第114話王様とシガルの勝負です!
この王様ご乱心めされたぞ。だれか!誰か居らぬか!陛下がご乱心じゃ!
心の中でそう叫びながらとりあえずその提案を否定する。
「えと、いや、何を言ってるんですか?それはいくらなんでもないでしょう」
どこの馬の骨とも分からん人間を王にとか気が狂ったといわれても致し方ない発言だと思う。
つーか、俺に王なんか出来る訳が無い。俺はただのガキだぞ。
「もちろんこのままタロウ殿を王にすえようというわけではない。娘と婚姻していただき、我が一族となった上で王位継承権を与えたい」
いやいやいや、それでもどうなのよ。家族になっても血を引いて無いんすけど。
普通そういうのって入り婿では王位は手に入らないでしょう。
「タロウ殿が思う所も理解している。だが、お主はこの国の御伽噺にしか存在しなかった者と同じ偉業をなした。そのような者が王になるならば、この国のものはきっと歓迎するであろう」
いや、まって、そもそもなんであんたの娘さんと結婚する前提なのよ。しないよ?
会ったこともない女性と婚姻とか俺はしないよ?
「娘はちょうどタロウ殿の婚約者達と同じぐらいの見た目の年の頃だ。どうだろう?会うだけでも会ってもらえんか?」
いや、まって。別に俺シガルぐらいの年の子が好きなわけじゃないから。そんなわけないから。
俺は、全身全霊で俺を慕ってくれるシガルだから好きなのであって、シガルが小さい女の子だから好きなんじゃないから。
「あの、色々言いたいことはありますけど、俺、王様になんかなる気は無いですよ」
とりあえず言葉をこれ以上重ねられる前に全力否定。大体さっき旅を続けるどうこうの相談をしていて怒られたばっかりだぞ。
「そうか・・・ではせめて娘にだけでも会ってもらえんか?」
粘るなこの人!それあれだろ、なし崩しに婚姻させてしまおうってことだろ。そうはいくか。
「娘はタロウ殿に会いたがっていてな。婚姻は別にして、タロウ殿と話がしたいらしい。頼めぬか?」
うぬ?わざわざ婚姻の話を別にって言ったってことは、その心配はしなくてもいいのかな?
なんて考えてたら隣で静かだったシガルが口を開いた。
「そしてタロウさんをウムルへの牽制に使うのですか?」
目が鋭い。さっきまでの緊張は見て取れない。とても落ち着いた雰囲気だ。
「牽制とは?あくまでタロウ殿に娘に会ってほしいと願っただけだが」
「この国に対して、最初のうちはイナイ様の息のかかった者が来るでしょう。ですがずっとそうはならない。
イナイ様や、タロウさんの考えを理解できる人たちが常に来るはずも無い」
そこでちらりと俺を見る。俺の考えって言っても、俺はたいしたことは考えてないので困る。
「あなたは、あなた自身はすでにウムルに対して下った。だからあなたがウムルに対する発言権は無いに等しい。そして国内においても今回のことでかなりの発言力を失った」
「ウムルに対する発言権など最初から無いものだ。もはやわが国ではな。それにだからこそあのような契約をしたのは見ていただろう?ウムルならばそれで問題ないだろう。
それに国内において発言権はウムルの政を習うことで問題はなくなる。王としてあの場面では最良だったと」
「ええそうですね。今のウムルなら問題ないでしょう。
ですが王がいきなり変わることがあれば?あなたはそのためにタロウさんとの繋がりを作っておきたい。8英雄と繋がりがある彼を手元においておきたい。
それにあなたがたとえ国内で何かをしようとしても、タロウさんの意向だといえる状況を作り出せばその発言は通る。今のタロウさんはそれだけの立ち位置にいる」
シガルは真剣というより、なにか、少し怒っているような感じがする。
んで、なんだって、俺がこの人やこの人の娘と知り合いだってことでやりやすいようになるの?
いくらなんでもそれは短絡的過ぎるでしょ。
「流石に考えすぎではないか?ただ娘は昨夜の出来事を聞き、竜を倒すような者に会いたいと願っただけだ」
にこりと笑いながら王は言う。俺も正直流石に考えすぎだと思う。いくらなんでも俺があの人たちと繋がりがあるからって、ウムルから派遣されてきた人がその仕事を全うしないとは思えない。
それに俺がいくら竜倒したって言ったって、どこの馬の骨とも知れんやからの言うことを国民が聞くか?
「そうでしょうか?ならなぜタロウさんを王にしたいのですか?私が言っては何ですが、今のタロウさんに王は無理ですよ。
領地経営の知識があるわけでも、それこそ貴族たちと腹の探り合いが出来る人でもありません」
うん、分かってるけどなんかシガルにはっきり言われるとつらいものがある。
いや、なりたいわけじゃないけどさ。
「王に必要なのは民を守り導く力だ。その力を持つタロウ殿を身内に据えたいと思うのはおかしな事ではないかと思うがね」
「タロウさんが貴族ならそれも不自然じゃないでしょうね。ですが彼は一般人です」
「そうかね?だが彼は大国の大貴族の婚約者ではないか。ならばその立場は似たようなものだと思うが」
「・・・やはりそちらが狙いですか。イナイ様はあなたの思惑通りには動きませんよ」
シガルが何かを掴んだかのような顔をして、王に言い放つ。俺にはさっぱりわからん。
やばい、シガルさんのほうが俺より頭いいのではなかろうか。シガル先輩とか言った方がいいかしら。
「何のことか要領を掴みかねるな。こちらの思うところは発言の通りだ。他意はない」
「そうですか、ならなぜこんな大事なことをわざわざイナイ様が居ない時に話されたのでしょう」
「単純に一晩経て、そう思い至っただけの事。叶えばこの国にとってよい事になるだろうと思っただけの事だ」
「嘘ですね。あなたは昨日の時点でこれを考えていたはずです。でもイナイ様の前では言えなかった。彼女の前で言ってしまえば、それはウムルに対する翻意ありと受け取られかねないから」
にらむシガルとにこやかに返す王。俺はどちらの発言が正しいのか分からず、眉を寄せて聞いている状態だ。
ハクはシガルを見てニコニコしてる。よくわからん。
そこにゆっくりとこちらに移動してくる人物に気が付く。コンコンとノックの音がした後扉が開く。
「お父様、お父様が呼んでいるのでこちらに来るように伝えられたのですが・・・」
扉が開いた向こうには、シガルと同じぐらいだろう年頃のきれいなドレスを着た女の子が立っていた。
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