第112話真剣に悩んでます!

城の食堂で食事をしつつ今悩んでいる事を、シガルに相談しようかどうしようかも悩んでいる。

何かというと、まず一つは昨夜の事で気になった事が有る。最中は気にする余裕なんぞ無かった。


以前イナイは処女だと言っていた。そしてシガルも処女だと思う。

だが二人は昨夜、痛がる様子が無かった。俺も童貞だったし、処女の相手なぞした事は無いが、知識として、初めては痛いと聞いている。

イナイが嘘をつくとは思えないし、シガルがそういうことを内緒にするとは思えない。


だから一つ考え付いたのは、もしかして俺とこの世界の人たちは、体の構造が似ているようで違うんじゃないかという事だ。

もしそうなら一つ、とても気になる事が有る。それを聞くか聞くまいか、悩んでいる。

でも聞かなくても、もし俺が危惧していることが本当にあり得たなら、二人に悪い事になる気がする。

やっぱり、流石にこっちは聞いておいた方がいいよな・・・。


「ねえ、シガル」

「ん、なあに?」


話しかけるとにっこり笑顔でこちらに向くシガル。なんか普段より一層機嫌がいい気がする。


「シガルはさ、子供とか、いつかは欲しい?」

「そう、だね。いつかは、欲しいな。今はあんまり考えてないけど。あ、でもでも、出来たらちゃんと育てるよ。タロウさんとの子供だもん」


にっこりと、笑いながら応えるシガル。そこに迷いは見られない。

そう、か。シガルは子供欲しいのか。イナイもそうなのかな?だとしたら、やっぱり言うべきだよな。


「あ、あのさ、シガル」

「うん?」

「もしかしたら、だけどさ。シガル達と俺じゃ、子供、出来ないかもしれない」

「・・・え?」


まさかそんな事を言われるとは思ってなかったのだろう。目を見開いて驚くシガル。


「な、なんで?」


当たり前の質問に、俺は答えるのを躊躇いそうになる。けど、言わないと。


「多分だけど、シガル達は俺の世界の女性と、体の構造が少し違うみたいなんだ」

「そう、なの?ど、どこが?」

「えーと、その、昨夜の事、なんだけどさ」

「あ・・・。も、もしかして、タロウさんにとっては、私たちの体、どっかおかしいの?」


凄く不安そうな、悲しそうな顔で俺に尋ねるシガル。


「いや、えと、見た目はそのままなんだ。本当。綺麗」

「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあなんで?」

「その、ね。俺の世界の女性って、初めての場合、痛かったり、血が出たりが一般的なんだ。二人ともそういうの無かったでしょ?」

「う、うん」


そこまで言って、一つ可能性に気が付いた。もしかしたら二人がたまたま血が出なかっただけかもしれないと。


「ねえ、シガル、もしかして、この世界でも痛かったりするのは一般的で、たまたま二人が平気だっただけとか?」

「う、ううん。普通は痛くないよ。教養学の授業でもそう習った」


習ったらしい。学校で教えられているという事は、それが一般的なのだろう。


「なら、もしかしたら、俺とシガル達とじゃ、見た目が似てるだけで、違う生き物なのかもしれない。その場合、子供ができない可能性があるなって」


そう。俺が気になったのはその点だ。彼女たちが実は処女じゃないと言われても、別に気にする気は無い。

うそ、ごめん、気になる。気になります。少し強がりました。


まあ、それは置いておいて、たとえそうだったなら、まだ疑問に思わないが、もし体の構造が違うなら、種として交われない可能性がある。

いろんな種族のいる世界だし、その辺もしかすると柔軟性高いのかもしれないが、可能性はある。俺は元々この世界の住人ではないのだから。


「それが少し、気になったんだ。もしかしたら考えすぎかもしれない。けど、可能性はある。俺はこの世界の人間じゃないから。だから、もしそうだったら、ごめん」


俺はその言葉を、うつむきながら話す。シガルの顔が見れない。シガルは子供が欲しいと言った。なのに俺はその正反対の可能性を言ってしまった。

怖い。シガルはどんな顔をしているんだろう。いつも慕ってくれているこの子がどんな顔を向けてくるのか、怖くてたまらない。

でも見なきゃ。ちゃんと向き合わなきゃ。そう思いシガルの方に向くと、すごく優しい笑顔だった。


「ありがとう、タロウさん」


責められる可能性の方しか考えてなかった俺は、その言葉が理解できなかった。

俺はシガルの望みが叶わない可能性を言ったのに。


「嬉しいよ。すごく嬉しい。それをあたしに伝えてくれたって事は、それだけあたしのことを真剣に考えてくれてるって事だもん。あたしとずっと居てくれる事を考えてるって事だもん。

だからありがとう、タロウさん。大好き」


そう言ってにっこりと笑い、俺の手を取る。

敵わないな。イナイも、シガルも、本当にいい女だ。なんでこんないい女が俺のそばにいてくれてるのかはなはだ疑問だ。


「イナイにも、言わないと」

「うん。でもあたしも、きっとお姉ちゃんも、タロウさんを大好きなのは変わらないよ。

子供ができないかもしれないのは、ううん、出来なかったら残念だけど、そうと決まったわけじゃないし、たとえそうだとしても、あたしたちはタロウさんがいいの。

子供が欲しいからタロウさんのそばにいるわけじゃないよ」

「・・・ありがとう」


すごく嬉しくて。思わず涙が出そうだった。それを我慢して、礼を言う。


「どういたしまして。タロウさん一人で悩む必要はないからね?ちゃんと言ってくれて嬉しかったよ」

「うん、そうだね。言うべきだよねやっぱり」


なら、もう一つの悩みも言うべきだろう。それも言おうとするとシガルから尋ねられる。


「そういえば、ここにはどれ位居るつもりなの?次に行く所は決まってたりするの?」


今まさに悩んでいる事を聞いてこられた。

俺はそこを悩んでいた。どこに行こうかという事を悩んでいたんじゃない。

今回の事で、旅をやめた方がいいんじゃないのかと思い始めている。

二人との関係が、前以上にはっきりした物になったのも考えると、余計にそう思い始めた。


「シガル、俺さ、旅止めた方がいいかなって思ってるんだ」

「え、な、なんで?」

『なんでだ!?』


シガルは俺の言葉に驚き、静かに聞いていたハクも驚く。ハクはいろんな所について来るっていうつもりだったみたいだし、当然かも。


「えと、さ」


旅をしている理由は俺の我儘だ。単純にこの世界を見てみたい。旅をしてみたい。

ただそれだけで旅に出た。それ以上の理由は無い。けど、それが理由だけに、気が済むまでどこまでも行ってみたいと思っていた。


ただ、その結果がこれだ。イナイがどれだけの人物なのかを理解してなかったってのもある。

けど、イナイは言っていた。彼女と旅をする以上、大なり小なりこういう事は起こりえると。

あの時俺は、旅はやめないと言った。あの時は本当にそのつもりだった。けどその後のイナイを見て、それでいいのかと思うようになった。


彼女はきっと俺達を守る為なら、ウムルを守る為なら、人を殺す事を厭わない。

平気なわけじゃない。けど自分を殺して彼女は自分のやるべき事を全うする。

俺を愛してると言ってくれた女性を、俺の我儘で辛い事をさせるのはおかしいのではないかと。

彼らを手にかけたのは辛いのだろうとは思ってた。けど、イナイの感情の吐露は、もっと重かった。彼女はずっと強い自分であり続けてきたんだ。


改めて考えると、シガルの事もそうだ。

俺の我儘で、彼女に人を殺させてしまった。その感触を、気持ち悪さを教えてしまった。

俺はいい。もともとそうなることも考えていた。

けど、俺が旅に出なければ、二人とも、少なくとも今回の事は無かったんだ。

それを、イナイの吐露を聞いた時から悩んでいた。


それを素直に伝えた。さっきと同じように。

するとシガルは見る見るうちに怒った顔になった。


「タロウさん、私が一回でもこの旅が辛いって言った?」

「え、あ、いや」


すごい剣幕で怒られた。シガルにここまで怒られるのは初めてかもしれない。

今まで面と向かって見た事無い睨み顔で俺を見てる。


「確かに、あの強盗の時はきつかったよ。人を殺すのってこういう事なんだって。こんなに気持ち悪いものなんだって。

でもね、タロウさんは忘れてるかもしれないけど、あたしはもともと魔術師隊に入りたかったの。

あそこに入れたなら、きっといつかは同じ時が来る。綺麗事じゃない、誰かを守るために戦う組織に入るんだから。

だからあたしにとって、あれはいい経験になったの。イナイお姉ちゃんの事も知る機会になった。

イナイお姉ちゃんは、こんな想いを超えて戦ってたんだって。お姉ちゃんは優しい人だからきっと辛かっただろうなって」


そこで一回言葉を止めて、少し落ち着いた声音と表情になる。


「あたしは、タロウさんが旅をしたいならそれについていく。

あたしはこの旅が楽しいよ。ハクにも出会えた。いろんな経験も出来た。きっと旅に出てなかったらどちらも無かったもの

何より、あなたがやりたい事をやっているのが、そんなあなたのそばに居るのが好きなの」


真剣に俺に語るシガル。その強い言葉に、また俺はやってしまたのかとため息を吐く。

前に思い知ったはずだ。この子の想いは俺が思ってるより、ずっと強いものだったと。

とても強くて、いい女だと。さっきもそう思ったはずだ。なのにまだ甘く見てたのか。


「ごめん、ありがとう」

「ん、許してあげる」

『許す!』


なんでハクまで答えてるのか凄く疑問。まあいいか。


「イナイにも怒られるかな」

「怒ると思うよ。でも言ったほうがいいと思う。ちゃんと怒られてね」

「う、はい」


ジト目で俺に言うシガルに素直に頷く。もう、なんていうか、完全に尻に敷かれてるよな。

まあ、今回は自業自得か。イナイにはなんて怒られるのかなぁ・・・。

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