第119話王女様の真剣勝負です!

夜中に目が覚めた。なんとなく目が覚めたんじゃなくて、何かを感じて起きなければいけない気分になった。

あの騎士たちの時は気を張っていたからだと思ってたけど、あの時と似た感じで、体も完全に起きてる。

何かを感じた?何だろう。疑問に思いつつ探知魔術を使う。


誰かがこっちに向かっている。この部屋に来るのか?

俺はすでに起き上がってドアを見つめている。向こうもドアの前で立ち止まったようだ。

やはりここに用なのか。これがイナイが言ってた何か、なのかな?

しばらく待つがドアの前の人物が動く様子が無い。


・・・・・・・・・・・・・・・・・あのー、本気で動かないんですけど。

こっちの気配を探ってる風でもない。でも、ドアの前から全く動かない。

ちょっと詳しく見てみるか?


探知魔術はそのままに、ドアの向こうを魔術で見る。あ、視界が被る。片目を瞑って、閉じた方でドアの向こうを見る。

するとそこには王女さんが立っていた。右手がドアをノックしようかしまいかという、中途半端な位置で止まっている。

ただ、どうしても気になるのは、格好がえらく煽情的なことだ。ベビードール、だっけ?あんな感じのを着ている。

勿論下着なんぞ丸見えだ。その恰好でここまで来たのかこの子。

これがあの子の寝間着なだけなんだろうか?王族だし、なんかそういうの考え方が違うのかもしれない。


しかし、動かないな。まあ、用があるのは確かだろうし、こっちから出て行くか。ずっと待ってるのも辛い。

そう思い、ドアを開ける。開けた瞬間、王女様はビクッとして後ずさる。

が、すぐにしっかりと立ち、こちらに一礼をする。おしりが丸見えである。大丈夫なのか王様。娘凄い格好だぞ。


「このような夜更けに失礼いたします。タロウ様とどうしてもお話ししたいことがございます。どうか二人きりの時間を頂けませんか?」

「え、と」


二人きりと言われてもな。今シガルをここで一人には出来ない。

流石の俺も、ここの騎士を信用してない。ハクかイナイがそばにいるならともかく、どちらも居ないのにシガルの傍を離れる気は無い。

寝てるシガルを起こすのも気が引ける。


「今じゃないと、ダメですか」

「はい、今でないとだめなのです。どうか、どうかお願いします」


王女様は跪き、頭を深々と下げる。祈りをささげるような格好にも見える。

なんだろう、一国の王女様がここまでする話か。聞いてあげないと可愛そうだよな。もしかしたらさっきの食事の関連で面倒でもあったのかもしれない。

あれが何かは分からないけど、彼らの治療程度は受けてもいいだろうし。

でもシガルをどうしよう。


「いいよ、行って来て」


声に振り向くと、シガルが起きていた。


「起きてたの?」

「タロウさんが何か魔術を使った辺りで。さっきまでまだ寝ぼけてたけど、もう起きたから大丈夫だよ」


って言ってもな。起きてようが起きてなかろうが。一人にはさせたくないんだけど。

悩んでいると、シガルが詠唱を始める。


「地を、空を、大気を、すべてを感じ、探せ。見えぬ先に有るすべてを探し出せ」


探知魔術を発動させ、シガルはにやりと笑う。


「大丈夫。信じて」

「・・・・わかった」


探知魔術を使ってる間は、そうそう不意打ちは受けないだろう。不意打ちさえ受けなければ、シガルはここの騎士達には負けない。

それでも不安はある。あれが騎士たち全員じゃない可能性もあれば、隠してる戦力が有る可能性もある。

正直俺はここの人間を信用してない。だからシガルを一人にしたくない。

けど、シガルが信じてと言うんだ。それを信じなきゃだめだよな。


「シガル様、ありがとうございます」

「お気になさらず。ですが変な事はしない方がいいと思いますよ。あなた方はもう取り返しがつかない事をやられていますし」

「はい、重々承知しております」


鋭い目で王女を捕らえるシガルの言葉に、ビクッとする王女。王はともかく、この子は特に何もしてない気がするけどな。


「タロウ様も、ありがとうございます。付いて来ていただけますか?」

「あ、はい」


なんだろ、王女さん、若干声が震えてる気がする。しかし、その恰好どうなの。下着が丸見えなうえ、その下着も半分透けてる。

さっきはそういう物かとも思ったけど、流石におかしいと思うんだけどな。

まあ、今はおとなしくついていこう。





しばらく歩くと、とある部屋に招き入れられる。内装はシンプルだが、人形や、かわいらしい小物がいくつかある。

もしかしてこの子の自室ではなかろうか。


「ここは私の自室になります」

「あ、やっぱりそうなんですか」


俺の言葉にまたビクッとする。どうしたんだろう。昼間はこんな感じじゃなかったはずだ。今は何か、俺の一挙一動に怯えているように見える。

何かしたっけ?あ、もしかしてあのちゃぶ台返し?しまったな。怖がらせるつもりは無かったんだけど。


「食事の時の事はすみません。怖がらせるつもりは無かったんですが」


俺がそう伝えると、王女は目を大きく見開き、一層震え始める。


「や、やはり理解しておられたのですね」


さっきより声が震えてる。震えてるっていうか、もはやかすれてる。

ここまで怖がられると若干ショック。そんな怖がられるような事だったか。昼間のあの顔をした子と同一人物とは思えない。


それにしても、やはりとはどういうことだろう。薬が分かった事かな?まあ、普通はあんなに簡単には分からない。だからこそアロネスさんは暗殺対策なんてしてたんだろう。

あんな風にすぐ反応できるのはミルカさんだけだ。ミルカさん以外が毒を盛られた場合、流石に不味い。

どれだけ強くても、しょせん体は人間だと、あのリンさんすら言っていた。詳しくは教えてくれなかったが、リンさんはその昔毒でえらい目にあったらしい。


「ええ、まあ」


仙術は習得が困難らしいから、普通は分からない。俺は習得困難とか考える暇が無かったけど。

というか、魔術より難しいよ。でもできるよ。ぐらいの感じで言われたようなものだし、分かるわけが無い。

後になってからアロネスさんとセルエスさんが、ミルカさんに教えを乞うて死にかけたと聞いた。

イナイも、あまりの体への負担に使用は断念したそうだ。使った反動で、体がしびれて堪らなかったと言っていた。でもそれはつまり、イナイは使おうと思えば使えるという事だよな。


それを考えると、俺はなぜ使えてるのか不思議でしょうがない。

魔術と同じで、素直に教えを聞いて実行した結果が今の俺だ。よく考えると、俺はあの人達の得意分野の到達点には全く届かないが、あの人達が出来ない事も出来るのか。

なんか、今更だけど不思議な感じだ。思い込みの力が上手く働いただけな気もするけどね。


「・・・タロウ様、今からお願いすることは都合のいいことだと自覚しております。ですが、ですがどうか父を助けていただけませんか」


親父さん?王様がどうかしたんだろうか。もしやあの薬で不調を既にきたしていたのかもしれない。


「もし父を助けていただけるなら何でもします」


王女はそう言ってほぼ衣服として意味をなしていない衣服を脱ぎ、下着だけになる。その下着も外し、素っ裸になる。

俺はその突飛な行動に狼狽えてしまう。何やってんのこの子。


「な、なにしてるんですか!?」

「良かった。私に全く興味が無さそうだったので、これは賭けでした。私の女性に興味が無いわけではないのですね」


賭け?何のことだ?いや、それよりも、興味が無いっていうか、有ろうが無かろうが、いきなり脱がれたら驚く。

相手が女性なら当然だ。


王女はあわてる俺の手を取り、胸に当てる。

以前イナイ達がやったような心音を聞くような当て方じゃない。明らかに揉ませようとする当て方だ。


「この通りこの体はあなたに捧げます。今夜、あなたの性奴に成れと言われれば知る限りの知識を使いあなたに奉仕します。ですからどうか、どうか・・・!」


ここまでされたらなんとなく分かる。絶対何か勘違いをしてる。おそらく俺が親父さんの命を狙ってるてきな物じゃないかな?

当たってないとしても、そんなに的外れな予想じゃないとは思う。

でもなんでそんな考えに至ったんだろう。どこで俺とこの子の食い違いが始まったんだろう。

とりあえず俺は押し付けられた手を放して、俺の上着を着せる。


「あ、あの」

「とりあえず、何か勘違いしている気がするので、ちょっと話しませんか?」


頑張って作り笑いを浮かべる。普段の表情の出やすさに若干の不安を覚えながら精一杯笑顔にしたつもりだ。

そんな俺をきょとんとした目で彼女は見る。


「勘違い、ですか?」

「ええ、きっと、何か勘違いがあると思います」


彼女は俺の言う言葉に目を泳がせながら考え、口を開く。


「私の体では、ダメだという事でしょうか。お時間を頂ければ、タロウ様が満足する女性を用意いたします。いえ、明日にでも用意致します!」


凄く不安そうな顔と声で出した結論がそれだった。うん、ものすごい勘違いされた。

別に女性が欲しいっていうか、あなたの体に不満があるとかそういう事じゃないです。

そもそも、俺はイナイとシガルにしかそういうことをする気は無い。遊びではやりたくない。


「そういう話じゃないんですよ」


なるべく穏やかに、ゆっくりと。あまり刺激したり、声を強くしたりすると何か危うい感じがする。

多分この子は何かに追い詰められている。それが何かは分からないが、間違いなく、俺に関わりが有る事なんだろう。


「・・・やはり我々に死ねと仰るのでしょうか。この命をもって購えと」


物騒な事を言う。やっぱりどこかで盛大な勘違いが有る。俺はこの子の命なんかこれっぽっちも欲してない。

そもそもなんでそんな物騒な話のなるのかも分かってない。


「そんな事考えてないですよ。というか、あなた達に何かをしてほしいなんて、考えてないです」

「それはつまり、私たちにあなた方の意志を反映する御輿に成れという事でしょうか」


んー?なんか上手く話がかみ合わない。なんでだ。


「それで、そんな事で許されるなら喜んでやらせて頂きます。あなたの手足にでも何でもなります。だからどうか、父を、ステル様からお守りください・・・!」

「イナイから?どういうことですか?」

「・・・すべてわかって白を切るのですね。すべて自分の口で話せという事なのでしょうね」


いや、これっぽっちも白を切ってません。本気で何のことか分かってません。


「この国はもはや、ウムルの属国になりました。それはつまり、我ら王族はただの傀儡でしかありません。私も父も、それを認められなかった。

ですからあの食事に薬を盛ったのです。私達が私達であるために。ですがそれは間違いでした。ウムルは逆らっていいような国ではなかった・・!」


・・・・・・・・?

薬を盛った?ん?

え、あれ、ちょっとまて、あの食事に入ってた薬って、この子が入れたの?

待て、今の状況を整理しよう。


つまり、俺達が来て、属国になった事はともかく、自分たちが飾りになるのが嫌で俺を何かしらに使おうとして薬を盛った。

けど、俺が即それに気が付き、分かってないふりをして、何か制裁をイナイと考えようとしてたと思われてる?

んで、それで、おそらく国王が責任を取る形になるから、せめて命だけは娘の体を差し出すので助けてほしいと。

だいたいこんな感じかな。


めんどくせえええええええええ!

なんでこうなった。どうしてこうなった。というかイラン!そんなんで女が欲しいと思うような男と思われたくないわ!

これでこの子を抱いたりして、それがイナイに知られることの方が怖いわ!


「えーと、結局のところ、君の願いは王の命を救ってほしいと、それであってます?」

「・・・!はい!」


震えながらも、力強く頷く。本当に父親が大切なんだろうな。


「先ほども申しましたが、都合のいい話だと思っております。馬鹿な事を言っていると重々承知しております。そんな馬鹿な話の対価に私に差し出せるのは、この体しかありません。それでもどうか、どうか・・・!」


胸元を握りながら伝えてくるその想いに、思わず頭を撫でる。

そんな事をされると思ってなかったのだろう、最初はビクッとしたものの、意味が分からないと言う顔でこちらを見ている。


「あ、あのタロウ様?」

「追い詰めちゃったんでしょうね、きっと。ごめんなさい」

「え、あ、あの」

「君のやった事は間違いなく責められるべき事なんだろうね。けどその事実を君の父親は知ってるんでしょう?なら責められるべきは君の父です」


俺の言葉にまた慌て、真っ青になる。願いが通じなかったのだと。最初から願いを通す余地などないのだと。

そんなつもりは無い。ここまで親の為に体を張った子の想いを無下にする気は無い。

だが、彼女は俺の予想より、もっと思い詰めていたようだ。枕元にナイフを用意していたらしく、立ち上がり、こちらに構える。

おそらく人に対して構えたことなどないのだろう構えで、俺に向き合う。


「ち、父を助けていただけないならば、私はあなたと刺し違えてでも、ウムルに抵抗して見せます。本気です」


手が、声が、震えている。出来ると思っていないんだろう。勝てるなんて最初から思ってないんだろう。

多分きっと、この子はここで死ぬ気なんじゃないかな。父を助けられず生きていくなら死を選ぶか。

俺が親なら頼むからやめてほしい選択だ。自分なんか踏み台にしてでも生きてほしい。

・・・くそ親父を思い出した。胸糞が悪くなってくる。あの親父はそんな事考えねえな。


いや、今はそんな事思い出してる場合じゃない。この子を助けなきゃ。流石に痛々しい。


「薬を盛られたことは素直に言えば少し怒ってます。シガルが危なかったわけですから。でも結局被害は無かった。だからあなたが体を張る必要はないんです」

「な、なにを」

「何もなかったんですよ。ほら、危ないですよ」

「え、あ」


俺はひょいと、ナイフを取り上げる。なかなかいいナイフだ。持ってみるとすごく持ちやすい。料理に使いやすそうだ。

今使ってるのよりグリップがしっくりくる。


「じゃあ、そうですね、ごめんなさいの対価にこのナイフ貰いましょうか」

「・・・・・え?」

「使いやすそうなので。ダメですか?」

「・・・・・・・・・・・いいの、ですか?」


目を見開きながら問うてくる彼女に、俺はこくんと頷くと、部屋を出ようとする。


「まって、待ってください。それでは、それこそあなたをそのまま行かせられません」

「え、いや、本当にもういいですよ?さっきの話も、イナイに上手く言っておきますし」


いや、たぶん上手くは言えないか。俺が謝るしかないかな。許してやってほしいと。

なんとなくだけど、察しの悪い俺と違って、シガルは気が付いてる気がする。そうなると黙ってたらシガルからイナイに伝わって、制裁どうこうって話になりそうだし。

イナイが戻ってきたら真っ先に言おう。


「だから、安心してください。あなたはもう気にしなくていいんですよ」

「・・・でも、そんな」


俺はゆっくりと、優しく頭を撫でてあげる。


「大丈夫」

「・・・・・は・・い・・」


呆けたような顔で俺を眺める。でもまあ、今はまだ混乱してるだけで、信じられないだろうな。

流石にこんな子供にこんな覚悟をさせた事は腹立たしいが、だからこそ、ここまでの覚悟をもって俺の前に立ったこの子を助けてあげたい。

命を狙われてたのかもしれない相手を助けるとか、またイナイに呆れられそうだな。

でもまあいいや。特に問題なかったんだし。シガルも無事だから許せた事かな。


まだ、おそらく思考の整理がついていない彼女をなだめ、部屋に戻る。さーて、明日からどうするかなー。とりあえずイナイからの連絡が来たらこの話を真っ先に言わなきゃな。

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