「クエル、何を言っている!亜竜だぞ!死んでしまう!」


驚いた。この子、本当にこの男の娘か。


「前線がどのような場か、ご理解されていますか?」

「ええ、ですが恐れることなどありません。恐れてはなりません。私は上に立つ者の義務を果たせぬ程度では話にならないのです」


強く握られた手は震えているのが分かる。

いや、手だけではなく、体が震えているのが分かる。それを押して義務を果たさんと、凛と立っている。

この国の未来は暗いと思っていたが、良い後継ぎがいるようだ。


「分かりました、騎士達の動員は任せます。他の誰でもない、あなたに任せます」

「承りました」


優雅な動作で礼をする彼女を見て、彼女こそが王座に座っているべきだと思えた。

いや、事実そうなるかもしれない。事が無事に終われば、おそらくそれが現実になるだろう。


「た、大変です!」


話がまとまりかけていた所で、兵が慌てて王室に入ってきた。

亜竜がもうここまで来たのか?


「無礼な!ここをどこと心えむぐ!」


状況を理解せず、ただ自分の持つ権限を振るう愚王に冷たい目を向け、その口を手で塞ぐ。


「気にしないでください。どうぞ」

「え、あ、あの、はい」


兵は王に対する私の態度に驚きつつ、伝達事項を話す。

城の監視兵が森を見ていた所、砂埃が上がっているのが見えた。

遠見の魔術が使える者が観測したところ、大量の魔物が迫っているのが見えたそうだ。

数は300ほど。亜竜100よりはよっぽど楽だが、比べたら楽なだけだ。しかも同時に来られたら目も当てられない。


「困り、ましたね」


まずい。これは本気でまずい。

亜竜がここに来るのが遅いならまだいい。もし同時に、いや、同時でなくとも近い間隔でこられれば戦う余力などあるかどうか。


「人は集めているのでしょう?」

「え、ええ」


王女殿下の問いに答える。だが足りない。だからといって王都中の人間を集めたところで意味はない。戦える人間でなければ簡単に死ぬ。特に東には向かわせても無駄死にだ。


「集めた人員は森に充てて下さい。私は兵を伴って東に向かいます」


王女殿下が信じられないことを言い出した。まさか時間稼ぎで死ぬつもりなのか?


「死ぬ気、ですか?」

「いえ、その代り条件があります」

「なんでしょう」

「だ・・・タロウ様を東に向かわせてください。それだけでも、勝機はあります」


どうやら王女殿下は少年を買っているようだ。彼ならなんとかできると思っている。

あの少年が自分が見ているよりも強いのだろうという事は流石に理解している。竜に勝った事実がそれを物語っているが、それでも一人でどうにかなるとは思えない。

私には、死地に向かうようにしか、思えない。


「それで、いいのですか?」

「ええ。森の方は組合員でどうにかなりますか?」

「はい、ゲレヤならば、王都中の人員を集めれば300ならどうにかできます」

「では、そのようにお願いします。彼は王城には来ないでしょうが、組合の招集ならきっと行くと思います」


それは確かに。彼少し、お人よしの部類だ。ガラバウのあの対応にも関わらず、手加減をしきった上に、治療まで申し出た。

その上仙術までちゃんと教えたと聞いた。この一大事に何もせずに留まる事は無いだろう。


「分かりました。私はもう行きます。ご武運を」

「そちらも、ご無事を祈っています」


無事を祈る、か。王族に言われるとなんだか複雑な気分だが、彼女なら許せる。

さて、次は屋敷に帰って久々に暴れる準備だ。


急いで城を出て、自宅に走る。最近帰ってなかったが、家は変わらず雇った者達がきちんと管理をしてくれているようだ。

帰りの歓迎をされたが、私の様子に気が付き、指示を聞き、すぐに武具の用意をする。


「まさか、支部長もでるんですか?」

「ガラバウですか、窓から入るなと何度も言ったでしょう」

「すみません。なんか正面からだと入れてくれなさそうだったので」


窓から入ってきた少年を軽く叱る。だが、それはそうかもしれない。

私が急いでる様子は伝わっている。入れてはくれないだろう。


「事情は?」

「一応軽く」

「そう、ですか」


それでもここに来たという事は、彼は戦うという事か。まったくこの子は。


「いいのですか?」

「今更ですよ」

「本当に、君に仇討ちは似合いませんね」

「それとこれは別ですよ」


死ぬかもしれないと分かっている戦闘に、自分を排斥するような事をする者もいる街を守るために、彼は戦うと決めた。

本当は優しい子だ。仇討ちなんて本当ならやめさせたい。彼には似合わない。

彼の腕がダメだった時、内心もしかしたらそれでよかったかもしれないと、少し思ってしまったほどだ。


「誰だ!?」


唐突に、部屋の中に魔力が走り、誰かが現れる。とっさに剣を構えて確認すると、あの少年が、タロウ君が立っていた。


「支部長さん、東の魔物は俺が行きます。だから、誰も行かせないで下さい」

「君は・・・」

「お前、なんで!?」


剣を納め、彼の言葉に内心好都合だと思ったが、顔には出さない。

だが、彼の雰囲気が気になる。ガラバウとやったときのような余裕が全く見えない。何かに急き立てられているように見える。


「不躾ですみません。でも、俺行かないといけないんです」


ああ、なんとなくだが、察した。彼はこの結果が彼のせいだと思っているんだ。

なんて勘違いだ。彼はあの愚王の無様を知っているだろう。この結果はあの愚王のせいだと分かるはずだろう。


「・・・君は、何かを勘違いをしていませんか?」

「え?」

「隠しても仕方ないので言ってしまいますが、私は貴方たちの素性を知っています。ハクという少女が竜だという事も」

「っ!」


私は私で彼の事を調べていた。彼の素性も、彼の回りの者が何者なのかも。

いち組合支部長という肩書だけでは知れなかった部分も私は知っている。


「東の街が魔物の襲撃により落ちた。つまりそれは竜が今まで退治していたものが向かってきたと私は認識しています。

王城の一件で本人が・・・いや、本竜ですか?彼女自身の口から、竜自身の口からこの国を見放すと言われたわけですから」

「支部長!?なんだそれ、初耳だぞ!」

「言ってませんでしたもん。一応国家機密なんで。でも、もはや無駄でしょうね。今回の一件は、今までこの国にはあり得なかった事件ですから。

街が落ちたという事は、その街に居た他国の者も死んだ可能性が有るでしょうし」


今後はウムルの助けが無ければ、確実にこの国は無くなる。あの王女様が頑張ってくれれば少しはましな国になるとは思うが。


「街が無くなったんですよね」

「ええ、おそらく無くなったでしょうね」

「人が沢山死んだんですよね」

「ええ、老若男女、貴族平民問わず大量に死んだでしょうね」


淡々と、事実を述べる。少年の表情は悲痛だ。


「なんとも・・・思わないんですか?」

「斬られたいのですか?」


即座に口に出た。平気なわけが無い。あの街には何人も知り合いが居た。友人が居た。弟子も居た。

きっとみんな死んだ。もしかしたら生きているかもなんて希望は持てない。きっと死んでいる。


「何とも思ってないはずがないでしょう。あの街には友人も居ましたし、弟子も居たんです。

きっと皆死んだでしょう。生きているなら、組合職員よりたどり着くのが遅いとは思えませんから」

「っ!す、すみません!」


隠せない怒気と殺気を笑顔でごまかしつつ、想いを伝える。間違いなく伝わっているが、彼は怯えたのではなく、自分の発言に対した謝罪をしただけだ。

やはり、この子、私の威圧を何とも思ってないな。


「やはりあなた、平気なんですね」

「え?」

「・・いえ、それよりも、あなたはやはり何か勘違いしてませんか?」

「勘違いですか?」

「竜が言った言葉を、あなたのせいだと、竜が守らなかったのは貴方のせいだと勘違いしてませんか?」


彼は少しお人好しな気配が有った。だからその思考に至るのも、致し方ないのかもしれない。

だがしかし、それは傲慢というものだ。義務を果たすべき私達を差し置いて、自分のせいなどと。


「それは、勘違いじゃないんです。俺が・・・」

「関係ありません。だいたい今までがお粗末すぎたんです。人が守るべきものを人の手以外の不確定なものに頼っていた。そのツケが回ってきただけですよ。

何度言ってもあの国王も貴族もそのための金を出し渋った報いです。報いを受けたのが連中より国民というのがやるせませんがね」

「でも、竜が、守ってれば」

「押し問答で話になりませんね。あなたはそこでずっと後悔してなさい。ずっと立ち止まっていなさい。勘違いの罪悪感に許しをあげるほどお人よしでは無いんですよ。

私達は私達の手で、人として守るべきものを守るだけです。行きますよガラバウ」

「あ、ああ」


もはやいう事は無い。彼は東に行くつもりのようだし、勝手に行ってもらおう。

もしもの為にガラバウも向かわせて、王女を守ることも伝えておかねば。

彼女を失ってはいけない。あの子はあの愚王の代わりに立ってもらわねば。


「待って・・待ってください」


少年はまだ、私を呼び止める。これ以上何を話す事が有るのか。


「なんですか?今から集まった者達への説明をしなければならないのですが」

「俺が、行きます。俺が街を襲った魔物を対処しに行きます」

「組合の支部長としても、この国の貴族としても、そんな馬鹿な話は受けられませんね」

「でもそれじゃまた沢山の人が死ぬじゃないですか!」


ああ、そうだろう。たくさん死ぬ、東に向かえば人が大量に死ぬ。だが向かわなければもっと死ぬ。

彼はそれを一切無くそうというのか。自身一人が戦場に立ち、全てを成そうというのか。

支部長として、そんな事をやってこいというわけにはいかない。言えるわけが無い。

それに、自分がやらなきゃいけないという言葉に、彼は自分の心の安寧の為に向かおうとしているように見える。

人が死んだことを自分のせいにして、その償いをしなければならないのだと。そうしなければ自分は許されないのだと。

自身がいたった思考の苦痛から逃れようとしている。必要のない苦痛だ。その苦痛は私達がするべき苦痛だ。お前ごとき小僧がするものではない。


「貴方は人を死なせたくないのですか?それとも人が死ぬのを知りたくないだけなのですか?」

「俺は・・・!」

「貴方が罪悪感で動くのは私の知った事ではありません。ですが、誰かが死なないために、誰かを守るために戦うというならともかく、今この瞬間に、自分が気分良くなるために戦うような人物の言葉に頷くほど、頭のいかれた人間ではないのですよ」


我ながら意地悪な事を言ったと思う。

彼が東に行くのはこちらとしては好都合だが、それはそれとして彼の傲慢さに腹が立った。

上の立つ者の矜持を踏みにじり、苦痛を受けるべき人間に、その義務を投げ出させる言葉を出した。

多分私が少年の実力をどこか疑っているせいもあるのだろうが、腹立たしい。


「にぶいなぁ、お前」

「え?」

「しったこっちゃねえって言われてんだよ。好きにしろよ」

「え、なんで」


ガラバウの言葉に少年は茫然としている。


「お前がお前の好き勝手にする分には知ったこっちゃねえよ。けど、お前はあくまで一組合員だし、別に今回の事にお前が責任を被る必要なんかねえって言われてんだよ。ただお前が勝手に一人で行くのを許可も出来ねえ。

別にお前一人で行く必要なんかねえ。街が落ちた責任をお前が負う必要なんかねえ。お前がそのために戦う必要もねえ。

だが、戦うならお前がお前の意志で、お前が守りたいものを守るために戦え。お前がやりたい事のために戦え。許可なんか取るな。お前の思う、お前の正しい事をしろ。ただそんだけの話だろ」


ガラバウが、意地悪な私の発言の補足をする。やっぱりこの子は優しいな。


「・・・お前、俺の事嫌いだったんじゃなかったのか」

「お前がバカすぎてみてられなかったんだよ」

「うっせえ・・・ありがとな」

「はん、とっとと行って死体になってろ。後から回収に行ってやる」

「後からきて、俺の姿に驚けばいい。全滅させて悠々と歩いてくるからな」


少年はガラバウと軽口をたたきあい、転移する。きっと向かったのだろう。

無詠唱転移か。魔術師としては相当な腕だという事は分かった。


彼がいなくなってから、少し罪悪感が沸く。少年は人の死を自分の悲痛として受け止められる子なのだろう。

だからあんな悲壮さで私に許可を求めてきた。人を救う許可を。守る許可を。戦う許可を。

大人げなかったとは思う反面、それでも腹立たしいという気持ちが混在している。

こんな格好をしているせいか、思考が少し昔に戻っている気がする。いかんな。


「今度こそ行きましょう、ガラバウ。事情は道々に。とりあえずダンに合流しましょう」

「はい」


頷くガラバウを連れて、組合に戻る。

少年、自分一人と啖呵を切ったんだ、王女が兵を向かわせる前に何とかして下さいよ?

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