第113話この国の王様にお話に誘われます!

「ここにおられたかタロウ殿」


食事を終え、俺を呼ぶ声に振り向くと、この国の王様が立っていた。後ろに兵士さんが数人と、騎士の隊長が立っている。あのひと別に騎士隊長ってわけでもないのかな?

誰かぞろぞろ来てると思ったけど、まさか王とは。

そういえば昨日も気になったけど、タロウ殿って呼ばれてるのは、王が一般人を呼ぶにふさわしい呼び方なんだろうか?

なんか怪しい気がする。


「庭での一件は先ほど私の耳にも入った。我が国の騎士が失礼をした。

竜神様との勝負の内容も聞き及んでいる。流石と言う言葉しか出ない」


先ほどっていうか、それこそ庭での一件が先ほどの事なんだけどな。

なんか怪しいとはいえ、黙っているのも失礼だろうし、返事しないとだよな?


「いえ、ただハクの我儘に付き合っただけですよ」

「そうか。そう言ってもらえると助かる。ところでタロウ殿、少し時間をとれるだろうか?話したい事が有る」


話したい事?なんだろ。


「今日はイナイも居ませんし、特に何かをする予定では無かったので、構いませんけど・・・」

「そうか、それはありがたい。では私に付いて来てもらえるか?ああ、すまぬがタロウ殿一人でお願いしたい」


俺一人?なんかやな予感がするんだけど。すっごい面倒くさい事言われそうな予感がする。

根拠なんか何もないけど、王が俺一人に話があるって時点でものすごくやな予感がする。


「ここじゃ、ダメな話ですか?」

「そうだな。人が多すぎるな」


そう言って食堂をぐるりと見まわすと、周囲には兵士や騎士、侍女さんや、食堂の料理人、そのお手伝いさん達など、皆がこちらを注視していた。

でもそれなら尚の事怪しい。ここで話せないような事。それも俺一人。

正直な話、イナイやシガルに言われることを自覚してる程度に、俺は人の腹の中を読めていない。

馬鹿な連中は行動が分かりやすいから、その辺は対処できても、その後につながる何か、なんてのは辿れない。


そんな俺が、何考えてるかわからない王の話を一人で聞きに行くのは危険極まりない気がする。

気が付いたらなんかすごい面倒事になる気がする。

ここは流石に二人に付いて来てもらおう。情けない話だが、ぶっちゃけシガルのほうがその辺鋭いと思う。

それにハクの前で下手な事は言わないだろう。


「二人が一緒なら、いいですよ」

「む・・・そうか・・・」


俺のその言葉にかなり渋い顔をした。どうやら選択肢は正解の予感。だいたい俺なんか一人にして話したいって、何話すつもりなんだか。


「ならば仕方ない、か。スタッドラーズ嬢。ハク様。ご同行願えるか」

「は、はい」

『別にかまわないぞ』


シガルはどうやら相手が王様というので、少なからず緊張している模様。

俺はなんていうか、現状がよくわからな過ぎて、相手が王様とかで緊張するという感覚がどうにも沸かない。

そもそも、相手が王様だから緊張すると言う感覚が分からないのかもな。そういう事に縁のないただの子供だったし。

ハクはいつも通りだ。あたりまえか。


「では、こちらへ」


王の誘導というか、前を兵士が歩いているので兵士の誘導に従ってついていく。

とある一室の前で兵士が道を譲り、ドアを開ける。

王は当然のように部屋に入っていく。俺達も入ればいいのかね?

恐る恐る入ると、すごく豪華なソファがテーブルをはさんで対になってる部屋だった。


「座ってくれ」


促され座る。シガルはやはり少し緊張している。ハクはボスンと座って、ふかふか加減を楽しんでいる。自由だ。


「それで話とは何でしょう」

「・・・タロウ殿は、この国に伝わるお伽話は知っているか?」

「えーと。お伽話のほうは、良く知らないですね。内容が竜がこの国を守るきっかけになった話なら、竜本人から聞いてますけど」

「な、なに、当時の竜神様がまだ生きておられるのか!?」


当時の竜神、とは誰の事だろう。話に聞いた竜の事か、それともいまだ生きる老竜のことか。


『もういない。今あそこに居るのはその友だ。友である老が語って聞かせただけだ』


悩んでいる俺の代わりにハクが答える。そっちの意味でよかったのね。


「そうか。もし生きておられるなら礼を言いたかったものだ。竜神様のおかげで我が国は今まで生き永らえたようなものだ。先日の事でそれが骨身に染みた」

『その感謝を忘れず、驕らず生きていれば、イナイがお前たちと相対することも無かっただろうな』

「耳が痛い。すべてその通りかと」


ハクの言葉を素直に肯定する王の姿をハクはどこか楽しそうに見ている。なにかしらハクの琴線に触れたようだ。


『この地の人の王よ、私達は友の想いによりこの地を守ってきた。だがこの国にはもはや、友の想いを継ぐに相応しい者は居ないと見えた。だが私達も私達を慕ってくれた人間たちを無下にする気は無い。特にあの山のふもとに街を構える者達等はな』

「あの地の者達も我が国の民。少しでも守って頂ける事を感謝致します」

『だが、私達の総意はタロウに委ねた。タロウの判断次第ではそれすらも無いと思うといい』

「はい、勿論です」


ハクさんがなにやらびっくりするぐらい真面目である。いつもの子供っぽい言動が完全に消えていることに俺は驚きを隠せない。

見た目少女のままだから違和感半端ないけど。まあ、それはイナイも一緒か。


「ハクが子供じゃない・・・」

『あ、タロウ、今私の事馬鹿にしたな!私だって100年は生きてるんだぞ!』

「普段の言動が言動だからなぁ・・」

『むう!子供じゃないぞ!真面目な話だってできるぞ!』

「ごめんごめん」

『むうう』


ハクが頭が悪いわけじゃないのは分かってたけど、どうにも普段の自由な行動と言動の方に目が行って、こういう所が際立つ。

そう言えば国境の街でも槍使ってた男に向かってはこんな感じだったっけ。


「やはりタロウ殿は、竜神様と並び立つ者なのだな」

「へ?」


竜と並び立つ?いやまあ、なんか認められてるっぽいので、同胞とは言われてるけど。


「私達では竜神様にそのように気安くはなれん。その点で言えばシガル嬢も我らとは違うのだろうな」

「え、そ、その」


シガルはいきなり振られて焦る。どう答えたら失礼にならないかを考えているのだろう。ごめん、何も考えず返事してて。


「わ、私はタロウさんのように竜達に勝ってその信頼を手に入れた訳ではありません。あくまで竜達が私を気に入ってくれただけで」

「それは尚の事素晴らしいだろう」

『そうだ。シガルは凄い素質があるんだからな。胸を張っていいんだぞ。それにシガルはいい子だからな!』

「あ、え、えと、ありがとうございます?」


シガルは王に褒められ、ハクにも褒められ、余計にどう返せばいいのかわからなくなっている。

いい子か。やっぱりハクにとって、シガルは気に入っている守るべき対象になってるのかな。


「・・・タロウ殿、先ほどのお伽話の話に戻るのだが、その話で出てくる人間とは、我らの国の王族と伝えられている」

「王族ですか」

「ああ、本人は子をなす前に死んだとされているので、私達に直系の子孫は居ないがね。

だが、竜と友誼を持ち、竜が守る地と成した英雄と言われている。故にその血を分けた王の血を引く我らがいる事が、竜がこの地を守る事になるのだと。そういう話が伝わっているのだ。

今日の今日までは本当かどうか疑うと言うより、王家を持ち上げるための作り話だと、私達ですら思っていた」

『違うぞ。お前たちがあの者と同じ血筋を引いているから守ったわけではないが、あの者がいたからこの地を守るようになった』

「ええ、分かっています。そうなのでしょう。今まで竜が人の言葉を解すことすら疑っていた。それも間違いだと教えられたのです。今更疑いません。きっとそのずっと後に大きな竜が街に降り立ち、友の代わりに守ると伝えに来た話も本当なのでしょうね」

『そうだ。それが老だ』


そうか、老の話も残ってるんだ。前に言ってたもんな、人の街に何か言いに行ったって。

でもそのスパンが長すぎて、色々と伝わりきらず、話だけは残ってお伽話状態なんだろうな。

でもこれからはハクがいるし、ハクならそういうのも払拭していきそうだけど、どうなるかな


「そしてタロウ殿、私は今、この時代に君がこの国を訪れたのを幸運と思っている」

「え、俺ですか?」


幸運て、俺がこなかったら国がピンチにならなかったのに。


「君の考えているところは分かる。おそらく来なければこのような事にはならなかったと、そう考えているだろう?」


安定の思考読まれ。なんでだ。なんでみんな俺の思考を簡単に読むんだ。


「だが今回の事で私は思った。君が来なくてもいつかこういう日が来たのではないかと。それももっと最悪な形で。だからこの国にきたのが、君たちでよかったと思っている」

「そう、ですか」


まあ、確かに。ハクのあの感じだと、老竜が居なくなった後どうなるのかわからない。その老竜ですら判断を俺に仰ぐ状態だし。


「だからこそ、今ここに、竜と共にある君が、この国にきたのは運命だと思う」

「それは大げさだと思いますよ?」

「いや、私はそう思う。君はあのお伽話の英雄の再来だと」

「俺は英雄なんかじゃないですよ。ただ単に成り行きです」

「成り行きで竜が倒せる人間などおらぬよ」


ここに居るんだなぁこれが。完全に成り行きだったよあれは。


「故に、君に提案がある」

「提案ですか?」

「ああ。そうだ」


なんだろう、竜に守ってくれるように交渉に行けとかかな?その代り報酬を渡すとか。

でもそういう話ならイナイが帰ってきてからのほうがいいよな。もし言われても結論はイナイが帰って来てからでお願いしよう。

そう思っていたが、王の口から出てきた言葉はそんな生易しいものじゃなかった。


「タロウ殿。この国の王になる気は無いか?」

「は?」


何言ってんだこの人?

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