第134話大事件の内容をお聞きします!

なにか、宿が騒がしい。いや、宿だけじゃなく、外ももう夜中だというのに人が沢山動いている。何かあったんだろうか。

ベッドに落ちつけていた腰を上げ、窓の外を見ると恐怖、焦り、困惑、決意をしたような顔した人など、いろんな人が走り回っていた。


「何かあった?」


首を傾げながら呟く。


「どうしたの、タロウさん」


窓を見て困惑の声を呟く俺の傍まで来て、同じ光景を見に来るシガル。


「事件、かな」

「そんな感じだね」


人が、老若男女問わず、様々な人が慌てて動いている。

中には夜逃げのような恰好をしている人もいる。

何が起こったのか確かめた方がいいかもしれない。

ここにも、誰かが来る気配が有るから、事情を知っているなら聞いてみよう。

誰かがドアの前にきて、どんどんと叩く。


「はいはーい」


俺は軽く応え、ドアを開ける。そこにはボロッカロさんが立っていた。


「タロウ緊急事態だ。今から組合に来れるか?」

「行けますけど、何かあったんですか?」

「魔物だ。魔物が大量に出た。東の街が壊滅したらしい」


街が壊滅?穏やかじゃない話だ。そこの住む人たちはどうなったんだろうか。

いや、壊滅という事はそういう事なのだろうか・・・・。


「組合に着いたら支部長が詳しい話をしてくれるそうだ」

「分かりました、すぐ行った方が良いですよね」

「ああ、俺はもう少し声をかけてから行くけど、すぐ行く」

「分かりました。では後で」


魔物か。街が壊滅するぐらいの数とは、どれぐらいなんだろ。

街が壊滅って事は、そこに居た戦える人達もやられたという事だろうし、かなりの数なのだろうな。


「シガル、今回危なそ」

「いくよ」


危なそうだから、俺一人で行って来ると言おうとしたら、途中で制された。


「ついていくよ。それにタロウさんの横の方が安全だよ」

「ん、わかった」


そうだな。目の届かない所より、目の届くところに居た方が安全かもしれない。

ここに居てもらって、ここが襲われたら目も当てられないよな。


俺達は身支度を手早く済ませ、組合に行こうとドアを開けると、ばったり獣化族の少年とあった。


「よう、お前も行くのか?」

「当たり前だろ。支部長が呼んでんだぞ」

「お前、支部長と親父さんにはなんか大人しいよな」

「知らん。気のせいだ」


少年は俺の言葉を否定して、とっとと外に出て行った。

何か焦っているように感じたけど、どうしたんだろう。


「なんか、分かんないことだらけだな」


そういえば、結局あいつの名前聞いてないや。まあいいか。今度ボロッカロさんにでも教えてもらおう。


「行こうか、シガル」

「うん!」


焦り、走り回る人々を見まわしながら、速足で組合に向かった。








組合に着くと、かなりの量の人間が居た。王都の組合員全員いるのだろうか?4、500は居るはずだ。

いや、ボロッカロさん達みたいに走り回ってる人が居るなら、まだまだ増えるのだろう。

皆何か、不安そうな感じで話し合っている。


「こんな時間に、こんなに集めるなんて・・・それだけの事って事なのかな」

「なんか、人がすごくて、気圧されるね」


このどこかにあの少年も混ざっているのだろうか。


「よ、お前も来たのか」


肩を叩かれ、声をかけられる。見ると、宿屋の親父だった。良くこの中から見つけられたな。

ただその恰好は、宿屋の親父ではなく戦士という言葉が似合う格好だった。厳つい見た目にとても似合いな大剣を持っている。


「親父さん、組合員だったんですか?」

「一応籍を残しててな。退いて大分経つが、鍛錬はずっとしてたからちゃんと動けるぜ」


どうやら親父さんは引退勢だった模様。そんな人まで集めるなんて、何事だろう。


「引退した人も出張ってきてるんですね」

「まあ、な。それだけ異常事態って事だ」

「俺、何が起こってるんか全くわかってないんですけど、何か知ってます?」

「ここにいる連中は、だいたいそうだよ。まあ俺は知ってるけど」


どうやら大半の人は事情を知らされず、だが異常事態という事で集まったようだ。

親父さんは流石引退勢という所か、事情を知る人脈か何かが合った感じかな?


「こういう事って、良くあるんですか?」

「滅多にねえな。特に今回に関しては、本気で異常事態だ」


滅多にない上に、その滅多にない以上に問題なのか。

事情知ってるなら教えてもらえるかな?


「もしよければ、教えてもらえます?」


親父さんにお願いすると、少し迷った表情を見せる。


「うーん、もう少しすればアマの奴が説明してくれると思うけど・・ま、いっか」


アマ?誰だろう。職員さんの誰かの名前だろうか。


「東の街・・名前なんだったかな?忘れたけど東にそこそこ大きな街が有ったんだが、大量の魔物に襲われたらしい。

おそらく壊滅は免れない規模にな。死者は・・・全滅してたなら数10万は堅いだろうな。下手すりゃ100万行ってるかもな」

「・・・え?」


数・・十・・・万?100万?

え、ちょっと待って。脳が追いつかない。

死者の数が、冗談じゃなさすぎる


「その街を壊滅した魔物が、こっちに向かってくる可能性がある。いや、そのうち間違いなく来るだろう。

なにせ、対策してる他の国より、竜に頼りきりだったこの国のほうが潰しやすいからな。

たとえ他の国に行っても、引き返してこっちに来るだろう。なわばりを広げに、餌を求めに、な」

「竜に、頼り、きり、だった・・・」


いやな、予感が、する。

聞けば、すごく後悔するような、とてもとても嫌な予感が、する。


「ああ、そうだ。この間、王城に竜が現れたのは知ってるだろ?

アマのやつは一応貴族でな。その場には居なかったが、竜が王城でこの国を守らないと言った事を知っていてな。

おそらくこれは、今まで竜が対処していた魔物が向かってきた結果だろうとの事だ」


竜が、対処、しなかった、から。

俺が、竜に、今まで通りじゃなく、守らなくていいと、言ったから。

だから、竜は、守らなくなった?


「この国は竜を崇めることを殆どしなくなったくせに、その恩恵だけはあやかろうとしていた。これがそのツケだろうな。

竜という存在が無くなり、今まで対処なんて考えてなかった危険が迫ってくる。俺はこの街を、娘を守るために、久々に剣を振るうってわけだ」


親父さんの言葉が遠く聞こえる。それよりも、あの時の、今後の国の方針の為に竜に通してもらうと言った話を、俺が頷いた言葉を思い出して、頭の中に渦巻いていた。


『老竜には、聖地以外は人の手に任せるように話しておいてもらえないか?』

『分かった。伝えておく。タロウもそれで良いんだろ?』


俺はあれに深く考えずに頷いた。俺はあの時、脅威とういのは他国から攻めてくる事だけだと思っていた。

けど、その結果はどうだ。

100万の死者?街が壊滅?俺の選択で?


「うそ・・・だろ・・・」


俺は思わずよろめき、傍に有った壁にもたれかかる。


「おい、小僧、どうした?」

「タロウさん!?」


俺の様子の変わりように、二人が心配気に声をかけてくる。その言葉が遠く、とても遠く感じる。


死んだ。人が死んだ。人が大量に死んだ。

俺の、せいで。俺のせいで、死んだ。


俺の考えなしの選択のせいで、死んだんだ。

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