第130話仙術の使い方を教えます!

うん、いい朝だ。いい天気だし、空気も美味い。ここは王都とはいえ、外に少し出れば山が近いし、草木の空気がとても良い。


「おい」


軽く準備運動済まして、今日は組手からするかな。ハクが居ないからゆっくりできる。ハクの奴最初の方はいいけど、中盤辺りからマジになってくるから怖い。

前回の暴れたいで懲りた。あいつとやるのはあいつがよっぽどたまってる時だけにしておきたい。


「おい」


とはいえあんまり溜めるとこの間みたいに成竜になろうとしかねないからなぁ。

まあ、ほどほどに相手をしよう。


「おい!」


シガルは今日魔術訓練重視でやるつもりっぽいから、変に干渉しないように気を付けないと。

いや、適度に干渉したほうが訓練にはなるのかな?セルエスさんは干渉っていうより叩き潰してきたけど。


「おい!いい加減にしろよ!」


仙術使いの少年が叫ぶ。うるさい。


「なんだよ、うるさいな」

「ふざけんな、なんだこの状況!」

「お前が抵抗するからだろ。面倒くさい」


彼は今、二人の男女に拘束されている。俺とシガルではない。

あの宿の従業員の二人の、ボロさんとベレドさんだ。


「あっはっは。間違いない。お前が大人しくしてれば俺達がついて来ることも無かったんだしな」

「ふざけんなボロッカロ!お前面白そうだからついて来るって最初から言ってたじゃねえか!」

「そうだっけ?」


ボロさん改めボロッカロさんが隣のベレドさんに聞く。


「気のせい気のせい。あたしたちは仕方なく、仕方なーく、お前を拘束して、仕方なーくついて来たんだから」

「お前らふざけんなよ!?だいたいベレドレラはいつも朝起きてこねえだろ!なんで今日に限って起きてんだよ!」


こちらもベレドさん改めベレドレラさん。お二人で両脇をがっちりと少年を掴んでいる。

改めて見ると、こいつ俺と同じぐらいのサイズだな。成長期はもう過ぎているんだろうか?

もしまだなら妬ましい。縮んでしまえ!


「タロウさん、私は小さくてもいいと思うよ」


魔術制御をしながらシガルが言ってくる。


「なんでそこまで的確に心の声を!?」


流石にそこまで的確に読まれるのは怖い。


「声に出てたよ・・・」


おうふ、どこから口走ったのだろう。縮んでしまえからだろうか。心からの嫉妬に声に出した意識が無かった。


「残念だったな、俺達は40までは成長する可能性がある種族だ」

「はぁ?ふざけるな。ちょっとよこせ」

「お前がフザケンナ!お前なんで俺だけにはそんな態度なんだよ!」

「お前がだいたい喧嘩腰じゃねえか。俺は悪くない」


なんかもう、こいつにはこういう態度で良い気がしてきた。もうこのまま行こう。こいつに敬語とか面倒くさい。


「んで、なんだっけ、こいつにちゃんと仙術・・・・だっけ?それを教えるんだよな?」

「ええ、あんまりお粗末なんで」

「要らねえつっただろ!」

「その結果があの腕だろ。せめて治癒力の強化ぐらいやれるようにしろ。お前魔術使えねえんだろうが」


そう、彼は魔術を使えない。昨日疑問に思い、その辺も聞いてみた。

勿論最初は答えを拒否られたけど、彼を拘束している二人がペラペラとしゃべってくれた。


魔力を感じることはできるし、魔力そのものを放つことはできる。

けど魔術は使えない。正確には、使えるが詠唱が長ったらしくなる上、効果なんか殆どないに等しいものだった。

なんであれで生命の力が見えたんだ。腑に落ちん。


「・・・おまえ、なんで俺にそこまで構う。あいつとの約束は済んだだろ」

「・・・気に食わないからだよ」


その言葉にすぐ答えようとして、一瞬言葉に詰まった。教える理由が我儘だからだ。


「は?意味が解らねえ。気に食わないなら教える必要なんかねえだろ」

「違う。お前を取り巻くものが気に食わない。亜人を見下すことが気に食わない。亜人を排斥することが気に食わない。亜人だからって見殺しにするのが、気に食わない・・・!」


俺がこいつに治癒を教えようと思うのは、ただの怒りからだ。

治療院の、この国の、この世界の、亜人を排する風潮に怒りを覚えてしまったからだ。


こいつは気に食わない。気に入らない。けど、殺したいとも、見殺しにしたいとも思わない。

でもこいつはそのままだと、いずれのたれじぬ可能性がある。今回の事のような事が又あれば、こいつはどうなるか分からない。

それが、こいつへの気に食わないと言う感情に勝った。ただそれだけの事。


「・・・お前本当に馬鹿だ。頭おかしい」

「今回に関しては反論しないでおいてやる」


正直俺もそう思う。けど腹が立ったんだよ。亜人ってだけであんなことをするのが。

そしてそれを良しと受け入れるお前にもだ。


「それが理由だ。だから教える」

「教えるって言っても、どうやってやんだよ」

「こうやってだ」

「は?があっ!!」


俺は拘束されたままの少年の胸に手を置き、気功を流す。

いつかミルカさんが俺にやったように、全身にその力がいきわたるように。

彼はその痛みに声を上げる。


「お、おい、大丈夫かよ」


何が起きたのかわからず、ボロッカロさんが心配する。


「大丈夫です。基礎の基礎を分からせるための行為ですから」

「ふ・・ざけんな・・・滅茶苦茶痛かったぞ」

「痛いように流したからな」

「ああ!?お前ここにきてふざけんなよ!?」

「うるせえ。少しぐらい痛いの我慢しろ。こっちだってお前の全身にまんべんなく気功を巡らせんの面倒なんだぞ」


ミルカさんがどれだけ俺の体を気遣って流したのかがよくわかった。これ思ったより難しいわ。

ただ流すだけなら問題ないけど、本人に自分の気功の流れをきちんと認識させるために、すべてに巡らせた。

これでこいつは、自分の体に巡っていた気功の流れをただ外に放っていただけだと理解できたはずだ。


「お前は確かに気功が見えたんだろうさ。けどそれはきっと体から離れたその力だけ。

気功の力は自身の生命の力。体をめぐる体を生かす力。その力の流れを意識して、強く流せ。

あ、お二人は手を放しておいてください」

「ん、分かった」

「はいはーい」


二人が手を放すと、少年は舌打ちをして、俺が言ったとおりに実行しようとする。


「・・・なるほどな、確かに知らなかったよ。体をめぐる力か。てっきりただ力をひりだす物だと思てったよ」

「お前どうやって覚えたんだあれ」

「遠くからだったが、俺は戦場を見てた。あの女が気功を放ったのを見てた。

頭に焼き付いたその光景を思い出し、イメージを強く、力を出すイメージを強く持ったら淡いものが出た。そこからはそれが相手にダメージを負わせられる威力になるまで何度も何度も使い続けた。単純にそんだけだ」

「天才ってむかつくわー」

「タロウさん、たぶんタロウさんが一番言ったらいけない言葉だと思う」

「俺は師匠が居たからです」


シガルが俺に言うが、俺は自力でここまでなれる素質は無い。

師匠がいなかったらこんな風になってない。セルエスさんとミルカさんの、二人のおかげだ。


「なるほどな・・・・ものすげえ力が溢れるかん・・げはっ・・がっ・・」

「馬鹿止めろ!いきなり強く流し過ぎだ!」

「かっ・・・くあ・・・はぁ・・・はぁ・・」


バカタレが、いきなり全開で流しやがった。それじゃ体がもつわけないだろ。


「な、なんだこれ・・・・おい・・なんなんだこれ!」


地に伏せて体を震わせながら俺を睨みつつ言う。

あ、しまった。バカタレは俺だった。言うの忘れてた。


「気功の力は生命の力だ。使い過ぎれば体への負担の方が大きくなる。最悪死ぬ」

「・・そういうのは・・さきに・・・いえ・・・」

「すまん」


流石にこれは謝っておこう。言っておくんだった。


「・・・・そういえば俺大事な事に気が付いたんだけどさ」

「あん・・だよ・・・早く言え・・・」

「お前名前なんて言うの?」

「・・・・やっぱお前・・いつか・・・ボコる・・・」


少年はその言葉を最後に気を失った。

俺は立ち上がり空を見る。


「無茶しやがって・・・」


俺はいい笑顔で言う。


「いやいやいや。大丈夫なのかこれ」

「大丈夫ですよ、途中でちゃんとやめましたし。命にかかわる範囲っていうのは、こっからさらに使った場合と、最初から自分の生命力を超える気功を使うかなので。今回気功の巡りを強く回しただけなので、負荷で倒れただけです」

「ふーん。あたし達にもこれ使えるの?」


ベレドレラさんが何となしに聞いてくる。どうだろう、力が認識できれば行けると思うけど。


「試してみます?一応威力には気を付けますけど、かなり痛いですよ?」


俺の言葉に二人は顔を見合わせる。


「まあ、物は試しだ。頼んでいいか?」

「そうだねー。面白そうだし、お願いできる?」


二人とも特に悩む様子無く答える。なら試してみよう。


「では、いきますよ」


俺は二人の胸元に手を当て、気功を彼と同じように流す。


「いってぇ!!」

「きゃあぁ!!」


二人は痛みでやはり声を上げる。きゃあってかわいいな。


「どうですか?」

「いつつ、思ったより痛かった」


いや、そうじゃなくて。


「なんとなく、何かが流れたのは分かるんだけど、これをどうにかしろって言われても困るわね」

「そう、ですか?」


俺は流された翌日から即行使わされたけど。


「こう、命を削るっていえばいいのかな。自ら死地に向かう恐怖を感じるわ、この力を使うっていうのは」

「んー、そんなに怖い物じゃないですけどね。加減さえ間違えなければ」

「多分、そのあたりがこの力を使えるか使えないかの差なんじゃないかしら。あたしはこれ使ったら死ぬ気がする」

「俺はそもそも、よく分からなかった」

「そう、ですか」


ふむ、なるほど。このへんがいつかミルカさん以外のみんなが言ってた、死ぬような業っていう意味なのかな。

そもそも俺は力の認識だけで、出来る出来ないの判断はあの人達に任せてしまったからなぁ。

ぶっちゃけ使い始めは彼女のが言うように、死ぬかと思った瞬間が、無いわけでは無い。


「あーあ、残念。ウムルの英雄が使う技が使えれば、もうちょっと強くなれると思ったのに」

「まあ、地道に鍛えるしかないって事だな」


二人は少し残念そうに慰めあう。でもまあ、この世界には魔術が有るし、頑張ればかなり強くはなれる。


「さて、それにしても、こいつどうしよう」


気を失ったまま、まだ起き上がらない少年を見て呟く。

まだ気の巡らせ方しか教えてないのになぁ・・・・。

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