第131話久々に技工の腕を使う時です!

あの後、ボロッカロさんとベレドレラさんの二人と軽く組手をして、少年が起き上がるのを待った。

二人がばてる頃に少年がもぞもぞと動き出し、起き上がる。


「ん・・く・・か、体いてぇ・・・」

「お、起きたか」


どうやら起き上がったものの、体に痛みが走っているようだ。


「起きたかじゃねえよ・・・お前、もし死んだらどうするつもりだったんだよ」


少年は起き上がり早々に恨み言を言う。


「大丈夫大丈夫」

「なんなんだお前!本当にむかつくな!」


軽く返した俺にまた吠える少年。だがしかし体が上手く動かず立ち上がれずにいる。生まれたての小鹿のようだ。


「あんよがじょーず」

「お前殴る!絶対いつか殴る!」


流石に煽りすぎたであろうか。

俺、アロネスさんとリンさんに似てきたかもしれない。

多分ここにイナイが居ないから、悪ふざけを止めてくれる人間が居ないせいだ。

シガルはこういう時ニコニコ眺めてるだけだからな。


「ふん!」

「お」


少年は体内の気功を回し、通常の状態で固定する。

手足の震えも止まり、立ち上がれるようになった。


「おお、うまいうまい」

「ふん、コツ掴めばなんてことはないな」


俺はそれ出来るの、たしか1か月はかかったんだけどな。やっぱこいつ才能有りすぎだろ。むかつく。

まあ、不完全でも体内の気功の力自体は感じ取れてただろうから、その分の違いが出てるんだろうけど。


「まあ、お前の体さっきの負荷で疲れてるから、それずっとやると筋肉断裂するけどな」

「は?え?また冗談か?」

「うんにゃ、仙術の身体強化は、魔術と違って体への補助はない。だから強化で無理した分の負担は必ずかかる。だから鍛えてないと反動がきついんだけど・・・お前には関係ないな」

「獣化すれば問題もなさそうだ。今なら昨日みたいな無様は晒さねえぞ」


ぎろりとこちらを見て、歯を見せてゆがんだ笑いを見せる。威嚇のつもりだろうか。


「あっはっはっはっはっは」


俺は棒読みの笑い方で少年の発言を笑う。


「なんで笑う!つーか、むかつく笑い方だなてめえ!」

「お前気が付いて無かったのか。俺お前との一戦、仙術の強化使ったのは、獣化後の最初の攻撃よけた一回だけだぞ」

「なっ」

「それでもそんな大きな口叩くのか?」

「ちぃ!」


俺は腕を組んで、俺こそ。実はそんなに余裕では無かった。意地になってギリギリの戦いをしていた所がある。

技術で俺が勝っていたからといって、俺の倍ぐらい速度のあるこいつの攻撃を余裕でさばけたかといえば、そんなわけはない。

一発でも当たれば致命傷。それが分かっていながら俺は仙術強化を使わなかった。だってそれがあの人のスタイルだから。

俺を教えたあの人の。弱者のまま強者を討つ技術を磨いたあの人の業だから。無手でやるなら、その意地を通したかった。

生まれながらの強者を、優れた身体能力をもつ強者を、持たざる者である弱者が倒す。そのための力だ。


「ぜえ・・・ぜえ・・・げ、元気だな・・お前・・」

「ふう・・・ふう・・・ふ、二人がかりで一本も取れないなんて・・」


組手で疲れて休んでいた二人が、少年と騒ぐ俺を見てそんな言葉を口に出す。


「・・・え、何、お前ら二人がかりでこいつとやってたのか?」

「さ、最初は一人ずつ・・だったんだよ・・・・何しても通用しねえから・・・途中から・・二人で・・」

「こ・・この子・・パッと見全然・・・強そうに見えないのに・・・なんて・・・強さ・・・」

「二人がかりで・・・これ・・かよ」


少年は、ばてている二人を見て愕然としている。たぶん俺が息を切らさず平然としているせいもあるだろう。

でも、俺も少し休憩してるから息整ってますよ。残念勘違い。でも正さない。俺はこいつに関しては優しくしない事にしていく。


「当面、お前ボコれる程度になるのが目標だな。でねえとその上には届かねえんだろうしな」


少年はミルカさんから、とりあえず標的を俺にシフトしたようだ。


「はっ、俺もミルカさんもいつまでも止まってると思うなよ?」

「ぜってえ追いついてやる。俺を生かした事、後悔しろ」

「絶対しない。返り討ちにしてやる。何度でも」


少年は睨み上げ、俺は不敵な笑み(のつもり)をして見据える。


「タロウさん、なんだか楽しそうだなぁ。なんだかんだ言って何か波長が合うのかも、あの二人」

「はあぁ・・・シガルちゃん、訓練は終わりか?」

「はい、魔術はこのぐらいで」

「ふう・・確かにあの二人、いがみ合ってるわりに、なんかかみ合ってるわね」


シガルが魔術訓練を終わらせて、向こう3人でなんか喋ってるけど何言ってるんだろう。


「まあ、いいや、とりあえず治癒力の高め方だけでも教えておくぞ」

「・・・・わかった」


・・・・?

なんか嫌に素直だな。ちょっと調子狂う。


「ちょっと指先を切るぞ。これぐらいな。信用できなかったら自分でやれ」


そう言って俺は自分の指先を剣で薄く切る。


「構わねえ」


少年は指を差し出す。俺はそれを剣で同じように切る。


「その指先だけに気功を集中させてみろ。外に出さず、循環している内側のままな」

「・・・く・・・ん・・・ちょ、ちょとまて、これ、流れが・・かわ・・」

「まあ、そりゃそこだけ流れが変わってるから、他は通常で固定しないとどんどんおかしくなるぞ。無理そうだったら倒れる前に止めろよ」

「くっ・・くの・・!」


少年は何とか指先にだけ気功を維持し、実行しきる。


「やっぱお前は出来るのか・・・まあ、これで指、治っただろ」


俺、これ習得するのも時間かかったんだけどなぁ。


「・・・ああ、ほんとだ、な」

「ただこれも、自分の治癒力強化して使ってるだけだから、体力消耗してる時にやると危ないから気を付けろ。これを上手く使えれば、気功を放つ際にも大雑把にならずに、自分の腕を壊すようなことも無くなるだろ」

「おうよ・・」


・・・・うーん、急に素直に聞き出して、調子が狂う。


「急に素直に聞き始めたな」

「・・・俺はお前の事がむかつく」

「・・・?」


何をあらためていうんだこいつは。


「俺はウムルを恨んでる。あの女を殺したいほど憎んでる。その弟子のお前の事も大っ嫌いだ。

けどお前は俺に道をよこした。あの腕はほっておけばもう終わってた事ぐらい流石に分かってる。片腕であんな化け物とやるなんて、俺には到底先が見えなかった。だから諦めた。

お前はその俺を、無理やりまた戦える体に戻した。それだけは、むかつくけど、感謝しないといけないだろ。

それに治癒は、魔術を使えない俺にとっては生死を分ける。ここまで来てそれを聞かないほど、バカじゃねえ」

「ついさっきまで文句言ってたやつの言葉とは思えないな」

「俺だって言いたくねえよ。腹の中はぐっちゃぐちゃだ。お前に対する感謝の心は有るには有るが、ウムルの人間だっていう事への憎しみや嫌悪感が無くなったわけじゃねえ」


まあ、それはそうだろう。簡単に殺された恨みが消える事なんてないだろうさ。

俺だって腹の中に抱えている恨みは消えない。痛みはイナイとシガルのおかげで薄まった。けどあいつへの、くそ親父への恨みの心は消えていない。


「まあ、別に俺を好きになれとも、ウムルを好きになれともいわないけどな」

「当たり前だ。なれるもんかよ」

「まあ、お前が見るべきものを見て、どう思うか次第かな・・・」

「あ?」

「なんでもねえよ」


こいつが、ただ当たり前に暮らしていた人達を蹂躙していた事実とこいつ自身が対面したとき、なんと思うのだろう。

まあ、その答えはこいつにしかわからないな。


「とりあえず、もう戻るか」


俺は伸びをしてそういうと、シガルに袖を引っ張られた。


「次、あたしの番」


シガルは袖を放し、構える


「あ、やるの?」

「やるよ?」


当たり前でしょ?と言わんばかりの顔で言い放たれた。

その後シガルと5本ほど組手をして、少し休憩したら宿に戻るべくてくてく歩きだす。何やらお二人が落ち込んでいるが俺のせいじゃない。


「シガルちゃん、滅茶苦茶強いのな・・・」

「てっきり生粋の魔術師だと思ってたわ・・・」


少年もシガルを驚きの目で見ていた。シガルの速度が少年の通常の状態に匹敵する速度だったからだ。

とはいえ、彼には獣化が有る。あれを使えばそれだけで普通の人間では太刀打ちできないだろう。






宿に帰ると、親父さんが台所でごそごそしていた。正確には台所の下で。


「何かあったんですか?」

「おお、お帰り。いやな、なんか最近、台所回りの技工具の調子が悪くてな。中古のを騙し騙し使ってたんだが、本格的に探しに行かねえとダメかもなぁ」


コンロとか水道とかあると思ったけど、やっぱり技工具だったか。


「ちょっと見ましょうか?」

「分かるのか?」

「ええ、まあ、多少は」


俺は親父さんと場所を変わり、不調の様子を見ていく。あの家にあった物とは違うけど、根本は同じようだ。


「んー、単純に一部の部品の劣化が原因ぽいですね」

「無理そうか?」

「いえ、これなら直せますよ」


と言ってから、自分の手に、工具も部品も無い事に気が付いた。

まあ、工具代わりに魔術で頑張ろう。


「何か、部品に加工していいようなものあります?」

「ああ、ちょっと待ってろ、取ってくる」

「お願いします」


その間に、直せるところはとっとと直していく。ついでに磨いていく。


「シガルちゃんの彼氏、多才ねぇ。技工もかじってるんだ」

「俺、ああいうごちゃごちゃしたの苦手」


ベレドレラさんとボロッカロさんが各々感想を口にする。

それを聞いたシガルはにっこりとした顔で二人に応える。


「だってタロウさんは、イナイ・ステルの弟子でもありますから」

「・・・・は?」

「・・・・え?」


二人が困惑で、言葉を失う。困惑から回復しかけ、言葉を発そうとする頃に親父さんが戻ってきた。


「おーい、坊主、これならつか・・・うわぁー。全部ばらしたのか?」

「あ、まずかったですか?」

「いや、今日は夕方まで使わねえから、直るんならいいけどよ」

「なら大丈夫です。とっとと加工して直しちゃいますよ」


俺はその言葉通り、親父さんが持ってきた鉄屑なんかを魔術で加工して部品に使っていく。


「ふ~んふんふ~ん♪」


なんか久々にこういう事やるから楽しい。やっぱりいつか本格的に何か作りたい。

銃も、まだ作り切れてないしな。実は銃と呼ぶには何かが違う物は出来ちゃったけど、樹海に置いて来たんだよなぁ。


「なんか手品でも見てるみたいな手際だな」

「俺の師匠はもっと手際良いですけどね」


言いながら片っ端から直していく。そこまで時間はかからなそうだ。とはいっても1,2時間は間違いなくかかるが。






「よっし、これで全部大丈夫なはずですよ」

「おお、わりいな。ホントは朝と昼はここやってねえんだが、礼だ。腕を振るってやる。もちろんタダでな」

「それは嬉しい。ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちだよ。お前が直してくれなかったらもっと高くつく」


まあ、そうかな。こちらでの値段がどれほどなのか分からないけど、買い直しはお金がかかるだろう。


「んじゃ、座って待ってな」

「はい」


俺は言葉に素直に従い、カウンター席に座って待とうと立ち上がる。


「お疲れさま、タロウさん」

「ありがとう、シガル」


ねぎらいの言葉をくれたシガルの頭を撫でながら礼を言って、ふと周りを見ると、シガル以外居なくなっていた。


「あれ、他の人たちは?」

「途中で飽きてどっか行ったよ」


それはそうか。なんだかんだ時間かかったしな。当然か。


「シガルも他の事してても良かったんだよ?」

「ううん、いいの。見てて楽しかったよ」

「そっか。ならよかった」


シガルは技工に興味があるのかな?

技工といえば、イナイはいつ帰ってくるんだろ。しばらく戻れないって言ってたからなぁ。

あんまり遅くなるようなら一度ウムルに戻ることも視野に入れておこう。

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