第135話俺は俺の罪の許しを求めました!
どうする。どうすればいい。俺は何をすればいい。
俺は何をしなければならない。何かをしなきゃいけないはずだ。俺は、やらなきゃいけないはずだ。
きっとここに集まった人達は今回の騒動の原因を、一番の要因がなんなのかを知らない。
さっき言ってた貴族の人も、ハクの発言が理由だと思ってる。
違う。
その選択は、竜がした選択じゃない。人がした選択だ。
突き詰めればウムルがした選択になるのかもしれないけど、ハクは俺に選択権を委ねていた。
老竜は俺に決めろと選択肢を渡していた。
けど、俺は自分でその選択をしなかった。しなかったんだ。
イナイに、国を動かす立場の者たちに任せた。その判断を任せた。
その結果がこれだ。街の壊滅と、大量の死者。
これは、俺が、殺したんだ。
さっきから体の震えが収まらない。胃液が上がってくる感覚がものすごく気持ち悪い。地に足がついてる気がしない。体の感覚がおかしい。
気持ち悪い。あの強盗を切り捨てた時とは話が違う。
シガルに目を向けると、心配そうにこちらを見ている。
この子と同じぐらいの子も、沢山いたはずだ。いや、人生これからの人間が大量にいたはずだ。
「―――っ!」
俺は探知魔術を全力で使う。いつものじゃない。魔力の波長を探す、本気の探査を魔術行使を隠匿せず使う。時間をかけてられない。隠匿してる暇なんかない。
魔力が一瞬で広範囲に広がっていき、周囲の人物の目がこちらに向く。
「タロウさん!?」
シガルが驚き、声をあげる。親父さんも何事かと身構えた。一瞬で目の前の人物の中身が入れ替わった。
ああ、この人強いな。冗談じゃないレベルで強い人だなこの人。
でも、足りない。怖いけど怖くない。竜には届かない。なら、行かせるわけにはいかない。
シガルも連れていけない。数が多い。
「親父さん、お願いが有ります」
「・・なんだ、一体。お前何のつもりだ」
この人は出会って間もないが、信用できると思ってる。
あの少年を当たり前に扱う人だ。たった一日二日程度だが、この人の振る舞いは好感が持てた。
「俺が戻るまで、シガルを、頼みます」
「タロウさん!待って!」
「おい、小僧!」
二人の叫びを聞きつつ、探していた人物の元へ、転移する。
「誰だ!?」
俺が転移した瞬間、剣を抜き、構える。
早い。やっぱりこの人、強い。けど、この人でも、足りない。それじゃまだ足りない。
「支部長さん、東の魔物は俺が行きます。だから、誰も行かせないで下さい」
「君は・・・」
「お前、なんで!?」
支部長さんは俺の姿を確認すると剣を収める。少年も傍にいた。
「不躾ですみません。でも、俺行かないといけないんです」
「・・・君は、何かを勘違いをしていませんか?」
「え?」
支部長さんが目を細めて俺を見つめている。その思考は読み取れない。
「隠しても仕方ないので言ってしまいますが、私は貴方たちの素性を知っています。ハクという少女が竜だという事も」
「っ!」
つまりそれは。竜が守らなかった結果だと、この人も理解している。
「東の街が魔物の襲撃により落ちた。つまりそれは竜が今まで退治していたものが向かってきたと私は認識しています。
王城の一件で本人が・・・いや、本竜ですか?彼女自身の口から、竜自身の口からこの国を見放すと言われたわけですから」
「支部長!?なんだそれ、初耳だぞ!」
「言ってませんでしたもん。一応国家機密なんで。でも、もはや無駄でしょうね。今回の一件は、今までこの国にはあり得なかった事件ですから。
街が落ちたという事は、その街に居た他国の者も死んだ可能性が有るでしょうし」
淡々と、感情を感じさせない声で言う支部長。この人、人が死んだことに何も感じないのか?
「街が無くなったんですよね」
「ええ、おそらく無くなったでしょうね」
「人が沢山死んだんですよね」
「ええ、老若男女、貴族平民問わず大量に死んだでしょうね」
どちらの答えも、声のトーンは全く変わらない。
「なんとも・・・思わないんですか?」
あまりにも普通すぎる態度と発言に、そんな悪態が口から出た。
「斬られたいのですか?」
顔つきはにこやかに、声のトーンも変わってない。でも明らかな殺意を持って言い放たれた。
俺が力を持ててなかったら、きっとそれだけで震えあがって腰が砕ける威圧感。
「何とも思ってないはずがないでしょう。あの街には友人も居ましたし、弟子も居たんです。
きっと皆死んだでしょう。生きているなら、組合職員よりたどり着くのが遅いとは思えませんから」
「っ!す、すみません!」
思わず頭を下げる。怖かったからじゃない。この人も被害者なのだと、俺の選択肢の被害者なのだと知ってしまった。
そんな人に俺はあんなことを言ったんだ。なんて、馬鹿な。どこまで馬鹿なんだ俺は。
「やはりあなた、平気なんですね」
「え?」
「・・いえ、それよりも、やはりあなたは何か勘違いしてませんか?」
「勘違いですか?」
「竜が言った言葉を、あなたのせいだと、竜が守らなかったのは貴方のせいだと勘違いしてませんか?」
それは勘違いじゃない。守らないでいいと、ハクは話をつけに行ったはずだ。
そういえばハクが帰ってくるのが遅い。最初に行ったときは朝起きたらもう帰ってきてたのに。
「それは、勘違いじゃないんです。俺が・・・」
「関係ありません。だいたい今までがお粗末すぎたんです。人が守るべきものを人の手以外の不確定なものに頼っていた。そのツケが回ってきただけですよ。
何度言ってもあの国王も貴族もそのための金を出し渋った報いです。報いを受けたのが連中より国民というのがやるせませんがね」
「でも、竜が、守ってれば」
「押し問答で話になりませんね。あなたはそこでずっと後悔してなさい。ずっと立ち止まっていなさい。勘違いの罪悪感に許しをあげるほどお人よしでは無いんですよ。
私達は私達の手で、人として守るべきものを守るだけです。行きますよガラバウ」
「あ、ああ」
支部長は俺に何を言っても無駄だと言い放ち、少年を連れて去ろうとする。
お前が許しを請う意味などないと、言われた。
「待って・・待ってください」
「なんですか?今から集まった者達への説明をしなければならないのですが」
「俺が、行きます。俺が街を襲った魔物を対処しに行きます」
「組合の支部長としても、この国の貴族としても、そんな馬鹿な話は受けられませんね」
「でもそれじゃまた沢山の人が死ぬじゃないですか!」
いやだ。これ以上死なせたくない。目の届かない所で死んだ分に関してはもうどうしようもないけど、この街なら、ここに俺がいるなら守れる範囲は守りたい。
「貴方は人を死なせたくないのですか?それとも人が死ぬのを知りたくないだけなのですか?」
人が死ぬのを知りたくないだけ。そんな、つもりは・・・ないと言えるのか?
いや、違わない。聞きたくないだけだ、知りたくないだけだ。これ以上、誰かが死ぬのを。
けど、だからって、どうしろっていうんだ。
「俺は・・・!」
「貴方が罪悪感で動くのは私の知った事ではありません。ですが、誰かが死なないために、誰かを守るために戦うというならともかく、今この瞬間に、自分が気分良くなるために戦うような人物の言葉に頷くほど、頭のいかれた人間ではないのですよ」
きつい。この人の言葉は俺を抉る。でも事実だ。俺は俺の選択で起こった悲劇から目を背けたいと、少しでも心を軽くしたいと思ってる。
気が付かされてしまった以上、そこから目を背けられない。
俯いて唇をかむ。なんなんだ。俺は何をしてるんだ。
「にぶいなぁ、お前」
「え?」
少年が馬鹿だなこいつといった感じで俺を見ていた。
「しったこっちゃねえって言われてんだよ。好きにしろよ」
「え、なんで」
意味が解らない。俺が俺の好きなようにしようというのを、責められているのではないのか。
「お前がお前の好き勝手にする分には知ったこっちゃねえよ。けど、お前はあくまで一組合員だし、別に今回の事にお前が責任を被る必要なんかねえって言われてんだよ。ただお前が勝手に一人で行くのを許可も出来ねえ。
別にお前一人で行く必要なんかねえ。街が落ちた責任をお前が負う必要なんかねえ。お前がそのために戦う必要もねえ。
だが、戦うならお前がお前の意志で、お前が守りたいものを守るために戦え。お前がやりたい事のために戦え。許可なんか取るな。お前の思う、お前の正しい事をしろ。ただそんだけの話だろ」
俺の好きなように。俺の守りたいように。俺が正しいと思うように。俺の意志で。俺の独断で。
俺が、戦いたいなら勝手に戦え。戦って構わない。そう言われた。
「・・・お前、俺の事嫌いだったんじゃなかったのか」
「お前がバカすぎてみてられなかったんだよ」
「うっせえ・・・ありがとな」
「はん、とっとと行って死体になってろ。後から回収に行ってやる」
「後からきて、俺の姿に驚けばいい。全滅させて悠々と歩いてくるからな」
俺は少年に悪態を返し、転移を使って街の東まで飛ぶ。兵に身分証を見せて外に出たら、全力で探知を使いつつ、強化魔術をかけながら東に向かって走る。
いる。凄い数の集団。魔力を放出させてる集団が、あれがそうか。
もう、そんなに遠くない所まで迫ってる。
お前らに直接恨みはない。けどこれ以上被害は出させない。
シガルを守るために。これからのイナイの為に。街に住む人の為に。
悪いけど、倒させてもらう。
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