第120話知らないうちに話が進んでました!

部屋に戻ると、シガルは魔術の訓練をしていた。探知を使いながら魔術訓練か。シガルなんだかんだ言いながら出来るんじゃないか。


「おかえり、タロウさん」

「ただいま。シガル、あんなこと言ってたけど、自分も出来るんじゃない」

「出来るだけだけどね。タロウさんには及ばないなぁ。お姉ちゃんやタロウさんの魔術制御は何度見ても真似できない。規模が違い過ぎるんだもん。特にお姉ちゃんには適う気がしない」

「あれは・・・比べたらだめだと思う」


イナイはあんまり魔術を使った訓練には参加しないけど、何度かやったら嫌でも理解できる。

あの人、セルエスさんには確かに劣るのかもしれないけど、ただセルエスさんに劣るだけなのだと。

俺とイナイでは、真正面からの打ち合いでは奇跡でも起こらないと勝てないぐらい差がある。

つまり奇跡なんかないからイナイさんには勝てないという事です。はい、残念。


「それで、問題は無かったの?」

「有った」


ありありだ。なんせ薬を盛られた話だったのだから。

そうだ、シガルにも言っておこう。俺は事の顛末をシガルにすべて話した。

するとシガルは「やな予感がする」とボソッと呟いた。


「やな予感って、なんで?」

「・・・んー、なんとなく。でもあたしはお姉ちゃん以外には譲らないから」


何の話をしているのでしょう?さっぱりわからない。イナイもそうだが、時々二人は俺を置いて行く言動をする。


「で、どうするの?」

「黙ってて変にばれたときが怖いから、イナイには素直に言って、許してもらう」

「お人よしって言われるだろうね」

「ソウデスネ。あと、シガルもごめん」

「あたし?」


あの子を許すと決めたが、シガルも狙われた一人だ。シガルの意見を聞かずに決めてしまった。

本当ならシガルだって、この事実を知れば言いたいことは有るだろう。


「えーと、言いにくいけど、あたし気が付いてたよ?」

「・・・・え」

「もちろん薬入ってるのには気が付かなかったけど、いれたのがあの二人だって思ってたよ」


シガルさん、最初からあの二人を疑ってらした模様。

でもそれなら尚の事思う所は無いのかね。


「タロウさんが良いなら良いよ。助けてもらった訳だし」

「そもそも俺がここに居なかったらこうならなかったんだけどね」

「それは言ってもしょうがないよ。だから良いよ。タロウさんのそういう優しい所好きだよ」

「・・・ありがとう」


やっぱり、この子とイナイには感謝しないとな。俺の我儘にあっさり付き合ってくれる。

大事にしたい。守りたい。でもおそらく、守られたくないんだろうな、シガルは。

強く有ろうとする。一人で立とうとする。まあ、その力強さが素敵だと思ったわけだが。


彼女の想いは痛いほどわかる。全力で俺の隣に並ぼうとしてる。でも俺は素直にシガルにはもう少しゆっくり歩てほしいと思ってる。

この子は間違いなくすごい子だ。俺と違って、自ら学んでこれだけの力を付けた子だ。

けど、もう少し後に、彼女が自分の体を使い切るに相応しい時期がいつか来ると思う。だから今無茶をし過ぎるのは、本当はあんまりしないでほしい。でもきっとそれをしなくなったらこの子はこの子じゃなくなるんだろう。

だから、無茶をしても守る。無茶ができるように傍にいる。


それが、俺がこの子の想いに返せる事だろう。そう思うと、やっぱり俺にとって、もうこの子は大切な子なんだなと思う。

当たり前にそばに居たい、守りたいと思う。イナイとはまた違うけど、この子はこの子で心地いいんだよな。


「た、タロウさん、なんで私見てそんなにニコニコしてるの?」

「ん、改めてシガルは素敵だなって思ってた」

「え、あ、う」


あら、珍しい、シガルが狼狽えてる。あんまりこういう所見せない子なのに。

良く揶揄われてるし、偶にはいいだろう。


「やっぱり狡いなぁ・・・」

「ん?」

「なんでもなーい」

「そ?」


ボソッと呟いた声は良く聞こえなかった。でも本人がなんでもないと言うならそれでいいかな。

見過ごせない何でもないもあるだろうけど、今のは別にそういうのじゃないだろうし。


「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「うん!」


俺の提案に元気よく返事すると、魔術の制御を止めて、俺の横に潜り込んでくる。


「えへへ、お休み」

「ん、おやすみ」


頭を撫でて、転がる。なんだろう、前なら狼狽えてしまったはずなのに、自然と傍に居ようとしてるな、俺も。

昨夜の出来事は俺の中の何かも変化させたみたいだ。

シガルの温かい体温を感じながらそんな事を思いつつ、心地よく意識を手放していった。







「おはようございます旦那様」


朝起きて、ノックの音に対応し、ドアを開けると何か血迷った事を言い出す娘さんが居た。王女様だ。

旦那様とか、何を言ってるんだろうこの子は。


「・・・あの、なんの冗談でしょう」

「な、何かおかしなことをしてしまいましたか?」


おかしすぎて堪らないです。旦那様とかいったい何の冗談だ。


「あの、昨日気にしなくていいって感じで言ったと思うんですけど」

「はい、ですからあなたからの求婚は、私の意志で受け入れようと思ったのです」


・・・球根?チューリップでも植えたっけ?

うん、ごめん、意味が分からなくて現実逃避してる。


「俺、そんなことした覚えが無いんですけど・・・」

「え、でも昨夜、確かにされましたけど・・・だからこそお父様を許されるのだとばかり・・・」


うん、まるで分らない。誰か助けて。昨夜といい、今といい、なぜ俺とこの子はこんなにも話がかみ合わないのか。

だれかー!翻訳機持ってきてー!

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