第124話武術の力を見せつけます!
「ところで少し聞きたい事が有るんですけどいいですか?」
「ああ?んだよ」
俺は構えたまま彼に疑問が有ると伝えると、彼は怪訝そうに顔を顰めながら応えてくれる。
「のされた彼らは貴方がその力を持つと知っていたんですよね?新人潰しなんて陰険な事をする方が、あなたに挑むとは思えないのですが」
「ああ、なんだ、そんなことか。あいつらは絡んでから俺が獣化族だって知ったからだよ。
てめえらから絡んだんで引っ込みつかなかったのを、支部長に獣化はあぶねえから無しだって言われてあのざまだ。使おうが使うまいが関係ねーぐらい弱かったけどな」
なるほど、この姿とやらなくていいならワンチャンあると思った訳か。けど素の状態でも彼は強かったので、意味は無かったようだ。
しかし獣化族か。麟尾族といい、この世界の種族の名前って見たままな感じだな。
「確かに、あなた強いですものね。そのままでも関係なかったでしょう」
「嫌味かてめえ」
ぐるると喉を鳴らしながら威嚇してくる。サイズがデカいだけになかなかに怖い。
「え、いや、そんなつもりは」
「けっ、まあいい。聞きたい事はそれで全部か?」
「まあ、いくつか聞きたい事ありますけど、他のは後でいいです」
「そうかい、後でが有ればいいな」
「有りますよ。これは殺し合いじゃない」
俺は精神を集中し、自分を完全に戦闘モードに変える。
周りの事なんて気にしない。ただただ目の前の彼を倒す事に全神経を使う。
まず、魔術強化はそのままに、仙術の強化は解く。
彼の速度は、さっきのが全力ではないにしても、無強化でちゃんと見えていた。
強化状態ならば彼が仙術で強化してこない限りは追いつける。
魔術強化をしている状態でだいたい俺と彼の性能差は4対6・・いや、3対7かな。
この差をひっくり返す為の術はハクのおかげで持ってる。たぶんあれを使わなくても仙術強化を使えば5分に持っていけるはずだ。
「はぁ・・・・・そうかよ、もういいよ付き合ってやるよ。一応急所は避けてやるけど、威力は期待すんなよ」
何かを諦めたようなため息と言葉と共に踏み込み、先ほどと同じ速度で真正面から突っ込んできたと思ったら、至近距離で姿が消える。
俺はすぐに後ろに飛びのき上を向く。構えていた掌を彼が飛び上がりざまに放った爪撃に合わせ、逸らす。
そのまま体を回転させ、後ろ回し蹴りを打ち上げ気味に彼のあごを狙って放つ。
だが彼はとっさにガードして、受け身を取らずに地面に転がり落ちる。
「くっ!今のが見えんのかよ!しかも、人族の蹴りの威力じゃねえぞ!」
「まあ、なんとか。人間って至近距離で高速移動されると見えないことが多いので、あなたほどの身体能力が有ればかなり有効ですね」
「ちぃ、分析してんじゃねえ!急所外しなんてやってられっか!」
彼はまた真っすぐ突っ込んできて、今度はその両腕の爪を振るう。俺はその連撃を躱し、いなす事に集中し、後ろにじりじりと下がりながら受けに回る。
「くそ!なんでだ、なんで当たらねえ!明らかに俺のほうが早いんだぞ!!」
ああ、そうだな。今の状態でも俺はあんたより遅いよ。間違いなくあんたの方が俺より早いさ。
けどな、目線の動きを、体重移動を、足運びを、息継ぎを、リズムを、それらを全て見て動作を予測してんだよ。
これが武の力だ。身体能力の劣る弱者が、強者に対し戦うための術だ。武術だ。
特にあんたは身体能力に頼る傾向があるみたいだし、長期戦になればもっと癖を読める。
少しずつ、少しずつ、後退する速度を落としていき、完全に流す受けから、力を込めた受けに変えていく。
「ぐ、が、この!」
足を止め、彼の連撃を全ていなす。焦って全て急所を狙った攻撃になっているのもいただけない。
それでは先を読んでくれと言っているようなものだ。
蹴りを放ってくるが、あまり得意ではないようで、踏み込みも軌道も甘い。
アキレス腱が普通の人間と同じなのかどうかは分からないが、躱し様にアキレス腱と思わしきあたりを打ち上げる。
「ぐあ!」
どうやら効いたようだ。となると筋肉や腱、関節の位置なんかは、人間の時とそこまで大きく変わらないのかもしれない。
ならまだまだやりようはある。
俺は先ほどの攻撃でたたらを踏んでいる彼の懐に踏み込み、顎を打ち上げようとする。
だがそれはあっさりと躱され、カウンター気味に彼の右の一撃が上から降ってくる。
「あんまりなめんじゃねえよ!!」
彼の一撃が俺の顔面を捉えようとする瞬間、体をずらし、首をひねって流し、伸びきったひじ関節を極め、そのまま押し倒す。
流石に爪が鋭く、頬が裂け、血が飛び散った。だが彼は俺の関節技にかかり、組みふされている。
「くそ!てめえ、はなせ!!」
「ではこの勝負俺の勝ちという事で良いですか?」
「ちっ、おらぁ!!」
彼は、関節を極められている方の腕に気功を纏い、放つ。慌てて手を放し、飛びのこうとするが間に合わなかった。
「ぐっ!」
ほぼ0距離なうえ、予想外な一撃だったため、気功を上手く流せずに受けてしまった。
我慢できない程度ではないとはいえ、全身のいたるところに痛みが走る。
「はっ、やっとまともに当たったな。お前、俺がこれ使えんの忘れてただろ」
「忘れてたつもりは無かったんですけどね」
まさかあんな使い方してくるとは思ってなかっただけだ。
彼は無理やり気功を、ただただぶっ放した。その代償は自身にも向いた。彼の右腕は血だらけになっている。
ただしそのおかげで、攻撃の方向が読めず食らったわけだが。
「うーん、もうやめときます?」
「怖気づいたのか?いいぜ。てめえの負けならそれで」
「いえ、その右腕、結構重傷でしょう。流石にやめておいた方が良くないですか?」
「・・・ウムルの国の人間に情けはかけても、かけられるつもりはねえ。てめえが止めたいってなら止めてやるが、こっちからお前らに負けを認める気はねえ」
うーん?ウムルの人となにかあったのは間違いないっぽいな。しかしおまえ『ら』か。この人俺を見てないな。
俺じゃなく「ウムル国民」を見てる。目の前の相手をちゃんと見てない。
「その考え方疲れません?それにいつか死んじゃいますよ?」
「そこまでの命だっただけだろ。お前程度に負けてる程度じゃ死んだほうがましだ」
彼はそう言って、全身に気功を纏う。強化じゃないな。あれじゃ数分持たないだろうに、何をするつもりだ。
「支部長、伏せてた方がいいですよ。食らったら多分死にますから」
行動に移す前に支部長に注意を促す。おいおい、ちょとまて、何する気だお前。
「ダメです、流石にそれは許可出来ません。私達に被害が無い程度の立ち合いになさい」
「けど、あいつには殺す気で行かないと勝てないです」
「負けを認めなさい。どう見ても負けですよ。きっとあなたの奥の手もあっさり防がれて終わります」
「・・・ウムルの連中に負けを認めろっていうのか!!」
「この勝負は、最初貴方が断わり、彼が去ろうとしたのを引き留めた物です。あなたの我儘に付き合わせるつもりですか?」
「ぐっ、け、けど最初はあいつが頼んできた勝負です!」
「彼は徹底して『試合』をしています。その時点で彼とあなたには大きな開きがある事に気が付きなさい。あなたは彼を手加減して倒せますか?」
「っ!」
彼はフルフルと拳を震わせながら元の少年の姿に戻る。着ていた衣服は伸びたり裂けたりしているが、ズボンだけは何故か無事だ。そういう素材なのかもしれない。
少年は黙って舞台を降り、訓練所から去っていった。あの奥の手、興味はあるけど、ここでやったらかなりやばいものなんだろうな。
ぼたぼたと血を垂らしながら去っていくが、治療はちゃんと受けるのだろうか。心配だ。
「お疲れ様でした。いいものを見せてもらいました」
俺が少年の後姿を眺めていると、支部長が俺に声をかけてくる
「あ、どうも。すみません面倒事避けたいって言っておきながら」
「いえ、構いませんよ。あなたはあくまで試合をしていただけですから。彼もそうです。それで構いませんね?」
「はい」
そう、試合だ。さっきのは殺し合いじゃない。だから処分とかは無くていい。
たとえ彼の自尊心に傷をつけた事で、彼が俺を殺す気になったのだとしても、それは俺が最初に手合わせを頼んだんだ。責めるべきじゃないだろう。
「彼はどうにもウムルの名が関わると、熱くなりすぎる傾向がありまして。気を悪くしないであげて下さい」
「あ、はい。それはいいんですけど、彼、ウムルと何かあったんですか?」
「・・・それは彼自身に聞いてください。私からなんとも言えません」
知ってる感じの反応を見せられるが、確かに聞くなら本人に聞けと言う話だ。
と思ったが、彼は何処に。まあ、組合出入りしてればそのうち会うか。
取りあえずこの破壊されまくった舞台直さないと。彼が抉ったところ以外にも、俺と彼の踏み込みでいたる所にひびが入ってる。
「舞台、直しておきますね」
一応支部長さんには声をかけ、飛び散った破片を集め、元の位置に戻るようにする。
位置が元に戻ったら、そこに有る石に接続部が解けて混ざり合うイメージで繋げる。
強度の問題はクリアできてない気もするけど、とりあえず見た目は元に戻った。
「見た目だけ戻した感じなので、前ほどの強度は無いと思います」
「いえいえ、これで結構ですよ。修理代を請求しなくて済みました」
にっこり笑顔で言う支部長。直せてなかったら請求されていたらしい。まあ、普通はこんな風に壊れないんだろうしなぁ。
「ほら、君たち、いつまでも居ないで仕事仕事。戻るよー」
支部長の言葉で驚きに固まっていた者たちが起動しだし、組合所に戻っていく。あの新人潰しはどこかに引きずられていったようだ。
しかし少し消化不良だ。本気を出す前に終わってしまった。いや、武術の面では完全に本気だったけど。
あ、そういえば彼の名前聞いてないや・・・。
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